54話 次のイベントは……
その後レオンとは、段々と自然に会話ができるようになってきていた。最初のぎこちなさは無くなり、休日にわたしが体力作りの一環で木剣を振ったりランニングをしていると、一緒に付き合ってくれる様になった。
レオンには剣術授業の時にも教わったが、丁寧で的確な指導のおかげで充実した時間を過ごすことが出来た。
フレデリク様からは何度も謝られてしまったけれど、その度に気にしていない旨を伝えて、最近やっと顔を合わせても謝られることはなくなった。
もう少しで魔物狩猟会が開かれる。王立学院が管理している裏山に、魔術科が人工的に作った魔物を放ち、それを討伐するイベントだ。
何かあれば今までのように軽い怪我では済まないので、魔術の授業も剣術の授業も今まで以上にハードになってきていた。
魔物討伐イベントではクリスチアン様の美麗スチル付きのドキドキ急接近恋愛イベントもあるから、何卒マリーには頑張っていただきたい。
剣術授業で体はボロボロになり、魔術授業で頭はポヤポヤになり、満身創痍ではあるが毎日なんとか過ごしていた。
魔法を使いすぎて頭がボーッとして体が重くなる度に、ジルベール様から貰った魔石がなければ、今頃は授業にも参加できていなかったかと思うと、足を向けて寝られなくなる。
ゲームでは一緒に行動するキャラクターによって、上昇するパラメーター異なる。フレデリクなら学力、レオンなら武力、ジルベールなら魔力の上昇率が高い。クリスチアンは全てのパラメーターが上昇するが、上昇率は低い。
パラメーターの他にも好感度の上昇があるが、もう既にクリスチアン様のルートに入っているマリーには関係ないだろう。
魔物討伐イベントでは一番に武力、その次に魔力のパラメーターが重要になってくる。なのでマリーと一緒に、なるべくレオンとジルベール様と行動を共にしていた。
レオンもジルベール様も丁寧に指導してくれて、パラメーターの上昇を感じる……!ゲームとは違うので、数字は見えないんだけど……。ゲームならパラメーターも好感度も数字で出てくるのに……もどかしい。
そうして授業を受けながら日々を過ごしていくうちに、魔物狩猟会の日になった。
わたしが知っているゲームの背景イラストと違い、目の前には色とりどりのパラソル、甘い匂いを漂わせるお菓子の乗ったテーブル、控えめで楽しげな話し声で溢れていた。
魔物狩猟会、という文字列からは想像できないほど華やかである。上流階級の優雅なお茶会。そんな言葉がピッタリだ。
「私たちにとっては狩猟が目的だけれど、参加しない生徒にとっては茶会のマナーを学ぶ実践場としての役割もあるんだ」
意外な光景に目を白黒させていると、クリスチアン様が優雅に説明してくれた。高雅なクリスチアン様には、狩猟よりもお茶会の方が似合いそうだな……。
「エマ!組み分けはどうしますか!?」
マリーが可愛らしくも元気に問いかけてくる。甘くウェーブを描くピンク色の髪は、動きやすいようにポニーテールにされていた。
「わたしはエマとがいいです!!!」
マリーはポニーテールを揺らし、身を乗り出すほど元気よく声を上げる。
「女子ふたりだとバランスが悪いのでは……?」
思わず疑問が口をついて出てしまったが、マリーはクリスチアン様と一緒じゃなくて良いのだろうか……?そんな事を考えていると、チクチクと視線が刺さるのを感じた。お茶会組の生徒たちがヒソヒソと嘲笑混じりに、こちらを伺いながら話していた。
それを見てなるほど、と納得した。
こんなに人目があってはクリスチアン様もマリーも、自分からペアを組みたいだなんて言い出せない。大丈夫!ここはわたしに任せて!
「ここは男女で別れた方が、バランスがいいと思いますよ」
「わ、わたし!回復魔法得意です!」
わたしはパチンッと手を合わせて「じゃあ前衛のクリスチアン様とは相性がいいですね!」と笑顔を向ける。
マリーはその後無言になった。照れているのか、公衆の面前では容易に喜ぶ事も出来ないということなのか。
でもマリーには絶対クリスチアン様と組んでもらわなきゃ!だってこのイベントでは好感度によって大接近スチルがあるのだから……!それに森の中だと人目もそんなに気にしなくていいから、ふたりの時間を取れるだろうし……。
わたしはフレデリク様とペアを組むことになった。
ゲームのフレデリクは攻撃力と防御力共に一番低い。このイベントをフレデリクと勝ち上がるには、恋愛を捨てて主人公のパラメーターを上げなければならない。それなのに一位になっても特にイベントもスチルも無く、好感度が上がる程度だ。
まぁ、わたしの順位をあげる必要は特に無いので、ここはマリーたちに頑張ってもらいたい。ここで優勝をして、皆にふたりの仲を認めてもらう流れになったらいいなぁ……。
狩猟会が始まる前に武器を選んでいるが、正直どれがいいのか分からない。いつも素振りで使っている木剣と同じ大きさの剣を手に取る。特に何かわかる訳では無いけれど、2回、3回と剣を振ってみる。
腰に剣を仕舞っていると、ぬっと人影が伸びてきた。思わず反射的に振り向くと、そこにはニコルさんが無言で立っていた。
「わ!ニコルさん!びっくりした……」
そんなわたしの言葉なんてお構い無しに、ニコルさんは短剣を手渡してきた。
「え?短剣……?わたしに、ですか?」
ニコルさんはコクリとひとつ頷くと、ヒラリと身を翻す。短いポニーテールが動きに合わせ、サラリと揺れる。わたしがポカンとしていると、ニコルさんはスタスタとどこかに歩いていってしまった。




