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45話 終わりの後の日常



 次の日から、昼食はマリーと一緒に学食で摂ることになった。


 他の学科の生徒の視線を集めながら、特別ラウンジに向かう階段を登る。華美な踊り場から眼下に広がる生徒たちを見下ろすのは、なんだか居た堪れない気持ちにさせられる。



 わたしは足早に特別ラウンジへの扉を潜った。


 ラウンジの中は大きな窓からキラキラと光が降り注いで、華美な装飾品に反射して更に光を増している。眩しすぎて目がチカチカしてくる。



 広い室内にある広い机のひとつを選んで、マリーとふたりで座る。広々とした室内の広い机に、ポツンとふたりで座っている。なんだか不思議な光景だ。



 

「今までと比べると、少し寂しいですね」


 マリーが眉を下げながら微笑む。確かに今までは大勢で昼食を囲んでいたから、余計に寂しく感じる。




 静かにラウンジの扉が開くと、クリスチアン様とフレデリク様が入室してきた。クリスチアン様はわたし達を見つけると一瞬だけ微かに目を見開いたが、またすぐに微笑みを浮かべた。


「ご一緒してもいいかな?」


 クリスチアン様たちがわたし達のテーブルまで来て、先程よりもにこやかに微笑んだ。きっとクリスチアン様はマリーと一緒に昼食を摂れてうれしいんだわ!思わずドキドキして目を輝かせてしまう。


 お昼はずっとマリーを付き合わせてしまっていたけれど、もしかしてマリーもクリスチアン様と一緒に居たかったのかも……


 特別ラウンジは特進科の生徒しか入れないから、他の学科の生徒の目が届かない。そうなると、マリーとクリスチアン様が密会出来る絶好の機会だったのでは……?

 

 わたしは気づかない内に、二人の仲を妨害してしまっていたのかも……!?


 


 でもまさかこんな事を当事者であるふたりに尋ねる訳にもいかず、疑念を抱いたまま気持ちに蓋をした。


 

 モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、黙々と食事を口に運ぶ。マリーとクリスチアン様が控えめに会話をする度、チクチクと罪悪感がわたしを苛む。




 黙々と食事をしていると、クリスチアン様とフレデリク様が食器の触れる音を全く立てず食事をしていることに気づく。余りにも優雅で上品な食事風景に、思わず驚愕して見つめてしまう。


 フレデリク様と目が合うと気まずさからか、視線を外し眼鏡の位置を直す仕草をした。人が食事をしている所を凝視してしまい、しまったと言う思いからわたしもパッと視線を外した。


 

「あの後も、治療用の魔石は付けているのですか?」


 気まずい空気を変えてくれるかのように、フレデリク様が話題を提供してくれた。わたしはジルベール様に戴いた髪飾りを上着の内側に付けていたので、それを見せる。


「本によると、魔力系の治療で使う魔石は、魔力が溜まりやすい心臓の近くに付けるとより効率が良いと読んだので、ここに付けました」


 

 こんなに可愛いデザインなのに、こんなところに着けて勿体ないな、とも思ってしまう。ジルベール様の髪を思わせる黒のリボンに、青の瞳を連想させるレース。


「それに、見える所に着けたらご迷惑になるかな、と……」


 でも、このデザインだとジルベール様の迷惑になりかねないので、仕方なく上着の内側に仕舞わせてもらう。


 

 三人は何故か口を引き結んで、無表情にこちらを見つめてくる。どんな表情なのか気持ちが読めず、思わず戸惑ってしまう。



 

「――なるほど、そうですね。そこに着けておくのが一番でしょう」


 沈黙を破る様に、フレデリク様が言葉を発する。何故か視線は外しているが……。やっぱり、せっかく戴いた物を隠すように付けるなんて、いけなかったかな……。


 ちゃんと大事にしてますよ、という気持ちを込めてゆっくりと頷く。




 昼食を終えると、やはり何か物足りなさを感じる。ご飯を食べてお腹はいっぱいな筈なのに、何かが満たされない思いが拭えない。





 その日の午後の授業も剣術の実技だった。


 フレデリク様とわたしが打ち合いの練習をしてマリーが見学をしていると、今日もレオンがこちらに駆けてきた。ふたりも少し会話をした後、打ち合いの練習を始めた様だ。



 わたしは教えてもらったことを思い出しながら、疎かになりがちな足運びなどを中心に練習をすることが出来た。フレデリク様とお互いに話し合いながら試行錯誤して、なんとか次のステップへと進んでいた。

 お互いに剣術のレベルが同じなので、気持ち的にとても楽に授業が出来た。


 



 そんな日々が数日過ぎて行く。



 上位グループの高レベルな剣戟を眺めて、ドニが押されそうになる度に声を出しそうになりグッと堪える。



 そこではたと気づく。





 わたしが最後にドニと会話をしたのはいつだっけ……?





 昔は何がある訳でもなく、自然と隣に居た。王立学院に来てからは、昼食の時は一緒に集まっていつも会話をしていた。



 昼食会がなくなり、ドニと全く会話をしていないことに気づく。もしかしたら、剣術の合同授業がなければ姿を見ることもなかったかも……。




 いつからドニと、理由がなければ会話も出来なくなったんだっけ……?





 会うために、理由を見つけなきゃいけなくなったんだっけ……?



 

 

 


 


 

3日連続投稿最終日です!

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