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50話 似たもの同士



 黙々と魔植物を取っていると、段々と苛立ちが鎮まってきた。それに合わせて、言い過ぎちゃったかな……という思いも浮上してきた。

 レオンが放った言葉は確かに酷いものだったけれど、大きな声を出してしまったのはわたしが悪かった。

 落ち込んで、重い重い溜息を吐く。


「……レオンの事でしたら、あまり落ち込まないでください。彼はあまり考えて発言をするような性格ではありませんので……」


 フレデリク様の言葉に「いえ!そういうつもりでは……!」と驚いて両手を振る。フレデリク様が不思議そうにこちらを見て、小首を傾げる。


「ただ……レオンの事、何も聞かないで大声出しちゃって……悪かったな、って……」


「悪かった……?」


 フレデリク様の表情が怪訝そうな面持ちに変わる。


「ついカッとなって、大声出して会話を終わらせちゃって……。ちゃんとレオンがどうしてそんな事を言ったのか、話を聞いてあげられなくて……」


「どうして……」


 わたしが魔植物を採取しながら話していると、フレデリク様は呟くような小さな声が聞こえてくる。


「え?だって……そうしないと、理解してあげられないでしょ?レオンが何で、あんなこと言ったのか。わたし、ちゃんと言ってもらえないと、わからないから……」


 わたしはプチプチと魔植物を採取する手を止めることなく、話し続ける。


「わたしが気づかないうちに、レオンに嫌な事してたとか……元々レオンがそういう考えなのか……口ではあんな言い方をしたけれど、本音はどうなのか……それとも本当に思ってることを口にしただけか……話してもらわないと、それすら分からない」


 


 ゲームでのレオンは、主人公の事を“女だから”なんて言い方、していなかったと思う……。してたらプレイ中にムッとして、攻略を進められなかっただろうから。

 だから、これは何か他の理由が合っての発言だと、そう思ったんだけど……。


 わたし、皆のこと大好きだと言っておきながら、こんな事も分からないんだなぁ……。



 


「そう……そう、ですね……その通りです」


 呟くように、囁くように、感情のない掠れた声。わたしは採取する手を止め、フレデリク様の方を見る。


「すみません。私は、レオンの事になるとどうしても……冷静で居られないようだ……」


 フレデリク様は困ったように、力なく微笑む。


「あぁ、ライバルですものね」


 レオンは武術でフレデリク様は学術。クリスチアン様の友人として出会って、得手不得手の違いはあっても、お互いの存在が刺激になって能力を高め合っている。

 ちょっと衝突は多いかもしれないけれど、ライバルと言って差し支えないと思う。


 以前クリスチアン様が言っていた「似た者同士だから衝突も多くて……」という言葉にも深く納得だ。


 似ているから、相手の言動が気になる。

 似ているから、口を出したくなる。

 似ているから、つい攻撃的になってしまう。

 似ているから、お互いに比べてしまう。

 似ているから、自分に出来ないことが余計に浮き彫りになる。


 ――だから、お互いを尊敬し合えるはず。


 

「クリスチアン様も言ってましたが、似たもの同士、ですものね?」


 キョトンとしたままのフレデリク様に微笑みかける。フレデリク様は眼鏡を外し、スっと通った鼻根を揉みほぐす。


「……貴女と話していると、色々と考えさせられる」


 薄らと笑みを浮かべて呟いた。その呟きを消し去る様に、森の中に大きな鐘の音が響き渡る。


「さぁ、もうひと頑張りしましょうか!」


 次の鐘が鳴り終わったら、狩猟大会も終わってしまう。それまでに、なんとしてでもレア魔植物をゲットしなければ!


 わたしは雑草の中に目を凝らして、本で見た珍しい魔植物が無いかじっくりと探す。







 最後の鐘がなり終わる頃には、わたし達は緑生い茂る森から、焼き菓子や紅茶の甘く芳しい香り漂うお茶会の会場へ辿り着いていた。


 ホッとして、フレデリク様と微笑み合う。



「エマ!」


 美しく澄んだ声が、わたしの名を呼ぶ。声のした方を探すと、ふわりとしたピンク色の髪が目に入る。


「マリー!お疲れ様!」


 小走りで走ってくるマリーに手を振る。出発した時より少し汚れていたが、怪我は無さそうでホッとする。その後ろから、クリスチアン様が優雅に姿を現す。

 クリスチアン様は森の中で駆けずり回ったとは思えないほど、その姿は綺麗に保たれていた。一糸乱れず、という言葉が相応しい。


「こうして怪我もリタイアもなく、また4人揃えて良かった」


 クリスチアン様は美しい仕草で微笑む。


 クリスチアン様とマリーが揃うと、湖畔でのイベントはどうだったのか聞きたくてソワソワしてしまう……!でも突然そんな下品な真似出来ないよね……!気になるけど!

 それにここには皆の目があるし……聞くとしてもマリーとふたりきにの時だよね!恋バナ!素敵!



 そんな妄想を繰り広げていたらポイントの集計が終わったようで、閉会式の時間になった。

 


 登壇した先生の言葉を聞きながら、狩猟大会で起こったことを思い出していた。

 剣術もそうだけど、一番は魔術の訓練をもっとしなければならないと痛感した。自分での練習もそうだけれど、またジルベール様に相談させてもらおうかな……。

 

 わたしの体には擦り傷やかすり傷程度で、目立った怪我は無かった。今の実力では及第点ではないだろうか。


 後は、提出した魔植物が点数として認められれば――。



「魔植物、点数として認められるといいですね?」


「認められますよ、必ず」


 いつもの柔らかい言い方ではなく、はっきりと言い切ったフレデリク様に驚いて、思わず見つめてしまう。とぼけた様にキョトンとしているわたしに、フレデリク様はふわりと微笑む。

 フレデリク様の言葉に勇気づけられ、両手をギュッと結んで、順位の発表を待った。





 


 

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