46話 久しぶり
その日はいつも飲んでいる薬がなくなったので、医務室に取りに行くことにした。
まるで子供みたいだが、グー先生がちゃんと薬を飲めているか把握する為に少ない日数分の薬を小分けにして管理することになったのだ。
医務室経由で薬のやり取りをしているので、医務室の先生に軽い問診を受けてから薬を受け取っている。
医務室の扉を開けようと扉に手をかけようとして、突然扉が開いた。
「あれ、エマ?」
目の前に、突然ドニが現れた。あまりに唐突で、言葉が咄嗟に出てこない。久しぶり?こんにちは?偶然だね?どうしたの?
今までどんな風に話してたっけ?自然ってどんな感じだっけ?わたし今髪型おかしくないかな?表情これで合ってる?顔に何か付いてたりしない?制服乱れてる?
わたしって、これで大丈夫?
「あぁ、薬取りに来たんだ?」
ドニが人懐っこい顔で笑う。その笑顔を見るとほっとして、意識しなくてもするすると言葉が出てきた。
「ドニは怪我したの?」
「したって言うか、これからする予定?」
これから?どういう事だろう?わたしが不思議そうに首を傾げると、ドニは苦笑いを浮かべながら続けた。
「これから実戦形式で授業をするから、一応救急箱借りてきたんだ」
そう言って持っていた救急箱を見せてくれた。
「一緒にダンテ師匠から教えてもらってたのに、随分差が開いちゃったね」
まるで自分を嘲笑するかの様な言葉が出てきて、自分でも驚く。少し気まずくなり、少し俯いてしまった。
「オレは剣しか出来ないけど、エマは勉強も魔法も出来て凄いよ。なんでも出来るし、なんでも知ってる」
そう言って、ドニの手が伸びてきた。頭を撫でられるかと思ったけれど、その手は空を切った。ドニはその動作のままわたしの隣を通り過ぎた。
なんだ、ただサヨナラって意味で手を挙げただけか……頭を撫でられると勘違いして、恥ずかしさから一瞬で顔に熱が集まる。
ドニはこちらを見ることなく「じゃあね」と言い去っていった。わたしは赤らんだ顔を見られたくなくて、より一層俯いてしまった。
医務室で軽いやり取りをして薬をもらう。ふとした瞬間に先程の勘違いを思い出しては、自己嫌悪に陥る。「うー」とか「あー」とか、奇声を発して頭を抱えたくなる衝動を必死で抑える。
お昼休みになると、マリーと連れ立って食堂へ向かう。皆とお昼を食べていたのが懐かしくなるくらい、日々が過ぎていた。
「エマさん!」
食堂に着くと、後ろから軽やかに声をかけられる。久しぶりに聞く声。
「アンナさん!久しぶり!」
振り返ると、そばかすの散った顔を赤らめて茶色の瞳を細めながら微笑むアンナさんが立っていた。茶色のポニーテールがふわりと揺れる。
「エマさん、またあたしと、お昼……一緒に……」
小柄なアンナさんがモジモジと俯く。身長差があるので、俯かれると旋毛しかみえなくなるが、ふわふわのポニーテールが揺れてまるで子リスの様だ。
「もちろん!久しぶりだから凄く嬉しい!」
顔を上げてパッと微笑むアンナさんに、庇護欲が掻き立てられる。ニヤニヤと顔が緩んでしまう。
アンナさんとは配膳口が違うので、途中で別れる。今日は特別ラウンジではなく、大広間で昼食を摂ることにした。
アンナさんの居る一般生徒の注文口はとても混んでいるようで、マリーと一緒に一足お先に席に着いた。
マリーは大広間で食べるのは初めてのようで、キョロキョロと不安そうに周りを気にしているようだった。
隣に座ったマリーと会話をしていると、アンナさんがトレーを持ちながらこちらに来た。トレーの大きさは同じなのに、小柄なアンナさんが持つと大きく見える。
アンナさんは迷うこと無く真っ直ぐと、わたしの隣へ腰を下ろした。右にマリー左にアンナさん。何故か三人で横一列に並ぶ形になってしまった。
でも確かに、三人のうち誰かひとりだけ向かい側だと寂しくなっちゃうかな?
アンナさんとは久しぶりに会うので、近状報告のようなものをしながら食事を楽しんだ。
皆バラバラのメニューを選んだのだが、アンナさんがチラチラとわたしが食べ物を口に運ぶのを見ているのに気づいた。
「美味しいよ?食べてみる?」
と言いひとくち差し出すと、アンナさんはあわあわと戸惑いだした。わたしの頼んだメニューが気になるのかなと思って言っちゃったけど、下品だったかな……?
そう思っているとアンナさんが「いただきます……!」と掠れるような小さな声で囁いて、パクリと小さな口で頬張った。顔が真っ赤になっていて、やっぱり恥ずかしかったのかな!?わたし無理に合わせてくれたのかな……?と少し不安になる。
アンナさんは小さな口でもくもくと咀嚼しながら、両手を頬に添えていた。小さな口で、頬を膨らませながら咀嚼する姿は、まるで、子リスそのものだった。
小柄なアンナさんにはわたしの一口は多すぎたのか、いつまでももぐもぐと口を動かしていた。
やっと飲み込んだアンナさんは、頬を赤らめたまま瞳を潤ませて「――とても、おいしいです」と噛み締めるように呟いた。
そんなに喜んでもらえるとは思わず、嬉しくて頬が緩む。下品だと思われてなくてよかった……!
その後も三人で気になるメニューを交換しながら、和やかに食事をした。




