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29話 まるで、夢見心地。



「長子である僕が王太子に選ばれていないのは、身体が弱いせいでもあるんだ……。だから、クリスチアンにはつらい思いをさせていると思う……」


 クラウディオ様は、心苦しいほどに悲しい表情をした。それでも「そんなことありません」と、わたしに否定することは出来なかった。

 だってわたしは、悲しいほど何も知らないのだから。


 何も言うことが出来ずに、ただただ戸惑うことしか出来なかった。

 


「だから、僕と同じ体質の人がいると知って浮かれていたのかもしれないね」


 そう力なく微笑むクラウディオ様は、本来持っている儚さとの相乗効果で更に美しさを増している様だった。


「エマさえ良ければ、また僕と話してくれる……?」


 クラウディオ様は、また子犬のように見つめてくる。

 

 魔力の循環が不器用な体質だと知って、とてもショックを受けた。だけどそのおかげで、同じ体質の人の気持ちが軽くなったなら良かった、の、かな……?


 わたしは繋がれた手とは反対の方の手で、クラウディオ様の手を包み込んだ。真っ直ぐ見つめると、その瞳の中にわたしが映る。わたしの熱った手の中で、ヒヤリとしたクラウディオ様の手が心地いい。


 わたしが「もちろんです」と答えると、クラウディオ様の目がさらに優しく垂れる。

 


 クラウディオ様がわたしの肩に手を置き、わたしが握っていた方の手をグイッと引いた。わたしはその力に流される様に、クラウディオ様の胸にぶつかってしまう。

 肩に置かれていた手は、いつの間にか背中に回っていて、まるで、まるで抱きしめられているかのように、わたしの体はすっぽりと、腕の中に絡め取られていた。


 

 何をされたか、なんて、分かっているのに、理解が追いつかない。


 

 ドクドクと自分の鼓動がやけにうるさく感じる。触れていない場所の方が少なくて、そこだけが外気に晒されて冷たく感じる。全身が、顔が、今まで経験した事がないほど熱くなり、まるで頭までボーッとして、陶酔感に浸りそう。夢見心地の浮遊感に全身が包まれる。


 

「ありがとう、エマ。――僕を受け入れてくれて」



 火照った体に冷たい息がかかるのが分かった。悲しみを内包する声に、苦しくなる。


 ――受け入れてもらう、そんな事が難しい世界で生きてきたのかと……。


 胸の中に抱かれたまま、クラウディオ様の顔を見上げる。まるで白亜の空間に溶けだしている様で、輪郭がはっきりしない。


 わたしは、いつの間にかクラウディオ様の腕から解放されていた様だった。少し離れたところに立ち、わたしの左手にまたキスが落とされる。


 クラウディオ様の唇はヒヤリとしているのに、まるでその場所だけ熱を押し当てられたかのように、熱い。


「――今日はもう、さよならだね」


 クラウディオ様は少し悲しそうに微笑みながら立ち去って行った。わたしは、まだ、夢見心地のようで――。その後ろ姿をボーッと眺めること以外、出来そうになかった。




 王子様とただのモブのわたしに、こんなことが起こるなんて――。


 


 まだ全身の熱は引かず、左手はドクドクと脈打っている。あの儚い王子様を、意識せずにはいられない。



 ボーッとした頭に、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響いた。いつの間にか特進科のクラスとは随分離れた所に来てしまったようで、わたしは急いで教室に戻った。


 特進科クラスの扉を開けると、マリーが一番にかけつけてきた。


「エマ!全然戻ってこないから、わたし……」


 マリーは今にも泣きそうな表情で、言葉に詰まっている様だった。

 確かに始業時間ギリギリになってしまったし、マリーとアンナさんを置いて行ってしまったから、心配させちゃったかも。そう言えばどうして、あんな所まで行ってたんだっけ……?


「マリーはエマの事、とても心配していたんだよ」


 クリスチアン様が、優しげに声をかけてくれる。プラチナブロンドの髪がサラリと揺れる。右耳に髪をかける指の仕草が美しいな、と思っていたらクラウディオ様の事を思い出す。


「クラウディオ様が、クリスチアン様を気にして学院にいらしたようですよ」

「兄上が……!?」


 クリスチアン様が驚愕して目を見開く。


「クラウディオ殿下……あれほど安静にと言い含めたのに……」


「兄上は、もう帰られたのかい……?」


 フレデリク様が口惜しそうに頭を抱えている。クリスチアン様は心底心配そうにクラウディオ様を案じているようだった。


「おそらく、そうかと――」


 今までわたしたちの会話を見守っていたマリーが、わたしの腕をぎゅっと握ってきた。


「なにも、なかったんですか……?」


 まるで今にも泣き出しそうな表情でわたしを見つめる。急に、どうしたんだろう……?

 

 なにも、なかった訳じゃないけど……


 またクラウディオ様のことを思い出して、鼓動がはやくなる。どうしちゃったんだろう……わたし、どうしちゃったんだろう……。


 だって、わたし、まだ2回しか会ってないし……あんな事で意識しちゃってるわたしが過剰なだけだよね。きっと。



 まるで胸の鼓動を押さえ付けるように


 ――心の内を悟られないように


 両手で胸を覆い隠した。

 


 



 

 

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