63話 王立学院創立記念の樹
毎日授業を受けて、魔法や剣術の練習をし、マリーやアンナさん、それにエリザベッタ様、時々ニコルさんと一緒に昼食を共にする時間が続いた。
エリザベッタ様と言えば、あの後いつものドレス姿ではなく制服で登場した。わたし達の様に既製の制服とは違い、肩と長めのスカートはふわりとボリュームが出ていた。元々教養科の生徒がドレスを着ているのは、授業の一環でドレス選びのセンスを培う意味があったらしく、学院内でもドレスを着用していた様だ。
エリザベッタ様曰く「初めは王立学院の仕来りに習いましたが、もうわたくしには必要がないと思い制服にしただけです!」との事らしい。それでもわたしは、みんなでお揃いの制服を着て、少し、嬉しかったりもした。
エリザベッタ様と一緒にいるわたし達に好奇の眼差しが向けられる事はあれど、それ以上の事は何も起きなかった。
苦手な魔法や剣術に悪戦苦闘しながらも、なんとか少しずつ前進して喜んだり、友達と楽しく過ごしたり、充実した毎日を過ごしていた。
そしてマリーは、クリスチアン様と特に目立った進展は無さそうだった。
そこで、何となく、気づいてしまった。マリーの恋愛を、邪魔しているモノは何か。
ラブメモのストーリーでは、アンナやエリザベッタが邪魔してきた。でも、現実ではみんな友達で、嫌がらせなんてしていない。最近では他の生徒からの嫌がらせも無くなってきた。
では、マリーの恋愛が進展しないのは、何が原因か?
それは――
わたしの存在が原因では無いのか――?
何かを意識した訳では無いけれど、イベント毎に目立ってしまっていた。ペーパーテストでは1位まで取ってしまった。
これでは、マリーを皆に認めさせるどころの話ではない!!!
わたしの方が目立ってしまっている!!!
そんな事に気付いてしまったわたしは、マリーとクリスチアン様に恨まれないか、少し心配になってきた……。ふたりも自分達の恋愛が進展しないのが、まさかわたしが原因だと思ってはいないだろうけれど……。
でも、それが本当なら、ふたりの恋愛がゲーム準拠だなんて、そんなの、悲しすぎる……。
どこまでゲームの影響があるのかは分からないけれど、少なくてもイベントはゲーム通りみたい。皆の性格や環境等は変わっているけれど、わたしが見る限りは、良い方向に変わっていると思う。
そんな答えの出ない悩みに思いを巡らせていると、目の前に突然人が現れる。
「あの!放課後、中庭に来てくれないか?その……創立記念の樹がある……」
創立記念の樹と言うと、王立学院の創立記念で当時の国王直々に下賜された由緒ある樹。当時の国王が恋愛結婚の後、愛妻家と言われていたため、この樹の下で告白すると幸せになれるという謂れがある。
ゲームのラストでも、ここで告白されるのだ。
「えっ!?」
そう、学生の間で有名な、告白スポットなのだ!つ、つまり……そんな所に呼ばれたって事は……こ、告白……!?
あまりにも突然の出来事で、思わず照れながら目を白黒させてしまった。
「じゃ、じゃあ、そういう事だから……」
そう言うと男子生徒はそそくさと立ち去ってしまった。その男子生徒の事は知らないけれど、でも、そんな所に呼ばれたって事は……つまり……その……そういう事だよね!?突然の出来事に気が動転して、名前を聞くのを忘れてしまった。
その日の授業は全然身が入らず、一日中ソワソワしてしまった。昼食時も皆に心配されてしまったが、気恥しさから誤魔化してしまった。
放課後になり、簡単に身支度を整えながら指定された場所へ向かう。
そろりそろりと、中庭の方を覗う。すると、樹の傍にふたりの人影が見えた。わたしは不思議に思いながらも、近づくために歩みを進める。顔がハッキリしてくると、ひとりは先程呼び出しを受けた男子生徒だった。その男子生徒の前に立つもうひとりは、わたしの知らないまた別の男子生徒だ。
「来たのか?全く俺を待たせるとは……まぁいいだろう」
前に立つ方の男子生徒が、フンっと鼻を鳴らしてツンっと上を向く。
「こちらは、ピエリック・プロスペール子爵令息様で在らせられます。ボクはプロスペール子爵家の下男ポールです」
わたしを中庭に誘ってくれたポールさんは、体付きはガッシリとしているのに気弱そうに笑っていた。一方のピエリック様は、ポールさんと比べると小柄な印象を受ける。身長はわたしと同じくらいだろうが、ポールさんと並んでいると小柄に見えてしまう。
ところで、こんな所に呼び出してどんな用事なのだろうか……?雰囲気的には告白ではなさそう。ここへ来る途中の浮かれた気分が無くなってしまうほど、色恋の話とは遠い空気感だ。
「まったく!なんて察しの悪い愚鈍な女なんだ!」
何か用事があるならと思い相手から話し出すのを待っていたら、ピエリック様が突如として大きな声を出す。その声と大振りな動きに驚いて、思わず半歩後退ってしまった。
なんの事か全く分からないまま突然罵倒された……。
驚きの余り、何も言葉が出てこない……。
「フン!お前みたいな平民風情の女を、俺の愛妾として傍に置いてやってもいい。精々、俺に気に入られるように励むんだな!」




