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43話 見学の合間に

 


 わたし達3人は、先程のレオンとの打ち合いとも言えない稽古で疲れてしまい、休憩の合間に模擬戦を見ていた。


 ニコルさんとクリスチアン様が、激しい剣戟を繰り広げている。鋭い金属音が響く。



「レオンは容赦なかったですね」


「自分が不甲斐ないです……」


 フレデリク様の隣に並び、声をかける。ずっと暗い顔をしていたので、少し気になっていたのだ。


「一瞬とも言えない間に、能力の差を実感させられました……。まるで衝撃を叩きつけられたかの様でしたよ」


「わたしなんて、相手にもして貰えませんでした……」


 ふたり同時に「ハァ……」とため息が重なり、それが何だかおかしくて顔を見合せて微笑みあった。


「まったくレオンにも困ったものです。剣術ばかり出来ても、あれでは周りの反感を買ってしまう」


 フレデリク様はまた思い息を吐き、眼鏡の位置を直した。



 これからふたりが仲良くなる未来が来るといいな、なんて、ぼんやりと頭の中に浮かんでは消えていく。



 その間も、ニコルさんとクリスチアン様の打ち合いは続いていた。規則的に響く金属音がなんだか不思議だ。

 打ち合いをしているのだから、こんなに規律正しく整った音が響く筈ないのに……。それだけ高レベルな打ち合いということなのだろうか。




「クリスチアン様はすごいね?」


「はい……魔法も剣も知識もあって……なんでも出来るんですね……」


 クリスチアン様と親密な関係のマリーなら、きっとクリスチアン様の事が気になるだろうと思い話を振る。マリーは熱い眼差しでクリスチアン様を見つめているようだ。



 もっと恋愛的な話を聞けるかな?なんて下心があったが、上手く躱されてしまったようだ。




 ゲーム終盤になると、まるでふたりだけの世界の様なラブラブシーンが多くなる。けれどそれは沢山のイベントをこなして、平民である主人公がクリスチアン様に相応しい能力があると示してきた結果だ。


 今のマリーは、クリスチアン様の心を癒して人間不信を解消させてあげたのかもしれないけれど、まだ周りに認められるだけの実績がない。だからきっと、公共の場で親密な関係だと悟られる様な事をするのは危険だから控えている、と言う事なのかな……。


 せっかく好き同士なのに、それはちょっと寂しいね……。



 近くにあるステータスの能力評価イベントは、魔物討伐試験と筆記試験のふたつだ。マリーにはなんとしてでもこのふたつで優秀な順位を取ってもらい、周りにクリスチアン様に相応しいと認めてもらいたい……!



 他の皆の悩みやコンプレックスの事も気掛かりだけど、マリーが幸せになれる事も大切だって思うから。


 だから、マリーがクリスチアン様の事が好きで、クリスチアン様の心を救った結果で今があるのなら



 マリーがクリスチアン様と結ばれて、他の皆が心の闇や苦しみを抱えていくのも、仕方ないのかな、とも、思う。




 なにも出来ない自分が歯がゆいなぁ……。




 鋭い金属音がわたしを思考の海から引きずり上げる。


 ニコルさんはクリスチアン様の繰り出す攻撃を、まるで重さを感じさせない動きで捌いていく。ニコルさんは防戦一方で、徐々に後ろへ後退しているのに、何故か優勢さを感じさせる。


 クリスチアン様が強撃を振り下ろそうとしたその時、二人の動きがピタリと止まった。



 わたしやマリー、フレデリク様は何が起きたのか分からず顔を見合わせる。どうして突然動きを止めたんだろう……。



 わたし達のそんな疑問は、試合の終わりを告げる掛け声で掻き消えた。




 剣を振り上げたクリスチアン様の胴体に、ニコルさんの剣が微かに触れていた。全く気づけなかった。


 それまで押されていたように見えていたニコルさんは、一撃を与える隙を見極めていた、という事だろうか……。剣を振るだけでヘロヘロになるわたしには、到底わからないけれど……。



 思わずパチパチと拍手をしてしまった。きっと他の人たちにとっては、なんて事ない風景なんだろうが、わたしにとっては見た事のないすごい技のように思えた。それに思わず体が反応してしまったのだ。




 ひとりで手を叩いてしまったわたしに視線が集中する。




 視線が注がれる気まずさに、首筋がヒヤリとする。そんなわたしを察してか、クリスチアン様が輝く様な笑顔を覗かせた。


「ありがとう、エマ」


 プラチナブロンドの髪が太陽の光を反射して、本当に輝いているようだった。今の気まずいわたしには、余計に輝いて見える。

 眩しい程の笑顔のクリスチアン様の後ろで、ニコルさんが深々と礼をしてから、颯爽とポニーテールを靡かせて立ち去っていた。


 ニコルさんは無口だけど礼儀正しいし、いつもかっこいいなぁ……。同性だけど惚れ惚れしちゃう。




「ふたりとも本当に凄かったですね!」


 マリーがそう言いながらわたしの隣に並ぶ。



 これは!もしかしてヤキモチ!?

 クリスチアン様がわたしに微笑んだから!?


 マリー!なんて可愛い!!!



 胸がギュッと締め付けられる様なトキメキがわたしを襲う。



 大丈夫だよマリー!この微笑みは挨拶的なそんなものだからね!でも不安だよね!人間不信だったクリスチアン様がこんな風に他人に微笑むなんて!



 ゲーム序盤だと貼り付けたような笑みだけで、どこか人を寄せつけない態度を取っていたもんね。こんな風に誰かを庇う様な事も、人間不信を解消させた証なんだね。


 それでもマリーは不安になっちゃうよね!わたしは解ってるから大丈夫だよ!


 こんな事、言葉に出して言えるわけがないから、何とか微笑みにその気持ちだけを乗せる。






 

お知らせが遅くなりましたが、今日から三連休がありますので明日も更新します。

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