39話 魔植物園
学校が休みの日は、皆思い思いに過ごしている。街に出かけたり、バイトをしたり、勉強や趣味に時間を使ったり。寮の門限や規則を守れば、自由にできる。
ラブメモのゲームでは、攻略対象の好感度が高くなるとデートに誘ってもらえるんだよね……。マリーは今頃、クリスチアン様と過ごしてるのかな。
休日デートのイベントと言えば、街中に出かけて攻略対象とはぐれてしまい、男の人に絡まれる主人公を攻略対象が颯爽と駆けつけ危機一髪助けに入るトキメキイベントが待っている。その時の強気なセリフや主人公を思いやる言葉、そして密着する体――!
思わず顔がニヤケそうになりハッとする。いけない、また空想の世界に浸ってしまった。気を取り直して今日の予定に取り掛かる。
魔術科が管理している魔植物園で、石けん作りに必要な薬草を取りに行く。自習の一環、という事にすれば採取が許されているらしい。
わたしは動きやすい服装に着替え、魔植物園に向かった。
「よぉエマ!」
魔植物園に入ろうとした時、後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、レオンが眩しい笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
レオンは子犬のように無邪気な笑顔をしているが、ズンズンこちらに近づいて来るにつれて、体格の良さを意識してしまう。
「久しぶりレオン。剣術の稽古?」
「おう!暇だから自主練!」
そう言ってニッとトパーズのような黄色の瞳を細め、輝くような笑顔で答える。ツンツンと立っている深い赤色の髪も、太陽の光を浴びて眩しいくらいだ。
レオンはわたしの格好を確認すると「まさかお前も?」と不思議そうな顔で質問してきた。
「わたしは魔植物園で薬草を取りに行こうと思って」
レオンは頭の後ろで腕を組むと「なーんだそっか」と言ってまた笑った。
「オレもついて行こっか?危ねーかもしれねーし」
魔術科の魔植物園では、ただの薬草と魔植物、そして危険性の高い魔植物は段階毎に区分けされている。しかし完全に隔離されている訳でも安全が保証されている訳でもないので、わたしはレオンの言葉に甘える事にした。レオンも快く了承の言葉と笑顔をくれた。
ふたりで魔植物園に入り、目的の石けんを作るための薬草を探す。その間レオンとは昼食で食べたアレが美味しかった、これが食べてみたいという話や授業中のドニやニコルさんの話をしながら歩いた。
「ドニもニコルも強くて、一緒に練習してるとワクワクするんだよなー」
「ドニはダンテ師匠にも筋がいいって褒められてたんだよ」
ふたりで並んで歩いていると、レオンがチラリとこちらを見る。キョトン、という言葉がピッタリな表情をこちらに向ける。
「お前も剣術習ってたのか?」
「習ってた、って言っていいのか……運動程度かなぁ」
ダンテ師匠との剣術稽古を思い出すと、いつもバテてドニが教わっている所を座りながら見ていた記憶ばかりが蘇る。
「ま!オレの方が強いけどな!」
「それは、そうだよ」
レオンは誇らしげにフフンと鼻を鳴らす。わたしは余りにも当たり前な事実に苦笑いが漏れる。
わたしはウンウン唸りながら目的の薬草を探す。石けんを作るための薬草は決まっているが、保湿成分や香りを季節や気分で変えたいのだ。いつもここで悩んでしまう。でも、それが楽しみでもある。
プチプチと薬草を選別しながら摘んでいると、レオンが上から覗き込むようにわたしの手元を見ていた。
「草なんか全部同じに見えっけどなー」
「ふふっそうだね。でもこれなんて面白いんだよ?」
わたしは摘んでおいた薬草を手に持ち、隣の列にある魔植物の花壇に移動する。その中の魔植物の近くに、見やすいように薬草を並べてみる。
「ほらみて。見た目は全く同じだけど、葉っぱの裏側を見ると魔植物の方だけ小さな斑点があるの」
そう言って薬草と魔植物に付いている葉の裏側を見せる。ふたつの植物は一見同じ物のように見えても、ただの薬草と魔力を含んだ魔植物なので全くの別物だ。効能も有効成分も変わってくるので、見間違えて使ってしまったら大変だ。
レオンはそれを一瞥すると、頭の後ろで手を組んで興味無さそうに「ふーん……」と言いながら、視線をさ迷わせた。
興味が無い事をつらつら話してもつまらないか、と思い直してまた薬草を摘む。
薬草の採取が終わり、レオンと魔植物園を後にする。
「じゃ、あんま無理すんなよエマ!」
レオンはそう言うと、くしゃくしゃとわたしの頭を上から撫でた。
「レオンも自主練がんばって!」
わたしは髪の乱れを直しながら、離れていくレオンの背中に声をかける。レオンはこちらを見ることもなく、ヒラヒラと手を振った。
部屋に戻ると、早速石けん作りに取り掛かる。必要な材料と先程採ってきた薬草を用意する。部屋の窓を大きく開けて、油や水、塩などを魔力を加えて煮ていく。
採ってきた薬草や魔植物にも魔力を流してから、一緒に煮ていく。
石けんを作る過程で魔力を使うが、今日はとても調子がいい。
ジルベール様に頂いた髪飾りに触れる。きっとこれのお陰だと感謝しながら、ジルベール様やグー先生の疲れたような隈がちの笑顔を思い出した。
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