53話 燃える赤に照る夕陽
「フレデリクすげーじゃん!ま!オレは1位だけどな!」
レオンは挑発的にニヤリ、と笑う。一瞬で空気がピンっと張り詰めて、緊張感が漂う。
「エマさんの機転のお陰です」
クリスチアン様が何か発言するよりも早く、フレデリク様がにこやかに言葉を発した。クリスチアン様は何かを感じ取ったのか、静観の体制に入る。
フレデリク様の言葉を聞いたレオンの眉が、ピクリと動いた。
「あーあ!女に頼りきって恥ずかしくねーのかよ!」
レオンの発言にムッとしてしまう。だが今回は、グッと堪える事ができた。なんとなく、この言葉の向けている相手が分かったから。レオンはわたし――女性ではなく、フレデリク様を貶める為に、この言葉を選んでいるのだという事が。
「私は、自分が入賞出来るとは露ほども思っていませんでした。今回の経験で、自分の能力を活かすとはどういう事なのか実感し、そして体験することが出来ました。これは未熟だった私の成長、なのかもしれませんね」
フレデリク様はそう言って、レオンに穏やかに笑って見せた。また言い合いになるのでは、と思っていた緊張感が緩む。それはクリスチアン様も同じだったようで、小さく息を吐く音が聞こえた。
レオンはフレデリク様の言葉を聞いて戸惑う様な、唖然とした表情を浮べるばかりだった。思っていた反応と違い、狼狽え二の句を継げられずにいる。
「少しずつ、自分の中の苦手意識と向き合っていきたいと、そう思えました」
何故か、優しく微笑むフレデリク様と目が合う。フレデリク様がこちらを見ているとは思わず、バチリと目が合ったまましばし固まってしまった。
「……お前のそういうトコ、すげー腹立つ」
レオンはつぶやく様に、静かに言葉をこぼす。途端、レオンがバッとわたし達の間を駆け抜ける。
「レオン!?」
わたしは反射的にレオンを追いかけていた。背中から「エマ!?」と言うマリーの心配そうな声が聞こえたので、一度だけ振り返り「大丈夫!」と手を振ってから、またレオンを追いかける。
駆け足でレオンを探していると、芝生の上で大の字に寝転んでいる赤髪が目に入る。
「レオン!みつけた……!」
ハァハァと肩で息をするわたしを見て「体力ねーなー」とレオンは笑う。けれど、その笑顔はいつもより、元気がなくて……。
「レオン、2回も優勝するところ見逃して、ごめんね?」
わたしは寝転ぶレオンの隣に腰掛ける。おそらく、レオンを不機嫌にした原因はわたしにあるだろうから……。
わざとでは無いけれど、2回も見逃してしまった事は、本当に申し訳ないと思っている。
「別に気にしてねーから、もういいよ」
そう言うレオンは、それでも少し怒っているように見えた。
「オレさぁ……フレデリクと初めて会った時から、いちいち鼻につく話し方とか、すぐ注意してくる所とか、何かと難しい言葉ばっかり使う所とか、すげー嫌いだったんだ」
レオンは寝転んだまま、赤く染った空を眺めていた。わたしも、なにを見るでもなく同じ空を眺める。
「アイツと話してると、自分の頭の出来がどれだけ悪いか、嫌でも思い知らされるんだ……」
ぽつり、ぽつりと、レオンはゆっくりと言葉を紡ぐ。真っ赤な空が、ふたりを照らす。
「アイツが何か難しい事言う度にイライラして、オレにできる事がお前には全然できねーだろ!って言っちまうんだけど……言った後も全然スッキリしなくて……それどころか、頭の中が余計にモヤモヤして……」
視線を夕焼け空からレオンに移す。紅く照らされたレオンの姿は、何故か悲しげに見えた。
「ほんとオレ、バカだよな……」
そう呟いた声は、低く、重かった。
「けどさ、さっきフレデリクが言った言葉、あれはオレでも分かったし、なんか、ちょっと好きだな、って、思った……」
その声は、暖かさに包まれていた。やっぱりレオンは、フレデリク様が嫌いな訳では無いのだ。だだ、少し関係が拗れてしまっただけで……。
「そう思ったらさ……なんか……急に、自分のしてる事が恥ずかしくなったんだ……」
レオンは寝転んだまま、腕で目元を覆う。
「フレデリクもクリスチアンも凄くてさ、初めて会ったのなんて、本当にガキの頃で……それでも、ふたりとも……将来の夢とか語ってて……オレは今だって、父ちゃんが騎士団長だから、オレも騎士になるって、それだけで……」
レオンは空いたもう片方の手で、芝生を握りしめる。ジャリっと、乾いた音が鳴る。
「アイツらのことすげーなとか、誇らしく思う気持ちも勿論あるけど……それと同じくらい……オレは、自分のやりたい事すら何もわかんねーようなバカで……オレは、本当に何も考えてねーなって……」
なんとなく、レオンの事が分かった気がした。ゲームの知識ではなく、目の前に居る、レオンという一人の人間の事が、分かりかけている気がした。
どうして、フレデリク様とレオンが衝突するのか、その理由も。そして、どうしたら、ふたりが仲良くなれるのかも、なんとなく、分かった気がした。
「きっと、何にも考えてねーから……フレデリクにもバカにされんだろーな……」
レオンは、そう吐き捨てる様に呟いた。それは、自傷的な言い方だった。
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