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36話 小さな贈り物



 ジルベール様と別れ、後悔を引きずりながら部屋に戻り入浴を済ませようとしたら、石けんのストックがもうない事に気がついた。


「あれ?もう少し持つと思ったんだけどなぁ……今度の休みは石けん作りでお終いかなぁ」


 わたしがもう少し魔法が得意だったら、パパーっと作れるのかもしれないけれど……。今度の休日は石けん作りの為の薬草と魔植物の採取と、魔法での石けん作りだけで疲れて終わっちゃうかも。


 そんなことを考えながら寝る支度を整える。

 

 その日はあんなこと言わなければ……もう少し気をつけて発言すれば……とそんな事ばかりがグルグルと頭の中を駆け巡って、なかなか寝付けなかった。






 翌朝、支度をしていると部屋の中にノック音が響いた。来客にしては些か時間が早すぎる気もするが、わたしは返事をして扉を開ける。

 するとそこには、アンナさんとマリーが並んで立っていた。ふたりににこやかに挨拶をされ、わたしもそれに返す。


「ふたりともどうしたの?もしかして部屋まで迎えに来てくれたの?」


 朝の食堂での昼食作りの待ち合わせ場所は、いつも女子寮の玄関広間だった。もしかして、昨日わたしが倒れたから心配して迎えに来てくれたのかな?


「アンナさんと話し合ったのですが、しばらく昼食作りはわたしたちに任せてくれませんか?」


「……え?」


 マリーが優しく微笑みながら、語りかけてくれた。それでも突然の事で、ビックリしてしまった。どうして、突然……?


「エマさん、また倒れられたんですよね?あたし、心配で……少しでも休んで欲しいって、マリーさんと話し合ったんです……」


 アンナさんが上目遣いで、瞳を潤ませながら必死に訴えかける。


「そう、そうだよね……こんなに倒れて、心配、かけたよね……」


 そんな当たり前のことに、言われて初めて気づく。こんなに頻繁に他人が倒れるなんて、誰だって心配になる。

 心配してくれた、そんな当たり前のことに胸がいっぱいになる。


「エマとお料理するのすごく楽しいので、元気になったらまた一緒にしましょう」


「あたしも!またエマさんと一緒にいたいです!」


 ふたりの言葉が嬉しくて、胸があったかくなって、もっとこの感情を伝えたかったのに「うん、ありがとう」としか出てこなかった。


 昼食作りをふたりに任せると、早起きした分の優雅な朝を過ごすことが出来た。ふたりに感謝しながら教室に着くと、さっそくクリスチアン様とフレデリク様に心配の言葉をかけられた。

 教室に着いてから心配されるのも、お馴染みの光景になっていた。それだけわたしが皆に心配を掛けてしまっているんだけど……。



 しばらく魔術実技の授業が続くので、わたしは先生と相談しながら授業に参加することになった。


 チラリと魔術科の生徒を伺いみるが、そこにジルベール様の姿は見当たらなかった。昨日の会話を思い出し、後ろ暗い思いを抱える。


 わたしは皆よりかなり遅いペースで魔法玉を作る練習をしていた。魔法玉すら作れないのはこの場でわたしだけのようだ。


 少し練習していると直ぐに皆から体調を心配されるので、わたしの存在が授業の進行の妨げになっているのは明らかだった。魔法玉も作れないことに加えて、チクチクと罪悪感に襲われる。



 その日はアンナさんが魔術演習場まで迎えに来てくれた。昼食時にも皆に心配された。


 その日は一日、皆に心配され通しで終わった。自分が不甲斐なくなる。



 次の日、わたしは随分久しぶりにひとりで登校した。ずっとアンナさんやマリーと一緒だったので、喪失感からソワソワする。まるで何か忘れ物をしている様な、何かを思い出せない様な、そんな焦燥感。


「エマ」


 教室に向かう途中、呼び止められる。振り返るとそこにはジルベール様がいた。


「ジルベール様、お久しぶりです」


 姿を見れて嬉しいような、不安なような、複雑な感情になる。やっぱり家族の事に口を出すのは失礼だったよね……。


「……ありがとう」


 ジルベール様は、何か憑き物が落ちた様にスッキリした表情で微笑んだ。目元は依然として隈取られているけれど、少し赤らんでいるようにも見える。


「ちゃんと、父上と話をすることが出来た」


 余計なことを言ってしまったと、失礼だったのではと、そんな気持ちが一気に消えて「良かった!」と心からの満面の笑みが溢れる。


「お前に言われなければ僕は誤解したままで、きっと、一生分かり合える事はなかったと……そう思う」


「やっぱりグー先生はジルベール様の事、大好きだったんですね」


 わたしがそう言うと、ジルベール様は恥ずかしそうに視線を逸らす。


「……また、家族を始めるよ」


 ジルベール様がボソリと呟く。悲しいすれ違いは合ったけど、お互いを大切にしているふたりなら、きっと大丈夫だと心から思えた。


 ふたりが和解できた嬉しさで頬を緩ませていると、ジルベール様がスっとわたしの髪に触れる。何かが耳元で、カチャリと軽い音を立てる。


「?これは……?」


「僕――と、父上から……その、お礼にと……」


 ジルベール様が髪に付けてくれた物に触れる。つるんとした石の周りに、レースとリボンが着いた小さめの髪飾りの様だった。


「お礼だなんてそんな……それに、高価なものでは……?」


「高価はまぁ、高価だが……医療用の魔石が嵌め込んである。それで少しは魔力循環の助けになるだろう」


 医療用の魔石!?それってすっごく高価なんじゃ……!?想像出来ないほど高価な物が頭に着いているのかと思い、先程まで髪飾りを不用意に触っていた腕が固まる。


「持っていてくれ。それに、父上ではなく僕が作った魔石だから……まだ半人前程の出来だが……それでも良ければ……」


「ジルベール様が魔石を……?嬉しい!ありがとうございます!」


 あのジルベール様が、グー先生を認める様な発言をして思わず喜びで心が波打つ。今日も魔術科との合同授業があるので、ジルベール様とは暫しの別れをして、わたしは教室へと戻った。


 



今日は祝日分の投稿になります。

次の更新は11月26日(土)14時です。

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