エピーソード0
今回は先んじて、前日譚の投稿です。
1章ができあがり次第、毎日投稿いたしますので、ブックマークをしてお待ちください。
良いね。賛否感想お持ちしております。
読み終わったら、星マークの評価をよろしくお願いします。何卒。
0話
これは物語が始まる、5年前の英雄譚。
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自動空調が悲鳴をあげる。
VRマシンはパーツごとに配色がまるで違う、カラフルで全くだっせえ、部屋だ。
笑いながら、横たわる。
世界10倍に引き延ばされ、感覚が研ぎ澄まされる。
さあ、世界をひっくり返そうか。
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――頑張って――
「デザイア・リミットブレイク。彗星のごとく突如現れたこのゲーム。世界は10階層に分かたれ、階層ごとに強力なボスが配置されています。そしてその全部で10体のボスそれぞれに、1億円の賞金が存在しています。
「現在、10体のボスのうち4体が討伐、攻略されていますが、その過程は長く、裏切り、友情、敗北、そして勝利。多くのドラマが積み上げられてきました。
「そして、人々は思った。この世界で最強は誰なんだと。
「デザイア・リミットブレイク、1V1世界大会monster、決勝戦。それが今、始まろうとしています」
「本日、実況を務めさせていただきます、アナウンサーの神谷と、解説の蝶名林咲さん、三ツ橋ラインハルトさんです」
「よろしくお願いします。解説の建御雷神所属の蝶名林咲です」
「はい、ラビリンスの三ツ橋です。よろしくお願いします」
「まずはこの大会をおさらいしましょう。ファーストラウンド、バトルロイヤルでは、数多くの参加者のうち上位64名が正式に、monsterの出場権が与えられます。
「そしてセカンドラウンドは、このバトルロイヤルの順位に基づき、選手はA、B、C、D、の4グループに分類されます。その内グループ上位2名がそれぞれファイナルラウンドへの出場権が与えられます。
「そしてファイナルラウンド。トーナメントで8名が戦い、勝者はウィナーズブラケット、敗者はルーザーズブラケットへ進み、それぞれ最後に残った者が、ファイナルトーナメント、決勝戦に進むこととなります」
「そして1時間前。ついに決勝戦に進んだ最強のプレイヤー、二人が決定しました」
「二人には、同じく1時間の準備期間が与えられ、それが今、終了しようとしています」
「それでは、決勝のカードを見ていきましょう」
「まずは、予選である、バトルロイヤルモードで第2位に輝き、見事、ルーザーズブラケットを勝ち抜いたsky*2選手からです」
対戦相手の紹介。
この大会で初めて当たる選手。 バトロワから始まり、これだけ機会があって当たらないとは珍しい。名前もあまり聞いたことがないな。後発攻略パーティーなのだろうか。少なくともプロシーンではあまり聞いたことがない名前だ。
けれど、ここまで来たってことは。
強いんだろう。
「やはり、ウィナーズファイナル、ミステリアス選手との戦いがやはり思い起こされますね」
「ええ、ミステリアス選手はバトルロイヤルでは1位に輝いた選手ですからね。名前に反してシンプルなビルドでしたが、単純に強いってのは一番崩すのが難しいですからね。戦士系ジョブ、バーバリアンの敵を撃破あるいは部位破壊したときの回復効果と、1V1確実に制するテクニックで非常に継戦能力が高い選手でした。今、ハイライトが流れていますね、流れています」
「そうですね。残念ながら、最終3位という結果になってしましましたが、さすがバトロワ1位という実力者です。ですが今回決勝に来ている二人ともミステリアス選手を倒してここに居るわけですから」
「ええ。一方スカイスカイ選手は、最高の高速機動アタッカーという感じですね。これは、ジョブが不明となっていますが。まだ公開されてないジョブですかね、おそらく魔法支援系、エンチャンターと何かしらの戦士系ジョブを組み合わせたような職業でしょうが」
「はい、公式の情報では現在このジョブに就いているプレイヤーが、スカイスカイ選手を含めて3名確認されていますが、誰一人として情報公開許可を出していないようです」
「どう思う、ラインハルト」
「どうだろう、僕らが前線で頑張っていたのは、3層までだからね。三層ボス攻略で割と皆疲れちゃったから、4層、5層の情報はあまり持っていないんだよね。確か、スカイスカイ、選手は4層ボスを2番目に倒したパーティーに居た人でしょう、そう考えるとやっぱりそのあたりで就けるジョブなんじゃないかな」
「見てください。特徴は何と言っても、このスピードですよね」
確かにハイライトの映像は、すさまじい早さの攻防だ。だがそこじゃあないな。
「スピードもそうなんですが、特出しているのはこの射程ですよね」
「そうなんですか」
「はい。既存のジョブでもこういった、高速移動を可能にするジョブは存在していますからね。出ているエフェクトからして魔法、まあつまり魔法剣なんだと思いますが、どんな剣よりも広い射程からの斬撃を、ナイフの軽さで繰り出せるというのは反則的な強さですよね」
「なるほど弱点みたいなものはないのでしょうか」
「僕は対面して戦ったことがないのでなんとも言えませんが」
「そこはやっぱり、息切れじゃないですか」
「息切れですか」
「ええ、高いスタミナと、高い魔力どうやって両立させているのかは分からないですけれど、スタミナはともかく、魔力はどうしても有限ですからね。自前の回復手段の1つや2つぐらいあるでしょうけど、これだけ高い性能のジョブですから、装備に頼っているのではないですか。今回の大会は消耗品系のアイテムは使えないようになっていますからね。どうしても隙は生まれるかと」
「後は地形ですかね。スカイスカイ選手は名前通り、空中戦とも言えるほど三次元的な動きが、縦の空間を使うのが上手ですからね。そして狭い空間で、あの長い射程武器を振り回せれると近づくのはかなり難しいですよ」
「普通の大型武器と違って地形に引っかかったり、地形が壊れて不利を自分で作ってしまうことがないからね。俺だったら外から削るか、防御を固めていっそ近接を仕掛けるかな。この大会でまともに近接コンボ貰った所、見ていないので分からないけれど、案外一回投げたらそのままスタンしてタコ殴りに出来そうだね。近接特化のジョブじゃ絶対にないし」
「さて、映像の方もそろそろ決着がつきそうです、ミステリアス選手をスカイスカイ選手が外から削りきりました」
「さて次は、スカイスカイ選手の対戦相手、ウィナーズブラケット勝ち抜いたgrass seed limit選手の紹介です。グラスシード選手はバトルロイヤルの結果は32位とあまり振るいませんでしたが、今大会、無敗で決勝まで勝ち上がってきています」
「凄いですよねえ。バトロワ終了時点での下馬評ではランキング圏外ですからね。かなり度肝を抜かれた人も多かったでしょう。なんで圏外なのかよく分かんないけど」
「グラスシード選手はあまり目立たないようにしてましたからね」
「それではまず、バトルロイヤルの映像を見ていきましょう」
「これは安全地帯の範囲外を移動中にグラスシード選手が、待ち伏せをされている所ですね。2対1の完璧な待ち伏せだったのですが。先制攻撃の一撃に驚いた様子グラスですが、なんとこのあと、一発もグラスには当たりません。斬りかかったはずが、次の瞬間には宙を舞っています。早々に一人無力化され、最後は四肢を地面について許しを請うように首を切られました」
「これ何が凄いって、この前に5人ぐらいに襲われているところだよね。そのせいで範囲外の定数ダメージで敗れちゃったけれど。それじゃなかったら、バトルロイヤルでも1位になっているのではないかとおもうよ。実際ミステリアス選手にも勝っちゃった訳だし」
「それもそのはず、このグラスシード選手、デザイア・リミットブレイクを攻略不可能とも言わしめた、悪名高き1層ボス攻略。大規模攻略部隊でも倒せなかったボスを少人数で攻略した変態。メンバーで唯一、プロチームに所属していなかった異端児、超新星。賞金獲得の妬みを一身に受けた、種野郎とは彼のこと。まさに生きる伝説です。そこの所、共に一層攻略者となった蝶名林さんはどうですか」
「まあ、ずば抜けて強いことは確かですよ。詳しいところは、このあと試合を見ながら解説できたらと思いますが」
「俺なんて普通にファンですからね」
「ええー、僕は」
「咲さんはなんか違う。普通に友達って感じじゃん。種先生はリアルであった事ないし。そういえば、来月のチーム戦の方も種先生と出るんでしょう。建御雷神に加入するの」
「いや助っ人みたいな形になるかな、一応期間中は給料が出るし、賞金も均等分配だけど。彼は今はチームに入りたくないってさ」
「へえー。そうなんだ。てっきりプロとしてやっていくのかと思ってたよ」
「皆様、ただいま話題に出ていますのは来月の27日に開催される。デザイアチャンピオンシップです。こちらの蝶名林さんと三ツ橋さんも出場が決定しています。賞金総額20億円。日本最大級の、ゲーム大会となっています。本日と同じく、日本語での実況はこちらのチャンネルで行いますので、是非チャンネル登録をしてお待ちください」
「「よろしくお願いします」」
「どうですか、お二人はどちらが勝利すると思いますか」
「うーん、どうですかねえ。スカイスカイさんはやっぱり、僕にとって未知ですからねえ。高得点つけたくなりますが。僕、1つ今の映像を見ていて気がつきました」
「おや、何ですか」
「これグラスは、バトロワだとジョブ設定してない状態。無職かもしれません」
「ええ、嘘でしょ」
「さっきの映像と、トーナメントの映像出せますか。そもそも、バトロワの方だと、全然スキル使ってないけれど。ほら、ここ明らかにバトロワの方が攻撃力低いし、トーナメントの方が防御力低いでしょう、露骨に別の系統のジョブでしょう。トーナメントの方はグラディエイターだろうけど」
「なんでそんな事」
「分からないけど、メインジョブを隠したいのか。単純にグラスのメインジョブ、グラディエイターの相性がバトロワと良くないからかな。別のジョブを使いたかったのかもしれないですね。ただレベルを上げきれなかったから、いっそ無職ということなのかも」
正解。
「確かに、レベルを低いジョブだと無職状態よりも総合ステータスが低くなることはありますが、それにしたって何のスキルもなしに戦えますか」
「それでも、戦えるのがグラスって事なんでしょうね。グラスのグラディエイターはレベルがカウントストップしてますから、無職でも性能自体はバランスの良いゴリラですよ、魔力系はステータス腐りますけど、少しは回復出来ますからね」
「私はグラスシード選手というと、やはり1層ボスの公式攻略映像が思い出されますね。当時非公開だったジョブ、グラディエイターの圧倒的火力。なぜ矢があんなに小さな的にあれだけ当たるのか全く分かりません」
「懐かしいですね、実は最近、グラスは別のジョブ育てているので。ああ、それで無職で行ったのかも。1層ボスで、ネタバレ防止で名前を出せないのが歯がゆいですが、離れたところから、火力出し続けてコントロールするのが目的で、DPSは剣で切りつけてる時の方が高いんですよ。全然安定しないですけど」
「ともかく、どちらが有利かなんて予想は、全てを出し切っていない状態でしても無駄ですよ。何せ、このあとにすぐ、答えを見せてくれるのですから」
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「皆様、ここに新たな歴史が刻まれる準備は出来たでしょうか、grass seed limit VS sky*2、行ってみましょう」
スゥーと息を吐いて、ランダムにマップに転送される。
さて、どうするかね。
解説席は好き勝手言ってくれていたけれど。
「まったく、1V1ルールはごちゃごちゃしすぎだよな。6V6なマップをそのまま使うわけには当然行かないだろうけれどさ。いっそ格闘ゲームみたいに、リングデスマッチみたいな感じでも良いのに」
様々なジョブ。遠距離、中距離、近接。鈍足、高速。火力、速度、防御、絡め手。異なるマッチアップでも、駆け引きが発生するように、様々な地形が用意されている。
リスポーンした瞬間に少しだけ、なんとなくマップに表示された光点が、対戦相手の位置だ。お互いになんとなくだが、場所を把握した状態から、接敵場所を選ぶことになる。
スポーン直後はマップ全域を自由に移動することが出来るが、そこから30秒後、お互いの中心を目安に円形に行動を制限される。バトロワではこの円が収縮するわけだが、1V1ではこの円が初めからかなり狭く、ゆっくりと移動し続ける。一方的に有利な状況が続くのを防いでいた。
ただ俺は、別段得意な地形もなければ、苦手な地形もなかった。もちろん場所によって取れる戦略は違うが、どこであっても急激に追い詰められると言うことはない。
咲なんかは閉所でこそ相手は輝くと言っていたが、それは違うね。アレは本来、大型の敵を想定しているビルドだ。対人では狭い場所の方が有利なのはそうだろうが、当然広いところでの戦いも心得ているはず。
定石で言うなら、ミステリアスの時と同じように相手が苦手そうな地形に押し込むべきだが、あいつにもしぶとく耐えられてしまったし。スカイスカイは仮にも決勝まで勝ち残った強者。
まずは小手調べと行きますか。
「お前の最強をたたき折ってやる」
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「おっと。グラスシード選手。これは廃墟の方向に移動しようとしていませんか、事前の予想では、閉所ではスカイスカイ選手の有利になるという予想でしたが。これは初めから試合の流れが読めません。これは何かグラスシード選手に秘策があるのでしょうか」
「どうでしょう。案外、グラスが普通に負けるかもしれませんが。それも、すんなりと。一応、閉所でのメリットもあるんですよね。グラスのジョブは多分、他の選手との戦いと同じくグラディエーターですからね。おそらくスカイスカイ選手に速度では負けています。平地での追いかけっこでは絶対に勝てません。多少有利に進めたところで戦闘が長引けば、逃げられてしまします」
「ああ確かに、その点閉所だと、袋小路とかに追い込めるかもしれないし。遠距離スキル当てやすいからか。どっちにしろ、一瞬で決着がつかなければ、試合中一度は廃墟の上を通っただろうから、遅いか早いかだとは思うよ」
「スカイスカイ選手は。おっと、廃墟の屋上にいますね」
「おそらく、敵を先に発見しつつ、得意なフィールドからスタートする思惑だったのでしょうが、残念ながら対戦相手は既に平原には居ません。これかなり距離が近いですよ。ギリギリ、グラディエイターの索敵範囲に入っていませんね」
「これはすさまじいニアミスが起こっていますよ」
「やはり円は廃墟になりましたね。ここでスカイスカイ選手も、廃墟の中に既にグラスシードが居ることに気がついたか」
「いや、これは自分の方に円が寄ったぐらいにしか思っていないんじゃないかな。全然周囲を索敵していないよ」
「これは、グラスシード選手、気がつきましたよ」
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せっかくあちらに自信がありそうな所を選んだというのに、なかなか姿を現さない。
よもや、全く廃墟から外れたところが中心になるかとも思ったが、最初の円は思惑通り廃墟エリアを多い囲んだ。
「これは、案外普通に近くに居るのか。けれど、索敵スキルに反応は無し。となると屋上。」
近接戦士型ジョブ、グラディエイター。
高い攻撃力と、バランスが良く高水準なステータスを持ち、スキルも多種多様で非常に優秀なジョブだ。ある意味では器用であり、一方このジョブでなければ出来ないという要素もあまりない。防御力が非常に低いことを除けば隙のない堅実なジョブだと世間では思われている。
グラディエイターのスキル。『ライフヴィジョン』これは一定範囲内の、敵の残りのHPを頭上のバーとしてのぞき見るスキルだが、一定範囲内の敵の位置を大まかに把握するという使いからも出来る。
出会い頭にその首に拳を叩き付けた。
「ハロー、ハラキリ、フジヤマ、ゲイシャ、アタック」
「私は日本人だ」
ありゃ。普通に知らなかったが、この決勝戦は日本人対決か。まあ外国人はあまり多くないか、デザイアは基本、日本国内からしかアクセス出来ない。デザイアにアクセスしている外国人もかなり多いが、それらの多くは日本国内に住んでいるのだ。
一部の海外プロは特別に招待され、国外からアクセス出来ているようだが、その基準は不確かだ。その知名度よりは、デザイアの過去のタイトルに貢献したプレイヤーを優先しているようだが。やはり外国人の母数は少なかった。
公式さんや、普通に国籍ぐらい公開してくれよ。はいはい秘密主義、秘密主義。
「なんだか、世界大会とは言っているけれど、ワールドワイドな感じはしないよな。まあ、日本初の高額賞金型ゲームを日本人ベースでやりたいというのは、めちゃくちゃ凄いと思うけれど、普通に外国人からも金を吸い取れば良いのにと思うわけだよ。つまるところ、これだけ注目されたところで、外国人に高額で参加権を売るとかさ」
スカイはさすが、勢いを空中で制御して壁に捕まったみたいに着地する。
「随分と余裕じゃない、私では力不足だとでも」
「俺たちはこれから世界チャンプ、世界一位とか、世界2位っていわれる訳だよ。だけど陰ではあいつら世界一位なんて言いつつも、ほとんど出場者は日本人なんだぜって言われ続ける。それなら日本1位だけど世界の強豪達も倒して1位になったんだって言われた方が気持ちが良いじゃないか」
「安心して良いわ、あなたは世界で2位と言われるのだから」
来た。
相手の短剣を纏う幻影の剣。
魔方陣のエフェクトからして、魔術系のスキル。
素早い踏み込みから、繰り出される、高速の斬撃。案外、この移動速度も、速度を魔術系スキルでかさ増しをしているのかもしれない。
なるほど、なるほど。強力なコンボだ。
「けど、それは俺が相手じゃなかったらだね」
上部から迫るブレードを掴み取った。
「嘘ぉ。そんなの反則じゃない」
振り下ろすエネルギーをそのまま相手に返すように円を描き短剣の柄が鳩尾に突き刺さった。
「けど、かっこいいから、後でそのジョブの取り方教えてくれないかなぁ」
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「素手です。素手で魔法剣を掴み取りました」
「これはまさかですね。グラディエイター素手での攻撃スキルもいくつか習得できる、超近接戦闘のスペシャリストですから。それらを取得していくと手足のダメージカット率は相当高くなります。しかしそれで相手の攻撃を掴むとは。これは予想できなかった」
「本来は武器も振るえないほど近づいた時にのみ有効な技ですが、意識外からコレが炸裂したあ。なかなかにレアなスキル構成。これは予想できない」
「グラスは、別の目的でこの素手のスキルを集めていましたけれどね」
「と言うと」
「普通の戦士系ジョブはスカイスカイ選手ほどではないしても、あそこまで近づかないんですよ。基本的に武器を一番使いやすい間合いで戦いですから。一部の格闘技や武道、武術の経験者は密着するほどに接近する人も居ますが。そうすると、やっぱり手足に攻撃を貰うことが増えるんですよ。常にそこらの部位を攻撃範囲に入れておく訳ですから、全て避けたり、無力化するのは難しい」
「なるほど手足限定のダメージカットだと考えてもなかなか有用なわけですね」
「特にグラディエイターは装甲が紙ですからね、有効範囲はそこまで広くないにしても攻撃を貰っても大丈夫な場所があるってのは、反則的に強いですよ。だからって振り回している魔法を掴むのは意味分からないですけれど」
「スカイスカイ選手のこの魔法剣って、普通に掴めるんですね。手元で発動できる遠距離攻撃みたいな状態なんだと勝手に思ってました」
「魔法剣部分と、手元の剣は動きが連動しているんでしょうね。大剣とかも、少し地面を掠っただけだと、手元にノックバックとか無いですから。そういうアシストがかかっているんでしょう。
「そもそもの仕様として、攻撃が当たった時のヒットストップはありますけど、物理演算が働いて、攻撃された部位が損傷とかないですからね。このゲームのリアリティーを追求した触感と、ゲーム性を優先したアクションのファンタジーはすさまじいですよ。
「爪や剣が当たってもガッ引っかかった後とすり抜けるのに、同じ攻撃でも、つばぜり合いや肉体接触の格闘だけ挙動が違いますからね。やろうと思えばサブミッションも出来てしまうのが、このデザイアです」
「これまでの試合もそうですが、種先生って、なんて言うのかな。入身が上手なんですよね。普通、射程が短い技を持っていたり、大剣みたいな武器を持っている敵に接近したくても、もっと難しいし、おっかないんですよね。けど種先生は敵の攻撃を盾よりも器用にコントロールできますから、積極的にゼロ距離で戦う事が増えるし、それでより他人とは違う距離感が強くなる」
「リアルでは、武道どころか、ケンカもしなさそうな感じなのに、動きがゲームプレイヤーっぽくないんですよね」
「お、今度は逸らした」
「スカイスカイ選手。動揺しながらも。お互いダメージはありません。距離はスカイスカイ選手物です。たたみかけています」
「多分、逸らしたと言うより受けながら近づいた結果として攻撃が逸れた、みたいな感覚だと思いますよ。本人曰く、他の人が盾でやっていることを手でやっているだけらしいですからね。上手いタンクの人とか、離れたところから攻撃を物とせずゴリゴリ近づくじゃないですか。それの真似らしいですよ。僕は基本サポートキャラ使うことが多いのでいまいち分からないですけれど」
「それじゃ、種先生ってタンクとかも出来るって事。それは知らなかったな」
「いや、多分無理じゃないかな」
「え」
「あいつ、他人に合わせるのめちゃくちゃ下手くそだから。だからdpsをやっているんだよ」
「カジュアルシューターゲームをやっていた時の癖なのか、一人でどこまでも突っ込んで、誰が見ても、「おいおい、あいつ死んだわ」みたいな状況で何事もなく戻ってくるんですよね。けどそれで味方の想定外のところに攻撃が飛んできたりして。普通にやっても強いはずなのに、なんかあいつの中にあるリズムみたいなのが有って、それで動いてしまうんですよ」
「試合の方を見てみると、なかなかスカイスカイ選手が自分の動きをやらせてもらえてないですね。先ほどの話にあったグラスシード選手のリズムに飲まれている感じですかね」
「ええ、冷静に一度、逃げてしまえば良いのですが、自分の有利な状況からの接敵で良いようにされていますからね、なかなか難しいでしょう」
「実際は、初撃を奇襲で貰っていたりするんですけれどね。なんせ場所が場所ですから」
「じわりじわりと、削られていますね。スカイスカイ選手のHPがもうすぐ50%を切ります」
「スカイスカイ、引きましたね。さすがにこのまま削り殺されるのは本意ではないか。まだ種先生は素手だし」
「まあ、グラスシードもスカイスカイ選手を侮っているわけではないでしょうが、現状を変える必要がないですからね。けどコレで、グラスシードも剣を抜くのじゃないですか。スカイスカイ選手は攻撃パターンが変わって、攻撃力が上がったグラスシードを対処しなければいけないですからね。対応力が試されます」
「おっと。壁を走るスカイスカイ、スキルで一度たたき落とされるが。無事に逃げ切りました」
「グラディエイターの、『スプリントチャージ』ですね。単純な突撃系スキルなので連発も出来ませんし、速度低下みたいな副次的な効果もありません。多分これはスカイスカイ逃げ切りましたね。グラスシードもスキルを温存する判断だろうし。
「ただ、スカイスカイ選手は逃げるためにスキルを使ってますね。コレ、わかりにくかったですが、やはり魔法スキルのようですね。思ったよりもスカイスカイは俊敏性のステータスは低いのかも。見てください、逃げるタイミングで魔法陣が出てます。コレにグラスシードが気がついているかというのも見所ですね」
「試合はしばらくの間、お互い準備をすることに、硬直状態となりそうです」
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こちらの消耗はHPの1割ほど。あちらの状況は細かに把握できていないが、いくらかのMPと5割のHP。
こちらが有利に状況を進めていると考えて間違いない。そして最後に見せた走力上昇の魔法スキル。おそらく起動時か持続的にMPを消費するスキルだろう。このまま持久戦に持ち込めば相手は大幅に弱体する。
それをふまえて、相手はHPとMPのどちらを優先するのか。純戦士型ジョブに、リソーズ消費無しにHPを回復するスキルを持っていることは多い。倒した敵や、敵に大ダメージを与えた時にHPが回復するバーバリアンのように、一定条件をクリアすることで大きく回復するスキルも有るが、最も一般的なのは瞑想系と呼ばれるスキルだろう。
一定時間、戦闘行為を取らない事で回復。立ち止まる事で回復。座禅を組むことで回復。寝ることで回復、と時間経過がそのまま有利を積み重ねることとなる。
「まあグラディエイターには回復スキルは無いんだけど」
だが、おそらくスカイスカイにはそのようなスキルは無い。魔法戦士混合ジョブは、急速にHPを回復させる代わりにMPを消費するスキルを持っていることが一番多いからだ。だから、スカイスカイは、HPを回復させるか、HPを回復させずMPを温存する選択肢がある。
殴り合いなら絶対に俺の方が強い。こちらが警戒するべきなのは相手がMPをしっかり回復させてくることだ。相手は本質的にMPを使ってその剣の射程と速度を向上させてくる、エンチャンターだ。なら、それ以外も強化できたって不思議じゃない。
「こちらが本調子で相手に当たるよりも、相手を本調子にさせない方が優先だな」
このままだとおよそ4分で、安全地帯を限定する円は平原を戦場に選ぶだろう。相手も4分で準備を整えようと組み立てているはず。
「3分で狩りだしてやる」
エリアには時間経過と共に、無害な野生動物がいくらか配置されている。ジョブによっては敵を倒すことによって本領が発揮される事もある。そうで無くても、敵を殺すことをトリガーにしたスキルが全くない、ジョブも珍しい。
野生動物は、そういったキルカウントを稼ぐための中立エネミーだった。
廃墟エリアが安全地帯の外に飲まれたのを背後で確認し、森林エリアから平原エリアに向かって恥から、野生動物を刈り続ける。すると干からびた、ミイラのような死体が見つかった。
その死体の周囲を探すと、別の死体が見つかる。その死体の道は、俺をスカイスカイの元に導いていた。
俺の両手には真っ赤な剣が握られている。ここからが後半戦。そして決着を、世界最強を決めようか。
「行くぞ。スカイスカイ」
平原に立つスカイスカイに向かって。一歩踏みしめると同時に、体を横に投げ出す。背筋を這うような、嫌な感覚。それが現実となる。
世界は2つに分かたれた。
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「スカイスカイ選手は離脱して早々、エネミーを狩っていますね。MPが回復しています」
「なんかグロいなあ。生き物をミイラにして回復するって、どちらかというと吸血鬼とか悪魔のやることだよね。中盤の敵キャラって感じ」
「一方、グラスシード選手も、エネミーを倒していますね。エネミーを倒すごとに、グラスシード選手の剣が赤く染まっていきます。グラディエイターの『闘剣』です」
「倒した敵の血を吸って武器が強くなるスキルですね。剣の場合は攻撃力が上がりますね。あと気持ち少し剣が大きくなります」
「グラディエイターと言えば槍のイメージがあるけど、種先生は二刀流なんだね。ボス攻略の映像のときは弓を使ってなかったっけ」
「まあ、元々グラディエイターで槍が流行ってたのは、グラスシードの弓対策みたいなところがありますからね。槍の場合は敵の遠距離攻撃を跳ね返す遠距離攻撃が出来るようになるんですが、それが血弓の連射を3発防げることで評価されてました。やはり同じジョブで負けるのはかなり不味い状況ですから。けどグラスシード、今はずっと剣を使ってますね。最近はグラディエイターじゃないジョブを使ってるので、僕としては弓のイメージがあるんですけど。グラディエイターなら剣ですね。スキルの名前が『闘剣』というぐらいですから、元々強いですよ」
「しかし、まるで吸血鬼と吸血鬼の対決です」
「どちらかと言えば、吸血鬼とバンパイアハンターじゃないですか」
「そういうこと言っていると、スカイスカイ選手のジョブが公開されるまで吸血鬼っていわれ続けることになりそうだよ」
「これは、グラスシード選手。結構中立エネミーを見逃していますね。スキルを最大まで溜めることよりも、スカイスカイ選手をあぶり出すことを優先している感じでしょうか」
「下手をすると、せっかく減らしたHPまで回復されかねませんから、グラスシード選手としては早く見つけるに越したことはありません。
「一方、スカイスカイ選手は時間いっぱい回復に努め、不利な平原で戦うか。それとも回復は必要最低限にし森林で戦うか。選択に迫られます」
「これは、どういうことでしょうか。MPの補充もそこそこに、スカイスカイ選手が平原のど真ん中に駆けています。短剣に変わり取り出したのは、刀でしょうか。一体何を見せてくれるんだ、スカイスカイ」
「これはグラスシードにとっては不味いかもしれませんね」
「スカイスカイが、グラスシードをぶった切ったぁ」
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スカイスカイの姿は風の羽衣を纏ったかのようで、まるで風神のようだった。
「それが奥の手かスカイスカイ。良いねえ、良いねえ。ありがとう。お前は俺が打ち倒すのに、この決勝にふさわしい敵だ」
投げ出した体を綺麗にトラックし、その刃は俺の正面を完全に捉えていた。その斬撃の痕跡は、しっかりと俺の手前まで残っている。スカイスカイと俺の間を指し示すよう、真っ直ぐに剔られていた。
直撃すれば俺も険しかっただろう。
体勢を開脚するように低くし、剣を鍔で重ねた。十字受けの要領で斬撃を脇に逸らそうとしたが、力負けして斬撃は上空に飛んでいった。
必中あるいは防御不能の攻撃では無かったことが功を奏した。
突撃、そしてスカイスカイを中心に、弧を描くように走る。
スカイスカイは上段に構えたまま、足を擦らせてこちらの正面を取る続ける。
「さてはリアルで、武道とか囓ってる口かよ」
「そういう、あんたも随分体の使い方が上手いじゃない」
「そりゃどうも。けど生憎通信教育でね」
正確には通信教育ではなく、VR教育だが。
左の、『闘剣』のチャージを使う。強化状態がリセットされる代わりに、一度だけ飛ぶ斬撃が出せる。スカイスカイのそれには遠く及ばないが、連射不可で今日か状態が即時に解除される代わりに、飛距離も威力も速度も優秀だ。
『闘剣』を弾くために構えを解いた所を接近するが、先ほどの大切断とは別種の斬撃が飛んでくる。
「クッ。これはコレで厄介な」
居合いのような素早い突きは、点での攻撃。横薙ぎは中範囲短距離の攻撃。上段は世界を裂く大切断。
固定砲台も厄介だが。タメは必要ながらも必ずしも足を止めていなくとも良い。なかなか距離がつまらない。
右手の『闘剣』が残っているから、相手の全ツッパを許していないが。それは右を使って距離を詰めるなら。完全に密着しなければならないことを意味していた。
「フン」
攻撃をそのまま相手に返せないかを工夫してみるが。どうしてもこちらが力で負ける。
通常状態で使える遠距離攻撃は、突進系しか持っていない。この状況では余裕で打ち落とされるだろう。廃墟の時に使えたのは、相手が逃げていたからだ。
無理をしたせいか、次の攻撃を受ける余裕は無い。曲芸じみた身体操作と、全力回避で直撃は免れるが、大きく削られる。
体制が整えば、捌けるが。距離を詰めることが出来ない。
こちらの動きになれたのか、相手の攻撃のペースも上がっていく。受け流しきれず押し返される。完璧な制圧力だ。だんだんとHPも削られていく。
「あら、随分みっともない有様じゃない」
「そうかい。けれど、慢心は足をすくわれるぜ」
俺のHPが3割を切る。
「その言葉、そのままお返ししますわ」
「これは出来れば使いたくなかったんだけどな」
グラディエイターに、HPを回復するスキルは存在しない。耐久力は低く、一見して倒すのは容易く見える。実際、俺以外のプレイヤーは、サポーターの回復を前提としてこのジョブを使用している。
とても、たった一人で戦わなければならない状況で使うようなジョブでは無い。
実際その認識は正しい。
スキルの力で、HPが低下すればするほど防御力が上昇するが、その上昇量は装甲がペラペラの状態から、普通になるというぐらい。全然、頼りにならない。
だからこそ俺はこのジョブをバトルロイヤルでは利用しなかった。
だが、理由はそれだけでない。
「『血闘』起動」
このスキルは、HPが残り30%をきった場合のみ発動できる。
このスキルを起動すると、あらゆるHP回復を受け付けなくなる。
このスキルはHPの残量を30%を下回る限り持続し、その間赤い蒸気のようなエフェクトを発生させる。
このスキルを発動している間、防御不可、絶対命中等の属性が付与されているものを含め、防御することが出来るようになる。
スタミナの最大値が50%減少し、筋力、俊敏性が、大きく上昇する。
そして、スキル使用中『闘剣』の効果が変化する。
「『闘剣』血走り」
右の剣から、左の剣に伝播する。剣を振ると。鈍足の血の斬撃が、大地を這うようにスカイスカイを襲う。
ようやく、弾幕が途切れた。
近づけばお互い動きがよく見える。
ここまで来れば、剣が出るタイミングを読める。
「貫け」
血走りの三方攻撃。
スカイスカイは後方に防御するしか術は無い。コレで一気に距離を詰めれば。いや、それは正解じゃない。
足を止める。
彼女は後方に飛び退き、再びお互いの距離は大きく離れた。
更に後方に下がる。その距離は最も攻撃を避けやすい距離だ。
行動が理解できないような、明らかに怪訝な表情をして、焦った様子を見せる。向こうもこちらの意図に気がついた。明らかに焦った様子の彼女は、すぐにペースを取り戻し。そしてその表情は覚悟を決めている。
彼女の周囲に風が渦巻く
青い絵の具をぶちまけたような、浮雲が彼女の周囲に浮かんだ。
『ライフヴィジョン』で見えている、スカイスカイの残りHPが急速に減少する。
これは、HP消費型スキル。
「『エンチャント・クラウドモード』」
大きく距離を離される。青い雲から小型のブレードが放出され続ける。
俺のHPが一瞬で削れ始める。
「ふは」
すげえよ。
かっこいいなあ。あんた。
もし、俺があんたを舐めて早々に決着を決めようとしていたら、負けていたかもしれない。勝負を焦っても負けていたかもしれない。
油断してまんまと近づいてきたところを、コレでバラバラにしようとしていた訳だ。
切り札を揃え、イレギュラーを乗り越え、最適なタイミングで放つ。
素晴らしいじゃないか。彼女は賞賛を送られるべきだ。
けれど。
俺が勝つ。
「ぶっ潰せ、『ウォーゾーンオブジエンド』」
剣の型もクソもない。己の反応速度の限界を超えた、斬撃。目をカッと見開いて。反射的に全てをたたき落とす。
スキルのチャージタイムが終了する。
「ガアァァァァ」
赤と青が2種の攻撃スキルが衝突する。
粉塵が晴れ、立っているのは一人だけだった。
「チェックメイトだ」
スカイスカイのHPは底をついている。先ほどの攻撃で、こちらを仕留められなかった以上、俺の勝利だ。
「どうして途中から、攻めるのをやめたの。近距離になれば、私の、『グランドクロス』を捌くのがより難しいのに。どうして正しい判断が出来たの」
「その羽衣だ。MPが残っているなら、『闘剣』ぐらいお得意の高速移動で避ければいい。恐れく羽衣は残りMPを完全使用することで発動できる、エンチャント。その羽衣が攻撃の残弾だったんだ」
「悔しいわ。これほどまでに全部通用しないと。いっそ清々しい」
「そんな事は無いさ。案外初めから、平原で戦っていたなら、そちらが勝っていたかもしれない」
スカイスカイのHPは最初の戦いで50%まで減らしている。こちらの作戦勝ち。だが、正面から競り勝ったとは言いきれなかった。
「また戦おう。今度はチーム戦とかでさ」
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(デザイア・リミットブレイク、1対1世界大会、モンスター決勝戦。勝者は、大会初代モンスターは、グラスシード。grass seed limitに決定しましたァ、優勝はグラス……)
「やっぱり、かっこいいなあ。私も種先生って呼んでも良いかな。あってみたいなぁ」
秋月夕 16才。彼女とグラスシードが出会うことになるのは、遠い先の物語。
良いね。賛否感想お持ちしております。
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こちらで別の作品も連載中です。よろしければ読んでいってください。
冒涜のシーカ
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