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マリーの日記帳5



 わたしは、期待に胸を躍らせながら初登校になる教室の扉に手をかける。今日からわたしは、わたしを愛してくれている人と一緒に生活するのだ。楽しみで胸がはちきれそう!




 そう、思っていたのに




 その人は現れなかった……。







 でも、名前は教えてもらえた。


 エマ。エマさん。なんて素敵な名前!それが分かっただけでも嬉しいけれど、直接本人に会いたい……。やっぱり病気、なのだろうか……。だったらわたしに、なにができるのだろう……。


 そんなことを考えて、初めての授業なのにボーッと聞いてしまい、気づけば昼休みだった。


 クリスチアン様とフレデリク様はすごく優しくて、わたしにとても良くしてくれた。食堂は特進科と他科とは利用方法が違うらしく、特別ラウンジの事も教えて貰いながら一緒に昼食を摂った。

 その後ふたりと別れ、特別ラウンジから出ると数人の女生徒から声をかけられた。ドレスを着ているので教養科の生徒だろう。服装選びも教養のひとつなので、制服は着ていないそうだ。綺麗で華やかなドレス。それだけで憧れてしまう魅力がある。


 その人達の全員が、わたしに対する好感度は緑。初めて会うのだからこの程度だろう。そう思い言われるがままに付いていくと、校舎の影になっている中庭についた。


 綺麗なグラデーションを描く美しいドレスを着た女生徒が、クルリとドレスの裾を揺らしながらこちらへ振り向いた。


「貴女、平民だそうね?」


 ゆるりと微笑みながらも、キツい口調で言い放つ。わたしは戸惑いつつも、ひとつ頷く。相手はぺちぺちと手のひらに閉じた扇を打ち付けながら、こちらを見据える。


「ご自分のお立場について、どのようにお考えなのかしら?」


「ご、ごめんなさい……まだ、礼儀作法については拙くて……」


 思わずスっと目線を下げてしまう。


「拙いと言っても、弁える事くらいはいくらでも出来るでしょうに!」


 突然の声に、わたしはビクリと肩が揺れ顔を上げる。

 

 あぁ、これは、そういう事か……。この人達の好感度は緑なので、私の事が嫌いな訳では無い。では、何故こんなことをするのか?

 それは、わたしの事が嫌いな誰かの代わりに、こんな事をしているのだろう。


 別段、珍しい事では無い。そのわたしを嫌いな誰かに気に入られる為だったり、その誰かの意志を汲み取った行動だったり、理由は色々あるけれど……わたしを嫌いな訳では無いのにこんなことをする理由は、きっとそんな所だろう。

 


「誉れ高い第2王子で在らせられるクリスチアン殿下と昼食を共にしようだなんて厚かましい!」


「格式高い王立学院の入学式で騒ぎを起こしておいて、とんだ恥知らずなのね」


 入学式での騒ぎ……?それってわたしではなく、エマさんが倒れた事……?

 

「……え?それはわたしではなく――」

「まあ驚いた!口答えなさるの!?」


 訂正しようと思った言葉も虚しく、遮られてしまう。


「い、いえ……そうではなくて――」

「平民というのは迷惑をかけてる事もわからないのかしら!」


 一層大きな声に、思わず身が竦む。


「何してるの?大丈夫?」


 後ろから不意に、声が軽く掛けられる。振り返ってみると、そこに居たのは入学式でエマさんの幼馴染と言っていた男子生徒が立っていた。

 余りにも親しみ易い声がけに、わたしは驚いたまま暫く見つめてしまうが、相手も何故がキョトンとしたような、驚きの表情を見せていた。


 なんと、言葉をかけていいのか……戸惑ってしまい、沈黙がその場に降りる。



「まぁ!なんてはしたない……」


 沈黙のまま見つめ合っているわたし達よりも先に、それを見ていた女生徒たちがヒソヒソと話し始めた。扇で顔を覆ってはいるが、軽蔑の視線は隠せてはいなかった。その後も「異性と見つめ合うなんて……」「こんな往来の場で……」とヒソヒソ話し合いながらも、女生徒たちはゾロゾロとその場を後にした。



「ごめん、知り合いに似てて……」


 最初に口を開いたのはその人で、困った様にポリポリと指で頬を掻く。


「いいえ、わたしも困ってたので助かりました。わたしはマリーといいます」

 

「ありがとう。オレはドニ」


 ドニさんはニッと人懐っこい笑みを浮かべた。それに、ドニさんが言ったわたしに似ている人って、もしかして……。


「あの、わたしに似てるって、もしかして特進科のエマさん、ですか……?」


 もし、幼馴染だというドニさんにも見間違えられたのなら、わたし達って、すごく似ていることになりますよね?

 わたしを愛してくれていて、姿まで似ている。他人の空似?それとも……。


「うん。オレの幼馴染なんだ」

「やっぱり!入学式の時チラリと見たんですがわたしも似てるなって思ったんです!幼馴染のドニさんもそう思ったんですね!やっぱり似てますよね!」


 思わず気持ちだけが先走ってしまい、早口で捲し立ててしまった。ドニさんが少し後ろにのけ反ったのを見て、落ち着くために、ひとつ咳払いをする。

 家族以外にいなかった、わたしを愛してくれている人。だって、期待してしまう。


「わたしも特進科なのですが、エマさんに会えなくて残念です……やっぱりまだ体調が悪いのですか?」

「えっ……」


 エマさんが倒れた時に薬を持っていると駆け寄ったドニさんなら知っているかと思ったが、どうやら登校してきて居ないことは初耳のようで、不安そうな、驚きの表情を見せる。


 ――あぁ、そうか……ただの幼馴染みじゃなくて


 その時、予鈴のベルが鳴り響く。わたし達は急いで別れてそれぞれの教室へ向かい駆け出した。

 






連休になるので明日も投稿します!

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