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25話 樹上の黒

 


 3人で食堂へ入ると、先程まで聞こえてきた昼食時の喧騒が嘘のように静まり返った。マリーと繋いでいる方の手が、ギュッと握られた。


 マリーは俯いてしまい、アンナさんはどうしたのかとキョロキョロしている。そんなふたりの手を引いて、わたしは堂々と厨房へ向かう。


 昨日とは違い、ヒソヒソと嘲笑されることは無かった。ただ、じっと観察されているような居心地の悪さはある。


 厨房へ入ると、わたしは「さぁ!」と声を掛け、気を取り直して3人で昼食作りに取り掛かった。



 作り始めると流石に3人だけあって、あっという間に作り終えてしまった。それなのに量や品目は以前より多くなっている。


 わたしたちが笑顔で「食材も良いし、きっと皆も喜んでくれる」と言い合っていると、後ろからシェフのひとりに話しかけられる。

 軽く礼をした後に「これもどうぞ……」とフルーツタルトをワンホール丸ごと差し出された。


「えっと……いいんですか?」


 わたしがおずおずと聞くと、シェフはコクリと頷いてまた持ち場に帰って行った。


 いつもより豪華になった昼食を3人で持って、喜んでくれるといいなぁと思いながら演習場までの道を歩く。




 演習場に着くとドニとそのお友達5人が居た。その後レオンとニコルさんも合流して、みんなでお昼を食べる。


 地面にシートを引いて、わたしの右隣にはアンナさん、さらに隣がドニ。左隣にはマリーが並んで座っている。

 みんなはわたしとマリーを交互に見ながら何を質問しようか迷っている様子だった。その中でドニのお友達のテオが、お茶をグイッと飲み干して思い切ったように口を開く。


「ふたりは……本当に他人同士?」


「ふふっそんなに似てます?」


 わたしからしたら、マリーは絶対ヒロインの完璧美少女でわたしはその劣化版の様に思っていたんだけど……やっぱり美少女と似てるって言われるのはそれだけで嬉しい。それが髪や瞳の色合いだけだとしても。


「似てる!姉妹かと思った!」

「わたし!エマがお姉ちゃんだったら凄く嬉しいです!」


 姉妹という言葉に反応したマリーが、突然グイッとこちらに身を乗り出してくる。夏の澄みきった空のように濁りのないキラキラとした瞳で、頬を少し紅潮させている様を至近距離で見せられドキリとする。


「えと……それだったら、双子だね……?」


 わたしはマリーのあまりの可愛さに動揺して、たどたどしく言葉を発することしか出来なかった。


「双子は不吉だけど、エマとマリーみたいな美人ならそんなこと言われないかもな!」


 レオンがニッカリと笑いながら言った言葉にドキリとする。そうだ、クリスチアンとクロヴィスは双子だったから、お互いの存在を隠されて育ったんだ。自分の不用意な発言に意気消沈してしまう。


 食事を終えたあと、騎士科の皆は午後の授業で試験があるそうなので、いつもより早く解散になった。




 わたしとマリー、アンナさんが並んで演習場から校舎へと続く道を歩いていると、不意に頭に硬い物が突撃してきて思わず「いたっ!?」と大きな声が出てしまった。


 マリーとアンナさんがわたしを心配して駆け寄って来てくれた。バサリと音を立てて地面に落ちたものを見ると『治癒術における体内魔力の変化についての考察』と書かれた分厚い本が地面に転がっていた。

 えっ!?これが頭に当たったの!?ど、道理で頭を触るとコブになってるはずだ……。


 本を拾い上げて、落ちてきたであろう方向を見上げる。すると、木の上でスヤスヤと寝息を立てる人影が見えた。それを確認すると同時に、その人影が抱えていた分厚い本数冊が、その手を離れてわたしたちの上へ降り注いできた。わたしたちは思わず悲鳴をあげながら、落ちてきた分厚い本を避けた。落ちてきた本の中には大判の物もあったので、それが当たっていなくて良かったとホッとした。


 わたしたち3人が、お互いに抱き合いながら地面に落ちた本を呆然と見つめていると、木の上の人影がふわりと重力を感じさせない動きで地面に降り立った。



 目の前にゆっくりと降り立った人物は、黒く輝く短髪には所々ぴょんっと寝癖が跳ねていて、眠そうな瞳は冬の夜空のような美しい青色をしている。ジルベール・グレゴワールが嫋やかに佇んでいた。


 おそらく風魔法を使って木の上から降り立ったのだろうが、風の威力のコントロールが卓越しすぎていて驚きが隠せない。

 人を浮かす程の威力の風なのに、目の前のわたしたちは髪が揺れもしない。自身の周りの風のみをコントロールしているのだ。少しのか擦り傷を治す治癒術すらまともに扱えないわたしから見たら、正しく天才という言葉が相応しいように思える。


「……すまん」


 グレゴワール様はくっきりと隈の残る目を一瞬だけこちらに向けて、足元に落ちた本を拾い上げる。すれ違いざまにわたしの抱えていた本を取り、ついでと言うようにわたしの頭をポンッと撫でた。

 その行動に驚いて、わたしが反射的に撫でられた頭に手を当てる。すると先程まで確かにあったタンコブが無くなっていた。思わず「あれ?」と声に出していたようで、マリーとアンナさんが「どうしたんですか!?」と驚きながらわたしの心配をしてくれていた。


「あ、えっと……さっき本が当たった所のタンコブが治ってて……グレゴワール様、ありがとうございます」


 わたしがそうお礼を言うと、グレゴワール様は怪訝そうな顔をしながら自分の手を見つめていた。




 グレゴワール様は自分の手を握ったり開いたりした後、ゆっくりとわたしを見つめて呟いた。



「お前、不器用?」

「えっ?」



 



 


10月8日、9日、10日はまた3連休がありますので、連日投稿いたします!

皆様に楽しんでもらえると嬉しいです(´ ˘ `∗)

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