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マリーの日記帳13



 エマさんの姿が見えて喜びに震えたのも束の間、髪も服も乱れている今の自分の姿を思い出し、恥ずかしさに顔を伏せてしまう。先程叩かれた手の甲を、恥ずかしさから隠してしまう。

 エマさんには、見られたくなかった。


 でもエマさんはそんな事は関係なしに、こちらへ一目散に近づいてきてくれて、わたしの手を取った。


 嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが入り乱れて、どうしていいのか分からなくなる。


 エマさんはわたしの手に優しく触れながら、赤く腫れた一筋の線をじっと凝視していた。すると、キラキラと光の粒がゆっくりと集まってきて、パチンっと弾ける。


「ふぅ……なんとか成功」


 エマさんは重い息を吐き出し、へにゃりと微笑む。先程まで赤く腫れていたはずの手の甲は、すっかり元通りになっていた。暖かいエマさんの手の温もりに気を取られながらも、なんとかお礼を口から絞り出した。


 あたたかい。


 エマさんが、わたしの事だけを考えてくれているこの瞬間が、なによりも、暖かかった。


 わたしの人生の全ても、つらかったことも、悲しかったことも、この瞬間のためにあるのでは無いかと思える程には、暖かい手だった。



 エマさんがわたしの髪を撫でてくれる感覚に、顔を上げる。






 すると、エマさんのマリンブルーの瞳から、海がこぼれていた。


 ぽろぽろと、海が、あふれだす。



 わたしはエマさんの頬に触れ、海の粒をひとつ、掬い上げる。


 ソレに触れた瞬間、あぁ涙だ……なんて、当たり前の事を思ってしまう。


「わたしは大丈夫ですから、泣かないでください」


 優しいエマさん。わたしの為に泣かないで。


 エマさんの表情が一瞬曇ったが、少し悲しそうに眉を下げながら微笑む。


「……親睦会、行きましょうか?」


 エマさんはそう言うと、わたしの方へ手を差し出した。これって、もしかして……。


 わたしは高鳴る胸に後押しされるように、差し出されたエマさんの手に、自分の手を重ねた。


 柔らかくて、暖かい……。


 ほぅ、っと思わず息を吐いてしまう。エマさんはわたしの手をギュッと握るとそのまま歩き出した。

 少し強く握られたその手は、まるでわたしは独りではないのだと、そう元気付けられているようだった。


 きっと今、世界にはわたし達しかいない。そう思わせるほど、わたしはエマさんの事しか見れなかった。

 そう、わたしの世界は、今、ここにあったのだ。


 強く握られた手も、少し見上げる位の背格好も、歩く度に揺れるピンク色の髪も、光を反射する様なマリンブルーの瞳も、白い肌も、少し染った頬と唇も、綺麗な横顔も、すべてすべて、わたしに向けられていた。


 今は、今だけは……わたしだけのエマさんだ。




 手を繋ぎながら歩いていると、不意にエマさんが「そう言えば……」と話し出した。


 先程までの高揚気分が、その一言で一気に冷えきった。


 さっきのはどういうこと?いつもあんな事されてるの?何を言われたの?何をされたの?――そう言われる事は明白だった。


 でも、わたしはそれに、なんと答えればいいの……?


 グッと胸が詰まる。


 恥ずかしくて、情けなくて、居た堪れない。




 



「肌、すごく綺麗だね?」


 繋いだ手を掲げて、エマさんはふわりと笑う。




 予想外の言葉で、思考が暫し停止してしまう。


 その後もエマさんは「髪の毛がすごくサラサラ!」「どんな石鹸を使ってるの?」「普段はどんなスキンケアをしてるの?」等、すごい勢いでこちらを褒める様な会話を続けた。


 エマさんはわたしの髪をひと房掬い上げ「ふわふわでツヤがあって綺麗なのに、絡まないでスっと指が通るの。すごく綺麗!」と笑う。


 恥ずかしさの勢いで「そんなことない!」と否定しそうになったけれど、それよりも、まだ、もっと、褒めて欲しくて……わたしの口はなかなか開かなかった。


 わたしはなんとか言葉を絞り出し「エマさんは普段どんなスキンケアをしているのですか?」と聞くと、自分で作っているとの返答が!


「わっわたしも!エマさんが作った石けん!興味あります!」


 エマさんと同じ香りに包まれるのかと思うと、頬を赤らめずにはいられなかった。



 なんとかエマさんに石けんを貰う約束を取り付けると、わたしはルンルン気分で手を繋ぎながら食堂へと歩みを進めた。


 エマさんは特別ラウンジに入るのははじめてなので、ここからはわたしが先導する事にした。扉を開けて中へ入ると、既にクリスチアン様とフレデリク様が中にいた。


「仲良くなれたようでよかった」

「はい!」


 ニコニコと嬉しそうに話しかけてきたクリスチアン様に、エマと繋いだ手を見せ付けるように掲げる。まるで牽制の様になってしまったけれど、嬉しかったのだから仕方がない。


 エマさんは少し緊張しているようだったけれど、親睦会が始まると自然と会話も増えていった。


 エマさんとフレデリク様は同じ本を読んだことがある様で、その話で盛り上がっていた。エマさんは本当にすごいなぁと感心していたら、クリスチアン様にやんわりと窘められてしまった。この思いを素直に伝えたかっただけなのに、と少し膨れてしまう。


 

 

 

3日間連続投稿を無事達成出来ました!

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