22話 懇親会ランチ
「それじゃあエマさんが先程わたしに光魔法での治癒術を掛けてくれたのは、わたしが光属性と相性が良かったからなんですね!エマさんはきっと光属性では無いんですよね?だから魔法を使った時あんなに疲れていたんですね?それなのにわたしのために光魔法を使ってくれたって事ですよね!?」
マリーさんがスラスラと淀みなく言い切り、グイッとわたしの方へ身を乗り出す。それを見たクリスチアン様が微笑みながらマリーさんの肩に手を置くと、マリーさんは恥ずかしそうに座り直した。
「う、うん……でもわたし、魔力属性の相性以前に魔術との相性が悪いらしくて……」
「魔術との相性……?」
フレデリク様が不思議そうに小首をコテンと傾げながら聞いてきた。後ろで緩くまとめている深い緑色の髪の毛が、サラリと揺れる。
「えっと、わたしも家庭教師から聞いた話なんですけど……各属性の魔力を集めて魔術として放出する事が苦手みたいで……」
各属性の魔力を取り込み、体内魔力と練り合わせる事で魔術として体外に放出されて、魔法が使える。そしてそれが苦手ということは、つまりは不器用という事だ。自分で言っていて恥ずかしくなり少し俯いてしまう。
当時は全く気にしていなかった。ゲームの主人公なんだから、本編が始まれば勝手に魔法も使えるようになると。そんな考えが今になって悔やまれる。
「エマさんはそれでもわたしに治癒術をかけて下さったんですね!」
一度落ち着いたかに思われたマリーさんが、再びこちらに身を乗り出す。てっきりまたクリスチアン様に窘められるかとおもったら、クリスチアン様は何やら考え込んでいるようだった。
「……クリスチアン様?」
わたしが不思議に思い声をかけると、クリスチアン様は顔を上げ「なんでもないよ」と微笑んでみせた。
「マリーさんとエマさんは、魔力適性の話をされるほど仲を深めたのですね」
フレデリク様の何気ない言葉にドキリとする。わたしがマリーさんが光魔法と相性が良いのを知っているのは、ゲームの知識だ。本人から聞いていないどころか、今まで魔法の話なんてしてこなかった。
「……そう言えば初日に魔力適性検査が行われた時、エマは休みだったよね?」
クリスチアン様が重ねて不思議そうに聞いてくる。
ど、どうしよう……ゲームで知りました〜なんて言えるわけない……。
「わたしが一方的に色々喋っちゃったんです。嬉しくてつい……」
マリーさんはそう言って、わたしにニコリと微笑みかける。どうしてマリーさんが嘘なんて……どうして、わたしを助けてくれるような事を……?
「エマの適性が分かるのは、魔術の実技訓練の前かな?楽しみだね」
微笑んでくれるクリスチアン様に、わたしは「はい」とだけ短く返事をした。
適性、か……自分の事を主人公だと思い込んでいたから、魔力適性も光だと思っていた。わたしはこの世界ではモブなんだから、違う適性があるのかな……。だとしたら、今よりもちゃんと魔法を使うことが出来るのかな?それは、ちょっとワクワクするかも……。
「エマはマリーと随分仲良くなったようだし、フレデリクとも盛り上がっていたね?」
「?はい……?」
クリスチアン様は意味ありげに質問を投げつけてくる。
「私とももう少し仲良くなるために、愛称で呼ぶのはどうだろう?」
「えっ!?そ、それって――」
戸惑うわたしを揶揄う様にクリスチアン様は楽しそうに微笑む。
「おや?エマはなにか良い呼び名でも思いついたのかい?」
わたしは助けを求めるようにマリーさんを見ると、目をきらきらさせて何かを期待するような眼差しを向けられ、フレデリク様を見ると、やれやれと言うように肩を竦めていた。四面楚歌……!
わたしは沈黙に耐え切れず、絞り出すような声で「クリクリ……」と呟いた。
それを聞いて、マリーさんは「すごく可愛いです!」と言いながらキラキラの瞳で見つめて、クリスチアン様は満足そうに頷いていた。フレデリク様はひと呼吸置いた後に「はははは!」と声を上げながら笑いだした。目の端に浮かんだ涙を拭いている様子を見て驚いてしまう。
わたしの知っているフレデリクは、微笑む事は合っても今のように声を出して笑うことなんて無かった。それに、平民のわたしが王族のクリスチアン様にあんな事言ったら、やんわりと窘める筈なのに……。
フレデリク様は笑いを堪える様に「すみません」と俯きながら呟いた。
「憧れていたんだ。愛称ってものにね」
クリスチアン様はそう言って、わたしに輝くような笑顔を向けた。まだ出会って数日なのにこの親しみやすさ。ゲームだと終盤にならないとこんなに心から楽しそうなクリスチアンは見られないので、何だかその笑顔にドキッとしてしまう。
そして親睦会は終わりを告げた。マリーさんはクリスチアン様に、わたしはフレデリク様にエスコートされながら、特別ラウンジの扉をくぐる。
もう昼休みも終わるというのに、眼下に広がる食堂の大広間にはまだ人がいた。皆こちらに向かい頭を下げている。エスコートされながらゆっくりと階段を下るが、どうにも居心地が悪い……。
階段の一番下、人混みから抜け出した位置にエヴァンズ様が美しい礼をしながら待っていた。
「エリザベッタ嬢、いつも言っているけれど同じ学院に通う学友なんだから、こんな事しなくていいんだよ」
クリスチアン様がエヴァンズ様に優しく声をかける。エヴァンズ様はそれを合図にゆっくりと優雅に顔を上げた。きっちり巻かれたバターブロンドの縦ロールがふわりと揺れる。
「いいえ、クリスチアン様。同じ学院に通っていようと、わたくしたちには明確な身分の差がございます。それを蔑ろにしては誉ある王立学院、延いては王国民として示しがつきません。ご容赦くださいませ」
エヴァンズ様は力強い瞳で訴えかける。元々ツリ目がちな目がさらに鋭くなる。
その光景を見ていた後ろに並んでいる教養科の女生徒たちが、クスクスと笑い出す。「身分も弁えず――」「王国民として――」「なんて恥知らずな――」そんな嘲笑混じりの言葉がポツリ、ポツリと聞こえてきた。
「く、クリスチアン様っもう、もう大丈夫、ですから……」
マリーさんは俯きながら小声で呟いた。クリスチアン様が階段を降りる際に支えていた手を離すと、マリーさんはその場から逃げるように駆け出した。
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