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48話 海の色は何色だと思う?

 


 マリーへの嫌がらせは続いていた。


 あんな事で無くなるとは思ってないけれど、水を掛けられるなんてひどい……。

 もしかして、わたしの知らない所でもっと酷い嫌がらせを受けていたのかも……。だって、わざわざアンナさんが席を外したタイミングでこちらに来たんだから。


 わたしと一緒に授業を受けて、一緒に昼食を食べて、そうして過ごしている間にも、ずっと――。


 そんな想像をして、背筋がゾッとした。



 きっと教養科の大部分の生徒が、水を掛けたことを知っているのだろう。特進科の教室に向かう為に教養科までの道をひとりで歩いていると、足を掛けられたり心ない言葉を投げ掛けられたりした。


 おそらく、皆わたしをマリーだと勘違いしている。皆、マリーに水を掛けたと思っているので、しっとり濡れているわたしをマリーだと思っているのだ。



 今までわたしの見てきた世界は何だったんだろうと、恐ろしくなる。



 マリーは毎日こんなにも怖い思いをしていたのに気づいてあげられなかった。自責の念で胸が押しつぶされそうになる。涙が零れそうになるのをグッと堪える。




 虚ろで注意力散漫になり、人とぶつかってしまった。ガラガラガラと音を立てて物が落ちる。


「ごっごめんなさい、わたし……」

「おい、前見て歩け」


 聞き覚えのある声に思わず顔を上げた。顔を覆う様に伸ばされたホワイトブロンドの長い髪。隠すための物なのに、伸ばされた前髪の隙間からでもわかる端正な顔立ちに目を奪われる。


「クロヴィス・クロード、様――」

「お前、髪の毛の……」


 お互い顔を見合わせたまま固まる。隠しキャラのクロヴィス・クロード。会うのは入学式以来だ。あの頃の恥ずかしい自分を思い出して、顔が熱くなる。


 クロード様の手が、突然こちらに伸びてくる。その細くて繊細な指には絵の具か何かが付いていて、色付いていた。


 その指からは想像もできないほど力強く、頬を擦られた。思わず驚いて目を見開いてしまう。


「なんで、名前……」

「えっ?あ――」


 しまった……入学式の時に会って以来、芸術科のクロード様とは会う機会がない。もちろん出会った時に自己紹介なんてしてないんだから、わたしが名前を知っているのはおかしい。


 やってしまった。



「お前、また泣いてるんだな」


「あの、エマ、です……名前……」



 誤魔化さなければならないのに、全くなにも思いつかない。名前を言っても、クロード様は特に反応を見せずこちらを凝視している。


 と言っても、前髪で隠れて詳しい表情は見えない。


 足元にはぶつかった時に落ちたであろう画材が散らばっているのが目に入った。わたしは慌てて、それを拾うために身を屈めた。


 クロード様も同じ様に、わたしの前で体を屈めて画材を拾い集めだした。と、思ったのだが、何故かこちらに視線を感じる。


 不思議に思いクロード様の方を見ると、バッチリと目が合った。サファイアの様な、青い瞳。クリスチアン様と同じ、青色。クラウディオ様よりは明るい、青。



 お互い廊下で屈んだまま見つめ合うという、不思議な光景になってしまった。



「あの、わたし、なにか……」

「海の色は何色だと思う?」


「――え?」


 気まずくなり、何か話さなければと思ったら「海の色は何色か?」と質問されてしまった。全く予想外の質問に、なんとも間抜けな声しか出なかった。



「お前はいつも泣いてるが、それが自然なのか……?」


 クロード様の手が伸びてきて、華奢な指がわたしの頬をまた撫でる。


「ち、がうと、おもい、ます……」


 わたしは緊張となんの質問なのかよくわからなくて、途切れ途切れの言葉しか出てこなかった。


 先程とは違い、今度は優しく柔らかに3回ほど指で撫でられる。それが何だかくすぐったい様な、恥ずかしい様な不思議な感覚で、思わず頬が熱くなる。


 途端、クロード様はハッとして撫でていた手を離すと、物凄い速さで落ちている画材を拾い集めた。わたしは何が起きたのか分からず、手伝うことも出来ずにポカンとしているだけだった。


 クロード様はスっと立ち上がると「俺はもう行く。ちゃんと前見て歩け」と呟いてその場を足早に立ち去った。


 途中で一旦立ち止まりこちらを振り返ったが、何か言いたそうにするだけで、また前を向いて逃げるように去っていった。



 突然どうしたんだろう……そんな事を思いながら、屈んだままのわたしだけが取り残された。





 色々合ったが、昼休みが終わる前に教室に着くことが出来た。教室に入ると直ぐにマリーに声をかけられる。


「エマ……顔、どうしたんですか……?」


「……え?」


 なにか着いていただろうか?と思い鏡で確認すると、頬に絵の具が着いていた。涙の跡に沿って、沢山の色が混じって黒くなった絵の具が。

 クロード様がわたしの頬を擦ってたのはこれか!と合点がいく。ハンカチで擦って、なんとか落とすことが出来た。


「多分、芸術科の人と会ったから、その時に……」


「エマは芸術科とも交流があるんだね」


 クリスチアン様のその言葉にドキリとする。クリスチアン様は、プラチナブロンドの髪を右耳にかける仕草をしながらこちらに微笑む。サファイアの様な青い瞳。クロード様と同じ青。


 その瞳を見ていると「海の色は何色だと思う?」と言うあの質問が頭をよぎった。








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