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62話 一面の、青



 エリザベッタ様とアンナさん、マリーの4人で昼食を摂る様になったら、目に見えて嫌がらせが減った。


 エリザベッタ様がいじめを主導していたとは思えないけれど……エリザベッタ様の存在が抑止力になっているだけ……?


 ラブメモのライバルキャラのアンナとエリザベッタがいじめをしていないなら、一体誰が……。どうしてもラブメモのストーリーを前提に考えてしまうから、今この状況に頭が追いつかない。



「エマ……?」


 うんうんと頭を捻りながら歩いていたら、突然名前を呼ばれる。振り返ればマリーが大きな瞳を更にクリクリと丸くしてこちらを見ていた。


「マリー!どうしたの?」


「えっと、どうしたと言うか……次の移動教室、こっちですよね……?」


 マリーに戸惑いながらそう言われる。ふと自分の目の前にある扉を見上げる。わたしはいつの間にか、美術室の扉に手をかけていた。


「そこって、芸術科の個人教室……ですよね?」


 個人教室……芸術科の生徒は他の科に比べ極端に生徒数が少なく、充実した美術道具と製作した作品の保管場所と称して生徒一人ひとりに教室が与えられている、らしい。


 だが本当は、王家の隠し子でクリスチアン様の双子の弟であるクロヴィス・クロード様を周りの目から隠す目的で新設された、との事だ。ラブメモの中でストーリーを進めていくと、そんな話を教えて貰える。


 わたしは慌てて教室のドアノブから手を離すが、途中まで開けようとしていた扉は、手を離した反動でゆっくりと動き開け放たれてしまう。


 すると、カーテンが締め切られた薄暗い部屋の中いっぱいに、青が、広がっていた。



 視界いっぱいに広がる、青。



 大小沢山のキャンバスに青が、描かれていた。


 キャンバスいっぱいに塗り広げられている青もあれば、楕円形の青もある。楕円形の青からは、まるでそこから溢れ出した様に青が零れ落ちる表現の物が多かった。どの青も幾重にも重ねられ、濃淡が漸次的に変化している。青で覆い尽くされているのに、不思議と引き込まれるような魅力があった。


「エマ……?」


 わたしが部屋の中に魅入っていると、いつの間にかマリーがこちらに来ていたようで、ひょっこりと部屋の中を覗いた。


「――っ!」


 瞬間、マリーの息を飲む音が聞こえる。マリーもこの不思議な魅力に取り込まれてしまったのだろうか。すごく、綺麗な青。海のような深い、透き通るような、青。


 そこで不意に思い出す。クロード様の「海の色は何色だと思う?」と言う声を。

 


「あ、あの……エマ……もう、行かないと――」


 あぁ、そうか。移動教室だから、急がないと遅れてしまう。そう思いマリーに声をかけようとした矢先――。


「おい、何してる……!」


 ハッとして声のした方を向くと、そこにはホワイトブロンドの髪で顔を隠したクロヴィス・クロード様がズンズンとこちらへ近づいてきていた。


「ご、ごめんなさい……間違って扉を開けてしまって――」

「中を見たのか!?」


 グングンとこちらに近づいてきたクロード様に突然腕を掴まれ、思わず「キャッ!」と声が漏れる。掴まれた腕をそのまま壁に押し付けられ、クロード様はもう片方の腕をわたしの顔のすぐ横の壁に叩きつける。


「見たのか!?」


 怒気を孕んだ声と耳のすぐ真横で鳴った壁に叩きつけられた音に驚いて、肩がびくりと跳ねる。


「は、はい……勝手に見ちゃいました」


 クロード様はわたしに覆い被さる様に立っているので、下から見上げるとクリスチアン様と同じサファイアのような青い瞳が髪の毛の隙間からチラリと覗いていた。


 クロード様はわたしの言葉を聞くと「ハァ……」と重く息を吐いて、項垂れた。急に顔が急接近してきて、先程とは違った意味で、胸がドキリと跳ねる。


 鼻先が掠める程の距離で、クロード様とバチリと目が合う。その青色の瞳に絡め取られ、恥ずかしさから視線を逸らす事もできない。ごく至近距離でこちらの瞳を覗き込まれ、カッと顔が熱くなるのを感じる。クロード様の伸びた前髪がわたしの顔にかかる程の距離。羞恥心からジワジワと目が湿ってきた。何かを言わなければと思うのに、パクパクと口を開閉させるだけで声が出てこない。


 この状況を脱したいのに緊張と羞恥心からどうしたらいいのか分からずにいると、不意に掴まれていない方の手をギュッと握られる。


「え、エマを、はなして、ください……!」


 マリーの艶やかで繊細な手に、先程より力が入る。


「え?あ、あぁ……」


 クロード様はまるで今気づいたかのように、パッと手を離す。まだ掴まれていた腕が、じわりと温かい。


「エマ、もう……もういきましょう……」


「……え?あ、うん、そうだね。授業始まっちゃうもんね?」


 マリーの声は暗く、まるで早くここから立ち去りたい様に、グングンと前へ進む。



 マリーと隠しキャラであるクロヴィス・クロード様。ゲームではなく現実での出会いはどの様になるのかと思っていたけれど……。少なくとも、マリーは好意的ではない、のかな……?

 きっとクロード様も、クリスチアン様と恋仲のマリーとは接しにくいのかな……?そもそもクロード様はふたりの仲の事を知っているのだろうか?もし知らないのならマリーに恋をしちゃって双子で取り合いに――!?


 と、想像しなくは無いけれど、今のマリーの様子を見ていたらそんな事にはならなそう。無言のままグングンと前へ進むマリーに手を引かれながら、そんな不埒な妄想をしていた。

 

 


 

 

 


 



 


 


 

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