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55話 狩猟会スタート!

 


「あ、短剣にしたんだ」

「わっ!ドニ!?」


 急に背後から声をかけられ、ビクリと肩が揺れる。先程からビックリしてばかりだ。緊張しているのだろうか……?


「森の中じゃ小回り効かないだろうし、エマにはそっちの方がいいと思うよ」


「そうなの……?さっきニコルさんが渡してくれたんだけど……心配してくれてたのかな?」


 なるほど、これはニコルさんの優しさだったらしい。剣の知識が乏しいわたしでは気づけなかった。


「ニコルさんエマたちの事、心配してたみたいだよ。無理しないでお互い頑張ろ」


「ありがとう、ドニ!本当に大変だったらリタイアもできるし、わたしなりに頑張るよ」


 ドニは一度だけ微笑むと、先程ニコルさんが立ち去った方角へ歩いていった。ドニの人懐っこい笑顔に力を貰って、わたしも再び狩猟会への意気込みを新たにした。



 マリーとクリスチアン様を一緒のペアにすることが出来たし、あとは怪我をしないよう頑張るしかない!幸いな事に一緒のペアのフレデリク様はわたしと体力が同じくらいなので、どちらかが足を引っ張って険悪な雰囲気になることは無いだろう。


 ゲームだと、好感度の足りてないキャラとペアを組むと意見の違いから別行動になり、主人公が迷子になってリタイア。イベント失敗になり、全キャラクターの好感度と主人公の全パラメーターが下がってしまう。


 この世界がゲームとは違っていたとしても、喧嘩にだけはならないようにしないと……。





「魔物狩猟会とは魔生物を狩り、その優劣を付ける催しです。古くは王国建立まで遡り――」


 皆が、開会の挨拶をしている先生を見つめている。わたしはそれをフレデリク様の隣に並んで聞いていた。例年の怪我人の数、リタイアする事は恥ずべきことでは無い、大事に至る前に早めの判断を、等……不安を煽る様な言葉が続き、思わず怖気付いてしまう。


「お互い無理をせず、実力を出し切れるよう頑張りましょう」


 わたしの気持ちを見透かしたかのように、フレデリク様は眼鏡の奥の琥珀色の瞳を優しく細めた。


「怪我をしない事を第一に考えて、実力を出し切ります!」


 わたしも笑顔で応える。

 実力を出し切る。わたし達の体力では底が見えていて自虐的かもしれないけれど、それで幾らか緊張がほぐれた。


 開始のファンファーレが鳴り響くと、生徒たちが一斉に森へと向かう。狩猟へ参加しない生徒たちからは、お菓子やお茶の甘い香りが強まる。



「エマ!必ず怪我なく、また会いましょう!」


「フレデリクも、エマに無理をさせないようにね」


 マリーとクリスチアン様が、森へ入る前に声をかけてくれた。流石ヒロインとメインヒーロー、ただの森の前に並んでいるだけで高尚な絵画のようだ。その美しさに思わず拝みたくなる。


「最善を尽くします」


「マリーも頑張って!」


 フレデリク様とわたしが一声ずつ掛けると、ふたりは森の中へ入っていた。この後ふたりは休憩の時に湖に寄って、そこでドキドキ急接近イベントが展開されるんだよ!実際に見れないのは残念だけど、マリー頑張って!ふたりとも束の間の逢瀬を楽しんで……!といっても今は授業中なんだけど!


「では、私たちも行きましょうか」


 フレデリク様がそう切り出し、わたしが頷いたのを確認してから森へ踏み出した。森の中へ入ると、舗装された道とは違い雑草や蔦が行く手を阻む。呼吸をすると肺の中いっぱいに植物の匂いで満たされる。先程までのお菓子やお茶の香りとは対照的に思える。


「……!エマさん!魔物が!」


 前方に雑草に紛れながらも、小型の魔物の姿を確認できた。両手の平よりは少し大きめの魔物。あのくらいのサイズなら、わたしでも倒せそう。


「ゆっくり近づきましょう」


 フレデリク様に小声でそう伝える。短剣ではある程度近づかないと届かないので、魔物に気づかれないようにゆっくりと近づく。


「それでは消音の魔法を掛けましょう」


 フレデリク様がそう言うと、わたしたちをふわりと風が包んだ。消音の魔法をかけたので、お互いの声も聞こえなくなる。ジェスチャーでなんとか意思疎通を取り合い、ゆっくりと魔物に近づく。


 草や蔓に何度か足を取られ、消音の魔法をかけてもらっていて本当に良かったと思う。なんとか、短剣の届く距離まで来ることが出来た。


 生き物を、倒すために、刃物を向けるのは、これが初めてだった。


 料理をすることはあっても、生きた状態からという経験はなかった。生きた動物も、生きた魚も、今まで加工された状態でしか、見たことがなかった。


 自覚を持って、生き物を殺すのだと思うと……躊躇ってしまった。


 消音の魔法が掛かっているので気配は消えているはずなのに、短剣を構えるわたしの方に魔物が振り向く。


 目が、合ってしまい、完全に力が抜けてしまった。小型の魔物は一目散に逃げ出す。


「しまった……!」


 消音の魔法のせいで、わたしの呟きは音にならなかったけれど、そんな事も気にせず逃げた魔物を追う。


 小型の魔物はそんなに速い訳でもないのに、全く捉えられない。短剣ではリーチが短いので、焦れったくなって普通の剣を取り出す。一度、二度は普通に振るうことが出来たが、もう一度振り下ろそうとした時、グイッと何かに引っ張られる。


「えっ!?なに!?」


 驚いて引っ張られた方を確認すると、剣が枝から伸びる蔓に絡め取られていた。魔物を追うことに必死で、視野が狭まっていて気づけなかった。



 あぁ、なるほど……ニコルさんとドニが心配していたのはこの事だったのか……と実感できた。


 そう落胆している内に、追っていた魔物は目視で確認できない距離まで逃げてしまったようだ。





 

次回の投稿は3月21日(火)14時

祝日分の投稿になります。

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