マリーの日記帳7
次の日の朝、登校前にエマさんの部屋にも寄ってみたが、やはり返事はなかった。少し落胆しながら教室に着き、授業開始までエマさんが登校してこないかソワソワしていたが、今日も来なかった。
「エマの事が気になる?」
クリスチアン様に隣から声をかけられる。スっと耳に溶け込むような声質で、これも王族の素養のひとつなのだろうかと変なことを考えてしまう。
「はい……お身体、そんなに悪いのでしょうか……」
「そうですね……生活環境も突然変わりましたし、あの渡された薬というのも魔力系のものでしたから……落ち着くまで待つしかないでしょうね」
フレデリク様は眼鏡に触れながら思案顔でつぶやく。待つしかない。わたしにできることは、何も無いってことか……。
「マリーはまだエマと話したことがないし、やっぱり気になるのかな?」
クリスチアン様がプラチナブロンドの髪をサラリと揺らしながら、コテンっと首を傾げて優しげに微笑みを浮かべる。
「そう……そう、ですね……」
確かに、会ったことも無いのにこんなに気にかけるなんて、おかしかっただろうか……。エマさんには変な子って思われないようにしないと……!
その日の放課後も、エマさんの様子を見に行くドニさんと会うことが出来た。どうしてもエマさんのことが知りたいわたしは、不躾だと分かりつつどうしてもドニさんに質問する事が辞められなかった。
「あのっ!エマさんとわたしって……そんなに似てますか?」
わたしのその質問に、ドニさんは少しうーんと悩む仕草を見せる。
「外見だけだと、髪の色とか瞳の色、あと背格好も似てるかも!」
エマさんの事を思い浮かべているドニさんの横顔は、やっぱり穏やかな笑顔を浮かべていて。
「……あとは、笑った顔とかも……にてるかも」
けれど、そう言ったドニさんの顔色が少し曇った気がした。常に好感度を気にして、常に人の顔色を伺って来たわたしだから分かる、微かな感情の動き。それがどうしても気になってしまう。
「それは……ドニさんにとって、あまり嬉しい事ではないんですか……?」
笑った顔がわたしに似ていると、ドニさんは嬉しくない、のだろうか?どういう事だろう?
感情の動きが分かっても心の中までわかる訳では無いので、余計に疑問が募ってしまう。
「あっいや!マリーさんに似てるからって意味じゃなくてさ!ごめん、この言い方だと誤解しちゃったよね?」
ドニさんは慌てて弁解してくれる。優しげな目元にシュンっと垂れた眉がまるで子犬みたいだな、と思ってしまう。
「えーっと、なんて言ったらいいんだ……昔のエマの笑った顔と変わったって言うか……オレは昔の笑った顔の方が……その、見慣れてる?」
視線をソワソワと彷徨わせながら、途切れ途切れに言葉を繋げる。
それは……見慣れている、ではなく……好き、なのでは、ないだろうか……?
「なんか、この言い方だと……オレって凄い自分勝手だな……」
ドニさんは少し赤くなった顔で俯きながら、小さく小さく、消え入りそうな声で呟いた。
エマさんとドニさんは、幼馴染、で……お付き合いをしている訳ではなさそう……。まだエマさんには会った事はないけれど、ふたりは何か……不思議な関係?なのだろうか……?
今日はこれ以上は踏み込まない方がいいと思い、無難な会話をしながら女子寮までの道のりをふたりで歩いた。
そんな日常がしばらく続いたけれど、エマさんから返事が帰ってくる事も、エマさんが登校してくることも無かった。
そして何度もドニさんに質問をしたせいで“ドニさんの好きな、エマさん像“だけが鮮明になってしまった。
今日もエマさんの様子を確認するために、ドニさんと共に女子寮へ向かうと、寮母さんがわたし達が来るのを待っていたようだ。
寮母さんがドニさんへ、エマさんの鍵を渡すのを見て……何だか、わたしではエマさんの力になれないと……言われているような、そんな気がした。
わたしはドニさんについて行く訳にはいかないので、その日はひとり、部屋へ帰った。そして無力感を抱え、眠りについた。
ドニさんがエマさんの様子を見に行った次の日、何故か、今日はエマさんが登校して来るような気がした。その日はいつもより身支度に時間をかけて、早めに教室に着いた。
扉がスっと開いたのでそちらを見ると、クリスチアン様とフレデリク様が並んでいた。
「おはようございます、マリーさん」
「おはよう、マリー。今日は早いんだね?」
「おはようございます、クリスチアン様、フレデリク様。なんだか今日は……なにか素敵なことがある気がして」
そう言ってわたしが笑うと、ふたりとも笑顔を返してくれた。そうしてクリスチアン様と何気ない朝の会話を交わしていると、背後で扉の開く気配がする。
ドキンっと胸が甘く高鳴る。
全身を駆け巡る熱気に、目が潤む。
ついに、ついに、ついに――会える!
「お久しぶりですエマさん、もう体調は宜しいのですか?」
フレデリク様の声……やっぱり、やっぱり、やっぱり――エマさん!
わたしは逸る気持ちを必死で抑え、振り返り、エマさんの元へ駆け寄った。
「あなたがエマさん!わたし!エマさんに会えるのとても楽しみにしていたんですよ!」
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