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53話 デコピンが人間関係を悪化させる可能性について

 


 武術大会が終わった後も、レオンの不機嫌は続いていた。学院内で顔を合わせると、ツンっと唇を尖らせてプイっとそっぽを向いてしまう。


「レオン、ごめんね?機嫌直して?」


「エマはオレにタオル持ってきてくれて、そのせいで見れなかったんだ。だからオレからも謝るよ」


 ドニも一緒にフォローしてくれたが、レオンは鼻を鳴らしてツンツンしていた。


「レオン、子供みたいな事をするのはもう辞めなさい」


 フレデリク様がピシャリと言葉を発すると、空気が一気にピンッと張りつめる。


 今は移動教室でマリーとフレデリク様と一緒に図書館へ向かっていたのだが、その途中で演習場へ移動する騎士科のレオン達に出会ったのだ。このタイミングにフレデリク様とレオンが居合わせたのは、なんとも間が悪すぎる。どんどん空気が悪くなる。


「はぁ?」


 レオンが下からギロリと睨めつける。



「貴方が不機嫌なのは構いませんが、その機嫌を相手に取ってもらおうなど、子供のする事でしょう。いい加減、その態度を改めなさい」


 フレデリク様は怯む事なく、いつもより強い口調で言い放つ。こんな吹き抜けの廊下の真ん中に居るのに、あまりにも空気が悪すぎる……。


「お前さぁ、いっつもエラソーなこと言ってっけど、なんか結果だしてんのかよ?」


「――っ」


 フレデリク様の表情が、一気に強ばる。それを見てレオンは嘲笑うかのように、歪に口角を持ち上げる。


「お前、運動なんかまるで出来ねーし、グチグチうるせー勉強だってクリスチアンに勝ったことねーだろ」


 レオンの言葉自体にもそうだが、クリスチアン様を呼び捨てにしている事に驚いてしまった。フレデリク様が咎めないという事は、クリスチアン様がその呼び方を許しているということなのか……。


 フレデリク様の表情が段々と曇っていき、ギュッと口を結びなにかを耐えて居るようだった。隣に居るマリーが、不安そうにキョロキョロと視線を泳がせている。



「ね、ねぇ、ふたりとも……もうやめよ?」


 ふたりにこれ以上、傷つけ合って欲しくない。わたしはふたりの間に体を滑り込ませ、物理的な距離を取らせる。


「ちょっと強い言葉を使いすぎちゃっただけだよね?」


 この悪い空気を払拭しようと、無理やり笑顔を作りヘラりと笑う。


「……うっせ」


 レオンは指でピンッとわたしのおでこを弾く。それほど力も入っていなかったが、反射的に「痛っ!」と言葉が出てきた。


「エマ!大丈夫ですか!?」


 マリーが心配で今にも泣きそうな表情になりながら、わたしの腕に抱きついてきた。ただ反射的に声が出ただけで、そんなに痛くないから平気だよ、と伝えようとしたが、フレデリク様がスッと前に出てきた。

 せっかくわたしがレオンとフレデリク様との間に無理やり作った物理的な距離が、また縮まる。



「レオン、女性に手を上げるとは、貴方には心底失望しました」


 フレデリク様は眼鏡の奥の深い琥珀色の瞳を、先程より鋭くさせる。


「は?いや、このくらい暴力でもなんでもねーだろ」


「貴方の“このくらい”が他人にも同じだと思わない事です。女性の、それも顔に傷を付けたら、取り返しがつかない大問題です」


 フレデリク様の鋭い言葉に、レオンがたじろぐ。チラリ、と不安そうな色を潜ませた瞳が、こちらに泳いでくる。


 重苦しい空気が漂い、全然このくらいは平気だと言い出せるタイミングを完全に失ってしまった。





「こんな往来で、一体どうしたんだい?」


 ピリピリとした空気を一掃するかのような、爽やかな声が響く。


「クリスチアン様!」


 マリーの顔が嬉しそうに輝いた。クリスチアン様はそんなマリーに微笑んでから、わたしたちを一望した。いつの間にか、騒ぎを聞き付けた生徒たちが集まって居たようだ。



「あぁ、なるほど。何となく状況が飲み込めた」


 わたしたちの立ち位置から、クリスチアン様は状況を理解できたようだ。


 クリスチアン様は「ふぅ……」と、わざとらしく息を吐いて、困った様な笑顔を作る。


「レオンはまた考え無しの言動をしたね?それに、フレデリクも熱くなりすぎたね?こんな公衆の面前で君らしくもない」


 クリスチアン様の言葉を聞いて、レオンとフレデリク様は目に見えてシュン……と落ち込む。


「皆、私の友人が迷惑をかけたね。似た者同士だから衝突も多くて……」


 その場に居る全員に、丁寧に言い含める。クリスチアン様の似た者同士発言に、ふたりが何か言いたそうにしていたが、口には出さなかった。



「さぁ、授業に向かおう」


 クリスチアン様のその一声で、わたし達はやっと動き出せた。さすがクリスチアン様。統率力が桁違いだ。




「ふたりの面倒をみてくれてありがとう、エマ」


 クリスチアン様は優しそうな笑顔の中に、少しだけ悪戯心を混ぜたような、少し幼い表情でわたしに囁いた。


「かっこよかったですよ」


 マリーのピンチに颯爽と駆け付けるクリスチアン様は本当にかっこよくて、素直な気持ちを口に出す。


 わたしが微笑むと、クリスチアン様も微笑み返してくれた。




 

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