57話 魔生物の定義
「フレデリク様、それは……?」
フレデリク様が手に持っている草が気になり、声をかける。
「これはピセランです。魔力を流すと香りが出て、リラックス効果があるようです」
そう言って差し出してくれたピセランからは、植物特有の青々しさの中に上品な香りがふわりと混ざっていた。
「せっかくの休憩なのに、魔力を使って大丈夫なんですか?」
「えぇ、この程度であれば支障ありません」
サラリと言ったその言葉に、フレデリク様への尊敬と自分への失望で感情がごちゃ混ぜになる。わたし、どうしてこんなに魔法が苦手になったんだっけ?昔は普通に使っていたような……?
……あれ?昔って、いつだっけ……?
ゲームと現実と、佐藤愛真として過ごした時間の記憶がグルグル混濁する。
うんうん頭を捻っていたが、一向に思い出せない。それを見たフレデリク様が、心配そうに「大丈夫ですか?」と問いかけてきた。
今はそんな事を考えている暇はない!魔物狩猟会を頑張らないと!
わたしはフレデリク様に、少し考え事をしていた旨を伝えて、これからどうするかを話し合う事にした。
「魔物を見つけても、倒すどころか一撃も当たらなくて……」
「私も補助魔法は使えますが、攻撃魔法となると……少し自信がありません……」
ふたりの間に、落胆した空気が漂う。視線を落とすとフレデリク様の持つ、ピセランが目に入る。普通の植物と違い、魔力を持つ植物は魔植物と呼ばれる。一見普通の植物と同じ物や、一定以上の魔力を持つ植物は自我を持って動き出したりもする。
そう言えばジルベールとのイベントで、各属性の魔力に反応して花びらが光る魔植物があったなぁ。ジルベールは全ての属性の魔力と相性がいいので、6枚の花弁がそれぞれ違う色に輝いてとても綺麗だったスチルを思い出す。
確か花の名前は……マナリリィ。とても珍しいく繊細な魔植物で、まだ人工栽培の成功例がない。ゲームでジルベールとの好感度が友好以上になると、ジルベールが所有している魔術塔へ招待される。その中でジルベールがマナリリィの研究をしている事を聞かされる。
その流れで、ジルベールと父親の不仲の一端を垣間見れる。今はジルベール様とグー先生の間の誤解は解けたみたいだし、ジルベール様はもう大丈夫だよね。
その後もマナリリィが出てくるイベントは何個かあった。普通の植物とは違い、魔植物は扱いが難しいらしい。
魔植物、か……。
「フレデリク様。確認なのですが……」
わたしは内緒話をする様に、フレデリク様に顔を近づけ声のボリュームを落とす。フレデリク様は不思議そうに眼鏡の奥の琥珀色の瞳を丸くした。
「魔生物って、植物も当然含まれますよね……?」
魔物狩猟会が始まる前、先生が開会のスピーチで「魔物狩猟会とは魔生物を狩り、その優劣を付ける催しです」と言っていたのを思い出す。
魔術科が創った人工の魔物を倒し、核となる魔石を集める。その魔石の量と質を競い、順位を決める。けれど“魔物”ではなく“魔生物”と言うからには、当然そこには魔植物も含まれる、はず。
そうは思っても確信が欲しくて、フレデリク様に確認してしまう。
フレデリク様は指を顎に添え、暫し考え込むように黙り込んだ。その沈黙が、わたしを不安にさせる。
「とても良い、着眼点だと思います。例年の狩猟会では魔石を集めるだけでしたが、魔植物を採集するのも当然含まれるはずです」
「そうと決まれば!早速探しましょう!」
思わぬ抜け道をみつけて、飛び上がりそうなほど嬉しくなる。わたしの実力では魔物を倒すなんて出来そうになかったから、少しでも点数を稼げる方法があってとても嬉しい。
入賞は出来なくても自分の実力を出し切るって、きっとこういう事、だよね?
「それでは、先程のピセランが咲いていた所へ行きましょう。あれは群生する魔植物ですので」
フレデリク様に促され、ピセランが咲いていた場所に案内される。
少し歩いて開けた場所に着くと、先程のピセランがポツリ、ポツリと咲いていた。
「お互いあまり離れないようにして、各自で採集しましょうか」
魔植物の採集を効率化するために別れた方が良いのだが、余り離れてしまうと、魔物が襲っていた時に対処が出来なくなる。特に、わたしとフレデリク様の戦力ではふたりで協力しても、逃げるのがやっとだろう。
「わかりました。ですが、魔植物の中には危険な物もありますから、何かわからないことがあればお互い相談する。これを徹底しましょう」
お互い頷き合ってから、しゃがみ込んでピセランを採取する。先程フレデリク様が魔力を流していた時の香りと違って、今はただ青臭さだけが漂ってくる。
周りをよく見回していると、他にも魔植物が生えているのが確認できた。わたしは自分の知識で確認できる範囲で、他の魔植物も取っていく。
すると、小さな薄緑色の花が咲いている植物を見つける。あれ、これって……見たことあるんだけどなぁ……思い出せない……。
魔植物を採取するからポイントになるのであって、普通の薬草を取っても意味が無い。
頭を捻っても一向に思い出せそうにないので、素直にフレデリク様に聞くことにする。
「フレデリク様、この植物って何でしたっけ?」
フレデリク様はわたしの呼び掛けに立ち上がり、こちらまで来てくれた。眼鏡を直す仕草をしながら、薄緑色の小さな花を見つめる。
「あぁ、これはケマロイドですね。良かった、この魔植物は火の魔力を流しながら採取しないと、皮膚が爛れてしまうんです」
「危ないところでした……ありがとうございます、フレデリク様」
火の魔力を流す、かぁ……上手にできるだろうか。コントロールを間違うと燃えちゃうだろうし……。
わたしがまごついていると、フレデリク様が「私がやりましょう」と微笑みながら、わたしの隣へしゃがみ込む。
「す、すみません……わたし、上手にできる自信がなくて……」
「いいえ、そんなに思い詰めないでください。お互いに、出来ることで協力していきましょう」
フレデリク様は微笑むと、特に意識するような素振りなくケマロイドを採取し続けていた。
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