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『ロクサーナ 〜ヒロインは世界最強のSランク冒険者になっていました〜』 乙女ゲーム?いえ、知らない子ですね。  作者: ルル・ルー
星王戦

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23/41

22 帝都へ



















 青い空に、白い雲。

 見ているものは地上と同じだが、見る場所が違えばそれは全くの別物である。


 この風景は見覚えがある。

 そう、飛行機の中から見た空がちょうどこんな感じだった。





 現在私は、世界にたった4隻しか存在しない最高級旅客魔道飛行船の中にいる。


 行き先はお隣のアルセリア帝国。

 そこで開かれるギルド主催の『全世界公式戦』のため、グランテーレ王国の参加者、来賓者、招待者、協賛者がこの飛行船に一堂に乗り合わせている。


 そして今私がいるのは特等室のあるラウンジ。

 ここに足を踏み入れる事が許されているのは侯爵家以上の貴族と、SランクとAランクの冒険者だけである。



 しかし現在、この駄々っ広いラウンジで寛いでいるのはごく数人だけ。この区画に乗り合わせている人数の10分の1ほどだろうか。


 優雅な時の流れるその一角に腰を据えている私は、ゆったりと椅子に座りリラックスした状態で、窓の外を流れる雲を眺めながら出された紅茶を飲んでいる。

 魔道飛行船に乗るのは何気に初めてなので、前世に飛行機の窓から見た景色と同じ光景に若干のホームシック中である。


 何度か飛行船に乗れる機会はあったのだが、箒の方が速いし、お金もかからないと乗れずじまいだった。

 この最高級船はさて置いて、最低ランクの飛行船でも乗船するのに最低3万はする。平民も乗る事があるほどポピュラーな乗り物だが、節約出来るなら節約したい額である。

 手元にある膨大な資産に金銭感覚は狂いがちだが、根っこは庶民なので豪遊は基本しないのだ。


 まぁ、数日前に双子と暮らすための家は一括で購入したのだが・・・。




 そして私の目の前には、椅子に横座りし、だらっと背もたれにもたれ掛かっている青年が一人。

 少し長いネイビーの髪を一つに束ねた、琥珀色の瞳のこの男の名前はグレイグ。

 ハーバードと同じ『星降りメテオ』のメンバーで、数ヶ月前に結婚した盾使いのヴェストではなく、弓使いの遊び人の方である。

 いつもの様に遊び人らしく軟派な雰囲気を醸し出しながら、昨日訪れたと言う彼女(・・)についての話をしている。それを聞いているのは中身は女の(ロキ)だが、グレイグは話し上手なので聞いていて飽きない。ヴェストも新婚なので、内輪でこの話を同じノリで聞けるのは私ぐらいだろう。


 まぁ、人が少ないからってだらけ過ぎだとは思うが。

 この豪華客船に乗れる機会なんてそうはないと、現在このラウンジを満喫しているのは我々冒険者だけである。

 これだと場所と出されるものが上品になっただけで、ギルドの酒場と同じである。

 故のリラックスっぷりなのだろう。


 このラウンジにいるメンバーを紹介すると、Sラングは『一閃のロキ』こと私と、回復特化型の『聖女』エルメリア、テイマー『竜使い』のマリーノの3名。

 Aランクは目の前にいる『星降りメテオ』のグレイグと、『ダニエル・リッツ』の5名、聖女を筆頭にする女性パーティー『エメラルド』の4名。そして竜使いを筆頭にした『ドラゴニア』の5名。ちなみに、『星降りメテオ』のヴェストは絶賛船酔い中で、それを介抱するためにハーバードも席を離れている。

 顔合わせは出発前に済ましているため、各々活動拠点が違うので自由にコミュニティを組んで別れた場所で駄弁っている。

 ・・・まぁ、私に向けての好奇の視線はちょくちょく頂くのだが。


 ここにいるのが王国で最も強いと格付けされる冒険者である。

 今大会の優勝候補と言っても良い。


 この『全世界公式戦』は大きく分けて、チームで行う団体戦『朋竜戦』と、1対1で行う頂上戦がある。

 『朋竜戦』はパーティー対決のことで、頂上戦は魔法の部『魔王戦』と近接の部『武王戦』、そして混合の部『星王戦』に分かれたタイトル戦である。

 出場資格は個人ランクB以上の冒険者と、非冒険者のために開かれた国内予選を勝ち抜いた上位3名。

 個人ランクCの冒険者は出場できないので、対象外のパーティーもいくつかあり、彼らは大体招待組でこの飛行船に乗っている。5年前のハーバード達もこの招待組として北の大陸に行ったようだ。

 逆に、Cランクパーティーに属していて個人ランクBの冒険者も数名は頂上戦に参加するらしい。




「それでジュリアちゃんがさ〜」


 この魔道飛行船に乗るために王都へやって来たグレイグとヴェストだが、新婚のヴェストは奥さんと共に王都観光をするため出発の2週間前には王都に到着していたらしい。王都なら地方に比べて保母さんも沢山いるし、子供を預けて育児の疲れを存分に癒したのだろう。

 そしてそれについて来ていたグレイグはと言うと、2週間もの間、夜の蝶へ入り浸っていた、という訳だ。

 この人に自由時間を与えるとロクなことにならないな。モンダールでも隙間を見つけては女の子に会いに行っていたので、もはやこれは病気だろう。


 ジュリアちゃんと言うのは、ここ2週間でグレイグのお気に入りとなったらしい彼女(・・)の名前である。

 写真が身近になってからはオプションとして、お気に入りのお姉さんとのツーショットが撮れると言うものもあるらしく、頬の緩み切ったグレイグと綺麗に笑う20歳ほどの女性が映った写真をこの数分で何度も自慢げに見せてくるので、私も既にジュリアちゃんの顔と性格、そして性癖まで熟知してしまっていた。

 普段はお淑やかで上品だが、ベットの上では少し女王様の気質があるらしい。Mっ気のあるグレイグとは相性バッチリである。

 そしてグレイグが何度も強調して言っているのは、胸がでかいと言うこと。

 大きなお胸には持たざる者のロマンが詰まっているのだ。

 割と同じノリで話せる私もどうかしていると思うが、綺麗な女性と大きなお胸が好きなのは事実なので仕方がないと割り切っている。



 グレイグとジュリアちゃんの情事を頷きながら聞いていると、場の空気がすうっと変わったのに気付いた。他の冒険者たちが不自然にも一斉に口を噤んだのである。

 しかし目の前にいるグレイグは、己の惚気話に夢中で空気の変化に気付いていないらしい。


 グレイグの持つ察知能力は、世界で最も難易度が高いとされるモンダールで死に物狂いで身に付けたものである。弓使いなどの後衛職も横や後ろからの接敵はあるため、彼らの察知能力は前衛職に勝るとも劣らない。

 私を除いては冒険者随一と言って良いほどなのだが、しかし彼はオンとオフが天と地ほどかけ離れている性格をしている。

 敵のいない地上では完全にスイッチをオフにしているので、物理的にも社会的にも(・・・・・)ダンジョンの中の方が生き残れるタイプである。

 つまり、何が言いたいのかと言うと・・・――



「――ゴホンッ」


「?・・・⁉︎へぁっ⁈」


 斜め後ろから聞こえた強めの咳払いを聞いて、構える事なくふらぁっと振り向いたグレイグだが、そこにいた御仁の姿を見て、変な声を漏らして椅子からずり落ちそうになった。

 グレイグの際どいどころの話ではない会話は、どうやら完全に聞かれていたらしい。割と普通のトーンで話してたしな。

 彼のこめかみがピクピク動いているのを見る限り、普段温厚な彼でも流石にアウトだったらしい。

 まぁ聞かされているのが私っていうのもあるだろうが、いくら貴族たちの姿がないからと言って公共の場でする話ではなかったな。


 ずり落ちそうになりながらも、どうにか姿勢を正す事が出来たグレイグを絶対零度の視線で見下ろすのは、アスティア侯爵閣下その人である。

 そしてその向かいにいる私にも、ツイっと非難めいた視線をもらってしまった。

 それに両手を上げ降参を示しながら口を開く。


「先程ぶりですリアムさん。いかがなさいましたか?」


 明らかに非難されているのに謝りもせずフランクに語りかけた私に、周りで聞き耳を立てている冒険者は明らかにザワッとしたが気にしない。


 高ランク冒険者は貴族位相当の権力を持つとされているが、しかしその殆どを平民生まれが占めている。

 生まれてから重々に脳に刻んできた身分の差と言う認識は、そう簡単に消すことは出来ないのだ。

 侯爵位とAランク冒険者がほぼ同じ序列だとしても、どうしてもビビってしまうらしい。

 それに、貴族へ敬う姿勢のなっていない、常識のない冒険者は、そもそもCランクから上がる事が出来ないのだから、この壁を取っ払うのは現状不可能だろう。

 侯爵相手に気構えずに話す事ができるのは、私みたいに事情のある人間か、上位貴族出身の冒険者ぐらいか。


 目の前の侯爵も、私の態度に目元を和らげて肩をくすめている。

 リアムさんと私の仲なのだから、これぐらいは許されるのだ。



 この飛行船に乗り込む前、王国では大々的に出発式典が催された。大会に出場する王国の代表選手を紹介するための壮行会の様なものだ。

 そこでアスティア侯爵含め、出発組の上級貴族とは一通り挨拶は終わっている。

 貴族組は客室に引き篭もっているし、次に公で顔を合わせるのは帝城で開かれる前夜祭と思っていたが、わざわざ私に会いに来たらしい。


「話があってね。少し良いかな?」


「もちろん」


 公爵の背後にある客室側にチラリと視線を向けると、控えている顔見知りの執事が頭を下げた。どうやらお部屋にお呼ばれらしい。

 雰囲気的に深刻ではなさそうなので、気楽に返事をしながら立ち上がる。


 別に侯爵自ら来ずとも使用人に頼めばよかっただろうに、侯爵の気まぐれにグレイグは運悪く撃沈した形となる。

 去り際に白い顔で固まっているグレイグの肩に手を乗せ囁く。


「ドンマイ」


「〜〜っ、お前絶対気付いてただろ!」


「良い機会だったので利用させてもらいました。これからは少し落ち着いた方がいいと思いますよ」


「このッ、裏切り者ぉ〜〜‼︎」


「あはははっ」


 涙目で訴えるグレイグに笑いながら手を振り、先を行く侯爵を追いかけるため逃げる様に駆け出した。









「あれは、放っておいて大丈夫なのか?」


「えぇ、いつもあんな感じなので」


「ハーバード殿だけでなく、彼とも仲が良いんだな」


「そうですね。『星降りメテオ』の3人とはしょっちゅうダンジョンに潜ってましたから、他の冒険者に比べたらかなり打ち解けていると思いますよ。グレイグは遊び人なので二人になると会話の内容は偏りがちですけど」


「本当にな。最初自分の耳を疑ったよ。君も普通に聞くんじゃない」


「まぁそうなんですけどね・・・」


 侯爵の呆れた声にぼんやりと返答するしかない。

 同じロマンを見ているからか、いつも気にせず聞いてしまうのだ。グレイグが話し上手っていうのもあるが。


 言葉を濁した私に、ため息一つで視線を前に戻した侯爵。

 その後はしばらくたわいない会話をしながら進むと、侯爵家に与えられている客室の前に到着した。


 扉が開き中に入ると、そこにはアスティア侯爵夫人と長男のブラス、そして麗しのお姫様、エレナーレが優雅に紅茶を飲みながら机を囲んでいた。

 そんな家族の団欒に招待された訳を聞けばーー



「試合が全て終わった後、あなたと帝都でお忍びデートをしたいの」



 エレナーレが少し恥ずかしそうに述べたその言葉に、私が笑顔で頷いたのは言うまでもないだろう。








***










 6時間ほどのフライトで王国組一行は帝都、アインツヘイルに無事到着した。


 アルセリア帝国は世界で最も多くの人口を抱える国家である。

 面積も最も大きく、軍事力も経済力もバカほど高い。

 『強いものこそ正義』とする戦争大好きなそんな国が王国のお隣にある訳であるが、しかし帝国の建国者の実の弟が王国を建国したため、グランテーレ王国とアルセリア帝国は兄弟国家なのである。故に互いに戦争をする事は出来ないと建国以来同盟を結んでおり、建国以来対等な関係を築いている。

 帝国が強大であるとはいえ、王国もそれに並ぶ程の軍事力を持っているため、その同盟を反故にすれば互いに絶大な被害が出ることになる。時効が使えそうな程に古い同盟だとしても、仲良くするのがお互いのためだろう。



 複数の王国を皇帝が統治する仕組みであるため、それぞれの領都の規模が大きい帝国。帝都は王国の王都とほぼ同じ規模であるが、その雰囲気はかなり違う。

 軍国家と言うのもあるだろうが、この帝都自体が巨大な要塞となっているため、どの家も石造りで頑丈に出来ている。

 分かりやすく言えば、がっちりしている帝都と、ふんわりしている王都、と言ったところだろうか。



 着陸間際に空から見た初めての帝都に感動し機嫌の良い私は、タラップから軽い足取りで降りる。

 S Pに規制され遠巻きに出迎えている一般人たちからの熱狂的な歓声に笑顔で手を振ると、その声援はさらに渦となって空気を震わせた。


「おい、少しは自重しろ。後から出てくる貴族組に申し訳ないだろう」


「あはは・・・」


 冒険者が降り終えると貴族たちが降りてくる手筈となっている。

 何となくで降りている緩い冒険者たちとは違い、貴族たちは厳格に格付け順で降りてくるため、確かにこんな事になると次の伯爵に申し訳ないな。

 現に、地面に降り立ち振り向いた先にいた伯爵と伯爵夫人はちょっと顔色が悪そうだ。

 なんかすまん。









 5年に一度開かれるギルド主催の『全世界公式戦』。開催国はギルド管轄の闘技場がある国を順々に回っていく。

 大会日程はおよそ2週間。

 帝城で開かれる前夜祭の夜会を皮切りに、最初の丸々二日を使って個人戦の予選が行われ、『朋竜戦』『魔王戦』『武王戦』『星王戦』の順に行われる。1試合ごとに制限時間は設けられているが、各決勝戦は制限時間がないので、予備日も2日設けられている。

 一般客のチケットの獲得倍率はおよそ200倍と100年前の記録を更新したらしい。

 その主な原因はもちろん(ロキ)。ロキの無双っぷりを現地で見たくて、世界中で血で血を洗う様な激しい争奪戦が行われたらしい。ファンタジー世界故にガチで暗殺紛いのことも起きていたと言うのだから、ほんと、やめてほしい。私のために争わないで、なんて言うセリフが冗談で言えなくなるから。


 大会が行われる時期は、開催国には世界中から観光客が訪れる。倍率がアレなのだから、経済効果も桁違いだろう。チケットを取れなかった人も雰囲気を味わいたくてやって来る事も多いらしい。

 故に城下の宿は全て満室。国を上げて仮設の宿泊施設も作った様だが、そこも完全に満室らしい。それを事前に予見していたある市民は新しく組合を作り、観光客向けに民泊を開く事にした様だ。ずる賢いと言うか何というか。帝都全体で警備も格段に上がるし安心できる分、彼らにとって良い小遣い稼ぎになるだろう。


 まぁそんな城下の事情はさておいて、大会が終わるまでの2週間、選手や来賓は、オリンピックで言うところの選手村の様な区画で宿泊する事になる。

 要塞都市の帝都には、関係者全員を収容するほどの建物を新しく建てる土地なんてないため、選手村改め、新星の街(スターリングパーク)は、帝都外の森を大きく切り開き建てられたらしい。

 そんな真新しいホテルで私に与えられたのは、選手用のスイートルームだった。Sランク冒険者には同等の部屋が与えられているらしい。贅沢な事である。

 しかし、メルリィと双子のリールとルーナも試合を見るために同じ魔道飛行船で帝国に来ているが、世界中の諜報機関が今まで以上に張り付かれている中、バレずに3人を呼ぶのはちょっと骨が折れるので、この部屋ではひとりなのだ。ちょっと寂しい。







 そんな部屋で一人寂しく夜を明かした翌日。


「やぁ」


「・・・お久しぶりです、グラマス」


 あと1時間ほどで前夜祭の行われる帝城に移動しようと考えていた頃、冒険者協会総督(グランドマスター)、ウィンストン・スミアラが私の部屋に前置きなくやって来た。

 出発までと同じ部屋でくっちゃべっていた星降りメテオ3人組も、いきなりの訪問者に仲良く揃って口を開けたまま固まっている。


 長い銀髪と中性的な顔を持ち、スカートの様な神父服に身を包んでいるその姿は、女性に見間違えるほど。

 声を聞いてどうにか男だと判断できるほど綺麗な彼は、実質この世界の統べる覇王(・・)である。


 超ド級のレアキャラ、しかも機嫌を損ねれば比喩なしに世界中を敵に回す事になる人間の前置きのない乱入なのだ。

 幾度となく修羅場を潜り抜けてきたハーバードたちでも、混乱するのは無理もないだろう。



 ギルド総本山であるユミル公国から基本出てこないグラマスであるが、今回の大会の様なギルド主催の行事には勿論参加してくる。

 私とグラマスが顔を合わせたのは、Sランクに上がる時のギルマス含めた3者面談が最初で最後。その後はメールでのやり取りをしていたため、割と気が知れた相手である。



「うん、元気そうだ。今日はロキにプレゼントを持ってきたんだ」


 私たちの反応を見て満足そうな笑顔を浮かべ頷いているグラマスの言葉に、一人首を傾げる。

 後ろに控える使用人にグラマスが人差し指でクイっと合図を送ると、両手で支える程の大きさの箱を持った使用人がやって来た。

 その箱が差し出されたので素直に受け取る。

 それなりに重量はあった。


「開けても?」


「どうぞ」


 机に置いた箱のリボンを解き蓋を開ける。


「お」


 硬直から復活したらしいグレイグが、箱の中を覗き込みそんな声を漏らした。


 中にあったのは純白に輝く紳士服。

 肩の位置を持ち箱から引き上げると、礼服の様であった。

 デザインはあまり見慣れない型だが、刺繍は何処となくグランテーレの古典紋様を彷彿とさせ、全身真っ白で煌びやかであるが、しかし総じて上品に仕上がっていた。


「まさか・・・」


「うん、ロキの正装だよ。そのいつもの服でこの後の夜会に出るつもりだっただろう」


「悩みましたけど、結局コレに戻って来てしまって。・・・助かります」


 今の服装はいつも通り、ロキ仕様のラフな格好。

 ロキは商家の次男坊と噂されているが、その噂通りの身分の正装をするのは少し違うかなと、一周回って正装とは程遠いこの服にしたのだ。

 公式の夜会にこの格好は気が引けていたが、立場上どんな服でも許されるので、完全に考えを放置していた。本当にありがたい。


 けど・・・。


「しかし、派手すぎません?」


 全身真っ白とか、会場内を探しても他にいないんじゃないだろうか。

 結婚式でもあるまいし。


「いいんじゃないか?ロキのイメージカラー、白って感じだし」


「えぇまぁ、そうなんですけどね?」


 ハーバードの言葉に曖昧な返事をする。


 そう、私のイメージカラーはいつの間にか、剣と装備に由来してか白になっていたのだ。

 ミスリルの白い剣とミスリルの白い装備。

 別にそれに異論がある訳ではないが、この真っ白白の服には苦笑いである。


「ちゃんと似合うからいいだろう。Sランカーなんて目立ってなんぼだ。じゃ、会場で待ってるから」


「え、あ、はい。ありがとうございました」


「うん」


 手触りと刺繍の細かさからも分かる様に、恐らく相当価値の高いだろう服を頂いたのだ。

 ちょっと納得はいっていないが最後にどうにかお礼の言葉を口にすると、グラマスはひらひらと手を振って去って行った。



 静まり返ったスイートルーム。

 暫く広げている服に苦い顔で視線を留めていたが、まぁ別に良いかと考えを切り替え、目の前の服に着替えるためゆっくりと立ち上がった。













***











 普段の夜会とは違い、華やかさの中に騒々しさの含まれた前夜祭の夜会。

 貴族だけでなく平民の出場選手が出席しているのだから仕方がない。

 しかし、今夜は無礼講だと貴族側は口にするが、恐れ多いと貴族側と冒険者側のいる場所は綺麗に分かれていた。粗相をしてしまわないための冒険者たちの自衛とも言えるな。

 それでも貴族出身の冒険者は多少いるので、そのお仲間は頑張って貴族達にも挨拶をしている。頑張れと思わず応援したくなるほどの緊張度合いだ。



「それでそれで?そのセイレーンはどうなったのですか?」


 そんな中、おニューの服に身を包んだ私はと言うと、ノンアルコールのワインを片手に、着飾った貴族の女性陣に囲まれていた。

 今の私の左胸には、今まで日の目を見ることのなかったSランク冒険者を示す紫の徽章が光っている。

 正装を手に入れたので、ようやっとの日の光を浴びることとなった。


 私が会場に到着するや否や、わらわらと集まって来た彼女達。

 パーソナルスペースなんて何のそのと、引っ付いて武勇伝を聞かせてくれとせがんで来たので、女性ウケが良さそうな話題をチョイスしオブラートに包みながら話している。

 しかし彼女達、私を上手く乗せてくれるので、話していてちょっと楽しかったりする。

 ここはキャバクラか?キャバクラなのか?

 色々柔らかいし良い匂いするし、思考がふわふわしてくるのだが。


「私には基本異常状態が効かないので、普通に魔法で倒してしまいました。多分、効果は魅了だと思うのですが、そう言えば分からずじまいですね。61階層は周回するにはあまり美味しくないエリアだったので忘れていました」


「さすがロキ様ですわ!そのような未知の魔物を簡単に倒してしまわれるなんて」


 そう言いながら、ワインを持っていない方の腕に腕を絡める女性。

 最初の流すような自己紹介で帝国の伯爵令嬢だと言っていたが、他の令嬢に比べて露出が激しいので、派手な顔つきも相まって何処となく夜の雰囲気を彷彿とさせる。

 腕に押し付けられ胸の形が柔らかく変わる感覚に、何とも言えない感情が浮き上がる。

 そして視線の先で首元の大きく開いたドレスから豊満な胸が溢れそうになるのを見て、思わず視線が吸い込まれる。


「ふふっ、ロキ様ぁ〜。どうしたのですか〜?」


 私の反応を見てイケると思ったのか、笑顔でさらに体を密着させてくる女性。

 更にむんにゅ〜っと胸の形が変わる。


 しかしそれを見ている私もひゃぁぁと心の中で叫びながらも逃れようとせず、この状況を存分に楽しんでいた。


 やっべぇ、これちょっと楽しすぎて、やめ時がわからないんだが。

 お持ち帰りして良いのかな?どうしよっか。


 鼻の下を伸ばしてそんな事を本気で考えていると、ぐいと腕を後ろに引かれた。


「おい、そろそろ止めておけって」


 そう小声で話すのは遊び人であるグレイグ。

 グレイグが止めるなんて珍しい、彼なら一緒に楽しみそうなものだが。


 いつもと違う様子に首を傾げていると、少し焦った様子でチラチラと視線を促してくる。

 何かを見ろと言う事だろうかとそれを追って視線を向けると、貴族組の輪の中に、プルプルと体を震わし涙目で怒り心頭の我が親友がいるではないか。


 あ、やば。


 思わず両手を上に上げる。


 周りの女性も私の変わり様に事情を察した様だが、しかし何を思ったのか今度は体に密着して来るではないか。

 腕より距離の近くなったこの状況に思わず意志がふらつくが、視界の向こうにいるエレナーレの視線がスゥッと絶対零度に達したのを察知して、くぅっと感情を押しとどめながら集団から飛び退く。


「あら」


「話聞いてくれてありがとうっ、じゃあこれでッ」


 思わず素の口調になるが、今そんなことを気に掛ける余裕はない。

 諸々危険であると判断し、私は冒険者組の中に逃げ込んだのだった。





「大丈夫かぁ〜?」


「んん〜・・・」


 安全地帯へ避難した私は、頭を抱えながら邪念を追い出すために頭を振る。


「お前、まさかあんな典型的なハニトラに引っかかるとは思わなかったぞ・・・」


 遠くから様子を見ていたらしいハーバードは、こちらにやって来て早々呆れた様にそう口にした。


「でもアレはずるいと思います。あんなモノ・・・」


 未だ腕に残る柔らかい感覚を思い返しながら両手をワキワキと動かしていると、ハーバードにドン引きされてしまった。彼は私が女と知っているからだろう。

 現に私の正体を知らないヴェストは仕方ないと困った様な表情を、グレイグは分かる分かると深く頷いている。


「あぁ、アレは相当なモノをお持ちだった。ジュリアちゃんにも負けず劣らず・・・」


「しかし、ロキにはエレナーレ嬢がいる。きちんと謝った方が良い」


「そうですよねぇ〜・・・」


 ヴェストの尤もな指摘に、私はため息を溢すしかない。


 エレナーレのものに不満がある訳ではないのだが、しかしあのロマンの詰まった大きさと弾力に屈してしまった。

 あそこまで豊かな果実を持つ人間は、前世でも今世でも私の周りにはいなかったので初めての体験だった。

 やはり私は巨乳派であったと実証された。

 そしてあの瞬間、私は桃源郷にいたのだ。

 幸せだったなぁ・・・。









〜〜〜




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(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))))



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