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26 夢のつづきへ






 星王戦第1回戦があの盛り上がり様だったので、今大会の星王戦出場選手たちは相当やりずらかったらしい。

 今大会イチの盛り上がりだったと自負しているので、指摘された時は素直に謝った。




 星王戦のその後の対戦は、一回戦に比べたら見劣りするものではあったが、それでも例年以上の盛り上がりを見せていた。

 その理由は公式戦では稀に見るほどに、種族に多様戦が見られたから。

 彼らは、グランテーレに不当に囚われていた被害者や遺族の所属する国家、その代表の冒険者達である。

 彼らにとって、今回のような人間種の卑劣なやり方は到底納得できないようだが、それでも非道に走る事なく、私の宣戦布告宣言を聞いて正々堂々この場を持って真剣勝負に挑んできた。

 まあ、何カ国かは正々堂々から外れた者たちもいたが、すでに全て追い返しているので、問題はないだろう。



 人間種より戦闘に特化した彼らを、私がちぎっては投げちぎっては投げしていたので、観客たちは面白かった事だろう。


 私も加害国家であるグランテーレが母国ではあるが、決して彼らを蔑ろにしている訳ではない。

 余裕だからと適当にあしらって終わらせることなく、最初の発言通りに観客に魅せるために全力で真剣に戦った。

 そんな私の姿勢を見て、挑んできた彼らも潔く負けを認めてくれたし、私と剣を交えて感じたものを、そのまま母国の人々に伝えてくれたらと思う。




 そして舞台は最終局面へ。

 最終日、星王戦、タイトルマッチである。


 勝ち進んだのはもちろん私。

 そしてーー


「やっぱり君がきたね」


 ニコライ・フランズワース、現星王タイトル保持者である。


「お久しぶりです、ニコライ殿下」


「殿下はやめてくれって言ってるだろう?」


 その言葉に私は笑みを返すに留める。


 そして私の笑みに、ニコライは万人ウケする爽やかな笑みを浮かべた。

 きれいに整った顔に浮かぶ完璧な笑みに、観客席にいる女性陣は揃ってうっとりと頬を染めている。



 しかし私はその笑顔を向けられる度、心底胡散臭いと思うのだ。


 Sランク『妖鬼』のニコライ、フランズワース王国第3王子。

 この二つが彼を表す肩書きである。

 北の島国、フランンズワース王国の先代国王の第3子として生まれた王子である彼は、母国の学園を卒業後、わずか1年足らずでA級ダンジョンの一つ、ラブリアルダンジョンを踏破した最強の冒険者である。


 彼と初めて顔を合わせたのはおよそ3年前、モンダールのギルドである。

 当時の私はSランクに上がると噂されていて、そんな私がギルドに現れるのを待ち伏せした上に、初対面のくせにダンジョン攻略について来たいと言ったのだ。

 もちろん即断ったのだが、いくら断ってもこの胡散臭い笑みでしつこく言い寄って来たので、気持ち悪くて思わず了承してしまった。

 私の強さについて、他のSランク冒険者でも付いていけないと風評し出したのはこの人である。


 私の【察知】スキルのレベルが人より強いからだろうか、この人の完璧な笑顔の下に私はどうしても『邪』のものを感じてしまうのだ。

 今のところこちらへの被害は全くないので、深く追求しない様にしているが、それでもやはり気持ちが悪い。


 私的には絶対に仲良くしたくないのだが、あちらが顔を合わせる度になぜか絡んでくるので、いつも最低限の言葉で返答し、彼の笑顔の真似をしてあしらっているのだ。



「さて、会話もそこそこに始めようか。どうせ僕も負けるんだから」


「その割には嬉しそうですけど」


「まあね。君と戦える機会なんてそうそうないから、楽しまないと」


 そう言って腰に刺している剣を引き抜いた。

 彼が使うのは片手長剣、私のものより少し長いほどの大きさである。


 『妖鬼』のニコライ。その二つ名はその戦いぶりから来ている。

 普段の王子様然とした言動とは違い、完全に戦闘狂のスイッチが押されるのだ。


 剣を抜き半身を引き、ニコライの出方を観察していると前方から魔力の膨らみを感じた。


 どうやらこの戦い、魔法戦から始まるようだ。


 ニコライは剣を構える事なく地面に手を着き、その魔力を流したとほぼ同時に、私の正面斜め下から私の頭蓋目掛けて土の針が無数に生えてきた。

 明らかに魔法構築の時間が常人のそれではない。

 瞬きをする間も無く生えてきた土塊の針を魔法防壁で防ぎながら、その力を使いふわりと後方に飛ぶ。


 彼の得意としている魔法属性は土と水。

 地味ではあるが物理攻撃としては有能である。


 魔法とはイメージ。詠唱で理論立てて構築する場合もあるが、そんな暇がない戦闘中は無詠唱で構築することがほとんどだ。

 そこでモノを言うのがイメージ力、そして魔法の構築スピード。

 今の攻撃を見て分かる通り、ニコライは星王のタイトルを持っているだけあって、この二つの能力が抜きん出て高い。

 さすが最強と言われれるだけのことはある。


 そんなことを分析しながら地面に足をつける寸前で、その着地点に魔力の揺らぎを感じとる。

 やはり、他の冒険者と比べ魔法の使い方が巧妙だ。

 私の着地を見据えた攻撃を避けるため、即席の魔力の塊を空中に作りそれを足場に横に飛ぶと、私が着地するはずだった場所から同じように土の針が出現した。

 ・・・、あれ、普通の人間ならグッサリといって即死なのだが。


 無事地面に足をつけた私は、一発目の土の針を消すニコライに向け拳大の火の玉を10ほど放った。

 それを土の壁を作り防ぐニコライ。

 その隙に少しだけ気配を消し『縮地』で壁の裏に回り込み、防御に気を取られているニコライへ向け剣をひと薙ぎお見舞いする。

 どうにか私の存在を察知したらしいニコライは、手に持っている剣でギリギリそれを防ぎ、そして今度はニコライが後方へ飛ばされた。


 一瞬の攻防。

 並の冒険者であれば、どれか一つでも食らっていれば一発ノックアウトだったやり取りに会場の声援が一等大きくなる。



「やっぱり、ロキは魔力察知が桁違いだよね。着地の時のあれなんて、普通は気づかない。ロキのそれを上回らない限り、僕の勝ちはないかな」


 魔法戦の場合、魔力察知は未来予知にも似た効果を持つ。

 次にどのような攻撃がどこから繰り出されるのか、それが手に取るように分かるから。


 パラパラと魔力で作り出された土が、ニコライの手により大気のオドに還っていく。

 物質を操る系の魔法、土や水の魔法は放置していると半永久的にその場にあり続ける。

 今のような舞台上という有限な場所での戦闘の場合、邪魔になることが多いので、魔力を使い消し去ることがほとんどだ。


「それじゃあ僕も、皇帝陛下に倣って潔く剣で挑もうかな」


 そう言うなり一気に距離を詰めてきたニコライの横からの攻撃を、自らの剣で受け勢いよく頭上に流し、その空いた腹に思い切り蹴りを入れる。

 どうにか魔力を張り内臓への衝撃を分散できたようだが、そこそこに力を入れた私の一撃はそれはそれは重かったらしく、血を吐きながら更に後方へ飛んで行ってしまった。


 【剣術】スキルはレベル5いや、4の後半といったところか。

 皇帝の方がまだ高いような気がする。

 『星王』にしては少し弱いような気がするが、器用貧乏なりに対戦者を巧みに圧倒してきたのだろう。去年も割とすんなりと星王タイトルを獲得していた印象がある。

 土や水の物質を操る魔法属性と、火や風といった大気を操る魔法属性では、魔力の量や質の条件を揃えれば前者の方が押し勝つ傾向がある。

 故に火属性を持つ皇帝とぶつかっても、ニコライの方が勝つだろう。



 昨日の第一試合で皇帝に言った通り、私のノルマは魅せながら圧倒すること。

 さて、どう料理したものか。


 そんなことを思いながら遥か後方で蹲っているニコライに視線を送ると、視線が合った。


 その顔に浮かぶ表情には見覚えしかなかった。

 どうやら無事、彼の戦闘狂スイッチが入ってくれたらしい。

 ゆらゆらと漏れ出る魔力が漂う様は、まさに『妖鬼』である。


 立ち上がったニコライが剣を構え、そこそこの距離があるにも関わらず、縮地を使わずわずか2歩で私の懐に入って来たのを見て、この戦いも少しは楽しめることを感じ思わず口が弓形に歪んだ。






 ニコライの戦闘狂スイッチが押されてからの戦闘は、ガラリとその雰囲気が変わった。

 魔法を使って器用に相手を追い詰めるスタイルから、剣を使い、自分の体に魔力を纏わせ一撃一撃にも魔力を込めてくる魔力ありきな力押しスタイルへ。

 魔力量の多い人間でないとできない芸当だ。


 そして明らかに剣筋が鋭くなっている。

 しかしこの感じ、その能力を隠していた訳ではなく、己の持つ能力を限界まで引き出している、と言った感じだろう。

 戦闘狂スイッチが入ったことにより、彼の身体的ストッパーが外れていると思われる。

 後遺症が何かしら残りそうな戦い方だが、まぁこの世界のことだし回復薬を飲めば治るのだろうな。



 ギンギンと何百何千という剣戟の音が闘技場に響き続け、息を呑む間もない攻防に、観客は食い入るように見入っている。

 ニコライもあくまでも星王。その本気の戦闘は、この場にいる人間の目に追えるものではなくなっている。それをどうにか私の方で調節し、娯楽として楽しめるように次元を落としていた。なかなか骨の折れる作業だがこれはこれで面白い。


 さて、タイトルマッチは時間制限はないとはいえ、ずっとこの調子で続けていると観客の集中力が切れてしまう可能性がある。

 そろそろ終わらせなければなるまい。



 ひたすら剣で攻撃してくるニコライを少し後ろに押しやり、後方に飛ぶ。

 流れが変わったことに会場の人間が気付く中、ニコライはなおも追撃してこようとするので、わかりやすく私の頭上に巨大な水の球体を作り出す。

 魔法操作に優れたニコライが私の膨大な魔力に気付き、そして剣での追撃をやめ私と同じように水の球を己の頭上に繰り出した。


 私が敢えて垂れ流している膨大な魔力の対流に、会場にいる人間はピリピリとした感覚を覚えているだろう。

 この規模にもなると本能的に身の危険を感じるのだ。


 私の水球が直径およそ2メートルで止まったのを見てニコライは自分の物をそれ以上の大きさにしようと魔力を込めていく。

 ニコライのそれが私のおよそ倍当たりになったところで、私は自分の水球に変質を起こす。

 青空を映し青く渦巻いていたそれが次第に白みを帯びていき、そして冷気を帯びていく。

 その様子に会場中がざわめいた。


 この世界、【水魔法】の達人でも魔法で氷を作ることができなかった。

 炎と組み合わせる事で熱湯には成っても、温度を下げる方法が見つからなかったのである。

 それもそうだろう。

 氷を作るためには、【水魔法】の上位属性【氷魔法】である必要があるのだから。

 上位属性に派生させるには精霊石が必要であり、それを発見したのはおよそ4年前の私である。この会場で氷属性が披露されるのは初めて、というわけだ。

 皇帝と戦った第一試合の時も【火炎魔法】を使っていたが、あれは【火魔法】の上位互換という感じがしてあまり変わり映えがしない。

 その代わり水の上位属性【氷魔法】は目に見えて違いがあるため分かりやすい。


 水と氷。

 どちらが物質として強固であるか、そんなことは子供でもわかるだろう。

 故に戦闘狂モードがいつの間にかオフになっているニコライもほんの少し顔色が悪い。

 残念、意地を張らずに【土魔法】で岩を作り上げていれば、まだ勝機はあっただろうに。

 まぁ、ニコライの性格を察した上で【水魔法】に誘導したのだが・・・。


 20メートルほど離れているニコライも覚悟を決めたらしい。

 せめてもの抵抗として猛スピードで発射される水球に、私は自分の頭上にある氷塊にさらに変化を加え無数の槍状に変革する。

 ものすごい量の魔力を込めていたため可能だった変化だが、殺意増し増しな流れるような変形にニコライの喉がヒュッと奇怪な音を鳴らした。

 頑張って耐えろよとニコライへ視線を送り、喜色を含む悪魔のような笑みと共にそれを容赦無く放った。


 無数の氷の槍はニコライの作り出した水球を貫通し、その全て(・・・・)がニコライに降り注ぐ。

 僅かに余った魔力全てを使い切り、全力で前方へ魔力障壁を作り出したニコライ。

 しかし、流石の物量に堪えきれなかったようで、障壁が音を立てて割れる中、数段被弾させながら後方へ飛ばされ、尽きた状態で場外へ投げ出されたのだった。



 ニコライが生成した水も私の魔力に当てられ微細な氷へ変質し、舞台上を白く霞んだ冷気が充満する。

 それを私は剣を一振りする事で散らし切り、クリアになった視界の中でゆっくりと剣を収める。

 そしてキンと鍔を鳴らすと同時に、ドッと会場に音が戻った。



 一閃のロキ、勝利。

 新『星王』誕生――







***








 今回のギルド公式戦、近年稀み見るなかなかの盛り上がりを見せ、表彰式では直々にグランドマスターからお褒めの言葉をいただいた。


 勝つことで魅せる出場者はいたが、魅せながら勝つというのは新鮮だったらしい。

 最強を決めるこの大会でそんなこと、ステータスが化け物じみた人間でないと出来ないことだからまぁその通りだろう。

 これからはギルド公式戦の在り方が大きく変わるだろうな。



 各タイトル保持者が壇上へ上がり、賞金とそれぞれのタイトルを模したトロフィーと勲章をグランドマスターから手渡される。

 今大会でハーヴィーたち『星降りメテオ』もタイトル保持者になったので、同じ壇上にいるという嬉しい結果に思わず笑みを浮かべる。

 そして私たちの活躍を最大限讃えてくれる会場の観客を見て、少しセンチメンタルな気持ちになった。


「どうした?ロキ」


「いえ・・・。この景色も、最初で最後かと思うと、少し感傷的になってしまいました」


 私の表情の変化に話しかけてくるハーヴィーに、周りに聞こえない程のボリュームでそう返すと、私の言いたい事は分かってくれた様で、彼も少し悲しげな表情を見せた。


「俺としては、ロキには5年後、4冠を取ってほしいところだな」


 その予想外すぎる言葉に耳を疑い、思わずハーヴィーの顔を見上げる。


「な・・・、4冠て・・・」


「あぁ。お前ならできるだろ?」


 ニカっと笑うハーヴィーを見て、感傷的な気分はどこかへ行ってしまった。

 現実的ではない能天気な言葉に笑いが込み上げてくる。


「ふ、ふふふふふっ。そんなに私と戦いたいですか?」


「あぁ。そりゃあ、あんな闘い方を見せられたら誰だって挑戦したいと思うだろう。な?二人とも」


「あぁ」


「ハーバードの言う通りだ。3対1でドンパチやりたい訳よ!絶対面白いだろ!」


「あははははっ!確かに面白そうだ!」


 この大会で、私は自分にできる最大限『夢』を体現して見せた。

 しかし夢は終わったのに、皆夢から覚めることはなく、新たな夢を見続けている。


 夢に終わりはない、か。

 5年後、私がどうなっているか分からないが、私もまだしばらくは夢から覚めたくないな。 


 戦友の三人と笑い合いながら、仄暗い感情に少しだけ蓋をすることにした。








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(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))))

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