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6 新学期の一波乱


呪いの指輪(カース・リング)の効果により95%OFFされたステータス値

基本ステータスは学園入学時


レベル:360 → 18

H P:1380 → 69

M P:2500 → 125


S T R:990 → 49

D E X:1100 → 55

V I T:1350 → 67

A G I:1550 → 77

I N T:950 → 47

M N D:1200 → 60

L U K:1000 → 50



 弱っちい・・・。それでも学園生の中では平均より高い方。

 一般人の平均ぐらい。




※ちょっと流血あります。お気を付けあそばせ。








 学園生が青春を送る白亜の学園棟の中には、一際装飾の多い区画がある。

 王城並みに美術品が並べられ燕脂(えんじ)の絨毯の敷かれたそこは、学年上位15名のみに立ち入りの許された特別な場所である。

 将来国の要人となる侯爵家以上の子息女達と、学園に認められた生徒達が配属されるSクラスの者は、制服に金色の胸章を着けており学園の顔となる、のだが・・・。




 軽く一波乱あった新入生歓迎会の明くる日、学園にて。



 Sクラスのある区画に立ち入る少し前、多くの生徒達が腫れ物を扱う様に遠巻きに様子見をする中で、私を待ち伏せしていたらしい十数人の生徒達が列を成していた。

 ユノと別れて直ぐだったため【隠密】を完全に解いていたのが仇となった様だ。


 昨日の今日の事なので何かあるだろうとは踏んでいたが、ここまで分かりやすく対立して来るとは少し想定外だった。


 リーゼロッテ側に付いている害意をバリバリに発しながら高圧的に私を見下す彼ら彼女らは、きっと現状の貴族派閥の人間なのだろう。

 一晩でこれだけ数を揃えてきたことに感心はするが、一人の生徒をいびるために朝っぱらから集合なんかして、この子達は暇なのだろうか。記念すべき初授業日と言うのに・・・。




 子供じみた嫌がらせに内心呆れながらも、集団の一歩手前にいる金髪ドリル令嬢に向けて礼を取る。

 昨日はやらかした事にビクついていたが、もうすっかり元通りである。


 嘲る様な表情を隠す事もしない子息令嬢達にクスクスと嘲笑れながらも、頭を下げ相手の言葉を待っていると、扇を開く音が聞こえ、そして鼻で笑う様な声が聞こえた。




「ごきげんよう。昨日の傷、もうすっかり綺麗に治っているじゃない。ダンジョン産のポーションでも使ったのかしら?貴重な物をこんな汚らわしい偽物に与えるなんて、バートン男爵は何を考えているのかしら」


 いやほんと、元通りだなァ?

 ごめんなさいの一言もないのか。


「ごきげんよう、クアラーシュ公爵令嬢」


「喋らないで、偽物。私の耳が汚れるわ」


 相変わらずこのわがまま姫は私の声が気に入らないらしい。

 それと、どうやら彼女の中で私のあだ名が『偽物』に決まってしまったらしい。安直なネーミングに再考の余地はありそうだが、まぁ実害はないので放っておこう。



「それにしてもあなた、お友達がいないのかしら?一人で登校なんて寂しい人ね」


 いや、さっきまでユノがいましたけどね。


「教室の場所は分かるのかしら?私が案内して差し上げても宜しくてよ?」


 この言葉、ただのツンデレなら一緒に登校したいの意訳になるのだが、わがまま姫は多分率直に嫌味として言っているんだろう。相変わらずマウント取りに忙しいご令嬢である。



「高貴なクアラーシュ公爵令嬢に案内して頂けるとは、恐悦至極にございます」


 断るのも面倒くさいので更に頭を下げてそう言うと、この返答はお気に召して頂けた様で頭上からご満悦なオーラが漂って来た。


「ふふっ、本当に低劣なのね」


 好きなだけ言うと良いさ。


「着いていらっしゃい」


「ありがとう存じます」



 リーゼロッテは別クラスの取り巻き達に解散する旨を伝え、残った2名と共に私を引っ付けてSクラスのある方向へ向かう。

 落ち着いた色味のレッドカーペットの上を歩き、私に聞こえるように嫌味を言ってくる3人の言葉を右から左に聞き流す事数秒、教室に辿り着いた。



「本来、貴女の様な汚らわしい劣等生が踏み入れる事なんて有り得ない高尚な場所なのだけれど・・・、学園が決めたのなら仕方がないわ。その稀な幸運を噛み締めながら教室に身を置く事ね」


「かしこまりました」


 相変わらずボロクソ言って来るが、荒波を立てる事なくイエスマンに成り切り直ぐに頷くと、リーゼロッテはフッと鼻で笑いながら満足げに顔を歪ませ、私を置いて取り巻きと共に教室に入って行ってしまった。



 その後ろ姿に続いて教室に入ると、ふと、ふわりと頭上に魔力の滞留を感じた。

 そして直後に起こる現象を予感した次の瞬間、頭上にある魔力の塊から魔力の供給が絶たれ、私の頭の天辺に向けて、それが自由落下して来た。


 バシャッと音を立てて肩幅以上の大きさの水球が頭上から落下し、私の全身を濡らした大量の水が地面に大きな水溜りを作った。



 物凄い古典的なイジメのやり方に思わず感心する。

 バケツではなく魔法を使っているのがファンタジーらしいと言えばらしいけど。


 そんな事を考えながら虚空を見つめていると、ショックを受けていると判断したのかクスクスと教室内から笑い声が聞こえてきた。

 視線を向けると、この場にある魔力の残滓と同等の魔力を纏う女子生徒と、その女子生徒と同じ顔をした男子生徒がいた。多分、双子だろう。


 なるほど、今朝のお出迎えの列の中でSクラスのリーゼロッテの取り巻きが二人しかいなかったのは、この準備のためだったのか。やっぱり暇人なのだろうか。



「あらあら、やり過ぎじゃない?あんなに濡れてしまって、少し可哀想よ」


「申し訳ありませんリーゼロッテ様。しかし、これであの者の汚れは少し浄化されたのではないでしょうか?」


「ふふふっ、それもそうね」


 そんな白々しいやり取りを少し離れた位置でしている女子生徒とリーゼロッテ。

 既に教室内にいた他の生徒も、彼女達のまさかの行動に目を丸くして明らかに引いている。



 しかし・・・、これはどう反応すれば良いのだろうか。

 泣いたほうがいい?嘘泣きは流石に出来ないんだけど?


 取り敢えず肌に張り付く髪がうざったいので【水魔法】を使い髪や身体に付いた水気を飛ばし、ついでに床にある水溜りを消し飛ばす。

 そしていじめっ子からの洗礼に礼を取り、最後列の端っこの席に着いた。



「本当に生意気ね」


 あ〜、うん。

 この対応はなんか違うって私も思った。


 ご機嫌だったわがまま姫の気分が急降下して行くのを遠い目て見ていると、暫くして教室前方の扉が開いた。


 チラリとその方を見ると、推しとその取り巻き達が揃って教室に入って来る所だった。


 伯爵家以上の上級貴族組は同じ寮で固められているので、今日は仲良く登校して来たらしい。

 背景に花が見えるほど華やかな集団であるが、リーゼロッテは私をいじめるために自分から抜けて来たのか、お仲間からハブられたのか、事情を知らない私からすると少し判断に困る所である。


 因みに寮の内訳は上級貴族の寮が1つと、中級貴族の寮が1つ、下級貴族の寮が2つ、そして平民組の寮が1つである。男爵家以上が個室で、準男爵家が2人部屋、平民は4人部屋と決められており、相部屋組は先輩と同室にされる事もあるらしい。

 総生徒数の多い学園ならではの寮事情ではあるが、そもそも国内にある教育機関がここだけと言うのは、現代日本で育った記憶のある私からすると、相当違和感を感じる。



 リーゼロッテは王太子の姿を見て嫌な気分が吹っ飛んだのか、席を立ち上機嫌に駆け寄って行った。


 おぉ助かったよ、私の推し。

 これでリーゼロッテが今回の対応にグチグチ言って来る事もなくなったな。



 内心ほっと息を吐いていると、取り巻きからそっと離れたエレナーレが一人のご令嬢を引き連れてこちらにやって来た。


「おはよう、ロクサーナ」


「おはようございます、エレナーレ様」


「今朝何かあったのかしら。他のクラスの子達が貴女の噂話をしている様だったけれど」


「ええ、貴族派閥たちからのお出迎えを少々。ずらっと勢揃いて圧巻でしたよ。此方としては敵の顔が分かってありがたかったですけど」


 わがまま姫とその派閥は王太子に夢中で聞いていないのを確認してサラッとそう言うと、エレナーレは並んでいるもう一人のご令嬢と顔を見合わせ、揃ってクスクスと笑い出した。


「ふふっ、相変わらず元気そうで良かったわ。昨日会場で別れてそれ切りだったから」


「そうですわよロクサーナ様。出血もされていましたし、心配していたのですから」


「お二人とも、ご心配お掛けしました。ヴェラ様はお久しぶりですね」


「えぇ、お久しぶりです。1年前のお茶会以来ですわね」


 薄紅色の髪が綺麗なご令嬢の名はヴェラ・エルヴェステイン伯爵令嬢。

 エレナーレのお友達なのでアスティア家のお茶会で話す事もそれなりにあった。

 私的に仲は悪くないとは思っていたが、どうやら私の事を心配してくれていたらしい。


 天下の公爵令嬢と分かりやすく対立しているにも関わらず、今までと変わらず話しかけてくれたのは少し驚いた。


 しかしこの二人、顔面偏差値が相当高いので揃って目の前に立たれると眩しい。

 制服を着ているからか、その美しいご尊顔が最大限に際立っている。



「この教室って自由席なのよね?お隣、良いかしら?」


「えぇ?・・・えぇ、お好きにどうぞ」


「でしたら私は、エレナーレ様のお隣に失礼いたしますわね」


 アスティアのお姫様が最後列なのはまずいんじゃないのかと指摘しようとしたのだが、ノーと言わせないエレナーレの眼力に思わず頷いてしまった。

 そんなやり取りに気付いていないヴェラは、ルンルンでエレナーレの隣に腰を下ろした。





「――ロクサーナ嬢」


「・・・ごきげんよう、王太子殿下」


 おい、なぜ来るし王太子殿下よ。

 お主が来たら付録が付いて来るだろう・・・。


 そんな文句を心の中で呟きながら立ち上がって礼を取る。


「頭を上げて顔を見せてくれ、ロクサーナ嬢」


 んんっおうぅ。

 そうだよな。

 昨日の傷が気になるよな。


 なんか訳も分からず甘い言葉に聞こえてしまうのは気のせいだよな。

 私の心が汚れているせいなんだよな。


 心の中は相当ざわついているが、言われた通り顔を上げると、珍しく真剣な表情の推し、と般若の様な表情で爆発寸前のわがまま姫。

 oh・・・、こりゃ後が大変そうだ・・・。


 内心遠い目をしていると、不意にずいっと推しの顔が目の前に接近してきた。

 そのまま流れるような動きで、額から顳顬(こめかみ)に掛かる髪をそっと指で掬い取り、傷があった場所をまじまじと確認していく。

 背筋から首筋にかけて走ったゾワっとした感覚に思わず表情が固まる。


 ッッ・・・。

 近いっ・・・、近いっス・・・。

 ファンへのおさわりは厳禁でございますぞ、王太子殿下ぁぁ・・・。



「・・・あぁ良かった。綺麗に治っているね」


 確認して数秒の後、安心しような優しい声で、目と鼻の先でふわっと緩む王太子の顔に、ヒュッと喉が鳴り本能的に息が止まるが、そのまますいっと半歩後ろに下がる。

 生命の危機に思わず『縮地』を使ってしまったが、一瞬の事だったので誰も気付かないだろう。

 一周回って静かになった思考のまま、何事もなかったかのように再び礼を取る。


「ご心配をお掛けいたしました」


「いいや、あれはリゼルのやり過ぎだから。心配して当たり前だよ」


 おい、その言い方はやめてくれ。

 後ろの火山が噴火しそうなんだぞ、気付いてくれ。


 王太子の取り巻き達はリーゼロッテの様子に明らかに引いている。



「・・・左様でございますか」


「うん。じゃぁ改めて、これからもよろしくね」


「私からも、よろしくお願い申し上げます」


 私がそう言って頭を下げると、王太子は笑顔で軽く手を振りながら取り巻き達と共に教室前方へ去って行った。

 その際にリーゼロッテが相当険悪な顔をしていたのはきっと気のせいではないだろう。

 王太子は最強の推しではあるのだが、彼女のいる場所ではできればよろしくしたくないと言うのが本音である。



「恐ろしい方ね・・・」


「本当に・・・」


 リーゼロッテの事に関して楽観的すぎる王太子の言動に呆れて返っているエレナーレの言葉に、私は深く頷いた。







 暫くエレナーレとヴェラの3人で会話をしていると、日本の学校と似た雰囲気のあるチャイムが鳴り、一人の男性教師が教室に入って来た。



 教師用の制服に身を纏った少しクセのある亜麻色の髪の男性。

 その顔を見て私は本日2度目の呼吸困難に陥った。

 それと同時に教室内がザワっとする。

 彼は有名人だから、ここにいる全員がその顔を知っているのだろう。

 その男性は生徒からの好奇な視線を気にする事なく颯爽と教壇に上がり教卓に手をついて、いつも通りの人好きのする笑顔を浮かべた。




「おはよう、初めまして。Sクラスを任されたハーバード・ナイトレイルだ。よろしく」


 告げた簡潔な自己紹介に、クラスメイトからおぉっと感動の声が上がる。

 まさか、本物だ、等の声がちらほら聞こえている。


 私も出来る事なら疑いたいのだが・・・まぁ、本物だろうなぁ・・・。

 最近は私の心の平穏を脅かす敵が多くてうんざりである。

 現実逃避の一つや二つをしたって神様も怒らないと思うのだ。



 180はある身長に美しく均等の取れた厚い筋肉が付き、作る表情などで総体的に物腰の柔らかい印象を与えるが、潜って来た修羅場の数だけ眼光に凄みを生んでいる。



 私の横に座るエレナーレから困惑の視線が送られているが、その視線に私は無感情に無表情に首を横に振った。只今の私の心情は虚無である。



「――知っている人もいるだろうが、俺は普段モンダールでAランク冒険者をしている。パーティーメンバーの一人が暫くの育休に入るので暇してたんだが、Sクラスの担任を卒業生から探してるって言うのを聞いて、急遽1年間限定で採用された訳だ。うちのナイトレイルも伯爵家、学園生時代にはSクラスにいたし学生生活関係で分からない事があったら遠慮なく聞いてくれ」


 それを聞いて感情そのままに両手を机に叩き付けたくなる。

 そして私の本能はこう叫んでいる。


 前回モンダールで会った時、何も言ってなかっただろう!ハーヴィー!!!

 育休ってあれか?ヴェストの所か?

そうだな、奥さん臨月って言ってたしな!!




 説明しようッ。彼の名をハーバード・ナイトレイルと言う。略してハーヴィー。

 年齢は26歳で、彼の実家のあるナイトレイル領は王都の北東に位置するのんびりと穏やかな農作地帯である。次男坊の彼は、学園卒業後の進路について騎士団か冒険者の二択で迷わず冒険者を選んだらしい。


 私の冒険者仲間の中で多分一番仲が良い戦友である。

 普段の彼らは幼馴染で3人パーティーを組んでいるのだが、タイミングが合えばロキと二人で潜る事もしばしば。そして稀に4人パーティーになったりする。冒険者新聞にも私たちの仲の良さは取り上げられているので周知の事実である。

 彼が使う獲物は両手剣、それを片手で持ち前衛でガンガン敵のH Pを削ぐアタッカーで、新進気鋭の彼のパーティー『星降りメテオ』もパーティーランクでは最高位のAランクに認定されている。貴族上がりには珍しい、世界でも指折りの冒険者なのである。



「担当分野は戦闘訓練。魔法についてはからっきし。教養については、まぁあまり期待しない方が良いだろうな」


 そう呑気に自己紹介をするハーバードだが未だ私の存在に気付いていない。

 数日前まで王都の東にある塔のダンジョンにいたことは冒険者新聞を通して知っているかもしれないが、まさか学園にいるとは1ミリも考えていないのだろう。

 私も、彼に次会うのは今年の夏に開かれるギルド公式戦の『世界大会』だと思っていた。

 予期せぬ場所での再会である。本当の本当に、まさかのまさかである。



 その後も、モンダールダンジョンについてであったり、パーティーメンバーのことであったり、更にはロキについての事を簡潔に話していくハーバード。ある程度クラスメイトたちからの関心を引けた頃に、ようやっと学園の話に入ったのだった。

 その間私は、頬が引き攣らない様にいつも以上に表情筋を使ったのは言うまでもない。






 4学年構成のこの学園では、貴族の義務教育の場であるだけあってそのカリキュラムは、将来国の中枢で働く貴族に合わせて組まれている。まぁ貴族家の次男以降は、卒業後は準貴族として文官なり下級騎士なり、ほぼ平民の様な暮らしをするのが殆どではあるが。


 国語、算数、地理、歴史、公民、経済、音楽、芸術と言った日本とそう変わらない教科名のものもあれば、魔法史、魔法薬学、魔法科学、魔法倫理学、魔法実技と言ったファンタジー世界らしい教科もある。

 あと見慣れない教科と言えば、戦闘、舞踏、給仕、刺繍とかだろうか。

 どこの専門学校だよと突っ込みたくなるが、マニアックな教科については必須科目ではなく2年次以降の選択科目となるのが殆どである。



 更に授業とは別に課外学習の様なものも行事として組まれている。

 例えば、2・3年次には騎士団への体験授業があり、陸・海・空の部隊にそれぞれ3日ずつ仮配属され働かされる。まぁ文官と武官でその内容は大きく異なるが。


 ダンジョン活動も課外学習の一環である。

 クラス内で5人ほどのパーティーを作り、15階層構成の学園ダンジョンを踏破する事が卒業までの必修課題である。

 勿論、変に偏ったパーティーになってしまった生徒への救済措置として、ダンジョン冒険者を1人まで雇う事はできる。その分評価は落ちるので最終手段ではあるのだが。

 私以外にも生徒内に冒険者がいる事はたまにあるので、先に踏破した冒険者生徒をパーティーに編成する事も出来る。その辺りは暗黙の了解として歴代の先輩たちから語り継がれている裏技であるのだが、まぁ、クラスメイトとしてダンジョン攻略のコツを教えてもらう分には普通にO Kなので、卒業出来ないとなると本当によっぽどである。



 その他に学園での年間行事(イベント)を上げるなら、秋の学園祭と冬のランキング戦だろうか。

 学園祭はそのまんま。ランキング戦は、このグランテーレ王国のある中央大陸内に存在する学園を一挙に集めたSクラス対抗戦である。

 開催国はギルド管轄の大競技場を持つ4つの国を順々に回っていて、丁度今年はグランテーレ王国開催の年である。国の規模によって学園内のSクラスの人数は異なるが、少なくとも5名は配属されているらしく、ほぼ強制的に出場させられる。毎年魔道船をいくつか飛ばすので、遠いからお金が足りないなんて言い訳は通用しないのだ。

 出場は3年次までだが、学年関係なくトーナメント式で行われるため普通に3年生が勝ち上がる。私も自重するために、学園内では剣以外の全く別の武器を使おうと考えている。




 ハーバードによる学園の説明が終わり、クラス内で暫定の5人組が作られた。

 本来自由に組む事が出来る班分けであるが、社会の縮図である学園では毎年派閥などが考慮される。このクラスは人数も少ないし、ほぼ決まったも同然であった。

 3班とも5名ずつ、気持ちがいいぐらい綺麗に分かれてくれてくれた。



 まず王太子とその取り巻き3名と残りの貴族子息。

 詳しく言うと、将来側近候補の現騎士団長ポート侯爵家の長男アロイス、メルシワ伯爵家次男セスト、マッコネン伯爵長男ルート。そしてアルファーノ子爵家3男シリヤ。


 次にリーゼロッテ嬢とその取り巻き4名。

 オーブリー伯爵家長女アデリナと次男レアンドロ、シニヴラ伯爵家長女イシカ、カルネウス子爵家次男チェスター。


 最後にエレナーレとその取り巻きのヴェラと私、そして平民2人。

 私と同じパーティーになった平民は、筆記試験学年2位を叩き出した大商会アマルディのご令嬢クララと、村育ちのエトである。エトの方は戦闘試験で試験官を負かし一点突破でSクラスに配属されており、村では魔物を倒しまくっていたらしく、見るとそのレベルは25であった。これは冒険者として既に一人前レベル、Dランク相当である。

 パーティーでの戦闘は剣使いのエトがメインアタッカーとなりそうだ。その他には棍術(メイス)の出来るエレナーレと盾術スキルを持っているというクララが前衛、魔力の多いヴェラが後衛になる。

 私は・・・、弓でもやろうかな?そしたらバランスが良くなりそうだ。

 うん、弓は全くの初心者だから、ちょっとウキウキするね。










「――弓、って本気で言っているの?」


「勿論本気ですよ?ダンジョンに入る1週間後までには、それなりに戦える様に仕上げたいですね。腕がなります」


「・・・まぁあなたがそう言うなら、任せるけれど」


 パーティーメンバーとの交流もそこそこに、ハーバードの専門である戦闘授業を初っ端にすると言うので、私たちは貴族風運動着に着替えて修練場に集まっていた。

 まぁオリエンテーションぐらいのノリなのだろうな。


 とりあえず全員に配られた刃の潰された鉄剣を手に、ハーバードからの指示があるまでエレナーレと軽口を叩いていたのだが・・・。


 痛い痛い、視線が痛い。

 リーゼロッテからの鋭い視線が相当突き刺さって来る。

 軽く殺気を放っているのだが彼女の情緒は大丈夫だろうか。



「ーーそれじゃあ取り敢えず軽く打ち合おうか。2人組を組んでくれ。余ったのは俺とだ」


 ・・・二人組?


 チラリとエレナーレを見るとその隣にはヴェラ。

 うん、さっきから3人でいたもんね。そりゃぁいるよね。

 残りのメンバーの二人を見ると既にペアを組んでいるご様子。

 他のクラスメイトの方に視線をやると、既にリーゼロッテ組と王太子組で綺麗にペアが組まれていた。

 あれ?これ、私があぶれる流れだな?



「これは・・・初っ端から前途多難ですね」


「えっと・・・、頑張れ?」


 疑問系で励ましてくれるエレナーレ。私がぼっちになるのは確定らしい。うん、まぁロキの正体を知っているエレナーレからすると、これ以外の選択肢はないのだろうな。




「――ん?君が残ったのか?えぇっと、名前は・・・、なんだっけな?」


「ロクサーナ・バートンです」


「バートンって、・・・あぁ、噂の」


 男爵家の屋敷からろくに出て来ない孤児の末っ子。多分その噂のことだろう。

 モンダールの街ではロキ()の耳にもその話は普通に入ってきているので、モンダールをホームに活動しているハーバードも勿論知っている。なんなら私は『星降りメテオ』からこの情報を仕入れたはずだ。


「よろしくお願いします・・・」


 頑張って鉄剣を抱え俯きがちに頭を下げる。


「ああ、よろしくな。君は・・・、そうだな、あまり戦闘は得意ではないみたいだな」


 手に持つバインダーに視線を落とし、私の入試の内容が書かれているのであろう資料を見ながら、ハーバードは分かりやすく苦い顔をしてそう言った。

 その言葉を耳聡く聞いていたリーゼロッテ達にクスクスと笑われた。


「ふふふっ。領地内に世界最高のダンジョンがあると言うのに、剣もまともに扱えないなんて、本当に愚劣ね。低能な偽物らしいと言えばらしいけれど。スライムもまともに倒せないのではなくって?」


 スライムは踏ん付けたら殺せるだろう・・・。

 モンダールダンジョンは3階層までは一般人にも解放されているので、モンダールに生まれた者ほぼ全員がダンジョンでレベルを上げている。それが領民の向上心を大きく駆り立てているのだが、領主家にいる私が剣を扱えないと言うのは、相当なマイナスポイントなのだろう。

 まぁ360になっているレベルが95%OFFされレベル18なので、それなりにスライムを踏み殺している設定にした方がいいのかな・・・?しかし、毎日倒したとしてもスライムの経験値では少し厳しいような気もする。戦い慣れていないにしてはちょっと高いんだよなぁ・・・。



「・・・仲が悪いのか?」


「・・・えぇ、まぁ。派閥がありますので」


「あぁ・・・」


 ここぞとばかりに棘を刺してくるリーゼロッテを見て、ハーバードは小さな声で問うて来たが、私が低めのトーンでそう返すと、彼は納得がいった様で、困った顔をしながらも頷いた。

 その間にも、不相応だの汚らわしいだの語彙の限りを尽くして言葉を並べ連ねるリーゼロッテ。相当鬱憤が溜まっているのだろうな。


「何か言い返さないのか?」


「・・・相手は公爵令嬢なので」


「まぁそうだろうけどなぁ・・・」


 流石に言い過ぎじゃないかと言外に述べるハーバードだが、しがない男爵令嬢の私にどうしろと?



「――そうだわ!ハーバード様!私とペアを変えて下さらない?」


 おいおい、なんか言い出したぞ、コイツ。

 放置しない方が良かったか・・・。


「うん、まぁ構わないが、理由を聞いてもいいか?」


 止める理由はないだろうけど、もっと粘って欲しかったなぁ・・・。


「えぇえぇ!私、思ったのです!高貴な私自らが、卑しい偽物に制裁を下す事にこそ、貴族としての正義があるのだと!」


 おおおお〜〜、『制裁』に『正義』と来たか。

 彼女の中で私は完全な『悪』なのだろうな。


「ちょっと何を言っているのか分からないんだが・・・、まぁ、『急所への攻撃』と『突き』を使わないのであれば交代しても構わないぞ」


 ハーバードからすると、リーゼロッテの尊大な宣言の中にどれだけ不穏な言葉が入っていようとも、所詮は子供の戯言と考えているのだろう。

 まぁその通りではあるのだが、担当クラスの生徒が堂々と虐められているのに止めようとしないのは、いかがなものなのだろうか。この世界にかの教育委員会があれば、彼は即退場、1発アウトである。

 一応チラリと私の顔色を伺って来るが、担任が止めないのなら頷くしかなかろうよ。


「――せいぜい扉の角にでも足の小指をぶつけると良いさ」


「ん?なんか言ったか?」


「いいえ、何も?」


 軽く呪ってやるぐらいは許されると思うのだ。




 そうして入れ替わったペア。

 双子の片割れであるオーブリー伯爵家のお姫様アデリナはハーバードとのペアになり、そして私の目の前にはニヤニヤと笑っているリーゼロッテ嬢がいる。

 素晴らしい悪役顔である。

 真正面から見ると、夜会で会ったクアラーシュ公爵とは顔付きはあまり似ていない気もするが、彼女は母親似なのだろうか。因みに公爵の髪色はワガママ姫と同じ金髪であった。


 リーゼロッテの取り巻き以外のクラスメイトからは、私の身を心配する様な視線をひしひしと感じるが、まぁ流石に死にはしないだろうから大丈夫だろうさ、うん。



「それでは軽い撃ち合いから始める。魔法スキルは使わない様に。戦闘系の補助スキルもな。それと極力剣を狙って撃つ様に。では、・・・はじめ」


 その声から一拍置いて、キンキンとそこかしこから鉄剣の撃ち合う音が聞こえ出す。

 持っている戦闘系スキルが前衛だろうと後衛だろうと、はたまた生産系だろうと、このクラスに入った生徒の中に剣で戦えない人間はいないので、躊躇いはないのだろう。

 ・・・()以外は。




「――早く構えなさいよ」


 周囲からの注目がなくなりリーゼロッテの口調がワガママ姫に戻る。

 それを聞いて、今のステータスでは少し重く感じる鉄剣をふらふらと正眼に構える。

 私のそんな様子にはんっと鼻で笑われた。


「しっかりと構えないと、・・・死ぬわよ」


 そんな脅しの言葉と共に力強く踏み出したリーゼロッテ。


 えええっ・・・。

 初っ端から飛ばし過ぎだろぉ〜・・・。

 このワガママ姫はハーバードの言葉を聞いていなかったのだろうか。

 軽く撃ち合うだけの訓練で何故に殺しに掛かってくるのか。

 身に纏う気合も、身体への力の入れ具合も、私へと向けるその意気は完全に『殺意』のそれである。


 ステータス値は一般人の平均ほどに下がっているが持っているスキルはそのまま、そして勿論今までの戦闘経験もそのままなので、素人の学生にしては素早い動きを見せる彼女の動きは手に取るように見える。

 ・・・が、勢いよく振り上げられ、力尽くで振り下ろされるその剣を受けるのに、果たして今の私のステータスで間に合うかどうか。


 私の剣術スキルはレベル10とカンストはしているが、そもそもこんな弱っちいステータス値で獲得できる代物ではないので、ほぼほぼ仕事をしていない様だ。システム側からすると今の状態は相当なイレギュラーであろう。

 なるほど、それを今のうちに知れて良かった。ダンジョンの中でパーティーがピンチに陥った時に対処が遅れるのは最悪だからな。



 残像が見える程のスピードで、私の頭蓋に向けて容赦なく振り下ろされるリーゼロッテの剣を、私は持っている剣を横に倒し受け止める。

 そのまま傍に受け流すが、しかし剣に不器用になった私の腕には衝撃の殆どが伝わってしまった。

 予想以上に弱くなっている自分に驚き、取り敢えずバックステップでリーゼロッテの間合いから離れる。


 腕と肩周りに感じるジリジリビリビリとした痛みに少し感動してしまう。

 そうそう、昔はこんな痛みはしょっちゅう感じていたっけ。

 ただ、まぁ【物理耐性】のスキルは変わらずあるので、あの頃と痛みの感じ方はかなり違うと思うけど。


 素早く離れた私の動きにリーゼロッテは少し怪訝そうな顔をするが、直ぐに駆け寄ってくる。


 軽い撃ち合いでは発生しないであろう剣戟の音に周辺のペアが気付き、撃ち合いを止めてギョッとした顔でこちらを見ている。

 ハーバードはと言うと、ペアになった女子生徒と剣を打ち合いながら少し呆れた顔でリーゼロッテを見ていた。


 止めてくれないのかなぁ〜?

 そんな事を思いながらリーゼロッテの剣を再び受け流す。

 今度は衝撃が伝わらず上手く流すことが出来た。


 このワガママ姫、意外にもS T Rの数値が高いらしい。今の私が確か49だったからそれ以上、50後半ぐらいはありそうだ。

 見た感じA G Iの次にS T Rかな。バリバリ剣士のステ振りである。本当に意外だ。

 まぁ魔法使いになる程I N Tが高くないのかも知れない。

 そう言う私もステータスの中ではI N Tが一番数値が低いけどな。他が高すぎるんだよ。


 上手く受け流せた2本目の攻撃の間そんな事を考えていたからか、即横薙ぎにシフトされた振り下ろされた剣に対処できなかった。

 軸のズレた体でそれを受け流す事は出来ず、がら空きの脇腹にモロに食らう。


「ッ・・・」


 踏ん張り切れなかった体がくの字に曲がり2メートルほど宙に浮いた。


 いッッ・・・つゥ〜〜・・・。

 マジで殺しにかかって来るのは勘弁してほしい。

 冒険者でもあり得るS T R値から繰り出される容赦のない攻撃を身に受けるのは、流石に堪える。

 そしてどうにか着地出来たと思っていると、腹の底から多分血と思われる熱いものが喉を伝い迫り上がってきた。


「グッ、・・・ゴホゴホッ」


 口に手を添え咳き込むと、掌から赤黒い液体が大量に滴り落ちていく。


 あーはい、やっぱり血ですねー。

 どうやら先程の攻撃で内臓がやられたらしい。

 あぁ・・・、本当に勘弁してほしい・・・。


 ぼんやりと霞みグラグラと揺れる視界の中で、リーゼロッテが私に向けて一歩踏み込んだのが見えた。



 視界は見えずとも周りの環境は手に取るように分かる。

 軽い訓練の範疇を超えた攻撃にハーバードがリーゼロッテを止めようとするが、ペアのアデリナが足止めを頑張ってるらしく、数拍遅れた。彼が容赦なくアデリナの首に手刀を落とす頃には、リーゼロッテは私のすぐ目の前、ここに割り込むのはハーバードには少し荷が重いだろう。


 私的にはリーゼロッテからの次の攻撃は今までと同様の大ぶりに振り下ろしだと思っていたのだが、意外にも下段からの横薙ぎ。先程攻撃した左脇周辺を狙っている様で、今の弱点を狙う辺り本当に殺す気でいるらしい。


 いや、流石にこれは真面目に剣で受けて良いよね?良いよね?

 そんな事を考えながら剣先を真上に向け左手を剣の腹に添える形で受け様としたのだが、ふと違う場所からこちらに向かう魔力を感じ取った。どうやら私の敵は一人ではなかったらしい。


 ・・・、はぁぁぁぁぁ・・・。

 まぁいっか、死にはしないだろうし。


 そんな諦めの境地から向かってくる魔力の妨害を止める。

 反射的にごく僅かにピクリと反応してしまうのは許してほしい。


 感知した属性は闇。対象は私の剣。

 【闇魔法】ではレベル2程度であれば、対象の武器の耐久値をほんの僅かに落とす事ができるのだ。装備のレア度や魔法耐久度などで難易度の上がる魔法だが、今持っている剣はただの鉄剣である。効果は的面であろう。

 この年で【闇魔法】レベル2を持っているのは手放しで褒めるべきだ。まぁやられる側からすれば、心の底から使い所には気を付けて欲しいのだが。



 霞んでいる視界の中、私の構えた剣にリーゼロッテの剣が触れ、その全ての衝撃が伝わり切る前に剣に伝わる感覚が不自然に歪み、半ばからポッキリと折れてしまう。


 う〜ん、分かっていた事だが、もう少し頑張って欲しかった、名もなき鉄剣よ。

 こと切れた鉄剣は、最後の役目として幾許かリーゼロッテの剣の速度を落としてくれたが、そんなものはほんの誤差で、リーゼロッテの剣は私の腹に想定通り吸い込まれる様に向かって来る。

 刃が落とされていて本当に助かった。真剣だと普通に真っ二つだろう。



 鈍い衝撃、――浮遊感。

 そして勢いそのまま私の体は右手にぶっ飛んで行き、ゴロゴロと転がった後ズザァーっと地面を滑った。


 転がる過程でメガネも少し離れた場所に飛んでいき裸眼になったため、地面に顔をつけた状態で自分のH Pを確認すると残りポイントは6であり、瞬きをする間に5に変わった。


 本当の死にかけ、あと数秒もすれば私はこの場で息絶えるだろう。

 光も感じなくなってきた視界の中で、私はふと冒険者になって初めて重傷を負った日を思い出していたーーー。





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