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52話 エヴァンズ公爵家のご令嬢はツンデレでいらっしゃる。

 


 エリザベッタ・エヴァンズ公爵令嬢。ラブメモでは悪役令嬢という役割。悪役令嬢に相応しく、金髪の縦ロールに意志の強そうなツリ目がちの美少女だ。


「わたくしは、何をしているのか?と聞きましたのよ……?」


 華美なドレスに、バターブロンドの髪色が反射する透明な髪飾り。手には閉じられた扇が握られて、紫の瞳が鋭くこちらを捉えている。


「あの、ダンテ師匠、は、わたしの、小さい頃の剣の先生で……」


 わたしが説明している間にもエヴァンズ様の眼光は鋭くなるばかりで、その圧に押されてしまって言葉が途切れ途切れになる。


「俺――私の教え子、です」


 聞き慣れないダンテ師匠の敬語にギョッとして見つめてしまう。ダンテ師匠の口から出る敬語、似合わなすぎる……!そして私という一人称……!ますます似合わない……!!!


 わたしの表情から心の内を察したように、ダンテ師匠は少し照れた表情でバチンっとわたしの背中を叩く。ダンテ師匠は軽く叩いたつもりだろうが、わたしからしたら肺から空気と共に「グェ……」という汚い音が漏れてしまう程の強打だった。


 ダンテ師匠はそんなに強かったか?と言うように「スマンスマン」という軽い言葉を添えて、へらりと笑う。


 その光景を見ていたエヴァンズ様が、パチンッ!と扇を手の平に打ち付ける軽い音が響く。


「あなた……エヴァンズ公爵家の者と知っていてその様に接しているとは……わたくしを愚弄するおつもり?」



 エヴァンズ様の言っていることの意味が、分からなかった。わたしが困惑していると、ダンテ師匠が話し出す。


「エマは知らなかったんです。私が、エヴァンズ公爵家に雇われていると――」

「あなたも!」


 ダンテ師匠の言葉を遮る様に、エヴァンズ様の声が響く。その声には怒気が孕んでいて、ビクリと身体が強ばる。ダンテ師匠はそれに気づいたのか、わたしの背中に今度は優しく触れてくれた。


「エヴァンズ公爵家の紋章を刻んだ衣装を身に付けていることの意味をおわかり!?あまり軽はずみな行動をしてわたくしを貶める行為は慎んでいただきたいわ!」


「――はい」


 ダンテ師匠は一気に、わたしの知っているダンテ師匠から、エヴァンズ公爵家の騎士としての表情に変わり、恭しく礼の姿勢を取った。


「貴女も!平民が栄誉あるエヴァンズ公爵家に名を連ねるわたくしに楯突こうだなんて考えないことね!」


 エヴァンズ様は閉じた扇の先をこちらに突きつけ、ひと息でそう言いきった。そのせいか顔が赤く染まっており、ドレスの襟からちらりと覗く白い首までもが真っ赤になっていた。


 エヴァンズ様がプイっと踵を返し、ヒールをカツカツ鳴らしながらズンズンと先に進んで行く。ダンテ師匠は追い掛けるように走り出す。


 廊下の先の方で「着いてこないでちょうだい!」「いえ、護衛なのでそういう訳には……」という会話が聞こえてくる。



 エリザベッタ・エヴァンズ様


 あれはきっと、本気で言った訳では無い。だってわたしは知っている。それは夢で、ゲームの記憶だけれど。エリザベッタが本当に怒っていて、本気で嫌っていたら、どんな声色でどんな言葉を使うのか。



 それに、先程のエヴァンズ様の言葉が、何故か引っかかる。「わたくしを愚弄するおつもり?」「わたくしに楯突こうだなんて考えないことね!」そんなエヴァンズ様の言葉を反芻する。



 その中で、ある事に思い当たる。



 そんな事、あるはずが無い。そんな設定ゲームでは無かった。そんな否定の言葉を頭から追い出す。



 だって、あんな言い方、そんなの絶対――








 ――エヴァンズ様はダンテ師匠の事が、好きなんだ。




 


 そもそもエヴァンズ様がわたし達に声をかけた時にも、ダンテ師匠とわたしが仲良さそうにしている時にも、エヴァンズ様は、ヤキモチを妬いていただけ……!エヴァンズ様はヤキモチを妬いていただけなのだ……!


 だからわたしに愚弄とか、楯突くとか、そんな言葉を選んだのだ。恋敵への宣戦布告のつもりで……!






 だって、エヴァンズ様はツンデレだから――!





 

 きっとヤキモチを妬いても、恥ずかしくて思わず攻撃的な言葉ばかりが出てきちゃうんだ。だってツンデレだから。きっと今頃、自己嫌悪になってるんだろうな。ツンデレだから。




 でも、エヴァンズ様には残念な事に、きっとダンテ師匠には、気づいてもらえて無いだろう。ダンテ師匠はガサツで大雑把で豪快な人だから、ツンデレに造詣が深いとは思えない。ダンテ師匠みたいな人には、もっとストレートに感情を伝えてあげないと……!



 でも公爵令嬢とその護衛騎士との恋愛なんて、まるでおとぎ話みたいでドキドキしちゃうな!




 そんな浮かれたことを考えながら、わたしは皆との待ち合わせ場所へ急いで向かった。




 エヴァンズ様がダンテ師匠を好きだとすると、やっぱりマリーをいじめているのはエヴァンズ様では無いと思う。



 それにゲームの設定とここまで違うなんて、やっぱりこの世界はラブメモに似た、全然違う世界なのかな……。



 なんだか寂しいような、悔しいような、でもほっとしたような……そんな複雑な気持ちになった。










今日は祝日分の投稿でした。次回はいつも通り3月25日(土)14時の投稿を予定しています。

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