マリーの日記帳8
「あなたがエマさん!わたし!エマさんに会えるのとても楽しみにしていたんですよ!」
わたしはエマさんの元へ駆け寄り、ギュッと両手を包み込む。わたしを見つめるエマさんの傍らには赤いハートが脈打っていて、溢れ出る笑顔が抑えられない。
最後に見たエマさんの姿とは違い、今は髪の毛を肩口で揃えていた。以前彼女を見た時よりも魅力的に感じるのは、わたしがエマさんを特別視して恋焦がれて居るせいだろうか?
エマさんは甘いピンク色の髪を短くしたが、それによって彼女の美しさはさらに増していた。目尻が赤く腫れているものの、マリンブルーの瞳の美しさが相対的に際立ち、彼女の魅力を更に引き立てていた。
彼女の視線を感じると、心臓がバクバクと甘く高鳴る。彼女に触れたい、彼女と一緒にいたいという思いが頭から離れず、ついつい彼女に近づいてしまう。
先程まで変な行動はしないようにと気を付けていたはずなのに、エマさんを前にすると何故だか衝動が抑えられなかった。
「このクラスで女子はわたし達だけですし、身分も同じですし、仲良くしてくださいね!」
わたしはまるで何かを隠すように、早口で捲し立ててしまった。そうしてまるでエマさんの全身を舐める様に見つめていたら、白く滑らかな首筋に赤い傷が有るのが目に付き「キャッ!」と思わず声を上げてしまった。
エマさんは髪を切った時にハサミで擦ってしまったと言って笑っていたけれど、その笑顔は何処か疲れているような……そんな笑顔だった。
そんなエマさんにクリスチアン様が突然近づいて「失礼」と声をかけ、スっと首筋に手を伸ばした。わたしは突然のその行動に、ギョッとしてただ見ている事しか出来なかった。
クリスチアン様の指がエマさんの白い首筋に触れた瞬間、キラキラと光の粒が舞った。これは、魔法?
「さぁ、治ったよ」
そう言ってエマさんの首筋から手を離したクリスチアン様をみて、絶対わたしも治癒魔法を身に付けてやろうと固く心に誓った。
エマさんはクリスチアン様とフレデリク様の顔色を伺いながら、ポツポツと会話を交わしていた。
クリスチアン様を見つめるエマさんの感情は……どんな物なのだろうか?わたしに対する気持ちだけじゃなく、その他の好感度も分かれば……なんて、変なことを考えてしまう。
ドニさんはエマさんの事を好き、なのだろうが……エマさんはどうなのだろう?
赤いハートが見えるという事は、全ての人を平等に愛している白いハートの人達とは違うだろうし。エマさんがどんな人を好きで、どんな人が嫌いなのかが分かれば、エマさんに好かれるにはどうしたらいいか分かりやすいんだけれど……。
その日の授業は、昨日の協働学習の続きからだった。今日が初めての参加だったエマさんが戸惑ってしまうのではと思い、いつでも手伝える様に側に付いていようと思ったが、予想に反してエマさんは迷うことなく図書室の中を移動していた。
せっかくエマさんの役に立てると思ったのに……そう落胆しながら、昨日の授業で使った本をまた集め直す。昨日の今日なので、迷うことなく本を集めて机まで持ってくる。
「疲れているのかい?」
落胆したわたしの表情を見てか、クリスチアン様が小声で問いかけてくる。
「いえ!そんな……エマさんは、大丈夫かなぁと……」
そう言葉にするとなんだか照れてしまって、誤魔化すように笑みを張りつけた。エマさんに会ったら聞きたいことが沢山合ったのに、実際に会ってみるとなかなか会話を切り出す機会がなくて難しいな、と思ってしまう。
「ふふっマリーは余程エマの事が好きなんだね?」
「はっはいっ!」
おそらくクリスチアン様は、揶揄うために言った台詞だったのにわたしが力強く頷いてしまった為に、いたずらっ子の様に微笑んだ顔がキョトンとした驚きに変わった。クリスチアン様はその後すぐ照れた様に控えめに笑ったので、わたしもそれに合わせて微笑んだ。
その時クリスチアン様の黄色のハートがドクンッと脈打ったので、好感度が上がったのだな、と頭の片隅で思った。王子様なのに、こんな何でもない普通の会話に好感をもつなんて少し不思議ね。
小声でそんな会話をしていたら、エマさんがフレデリク様と共に戻ってきたのが見えた。ほんのりと上気した頬をしたふたりが、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
え?
え?
あれ?なんで?どうして?
ふたりの間に、ほんのりと甘い空気が漂っているのを敏感に察知してしまった。あれ?でも、どうして……?
エマさんは、フレデリク様の事が――?
や、やっぱり……頭がいいから……?ふたりとも頭がいいから、会話が弾む、とか……?でもでも……エマさんとフレデリク様がそんなに親しく話す機会なんて、そんなに無かった、はず、なのに……。
うぅ……こんな時に、他の人に対する好感度も見えれば……!
わたしを愛してくれる人が居れば、感情が好感度に左右されないと思っていたのに……。現実は、そんなに簡単に出来ていなかったみたい。
だって、わたしの心はこんなにも、あなたの心を求めてしまうのだから。




