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26話 不器用


「お前、不器用?」

「えっ?」


 わたしは突然のその言葉に目が点になった。突然不器用、とは……?

 そんな事を考えて呆然としていると、グレゴワール様は「ちょっともう一度やらせて」と言いながら、わたしの頭をぺたぺたと触り始めた。


「え?えっと?グレゴワール様、これは……?」


「ジルベールでいい。家名は好きじゃないんだ」


「あ、はいっジルベール様……じゃなくて、えっと、これはなんですか……?」


 

 わたしがジルベール様に頭をぺたぺたと触られているのを、マリーとアンナさんが両脇から唖然と見つめている異様な光景がそこには広がっていた。


「治癒効率が極端に悪い……僕の術式に問題がないとすると魔力の吸収率か?それとも循環機能の方か……魔力回路が原因か?単に個体の治癒力が低い可能性は……」


 ジルベール様はわたしの頭、肩、腕、と上から順番にぺたぺたと触りながら何かを確認しているようだった。わたしは何をされているのか分からず、体をぺたぺた触られて、緊張のあまり硬直してしまっていた。


「ススストップ!ストップです!それ以上はダメです!!!」


 ジルベール様が真剣な眼差しでわたしの体を触っていくが、流石にこれ以上はわたしが羞恥心のあまり耐えきれなくなって大きな声を上げてしまった。


「……すまない。気になってつい」


 ジルベール様は制止されたのが気に入らなかったのか、不機嫌そうに、それでも謝罪をしてくれた。


「だからって不躾に女性の身体に触るなんて!」


 アンナさんが小さな体で頑張って背伸びをしながら、全身で怒っているんだぞ!とアピールをして頬をふくらませている姿がとても愛らしかった。茶色のふわふわのポニーテールがふわりと揺れて、余計に仔リスを彷彿とさせた。


「だから謝った」

「謝って許される事じゃありません!破廉恥です!」


 ぷんぷん、という効果音が似合うアンナさんを「わたしは大丈夫だよ」と宥めると「エマさんがそう言うなら……」と言いながら恥ずかしそうに俯いた。

 人見知りのアンナさんがわたしの為にあんなに怒ってくれた事がちょっと嬉しくなった。


「えっとそれで、ジルベール様は一体エマの何を調べていたんですか……?」


 マリーが控えめにジルベール様に質問をする。それを聞いたジルベール様は今までの眠たそうな目とは違い、ラピスラズリのような瞳がキラリと輝いた気がした。


「エマと言ったか?コイツは魔術効果が極端に低い。魔力回路がちゃんと循環してるのか怪しいくらいの鈍さだ。僕の治癒術でも効果が薄かったんだ。だから少し調べさせてもらった。」


 先程までの気だるげな様子とは違い、何やら生き生きと話すジルベール様に、少し驚いてしまう。すると、突然ジルベール様がわたしに人差し指を向けた。


「お前、魔法下手くそだろ?」

「うぐっ!?」


 図星をつかれて、つい変な声が出てしまった。こんな体をぺたぺた触られたくらいで、そんなことが分かるだなんて……。

 確かに天才からみたら魔法が下手くそなのかもしれないけど、一般的には普通に使えるくらい、だと、思うんだけど……。ドニも苦手って言ってたし……。


「エマは魔術との相性が悪いって言ってましたもんね」


 マリーが慰めてくれるように、優しい笑顔を向けてくれる。かわいい。癒される。

 それを聞いたジルベール様は怪訝そうな顔をした。


「魔術がどうとか、そういう次元の話じゃない。そもそも呼吸と同じように、人間は体外魔力を取り込んで体内で循環させて体内魔力にしてるんだ。血液が、酸素が全身に巡るように魔力も魔力回路を使って全身を巡ってる」


 難しい話に3人で呆然とジルベール様を見つめることしか出来なかった。しかしジルベール様はそんな事など気にした様子もなく続ける。


「コイツはそれが驚く程に不器用だ。呼吸が不器用な人間がいるか?」


 ジルベール様は信じられないと言うような顔をしていた。わたしって呼吸が下手くそだったんだ……。道理で魔法を教えてくれてた家庭教師の先生も、歯切れの悪い説明しかしなかったはずだ……。

 みんなが呼吸をするように、全身に血液が巡るように、無意識でも出来ていることが、わたしには出来ていなかったんだ……。衝撃の事実を知ってしまった。


 これも全部、ゲームの主人公にはこんな設定なかったしラブメモの本編が始まれば勝手に魔法も使えると、今の状況を軽んじて何もしてこなかった自分の自業自得なんだろうな……。


 

「えっと、それは、良くなるんですか……?」


 わたしがたどたどしく質問をすると、隈の残る青色の瞳でわたしを真っ直ぐ見つめた。


「知らん。魔法の使い方の説明は出来るが、無意識でできてる魔力の循環方法なんて教えられるか」


 ジルベール様は当たり前と言うように「お前は全身への血液の送り方を説明できるのか?」と聞いてきた。うぅ……魔力の循環が不器用って一体どうしたら……。


「あと、こういう魔法の使い方する奴との付き合いは考えた方が良いんじゃないか?」


 ジルベール様は眉を寄せながら、グッと引っ張るようにわたしの左手を持ち上げた。その力に負けて、ふらついて一歩前へ踏み出してしまった。突然の行動にドキリとする。


 でも、魔法……?どういう事?


 わたしが不思議そうにしていると、ジルベール様は怪訝な表情からみるみる驚きに変わっていく。


 


「おま、お前……まさか、自分に魔法をかけられて気づいてないなんて事はないよな?」



 


 


 


今日から3連休は連日投稿いたします。

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