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10話

「依頼の討伐をして欲しいモンスターって他に何が居るんだ」


「ナビから確認すると、どうやら後1つしか残ってないみたいですね。マスピッグゴブリン、要求討伐体数が1って書いてあるからしてボスMOB何でしょうけど。多分普通に強いピッグゴブリンなのかな」


 おそらくそうだろうけれど。

 しかし、意外と上手くいかないな。

 ウソゴトさんの戦い方はかなりマシになっているが、それでもまだ拙い。そもそもゲームの実力なんて数百時間、数千時間をかけて高めていくものだし、たかが30分程度で上達の兆しが見えるのなら上出来だろう。上手くいっていないのは即ち召喚(コール)の習得である。

 あれから、敵モブから武器がドロップする事もいくらかあった。それはウソゴトさんも同様で、あのピックアックスは御役御免に。今は豚とも小鬼ともつかない、不細工なエンブレムのついた剣を使っている。

 同様の剣は俺も手に入れていて、装備して召喚(コール)も出来る。

 手伝うと言った手前こんなことを口には出せないが、せいぜい10分ぐらいで達成できると思っていた俺は、既に面倒になり始めていた。どうにかそのボスを倒した暁には何か覚醒のようなイベントが起きて欲しいものである。

 それはそれとして。

 

「あんまり気にしない方が良いよ、ウソゴトさん」


 まなじ俺たちがいるせいで、プレッシャーになってしまっているのは分かるが、ゲームは楽しんでなんぼ。それこそ、そこのプロゲーマーと違って競技シーンに関わっているわけでもなし。もっと笑って遊ぶべきだ。

 

「全然大丈夫ですよ。グラスさんの言っていることも、少しは分かってきましたし」


 少しか……出来れば、最高の教本が無料で側に居てくれる内に、上手い下手ぐらいは分かるようになって欲しいけど。まあ、仕方が無いか。成長度合いなんて人それぞれ、俺が焦ったってしょうがない。モンシロと違って、俺は暇なのだから少しずつ教えて行けばいい。

 歩幅をむりに合わせるのは良くない。ウソゴトさんにはウソゴトさんの冒険があるのだから。


「しかし、そのボスモンスターはどこに居るんでしょうか。なんとなく道を真っ直ぐと歩いてきて。満遍なく依頼の敵を倒してきたみたいですけど。きっとボスはどこかに待ち構えているものだと思いますし」


 道沿いに歩いてきたと言っても、やたらと曲がりくねり分かれている。マップを頼りに、デスマリアの町から遠くへとは進んでいるが、フィールドは広大だ。それに道沿いにボスがいるとも限らないだろう。事実、道から外れたところにいくつか洞窟らしきものもいくつか見つけている。そう言った寄り道エリアに配置されていたのでは、幾ら何でもきりが無い。


「それこそナビが教えてくれるんじゃないか。ルノース」


 ナビの中から宙返りをしながら、妖精が飛び出てくる。

 クエストの項目は自動的に訓練場の依頼に指定されている。コレで目的地まで線で案内されるはずだが。ここら一帯が大きく円で囲われている。中には移動不可の地形もあるので見た目ほど広くはないが、足で見つけるのは面倒くさそうだ。

 

「ここは既にピッグゴブリンの縄張りの中。ボスの居場所ぐらい自分で見つけるんだね」


 変なところで不便だな。それくらい勝手に教えてくれても良いのに。何のためのナビ機能なんだか。確かに何でも分かると多少作業感は増すと言うのも分かるけれど。

 それか、もしかすると。

 

「その豚鬼俺に残してくれ」


「うん?良いよ」


 都合良くHPをドットだけ残した豚鬼をこちらに蹴り飛ばしてくる。HP調整も一々プロ級だ、お前PVP畑のプレイヤーだろうに、どこでそのテクニックを使うんだ。普通に小技も上手いのがむかつくな。

 レベルが上のMOBを倒し続け、たまりに溜まった経験値。俺のレベルは更に2上昇していた。

 

  再起する者(リベンジャー) Level6


 HP      213/360

 MP 35/97

STR(筋力)  46

 INT(知力)  45

 DEX(俊敏性) 26

 DPS(攻撃力) 478

 DEF(装甲)  15


 スキル


 死の烙印

 赤の烙印

 

 新たに生えてきたスキル。その力は。


『赤の烙印』


 現れたのは、『死の烙印』によく似た短剣。少しばかり豪華に、より不気味になったそれで残ったHPワンドットを切り裂く。

 死体にのみ使用でき、周囲と縁のある敵を映し出す、『死の烙印』例えばテイマーのようにその敵と主従関係にある敵、そしてその敵を殺した犯人をマークする。

 一方、レベル5になって覚えた新スキル『赤の烙印』その効果は念願の攻撃力上昇。切りつけた相手と同種族に赤の烙印をマークして、その烙印を受けた相手は与えられるダメージが増幅する。そして、もし『赤の烙印』を受けた最中に止めを刺すと、より広範囲に烙印を感染させる。


「見つけた。あいつだけ烙印がデカい。他のピッグゴブリンは俺たちよりも背が低いが、あんな所に烙印が表示されてる。よほど背が高いんだろうよ、それこそ見上げるほどに」


「でかした。コレで探す手間が省ける。烙印が消える前に急ぐぞ」


 木々の間を縫い、最短で突き進んだ。開けたいかにもな舞台にそびえていたのは、豚でも鬼でも無く、まさしくそれは肉塊であった。


【マスピッグゴブリンlevel1】


 どこがピッグゴブリンだ。コレじゃあ、ただの材料じゃ無いか。ミートゴーレム辺りに改名してこいよ。肉塊が。


「うう、キッツいですね。何も腐臭も再現しなくても良いのに。見てください。ピッグゴブリンの顔とか腕がうねうねしてますよ」


「ぼさっとするな、今ならまだ逃げられる。あれ今の装備で倒せるとは思えないぞ」


 アンデットだからと言って、火で焼かなければならないということはないだろうが、それでもあの巨体、おそらくフルパーティーで挑むことを想定されている。こちらは初心者一人抱えた、新参(ニュービー)3人。一人か二人は落ちる。

 

「いや、戦おう」


「はあ」


 何を言ってるんだ、この頭プロは。


「そうですよアレには絶対勝てませんよ」


「多分、俺の『エンチャントクロス』が特攻で入る、相当移動速度が下がるだろうから、三人で袋にすれば多分削りきれると思う。それに、いま生きてるって事は多分まだ誰も倒してないとおもう。こんな寄せ集めの初心者に出し抜かれた事を知ったらどんな反応をするのか、最高に面白いと思わないか」


 うわー。動機最低だぁ。それで巻き込まれる俺たちはどうなるんだって感じだが。

 ウソゴトさんが、どうするんですかと聞こえてくるような瞳で訴えてくる。


「分かったよ、やるよ。コレで負けたら、分かってるよな」


「え、なにそれ、怖いんだけど」

 

「当然、高級焼き肉」


「え、リアルはちょっと違くない」


 うるせえ。どうせ死んだら、ログイン制限で暇だろうが。

 

「私も連れてってくださいね。それと寿司が良いです」


 おうよ。おごって貰えー、モンシロに。

 

「まあいいや。勝てば関係ないし。行くよ、『エンチャント・クロス』俺が一撃当たるから援護を」


 そんな事言ったって遠距離攻撃手段なんて無いからな。『死の烙印』を起動する。


「召喚エクスキューショナー、記憶解放」


 不気味な短剣を投げつけると同時に、マスピッグゴブリンに接近しエクスキューショナーを大地に打ち付ける。大地に数10を超える亀裂が走り、醜い肉の塊を揺さぶるが、少しよろめくぐらいで、動きを止めることは出来ない。


「チッ やっぱり、行動阻害系は耐性ありか」


「グラスさんの必殺技が全然通っていない、どういうことですか」


 確かに、RPGには有りがちだが、ストラテジー系はそういう細かい設定がない事の方が多いか。


「いいか。こういう相手の動きを止める技は通れば強力、場合と工夫によっては一歩も動かせないまま、完封することが出来てしまう。けど嫌だろう、例えば、麻痺とスタンが交互に入って一生ひるみ続けるラスボスとか。例えば、強さ自体はとんでもないのに、防御力低下と攻撃力低下が最大まで入ると、HPが高いだけのただの置物なんて」


「確かに。もし数百時間の最後がそんなショボい戦いだなんて、がっかりしますね」


 今は少し、よろめけば十分。なぜなら、奴に対面しているのは日本最強のプロゲーマー。一撃よりも手数を優先して剣を振るい、明らかにマスピッグゴブリンの動きが鈍くなる。斬られる度に、次々と十字の杭が打ち付けられる。


「見ろ、ドンドンと十字杭を刺しているのに、ザコ豚鬼みたいに動けなくなっていないだろう。同じ状態異常に対して耐性が上がっていって、どこかのタイミングで全然下がらなくなる」


『エンチャント・クロス』は段々と効きにくくなり、エクスキューショナーは初めから本来の効力を発揮しない。コレがボスモンスターというものだ。

しかしこれは。

 想定よりも『エンチャント・クロス』の効きが良い。最悪、全く機能しないことも想定していたが、コレなら確かに、削りきることが出来るかもしれない。

 現在、俺の装備は超火力特化。と言うより、ほぼ全裸縛りみたいなものだが、フィンから貰ったエクスキューショナーは相当火力が高い。単純なDPSでは倍近いレベル差があるモンシロにも迫るほどだ。相手の攻撃を封じるというのは俺の手数の上昇につながり、即ち生存確率の上昇につながる。


「ウソゴトさん離れて。敵の攻撃来るよ、グラス」


「分かってる」


 このパーティーにおいて、最も面倒な役割なのは俺。『エンチャント・クロス』が切れるとなすすべも無く負ける可能性が高い。よって何があってもモンシロは肉塊を切り続ける事になる。つまり、モンシロが攻撃の手を止めなくて済む用に、モンシロを狙う攻撃を防ぎつつ、出来る事なら俺がターゲットになる続ける必要があるのだ。

 そのための最大火力。


「どこが弱点だか、まるで分からないけどな」


 それならそれでやりようは有る。クリティカルによるヒットストップが無いと言うことは、それだけ手数が増えるということ。全力で斧を振り抜き、あえて大きく斧頭を振り回す。


「そんな、攻撃じゃ体勢が崩れちゃう」


「教師に教わったことを、教師にそのまま言う奴があるか」

 

 そりゃ現実じゃこんなこと出来ないし、技術が無ければただの格好つけ。ウソゴトさんは真似するなよ。斧の遠心力に逆らわず体の方を自由自在に、常に次の攻撃を意識し、体を流されるままに別の構えへ移る。俺の動きは途切れること無く、インスピレーションの湧くままに、大振りのまま連撃をたたき込む。

 瞬間的に火力を上げて、モンシロからヘイトを奪う。

 相手も木偶の坊じゃない。攻撃の隙を狙った攻撃を仕掛けてくる。敵の胴からウジャウジャと掴みかかる腕を半身になって避け、その回転をたたき込む。回避と攻撃の助走を同時に行なえ。

 どうやら普通の攻撃は当たらないと悟ったらしい。脈打ち集まる肉塊。何だコレ、肉風船?爆発みたいな中範囲攻撃か。後ろに下がろうとして、一瞬槍のように膨らんで見えた。直線をなぎ払う刺突だろ。既に重心は後ろにある。更に後ろに下がっても意味は無いな。横に動くにはどうしても硬直する、重りが邪魔だ。

 斧を手放す。エクスキューショナーは勢いのままふわりと宙を舞い、それと同時に地面に落ちるように横に飛ぶ。

 ピッグゴブリンと目が合う。この肉塊の体そのものを歪に変形させ、俺を吹き飛ばすか突き刺そうとしたらしい。

 コレが当たっていたら、一日以上リベンジはお預けか。キッツいなー。

 けど、ここで燃えなきゃゲーマーじゃねえよな。

 

「ふっははは。楽しいなあ。久々にひりつく」


「他の人なら大丈夫かって聞くところだけれど、グラスは大丈夫そうだね」


「無駄口叩いている暇があったら、少しでも俺を楽にさせろ」


「了解」


 マスピッグゴブリンの動きは、基本的に緩慢。だが時折見せる体そのものを変形させる攻撃のみが相当早い。コレが最も危険。だが、俺やモンシロなら避けること自体は出来る。

 そうなると他の攻撃とのコンビネーションだけが厄介だが、全ての動きが遅くなっている事で相手の攻撃に繋がりが失われていた。

 さすがにウソゴトさんまでカバーできるほど余裕が余っていないけれど。よく見ている。確実に俺にヘイトが剥いているタイミングで、攻撃している。ウソゴトさんも体の動かし方やスピード感はからっきしだけれど、戦いをしっかり分かっている。

 このまま行けば勝てる。

 問題があるとすれば。半分だな。


「このままの連携で戦うぞ」

 

 俺がメインで攻撃をしのぎつつ、HPの2割を順調に削り取った時、異変は起こった。


「何だコイツ、急に早く。第2段階?早いな。グラス一端下がろう。」


 それはやがてウニのように、幾つもの突起のある球体型に変形し、その突起に突き刺さった十字の杭が集まり、分裂した。

 一部の大人数で攻略するボスは、HPが減ると仲間を呼ぶことがある。踏み潰せば崩壊するザコを呼ぶ敵から、ボスよりも強い敵を呼び出す敵まで様々だが、今回は最も一般的なパターンだった。


【ピッグゴブリンlevel10】

 

 その数6体。

 戦線は完全に崩壊した。

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