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マリーの日記帳10



 その後もエマさんと何とか話をしてみようとしたけれど……なんだか、避けられている、様な……気がして……。

 なかなか踏み込んだ話が出来なかった。


 けれど、ハートはずっと赤で……。


 こんな経験はじめてだから、どうしたらいいのか……。わたしを愛してくれている証明の赤いハートも、今では信じれなくなりそう……。

 そもそも赤いハートの人物は、もう居なくなってしまった両親と、エマさんだけなのだから評価対象が少なすぎる……。もしかしたら、赤いハートが愛しているって意味ではないの……?それとも、両親の赤いハートとエマさんの赤いハートでは違いがあるの?

 分からない……。そもそも情報が少なすぎる。わたしに対してだけではなく、他の人に対しての好感度が見れれば……。


 そんな思いで「はぁ……」と重いため息を吐いて、授業中のエマさんの横顔をチラリと見る。やはりまだ体調が回復していないのか、具合が悪そうに見える。

 エマさんと一緒にいられるのが、この拘束された授業の中だけだなんて……。またわたしは、重いため息を吐いた。



 


 毎朝教室でエマさんが登校してくるか、ソワソワして待つのが日課になった。


「エマさん!おはようございます!」


 よかった。今日もエマさんは来てくれた。唯一、わたしとエマさんを繋いでくれる場所。わたしに挨拶を返してくれるエマさんは、今日もなんて素敵なんだろう!


「おはようございます。クリフォード様、フェルナンド様」


 エマさんはふたりにも挨拶をしたが、昨日と呼び方が変わっていた。なにか、あったのだろうか……?顔色も、昨日より明らかに悪くなっている。毎日見ていたから分かる。でも、わたしに出来る事なんて、きっと何もないのだろうな……。

 グッと胸が重くなった。



 そうしてまたエマさんに何も聞くことが出来ず、時間だけが過ぎていった。そして今日もたま授業が終わればエマさんは足早に教室を出て行って、話す機会も無いのだろう……と、思っていたのに……。


 教室を出たと思ったエマさんは、何故か特進科と他科を隔てる扉の前に居た。これは、チャンスでは!?今こそエマさんを昼食に誘って、色んなお話を出来るかも!そう思いエマさんの背中に駆け寄る。


 すると、エマさんの前に誰かが居るようだった。その人はとても小柄で、茶色のふわふわの髪をポニーテールにしている、とても可愛らしい雰囲気の子だった。


 エマさん……もうこの短い期間で、お友達が……出来たのだろうか?モヤモヤとした感情が、胸に溜まる。


「エマさんのお友達ですか?」


 努めて冷静に、感情を出さないように、けれど笑顔を忘れないで、ゆっくり声を掛ける。エマさんは戸惑った様にわたしとその子を交互に見て、何か考えながらも口を開く。


「えぇそう。昨日知り合ったアンナさん」


 わたしを見てそう言うエマさんに隠れながらも、アンナさんと紹介されたその子は鋭くこちらを見据えていた。あれ?この子……こんな雰囲気だったっけ……?

 さっきまで“可愛らしい”という言葉が似合っていたように思う。けれど今はトゲトゲとしていて、じっとりとこちらを、牽制?しているような……?


 そんなアンナさんの好感度を確認する。そして思わずわたしはギョッとしてしまった。


 好感度が一気に緑から青へと急降下したのだ。



「マリーさんごめんなさい!わたしたち急いでるから!」


 わたしが呆気に取られているうちに、エマさんはアンナさんの手を引いて駆け出してしまった。




 ……え?どうして?




 わたしとは手なんて繋いでくれた事ないのに!


 エマさんはわたしの事を、その……愛してくれているのに!



 うぅ……エマさんはあのアンナさんという子をどう思っているんだろう……。エマさんの皆に対する好感度が分かれば……。


 そう思い駆けていくふたりを見ていれば、アンナさんがゆっくりこちらを向いた。


 その顔は、頬を紅潮させながら熱に浮かされた様な瞳で、ニヤリ、と口元だけを歪めていた。



 優越感。



 アンナさんはわたしを煽るように、表情だけで優位性を主張してきた。エマさんは貴女ではなく、私を選んだのよ。とでも言いたげな表情……。




 わたしは敗北感を抱え、その場に立ちつくすことしか出来なかった。



「よかった、エマにも他科の友達ができたんだね。この学院に慣れてくれた証拠かな?」


 いつの間にか、クリスチアン様とフレデリク様が後ろに立っていた。敗北者のわたしにその言葉は深く刺さり、勝手に項垂れてしまう。

 まさかまたエマさんと話せないどころか……敵まで出現するなんて。わたしたちの間に障害があるとは、考えてもみなかった。




 その日から、エマさんはアンナさんと昼食を共にするようになり、完全に声をかける機会を失ってしまった。そして、アンナさんの勝ち誇った顔がいつまでも忘れられない……。



 後にクリスチアン様から聞いたのだが、エマさんは騎士科に居るクリスチアン様のご友人達と一緒にお昼を食べているのだとか。エマさんの手料理を!エマさんの手料理を!!!


 ……なんて羨ましい。



 


「昼休みの時間を利用して、この特進科の懇親会を開こうと思うんだ。どうかな?」


 クリスチアン様が柔らかな表情で、そうわたしに語りかけてきた。懇親会……エマさんと話す機会ができるかしら?


「すごく……とても!素晴らしいと思います!」


 エマさんと一緒の昼食!そう思うと嬉しさが全身から溢れ出す思いだった。


「よかった。マリーもエマと話したそうにしていただろう?この会を切っ掛けに、もっとエマの事を知れたらなって思うんだ」


 クリスチアン様はそう言いながら、美しくクスリと笑う。わたし、そんなにわかり易かったのかな……?でも!これでエマさんと距離を縮められれば……!


 わたしはそんな浮かれた気分で、懇親会に思いを馳せていた。

 


 


 

 

 

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