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53話 武術大会閉幕



「ごめんね!おまたせ!」


 マリーとアンナさんの元へ駆け寄る。ふたりと合流すると、そのまま選手が座っているベンチの方へ向かう。


 何故かドキドキと緊張してしまい、持ってきたタオルをギュッと握ってしまう。



 選手ベンチを一望して、ズラリと並ぶ後頭部を眺める。その中に、見慣れた栗毛が目に入る。

「ドニ!」


 まるで脳と口が直結しているのでは?と思うほど、自分でもびっくりするくらい見つけて直ぐにドニの名前を口にしていた。


 栗毛の後頭部がクルリとこちらに振り向いた。


「エマ!?どうしたの?」


 ドニはサッと立ち上がり、するりと軽い足取りでこちらまで歩いてきた。

 


「ドニにおめでとうって言いたくて……お疲れ様、ドニ」


 そう言ってタオルを手渡す。ドニはそれをおずおず受け取る。


「あ、ありがとう、エマ」


 何故か、不思議な沈黙が流れてしまう。ドニと話すのが久しぶりすぎて、こんな気持ちになるのだろうか。


「そ、そういえばね、ダンテ師匠も来てたんだよ」


「えっ!?ダンテ師匠が!?」


 ドニの表情がパッと明るくなって、それからはドニと自然に話すことが出来た。何故か、ほっとした。


 

 マリーとアンナさんもドニを労う言葉をかけ、アンナさんは更にこれがどれほど凄い事かと力説していた。


 

 そうして4人で立ち話をしていたら、試合を終えたらしいクリスチアン様が会場からベンチの方まで真っ直ぐ来て、そして、わたし達の目の前まで軽やかな足取りで進んできた。


 もしかして!マリーの様子が気になったのかしら!と思うとドキドキと胸が高鳴った。でも隠さなくても大丈夫なのかな……!?


「皆、お疲れ様。頑張ってはみたけれど、とうとう負けてしまったよ」


 クリスチアン様は爽やかな笑顔の中に、少しだけ悔しさを滲ませた様な表情を作りながら、右耳に髪を掛ける仕草をする。美しいプラチナブロンドの髪が汗で輝いている事に気づく。


 マリーはどんな反応をするだろうとドキドキしていると「お疲れ様でした」とだけ言って微笑む。アンナさんはその隣でガチガチに固まっていた。


 

 クリスチアン様はそのままドニとお互いを労い合う言葉をかけていた。


 やっぱりクリスチアン様とマリーの関係は隠しているから、この位が限界なのかな……とちょっとだけ寂しくなる。


 

 やっぱりこれからのイベントで、マリーには頑張って優秀な成績を修めて貰うしかない……!頑張ってマリー!わたしもゲームの知識でマリーの味方になってみせるから!そう気持ちを込めて、マリーを見つめる。その視線に気づいたマリーが、不思議そうな笑顔で応えてくれた。


 困り顔のマリーもかわいい!


 

 そんなことを思っていると、チラチラとこちらを見る視線に気づく。ふっと見上げると、バチリとクリスチアン様と目が合う。


 クリスチアン様はなぜか何も言わず、ニコニコとこちらに微笑むだけだった。


 美しいプラチナブロンドの髪から、ポタリと雫が落ちる。ここまでの美形だと、汗までも美しく見えるんだなと感激してしまう。


 ニコニコと微笑むだけのクリスチアン様と、しばし見つめ合う。


 

 これは、なんの時間なのだろう……?


 ポタリと垂れる汗に、早く拭かないと風邪を引くのでは?と思いあたり、ハッとしてハンカチを差し出す。


「あの、こちらよろしければ……」


 クリスチアン様はハンカチを受け取ると、パッと輝く様な笑顔を向け「ありがとう」と嬉しそうに言った。



 ……あれ?こういう役ってマリーの方が良かったのでは?そう思いマリーの方を見やる。マリーは表情が読めない顔で、クリスチアン様をじっと見つめているだけだった。


 もしかして、わたしがハンカチを渡しちゃったから、怒ってる……?


 マリーはわたしの視線に気づくと、こちらを振り向きニコリと微笑む。怒っては、いないようだ。ホッとして息を漏らすと、隣のアンナさんの深呼吸の音と重なった。

 アンナさんはガチガチに緊張して、深呼吸をしていた。


 クリスチアン様は受け取ったハンカチで汗を拭くと「このお礼は必ずさせてもらうね」と爽やかに言いながら、美しい所作でハンカチを仕舞った。


「なんだよーこんなとこに集まって!」


 グラウンドからベンチの方へ、レオンがドタドタとやってきた。その後ろからニコルさんが静かに着いてくる。


「オレ優勝したんだけど!ちゃんと見てたんだろーなー!」


 え!?もう終わったの!?

 

 わたしは驚きが隠せないままグラウンドの方を見やると、閉会式が始まろうとしていた。


 全然見ていなかった申し訳なさからチラリとレオンの方を窺うと、不満をアピールするかのようにツンっと口を尖らせていた。


「なんだよー優勝するとこ見てろって言ったのに」


「ご、ごめんね?でも優勝するなんてすごい!」


 わたしの取って付けたような賞賛の言葉を無視するように、レオンはプイっとそっぽを向いてグラウンドの方へズンズンと進んでいってしまった。


「レオンに悪いことしちゃった……」


「レオンもまだまだ子供っぽい所があるからね。大目に見てくれると、友人としても嬉しいな」


 ぽつりと零したわたしの言葉に、クリスチアン様がフォローを入れる。その表情は優しげに微笑んでいた。



 閉会式が始まり、大会の順位が発表になった。


 レオンが優勝で、2位がニコルさんだった。女子の中では圧倒的な高順位で、騎士科の女生徒から絶大な支持を得ていた。

 クリスチアン様は5位で、唯一騎士科以外からの参加で上位に入賞していた。文武両道とは正しくこの事……。人間不信も解消され、向かうところ敵無し……マリーという愛しい人以外は!

 ドニは6位だったので惜しくもあと一歩、登壇するには届かなかった。


 わたしは客席から、力いっぱいの拍手を贈った。


 

 


 


 


 

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