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40話 プレゼント

 


「レオン!おはよう!」


 学院に着くと、丁度よくレオンの後ろ姿を見つけた。レオンはこちらに振り向くと、トパーズのような黄色の瞳を細めてニッと微笑みながら挨拶を返してくれた。


「せっかくの休日なのに、手伝ってくれてありがとう。これ、お礼だから受け取って」


 わたしはそう言うと、個別に包装した石けんを手渡した。その時レオンの手に触れてしまい、ゴツゴツとした大きな手に気を取られる。レオンは子犬の様に可愛らしく笑うせいで、男性らしい所を意識すると途端にドキリとさせられる。


 レオンは「おー!なんだろ」とニコニコ笑うと包みを開けた。そして中身をしげしげと見つめて、不思議そうな顔をする。


「……なんだこれ?」


「石けんだよ。この前行った時採った薬草で作ったの」


 レオンは「ふーん。ありがと」と言うと、石けんを包みと一緒にポケットに入れた。やっぱり、あまり興味はなかったかな?


 教室に着く間にジルベール様に会えれば、グー先生の分も石けんを渡したいなと思っていだが、会えないまま教室へ着いてしまった。わたしの魔法の成果でもあるので渡したかったのだが、流石に教室まで行って渡す程のものでは無いので、諦めることにした。


 少し残念に思いながら教室の扉を開ける。


 教室に入りながら挨拶を済ませ、一番にマリーを見つける。



「おはようマリー。以前話してた石けんなんだけど……」


「覚えててくれたんですか……?」


 わたしが石けんの入った包みを取り出すと、マリーは微かに頬を染め、クリクリとした瞳をさらに大きくさせた。アクアマリンの様な美しい瞳が輝く。


 マリーの可愛らしくて形のいい手のひらに、包みをそっと乗せる。


「わたしの好みで作ったから気に入るかどうか……」

「絶対気に入ります!」


 ガタンッ!と大きな音を立てて、マリーが椅子から立ち上がる。クリスチアン様とフレデリク様から視線が集まる。しかし、まるでそんな事を気にしていないようにマリーはわたしの手を握り、話を続ける。


「エマがわたしの為にしてくれただけで、わたし!凄く嬉しいです!話を聞いた時からすごくすごく興味があって!それが本当に目の前にあるなんて!それに、わたしの言ったこと、覚えててくれて……こんな些細なこと……わたし……」


 最初は勢いよく身を乗り出しながら話し続けたマリーだが、次第に調子が下がっていき、最後には息を漏らすように涙目になる。


「マリーが気に入ってくれたのなら、また作るね」


 握られていた手を強く握り返して、そう伝える。こんなに喜んで貰えたのは驚いたけど、嬉しい気持ちも本当。


 それに、自分の物のついでなので、そこまで喜ばれると少し躊躇ってしまう。


 話が一段落着いたところでフレデリク様に宥められ、慌てて席に着く。その日の午前の授業中、マリーはずっと嬉しそうにしてくれていた。





 お昼になり、アンナさんとドニにも石けんを渡すと、ふたりともとても喜んでくれた。アンナさんなんて、マリーに負けず劣らず喜んでくれて、やっぱり少し戸惑ってしまったけれど嬉しかった。


 やっぱり女の子だったら、寮の備え付けの石けんだけなんて物足りないよね?




「午後の授業は剣術の合同授業なので、また会えますね」


 マリーがにこやかに語りかける。ふわりと微笑む顔と、甘やかなピンク色の調和に思わず見とれてしまう。


「本当にケガとか……大丈夫なんですよね!?」


 アンナさんが目に涙を滲ませながら、ドニに詰め寄る。



 そう言えばアンナさんはドニの事が好きだったんだ――!



 普段の昼食時には、和やかでふわふわした雰囲気だったから忘れてたけれど……。アンナさんのこういう言動を見ると思い出される。


 ドニも、こんなに守ってあげたくなる様な小柄で愛らしいアンナさんに心配されたら、好きになっちゃうのかな……。


 ドキドキと、胸が鳴る。


 ドニの反応が、言葉が気になって、ギュッと胸が締まる。



 だって、幼馴染の恋愛事情なんて、女の子なら誰だって気になるし、興味があるし、当然だよね?


 なんて、誰にするでもない言い訳を、心の中で呟く。





「ハハッ授業なんだから大丈夫だって!」


 ドニは栗色の髪を揺らしながら、人懐っこい笑顔でそう返した。



 ドニがどんな反応をするのか緊張していたのに、余りにいつも通りの返答で拍子抜けしてしまう。ホッと息が漏れる。



「……あたしも一緒ならよかったのに」


 ぽつりとアンナさんが呟いた。


 特進科は他の専科と合同で授業を受けるのだが、普通科のアンナさんはそうでは無い。きっと自分だけドニと一緒に居られないのは寂しいよね……そんな思いを込めて「大丈夫だよ」と言いながらアンナさんの背中を擦る。


 アンナさんは茶色の瞳に涙を浮かべ「エマさん……」と微かに呟くと、ギュッと抱きついてきた。


 小さな身体で、それでも力強く抱きしめてくるアンナさんに、どうしようもなく愛おしさが芽生えてしまう。




 ゲームでのアンナは思い込みが激しく嫉妬深い性格で、最後はナイフで主人公を刺そうとする様な危険な人物だった。


 でも目の前のアンナさんは人見知りで、少し怖がりで、心配性で、ちょっと不思議な行動をする事はあるけど、何かあると涙目で子リスみたいにプルプル震えてる印象が強い。



 そんな素直で、可愛らしいアンナさんが、ドニの事を好きだと言うなら――


 そして、ドニも、そうなのだとしたら、わたしは――




 そこまで考えて、わたしは一体何様なんだ?誰目線なんだ?と思い直す。



 

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