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マリーの日記帳6



 ドニさんと別れた後、急いで教室へ戻り授業を受ける準備をする。王立学院の授業は特に身だしなみにも厳しいので、服装が乱れていないか自分の体をキョロキョロと見回す。


「マリーさん、お昼休みは有意義に過ごせましたか?」


 フレデリク様が優雅に近づいてきて、形のいい琥珀色の瞳を眼鏡の奥で優しく細めた。スっと伸びた背筋が、フレデリク様の線の細い躯体をより一層際立たせていた。


「はい、フレデリク様。食堂の利用方法を教えて頂けて、とても助かりました。わたし一人ではどうしたらいいか分からなかったと思います。ありがとうございました」


「よかった。突然誘ってしまったから、フレデリクとふたりで心配していたんだ」


 隣にいたクリスチアン様が安心したように、パッと美しく微笑んだ。耳にかけていない方のプラチナブロンドの髪がサラリと揺れ、男の人なのに美しいなと感心してしまった。


 心配……その言葉を聞いて、ドレスの集団に言われたことを思い出す。クリスチアン様とフレデリク様はきっと、わたしが何を言われたのか大方の想像は着いているのだろう。だから、声をかけてくれた。

 わたしには全く予想のつかなかった事態だったけれど、王侯貴族の社会では、当たり前……なのだろうか?

 そう思うと、ただ煌びやかな世界と言う訳でも無いのかもしれない……。

 


 話しかけてくれたふたりをチラリと見ると、ハートは黄色。わたしに好感を抱いてはくれているようだ。おそらくクラスメイトとして、本気で心配をしてくれている。高貴な方々に、ただ同じクラスだと言うだけで好感を抱いて貰えるなんて、普通に考えれば凄い事なのだけれど……エマさんの赤いハートを思えば些細なことのように感じた。


 それでもやはり、好感度を落とさないように相手の顔色を伺いながら生きるのは辞められないけれど……。愛して貰えなくても、嫌われたい訳じゃないから。


 あぁ、こんな不安定な心から早く卒業したい……。はやく、エマさんに会いたい……。そうすれば、こんな見苦しい気持ちから早く解放されるのに……。

 会ったら、聞きたいことが沢山ある。確認したいことが沢山ある。そして、一緒にやってみたい事や一緒に行きたい場所をふたりで話して、沢山思い出を作って、そしてそんな思い出話を2人で話し合いながら笑いあって……そんな妄想ばかりが頭の中を駆け巡り、勝手に顔が緩む。


「心配して頂きありがとうございます。でも不安より、これからの生活が楽しみで仕方がないんです」


 緩んだ顔のままふたりに話せば、安心した様な顔を返してくれた。




 初めての授業が終わり、わたしは女子寮へ帰るため歩みを進めていると、お昼休みに出会ったドニさんが居るのが見えた。どうして女子寮に?ひょっとして、エマさんと会う約束をしていたとか?幼馴染と言っていたし……もしかしたら、ここで声をかれば、エマさんに紹介して貰えるかも……。

 わたしはそんな淡い期待を胸に、駆け出しながら声をかける。


「ドニさん!どうしたんですか?」


「マリーさん!?えっと、エマに会いたかったんだけど、やっぱり入れて貰えないみたいで……」


 会う約束をしていた訳では無いのか……と自分勝手に落胆してしまう。けれど、これでエマさんに会う口実が出来たかも……。教室に来るのを待つだけではなく、自分からエマさんに会いに行ける口実が。


「心配ですよね……よろしければわたしが様子を見てきましょうか?」


 そんな浅ましい下心のせいで、ドキドキと胸が痛いほど高鳴る。必死に心配をしている風を装うが、顔が引き攣っている気がする。けれど、もうこの心は止められなかった。


「ホント!?ありがとうマリーさん!お願いしてもいいかな?」


 ドニさんはポワッと人懐っこい笑みを浮かべた。その純粋に嬉しがる表情に、チクリと心が痛む。自分の中の邪な心が、急に恥ずかしくなる。わたしはその後ろめたさから、その場を早足で立ち去り、教えて貰ったエマさんの部屋の前まで急いだ。




 扉の前に立ち、控えめにノックをする。しかし、返事は無い。何度かノックをしてみたが、結果は同じだった。少々品がないとは思いつつも、扉に耳をつけて中の様子を伺う。

 微かに人の気配があるので、中には居るようだ。しかしわたしはそれ以上踏み込むことが出来ず、扉の前から引き返すことしか出来なかった。


 今日一日で、エマさんに会えると思っていたのに会えなかったという事が2回も起きてしまい、一気に落胆してしまう。


 ドニさんの元へ戻ると、女子寮の寮母さんと会話しているのが見えた。そこでエマさんには会えなかった事を伝えると、ドニさんもシュンっと落ち込んだ表情を見せたが、直ぐにわたしに気を使って困った様な笑顔を浮かべた。

 そんなドニさんを見ていると、きっとエマさんも素敵な人なんだろうなと思える。


 その後、また次の日も放課後にドニさんと待ち合わせてエマさんの様子を見に行く事になった。


 わたしは、明日こそはエマさんに会えますようにと願いながら日記帳に文字をしたため、今日一日を終えた。

 



 

 


 

 

3日間連続投稿、無事に終わりました☆

次回からまた土曜日の14時投稿に戻ります。

ご褒美として下の方にある星マーク☆☆☆☆☆とブックマークで評価のご協力をお願いいたします(´˘`*)

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