67話 涙、涙、涙、
「困っていればいいんです。エマの近くで、迷いあぐねて居れば必ず声を掛けて貰える」
……え?
「エマが……困っている人を放っておけないのは分かります。わたしは近くで何度も見てきました。この短い学院生活の中で、何度も。それを悪い事だとは言いません。けれど、それを利用する人がいる以上、エマにも、わかっていて欲しいのです」
マリーは言葉の一つひとつを、しっかりとわたしに伝える。
「本当に困っていて助けを必要としている人と、そうではない人が居るということを」
わたしは、まだどういう事なのか、理解出来ずにいた。
「ごっごめんなさい……あたっあたし……助け、られなくて……っ」
アンナさんはポロポロと大粒の涙を流す。
「あたし、エマさんのしている事は、とても清くて尊い行いなのだと……そう、妄信して……危険から目を、逸らしてたんですね……」
アンナさんはそのまま地面へ泣き崩れ「ごめんなさい……ごめんなさい……」と呟いた。
「アンナさん……顔を上げて……」
「だってっだって!エマさんの事っ大好きだって思ってながらっ……こんな事も分からないで……マリーさんに全部っ説明させて……あたし……」
マリーは小柄なアンナさんの上半身をひょいと持ち上げ、頬に伝う涙を拭う。そのままアンナさんはマリーの胸に崩れ落ち「ごめんなさい……」と涙を流し、マリーはその背中を「大丈夫ですよ」と言いながら撫でていた。
わたしは、まだゾワゾワする胸を抑えながら、その光景をただただ見つめていた。
「わたし、自分の知らないところで……ふたりに心配かけてたんだね。ううん、ふたりじゃなくて、きっと、他のみんなにも、だよね……?」
考え無しの行動で、こんなにも心配をかけてしまっていた。胸が、キリキリと痛む。
そのせいで、ふたりにはあんなに怖くて、痛くて、つらい思いをさせてしまって――。
「いいえ、いいえ!エマは悪くないんです。他人の善行を悪用しようとする人が悪いのなんて、決まっています!でも、だから……エマには、知っていて欲しいのです。その様な悪人が居ることを。危険を避けるという意味でも……」
「うん……うん。ありがとう、マリー、アンナさん」
そう言ってマリーとアンナさんの手を握ると、ぽたぽたと涙が自然にこぼれ落ちた。
怖かったこと、痛かったこと、不安だったこと、つらかったこと、そして、ふたりが来てくれて、助けてくれて、嬉しかったこと。そんな全部の感情が一気に実感となって溢れ出して、涙と一緒にこぼれ落ちる。これが、現実で、どれほど危険なのか。ふたりの温かくて、少し震えている手が、ふわふわとした幻想からわたしを現実へと引き戻してくれる。
その後は3人で崩れ合いながら泣き続けてしまった。
ひとしきり泣き終えると、誰からとも無く笑い合う。3人で抱き合いながらグズズグになっているのが、何だか面白くなってしまった。
落ち着いた後にやっとみんなで立ち上がり、周りを見渡してみる。薄暗い倉庫の中には、騎士科の木剣や盾、魔術科の魔法道具と思われる何か、芸術科の彫刻や壺の様な物に、キャンパスやイーゼル等の様々な画材が乱雑に置かれていた。各科の専用の倉庫に入れるまでの、一時保管所みたいな所だろうか……?
保管している物の劣化を防ぐためなのか、扉以外の出入口は見当たらない。天井の近くに小さな通気口のような物があるが、格子を外せたとしてもあそこから出ていくのは難しそうだ。
つまり、出入口の扉を開けるしか無い……。扉の鍵は、外にある取手の部分に錠前がある簡易的な物だったはず。倉庫の鍵は誰でも取り出すことは可能だが、ここを出ない事には意味が無い。誰かが外から開けてくれるのを待つ……?そもそもここは用具入れではなく、周りを見渡すと一時保管所の様なので、明日になって誰かが開けてくれるのかを期待するのは、楽観的すぎるだろうか……。
マリーやアンナさんも周りを探索していたが同じ思考に辿り着いたらしく、お互いに顔を見合せて残念そうに頭を振った。
扉以外だとすると、やはり天井近くの通気口しかないだろうが……。わたしが思案顔で通気口を見つめていたら、袖をちょいっと引っ張られる。
「あ、あの……あたしなら、あそこから出られる、かと……その……持ち上げて、いただければ……ですが」
小柄なアンナさんがくりくりの茶色の瞳を上目遣いにこちらを恥ずかしそうに伺う。
「あっいえ!そんなの、無理ですよね!?」
アンナさんはパッと手を離して、そばかすの散った鼻筋を照れ隠しに赤く染める。
「無理なんてそんな事ないよ!やってみよう!」
確かに、小柄なアンナさんであれば、何とかあの通気口くらいなら通れそうではある。それに、アンナさんは軽いから、持ち上げるのだって無理なんてことは無い。
「でも、どうやってあの格子を外しましょうか……?」
マリーが不思議そうに通気口に掛かる格子を見つめる。
「これを使えば――」
そう言うとアンナさんは、鈍色に光るソレを取り出した。頭の奥が、ゾワリと痺れる。
わたしはソレを知っていた。
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また明日も会いましょう(*^^*)
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