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マリーの日記帳3



 わたしが16歳を迎える年に、王立学院への入学が決まった。


 一緒に居てくれたペグおばさんや司祭様からの強い希望で入学試験を受けたら、平民で初めての特進科に選ばれた。


 わたしはまた、驚きと不安に胸が支配された。けれど、そんな事を悟られないように、きちんと笑って喜んだ。



 王立学院に入学すれば学生寮もあるし、もしかしたら、そこに、わたしをあいしてくれるひとも――。



 そんな淡い期待を胸に、わたしは入学式を迎えた。




 でも分かってる、解ってる、わかってる。




 そんな淡い期待なんて、薄氷の様なものだって……。



 期待をして踏み出せば、パキリと軽い音を立てて粉々に砕け落ちる。




 柔らかな春の陽気にだって、溶けてなくなる。






 けれど、そんな薄氷の期待にだって、わたしは縋りたくて、心はこんなにも踊っている。






 一人でも多くの人に出会いたくて学院内をウロウロしてしまったが、やっぱり赤いハートの人はいなかった。


 でも、まだ、まだ全員と会った訳じゃないし……。




 そんな言い訳をしても、どうせ分かっていた。そんな人なんか居ないって、わかっていた。だから、大丈夫。わたしは、大丈夫。わたしを愛してくれている人なんて――。




 そうやって予防線を張って、自分を守る。


 わかってる、わかってた、大丈夫。



 本当は誰よりも何よりも期待しているくせに。


 





 きっとここになら、わたしをあいしてくれるひとが――。







 そんなウラハラな思いを抱えて、入学式が行われる講堂の扉を開ける。


 学院内を歩き回っていたせいで、もう既に沢山の人が集まっていたようだ。その誰もが、赤いハートを持っていないけれど。大丈夫、わかってた事じゃない。ガッカリなんてしてないわ。だって、そんな気がしてたもの。ただちょっと期待しちゃっただけ。そうだったらいいなーって、少しだけ、ほんの少し、そう、思っただけ……。









 そんなのわかってた、その、はずなのに……。



 俯きそうになり、無理やりに顔を上げて前へ進むと、列の前の方にとても目を引く集団がいた。目を見張る程の美貌の集団は、まるでこの世の光を全て集めたかのように輝いて見えた。



 そこに、見覚えのあるウェーブを描くピンク色の長い髪の人物が立っていた。わたしはハッとして、自分の髪を手に取る。


 同じ……同じだ……。



 その人物は美貌の男性達から微笑まれ、柔らかな髪をふわりと揺らしていた。




 あぁ、あれが、わたしだったなら……。





 何をバカなことを考えているんだろう。そんな事ある訳ないのに。ただ、たまたま似ている髪の人だから、つい自分だったらと重ねてしまった。




 

 似ている髪……?



 ピンク色に、腰まであるウェーブの髪。



 今まで、王国中を渡り歩いたけれど、そんな人、居たかしら――?


 



 もしかして、あの人なら、わたしの特別に――。





 ダメ。そんなありもしない期待をしてはダメ。どうせ違うのだから。自分が傷つくだけよ。そもそも、珍しいピンク色の髪が似ているからって、それがなんだと言うの。そんな事だけで期待をするなんて。なんの根拠もない。期待する程では無い。

 



 ただ、わたしが愛に飢えているだけ。




 みっともない。みっともない。こんな汚い感情、隠さなければ。年を重ねる毎に、この感情がだんだん大きくなって、自分でも制御出来ない。


 あいされたいという感情が、あふれてとまらない。



 両親が居なくなって、悲しくて寂しいだけだと、そう思っていた。けれど、愛に溢れる家族や愛し合う恋人たちを見て、わたしにもその愛を向けてくれる人が、欲しくなった。堪らなく、欲しかった。わたしを愛してくれる人が。どうしてわたしにはいないの?なぜわたしから奪ったの……?


 ほんの少しの好意を向けてくれる人に縋りたい。けれど、そんな事をして、その人たちまで失ってしまったら、わたしはどうしたら……。



 愛されたい。わたしを変わらず愛してくれる人が……ほしい。




 もう一度、愛されたい。

 


 もう、二度と手に入らないとは、思いたくなくて……。


 それから、必死になって……。



 そうしている内に、こんなにもわたしは、愛に飢えて……。



 こんなに醜いわたしを、誰が愛してくれるのだろう……。



 ここになら、居るのだろうか。わたしを、愛してくれる人が……。






 いいや、いなかったじゃない。探したけれど、いなかったじゃない……。




 どうして……。




 この醜い心がみんなにも透けて見えているから、わたしは愛されないの……?





 ザワザワと、周りの喧騒が、耳の中で木霊する。


 


 先程までザワザワと鳴り響いていた声がピタリと止む。不思議に思い俯いていた顔を上げると、先頭の美貌の集団の中から、深緑の髪を束ねた眼鏡の男性がこちらの列に向かい歩いてきていた。その人を目で追うように、ピンク色の髪の女性がこちらへ振り向く。


 ふわりと長い髪が揺れる。



 ウェーブを描く髪が、動く度にその陰影を変える。




 ゆっくりと振り向く。





 マリンブルーの瞳がキラキラと輝いていた。






 クリクリとした大きな瞳に、影を落とす長いまつ毛。





 


 うっすら色ずく張りのある頬と唇。









 




 目が逸らせなかった。

 



 

 

 

次回の更新は8月11日(祝・金)14時予定です。

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