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42話 打ち合い稽古



 次の日の剣術の授業でも、わたしたちのグループは素振りだった。


 最初は勢いよく風を切る音がしていたが、時間が経つにつれて息切れの音が大きくなっていく。そのタイミングで先生から注意の声が掛かり、また気合を入れ直す。

 昨日の疲れも引きずっていて、いつもより体が重い。


 それは他のグループの皆も同じはずなのに、わたし達のようにヘロヘロとした動きでは無い。もちろん上位グループに所属しているクリスチアン様も、キレのある動きで息ひとつ乱れていない。


 ドニも上位グループの中で頑張っているようだ。色んな方向から斬りかかってくる剣を、綺麗に受け流している。踏み込みがしっかりしていて、全く体幹がブレていない。ドニに剣が迫る度、思わず頑張れ!と応援したくなる。



 皆もがんばってるんだから、わたしも頑張らなきゃ!と筋肉痛で痛む腕を必死で動かす。


 ブンブンと夢中で素振りをしていると、こちらに近づいてくる軽い足音が聞こえた。



「隙ありー!」


 軽い調子でレオンが声をかけながら、フレデリク様の剣を弾き飛ばした。ガランガランと音を立てながら、フレデリク様の剣が転がる。


 あまりに突然の出来事で、わたし達はその光景を唖然と見守ることしか出来なかった。


「レ、レオン!貴方という人は――」

「なぁなぁ、いつまでもそんな事しててつまんなくねーの?」


 レオンのそんな何気ない一言に胸を抉られる。苦言を言おうとして途中で遮られたフレデリク様も、勢いを無くし少し俯いて眼鏡を直す仕草をした。



「オレが相手になってやるから、打ち込んでみろって!」


 レオンはそう言ってニッと目を細め、白い歯をのぞかせながら子犬のように無邪気に微笑んだ。マリーがこちらに少し近づいてきて、不安そうに様子を伺っている。



 レオンはホラホラとでも言うように、笑顔で手招きをしていた。


 わたしはどうしようかと思い、マリーの方を伺うと目が合った。マリーはわたしの視線より少し低い位置で、不安そうに眉を下げていた。マリーも戸惑っている様子だ。




 わたしは意を決して、一歩前へ踏み出す。


「じゃあ、お願いしようかな」

「全力で来いよ!」


 わたしの言葉に、レオンは弾けるような笑顔を見せてくれた。わたし達じゃ実力差がありすぎて、レオンは退屈なんじゃないだろうかと思ったけど、そんな邪念は振り払い剣を構える。


 筋肉痛で、剣を構えるだけで腕が痛む。それでも無理をして真っ直ぐ剣を持つ。


「おっ!構えは様になってんじゃん!」


 レオンは楽しそうに、トパーズの様な黄色の瞳を細める。ワクワクと嬉しそうな表情が眩しい。



「さぁこいよ!」

「いきます!」


 掛け声と同時に踏み出す。レオンに剣が届く範囲まで近づいて、駆け出した勢いを付けて振り下ろす。振り下ろした剣は、レオンの剣に呆気なく流される。

 わたしは体重をかけた剣が流され、横にふらついてしまうが何とか踏みとどまる。


「体重乗ってていい感じだぞ!」


 レオンの赤黒い短髪が逆光で照らされ、眩しいくらい輝く。剣に振り回される形になりながらも、何とか姿勢を正す。


 グッと柄に力を入れて、剣を横に薙ぐ。今度はしっかりと受け止められ、打ち付けられた金属音の鈍い音が響く。ビリビリと手のひらが痛む。振動が腕や肩、背中まで響いて思わず剣から手を離しそうになる。


 次は下から切り上げるが、またしっかりと芯で受け止められる。ビリビリと身体中に衝撃が響く。やはり筋肉痛のせいで、横や下からではしっかりと力が入らない。痛みから逃げるために、自然と上からの振り下ろしが多くなってしまう。



「上からばっかりだと体がガラ空きになるぞ!」


 やはりレオンにはお見通しの様で、注意されてしまった。痛む体に無理をして剣を振るう。しかし全く力が入らず、受け止められた反動で後ろによろけてしまう。


 そんな事を2、3度繰り返していたら、遂に反動に耐え切れなくなり後ろに弾かれた剣に体ごと持っていかれてしまった。


 なんとか剣は手放さなかったが、そのまま地面に尻餅を着いてしまった。



「エマ!怪我は!?」


 わたしが全身の疲労感から、尻餅を着いた状態のまま呆けていると、マリーが駆け寄って声をかけてくれた。体に力を入れるのも痛んで苦しいくらいだが、特に怪我をしている訳では無い。マリーに大丈夫である旨を伝えると、ホッとしたように可愛らしい蕩けた笑顔を向けてくれた。その笑顔だけで心は癒されたが、当然体は痛いままだ。


 

「まぁいい線いってんじゃねーの?」


 レオンがニッと輝く様な笑顔を向けながら、頭の後ろで手を組んでいた。汗ひとつかいておらず、疲労の色も全く伺えない。


「ありがとう、レオン。全然疲れてなさそうで尊敬しちゃうなぁ……」



 わたしはボロボロで、立ち上がるのにもマリーの手を借りている始末だ。体力作りからちゃんとしないとなぁ……。


「ハハッこんくらいは当然だって!」


 レオンは悪戯っぽい笑みを浮かべる。余りにも無邪気に微笑む笑顔と、こんなに強い事へのギャップでドキリと胸が鳴る。




「ほらフレデリク!今度はお前だ!」


 レオンはそう言うと、フレデリク様に向かって剣を構えた。その行動にわたしもマリーも、そしてフレデリク様も驚きで目を見開いた。


「ほらほら!どうしたー!?」


 レオンはまた悪戯っ子の様に笑った。フレデリク様は渋々といった様に剣を構えた。その時、苦痛で一瞬顔が歪む。



 わたしも経験したが、筋肉痛で腕が痛んで重い剣を構えるだけで一苦労なのだ。


「んじゃ、いくぞ!」


 レオンがトンっと地面を蹴ったかと思うと、一瞬でフレデリク様の目の前に来ていた。いつの間に、この距離を――わたしが呆けた様にポカンと口を開けている間に、キーンッと甲高い金属音が響きフレデリク様の剣が吹き飛んでいた。




 瞬きの様な一瞬の内に、レオンはフレデリク様の剣を弾き飛ばしていた。



 言葉だけではこんなにも簡単なのに、目の前の光景が信じられない。呆気に取られるとはこの事だ。



「おっそろそろオレの番か!?じゃーな!」

 


 レオンはそう言うと、上位グループの方へ向かって走っていった。レオンはこれから模擬戦か……。




 わたし達は言葉を失ったまま、見送ることしか出来なかった。


 

 

 



  

一年の最後をエマたちと共にしてくれてありがとうございます!

これからもまだまだ続きますので、来年もよろしくお願いいたします!

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