51話 偶然の再会
ドニとクリスチアン様の剣がぶつかり合う音が、会場中に響き渡る。
クリスチアン様が横に薙いだ剣をドニが受け止める。こそからドニが切り返し、クリスチアン様が受け流した。そこから体制を崩すことなく、さらに打ち合いが続く。
実際に自分がその場にいる訳ではないのに、ふたりの動きひとつひとつに胸が高鳴り、胸が締め付けられる思いがする。無意識に握り締めた拳に汗が滲む。
クリスチアン様が真っ直ぐ剣を突くと、ドニはそれを予想したのか、同時に後ろへ飛び退く。距離を取ったドニを逃がさないように、クリスチアン様は大きく前へ踏み出し攻撃を続けた。
ドニはその攻撃を受け止め、受け流し、的確に捌いていく。
防戦一方だったが、一瞬の隙を突いてドニが攻撃に転じた。受け止めているクリスチアン様が、ジリジリと後退していく。
今度はクリスチアン様が押され始めていると思った矢先、下から切り上げた攻撃によって、ドニの剣がいつの間にか吹き飛ばされていた。
手に何も無い状態で立ち竦むドニ。
カラン、カラン……と剣の転がる金属音が、やけにゆっくりに感じた。
一拍の間を置いて、大きな歓声が会場中を包み込んだ。皆、クリスチアン様を祝福していた。
まるで夢の中にいるような感覚で、耳の中に大勢の歓声が木霊している。なんだか視界も霞んできた感じがする。余りに大きな歓声で、起きているのに夢の中にいるような感覚。意識がフワフワする。
「後でドニさんに、おめでとうって言いに行きましょうね」
「……え?」
マリーが可愛らしくこちらに微笑んでいた。マリーの口からクリスチアン様ではなく、ドニの名前が出て来て驚いてしまう。
「10位以内は確実ですし、王立学院の騎士科で上位10名以内には入る事はとても名誉なことなんですよ」
アンナさんはうっとりしながら、小さな体でこちらにもたれかかってきた。試合を応援していた緊張が解けて、体から力が抜けてしまったのだろうか?
「将来は王国騎士団に入る事も夢ではないと思います!」
王国騎士団はダンテ師匠が以前働いていた場所だ。騎士の誉。騎士の目指す場所。騎士の最高峰。そんな風に言われている場所。
そこにドニが選ばれるかもしれない。
「そう……そっか……それは、おめでたい事だね?おめでとうって、言いに行っても……変じゃ、ないよね……?」
何故か言い訳をする様な言い方になってしまった。ドニとこんなに話さなかった事は初めてで、話しかける切っ掛けを失ってしまった。
でも、おめでとうと、心から祝いたい気持ちは本物だから――。
「一緒に行きましょう!」
アンナさんが人懐っこい笑顔を向けてくれる。きっとアンナさんも、ドニにおめでとうって言いたいよね。
「エマ、差し入れとか持ってきてはどうですか?」
「さ、差し入れ!?」
マリーの急な提案に、声が裏返る。わたしが、ドニに、差し入れ……?アンナさんじゃなくて……?
「そんなに構えなくても、タオルとかで大丈夫だと思いますよ」
「手ぶらより、そちらの方がいいと思います!」
戸惑うわたしに、アンナさんまでもが声を揃えて賛同する。アンナさんはいいの!?わたしが差し入れちゃってもいいの!?
「えっと、アンナさんが、良いなら……」
「はい!もちろん!」
アンナさんはそばかすが散った笑みを輝かせて頷いた。
わたしはアンナさんの返答を聞いて、タオルを取りに行くために席を立った。ふたりと待ち合わせ場所を確認してから、会場を後にする。
騒がしい歓声を背に受けながら、わたしは寮の自室に向かって駆け出した。
寮の自室へ入り、特に問題が起こることなくタオルを取り、会場に戻る。
待ち合わせ場所に向かっていると、廊下の向こう側に華美に装飾された騎士の礼服のようなものを着た人物がいた。警備、にしては服装が派手で動きにくそうだし、誰かの護衛……?
そんなことを思いながら、その人物とすれ違う距離まで来る。
「――あれ?エマ?」
突然名前を呼ばれギョッとして振り返る。
「……ダンテ師匠!?」
「ハハッ久しぶり!髪切ったのか?」
筋肉質な身体に美しい礼服を纏い、髪の毛はパリッとセットしてある。
いつも動きやすさ重視で汚れてもいい服を着て、髪はボサボサで寝癖がそのまま。それがわたしの知っているダンテ師匠だったので、本当に気が付かなかった。
でも、クシャッと笑いながら大きなゴツゴツの手でガシガシと擦るように頭を撫でてくれるのは、紛れもなくダンテ師匠そのものだった。
「ど、どうしたんですか……?その格好……全然気づかなかった……」
わたしは撫でられてグシャグシャになった髪を整えながら、ダンテ師匠の姿をまじまじと観察する。ダンテ師匠は困った様に笑いながら「まぁ……仕事の、な」と言って頭を搔こうとし、セットした髪が乱れるのに気付き咄嗟に手を引っ込める。
「それにしても、エマもドニも頑張ってるな」
「ドニの試合観てたんですか!?」
ダンテ師匠はまたニカッと笑いながら「当然だろ」と言い、先程整えたばかりのわたしの頭をまたガシガシと撫でる。
「今から一緒に――」
ドニの所に行きませんか?そう言おうとしたが、パチンッと言う軽く鋭い音に遮られる。
「――なにを、なさっているの?」
音のした方に視線を向けると、バターブロンドの縦ロールにツリ目がちな紫色の瞳の美少女が、こちらを鋭く睨んでいた。
次回の投稿は祝日があるので、3月23日(木)14時になります。
連載の励みになりますので、よろしければ下の方にある星マーク☆☆☆☆☆とブックマークで評価のご協力をお願いいたします(´˘`*)




