マリーの日記帳12
次の日の朝、わたしはエマさんを教室で出迎える為にすっかり習慣になってしまった早起きをして、登校時間よりも随分早い時間に女子寮を出ていた。すると、前の方に見慣れたピンク色の髪を見つける。肩口で短く切り揃えられたその髪は、歩く度にぴょこぴょこと揺れていた。エマさんだ!声を掛けようとしたその時、エマさんの傍らにアンナさんが居るのが見えた。
アンナさん……!こんな朝早くからエマさんと一緒だなんて……!
その時、一瞬アンナさんがこちらを向いた。ハッとしてもう一度こちらを見直す。すると、アンナさんは先程よりもエマさんの方へ近づき、ニッと口の端を吊り上げた。
見せつけている……!
アンナさんはエマさんと会話をしながらも、チラチラとわたしの方を伺って、見せつけるようにニヤリと笑う。
その時、エマさんが微笑んでアンナさんを見ながら何かを言うと、アンナさんはへにゃりと笑った。アンナさん、エマさんに笑いかける時はそんな顔をするのね……。まぁわたしだってエマさんに微笑まれたら同じようにトロけた顔になりますけどね!?
正直、羨ましいし、悔しい……敗北感を感じる……。
そうしている内に、アンナさんはなにやら先を急ぐ様に促して、ふたりで小走りで去っていった。去り際にアンナさんはこちらを振り返って、優越感に浸った笑顔だけを残していった。
とうとうわたしは、声をかけることが出来なかった。
教室に着いてから、今朝エマさんと会ったのにまだ教室に来ていないのは何故だろうとクリスチアン様とフレデリク様にそれとなく聞いてみれば、きっと食堂の厨房で昼食を作っているのではないか、との事だった。
なるほど、確かクリスチアン様のご友人たちと昼食を食べていると聞いたことがあった。お昼の時間に作っていたのだと思っていたけれど、どうやら朝から作っていたようだった。それで、アンナさんにも手伝ってもらっている……わたしだって手伝えるのに!
ちょっと嫉妬心で悲しくなってきた。
でも!今日は懇親会があるから、お昼になれば沢山エマさんとお話できるはず!きっと!絶対する!
そんなルンルン気分で懇親会の時間になり、わたしははやる気持ちを抑えて食堂へ向かう事にした。廊下を歩いていると、食堂へ着く前にまた教養科の生徒たちに捕まってしまった。断れるはずもなく、わたしを取り囲むドレスの集団からチクチクと小言を言われるのだ。
はやく、はやく終わらないかな……せっかくエマさんに会えるのに……。今日は、エマさんと沢山お話して、仲良くなって、それから、それから――
ガッと、突然頭に衝撃が走る。
「なんて下品な色なのかしら!こんなので気を引こうだなんて、浅ましいわね!」
無造作に髪を掴まれていた。確かに、ピンク色の髪は珍しいかもしれないけれど、それがなんだって言うの?どうして生まれ持った髪色をしているだけで、下品とか浅ましいとか、そんな事を言われなければならないの……?
エマさんと同じ色で、わたしは嬉しいのに。
じわり、と涙が溢れそうになる。
「はなして、ください……」
掴まれている髪を振りほどこうと、手を伸ばすと――
バチンっ!と、手の甲に固い衝撃が走った。
「高貴なるグリーン伯爵令嬢に触れようとするなんて!ご自分の身分を考えなさい!」
もう一度、声を上げた女生徒が大きく扇を振りかぶる。わたしは反射的に、叩かれる!と思いギュッと目を閉じると、遠くの方でガサガサと草を掻き分ける音がした。
「マリーさん!」
わたしの、名前を呼ぶ声。
ずっと、ずっと、望んでいた。
あなたのその美しい声で、わたしの名を呼んでもらうことを。
そして、その海のように深い、マリンブルーの大きな瞳に、わたしを、わたしだけを、映してくれることを。
ずっと、ずっと、待っていたの。
あなたは、来てくれた……。
わたしがつらい時、わたしを助けるために。
それだけでわたしは、今の状況なんて忘れてしまえる程、天にも登る様な高揚感に包まれるのだ。
あなたが、あなただけが、わたしをこんな気持ちにさせるのよ……。
エマさん。
明日も投稿します。
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