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『ロクサーナ 〜ヒロインは世界最強のSランク冒険者になっていました〜』 乙女ゲーム?いえ、知らない子ですね。  作者: ルル・ルー
学園入学

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19/41

18 呪いの指輪







「きた」


「きょうは夜?」



 王都のど真ん中、その3分の1を占める王城敷地内には、いくつかの離宮がある。

 歴代の王が側妃のために建てた豪華絢爛な離宮たちは、遠方から来た他国の王族へ貸し与えられたりするものの、側妃のいない今代では維持するのみで活用される機会は少ない。

 因みに王族たちは、私もよく訪れている王城内で暮らしている。故に()宮。敷地内に立つ王族たちの別荘である。


 何もない様に見えるがそれなりに国の施設が紛れている森を抜け、王城の最奥にあるセヴリーヌ宮は、離宮の中でも取り分け大きな建物で、そこら辺の小国の人間を連れて来れば、これが王城であると勘違いしてしまいそうな程である。



 王子との模擬戦の間にちゃっかり用意されていた馬車に、断るのも気が引け、珍しく馬車でそのセヴリーヌ宮に向かった私を出迎えたのはいつも通り、双子の羽耳族。

 リーナと、ルーナである。


 気配を察知する能力に長けている二人は、その能力であの日、連れ出される際に私の気配を感じ、隙をついて逃げ出したと言う。

 同じ区画にいたとは言え、子供の足では近くはない距離にいた私の気配を見つけるとは、相当追い詰められていたらしい。まぁあの環境なら頷けるが。

 決死の覚悟であっただろうその行動お陰で私が動いたのだから、他の少年少女達からは一目置かれている二人である。


 その察知能力でいつも離宮の玄関で出迎えてくれるのだ。



「王城に用があってね。そっちを済ませてたら遅くなったんだ」


 二人の言う通り、日はすっかり沈んでしまっている。

 模擬戦の際に、既に空は茜色に染まっていたのだから当たり前であるが。お茶会に参加していた貴族子息女達の帰宅時間を、思っていた以上に遅らせてしまった訳である。厳しい親なら、何かしらの小言を言われるかも知れないな。申し訳ない。


 家族で食卓を囲むらしい王族達は今頃晩餐。セヴリーヌ宮にいる少年少女達は、この時間なら夕食を取った後だろう。子供ばかりなので寝る時間を考えると妥当な時間である。


 因みに私は食事はまだである。

 国王をはじめとする王族達に誘われたが、子犬の様にシュンとする王子から目を逸らしながら、私は首を横に振った。

 そもそもセヴリーヌ宮に来て顔を見せる事が最終目的だったので、これ以上遅くなるとこの子達は寝てしまう。まぁこの二人なら、王城内に私の気配がある事に気付いてただろうし、寝ないで待っていたかも知れないが、それはそれで可哀想なのでこちらを優先したのである。

 王子とはもう十分遊んだのだからこれ以上は我慢してくれ。



「――ロキ様。もしお時間ございましたら、執務室までお越し下さい」


「あ、はい。分かりました」


 あの日より幾分も健康的に重くなった双子を軽々抱え上げ、その可愛らしさを存分に愛でながら他の少年少女の元へ向かっていると、使用人がやって来た。

 深々と頭を下げる彼女に了解の旨を伝え、方向転換する。


 馬鹿でかい離宮ではあるが、使っている場所はほんの一部である。

 商館の地下で見つけた少年少女達と、実験施設で発見した大人達、そして貴族の館から拉致した女性達を合わせ、この離宮で保護されている人数は200ほどである。しかし、個室は心細いと言う事もあって、その殆どが複数人で身を寄せ合い少し大きな部屋を相部屋として使っている。

 自ずと使う範囲は狭まるし、他は使用人達の宿直部屋や文官が執務室として使うだけなので、大きさに対し規模は小さい。残りの場所は、子供達の昼の遊び場となる程度である。

 他国の王城並みの宮殿に対し、少しもったいない使い方の様な気もするが、即使用可能かつ200人規模の大人数が入っても大丈夫な離宮となると、セヴリーヌ宮ぐらいだったらしい。

 歴史もあり有名で取り分け見栄も良い離宮なので、これには被害者の母国側への便宜も含まれているだろう。



 目的地の扉の前に着き、双子を下ろした後にノックすると、すぐに中から開けられた。


「この度はご足労頂き、ありがたく存じます。ロキ様」


 自らでそそくさと扉を開け低姿勢でソファーを促すのは、この宮の管理を任された宮内省所属のクライフ男爵。外務省事務次官のアルネ伯爵の分家であるため抜擢された、少し小太りな男性である。

 因みに本家のアルネ伯爵家は、アスティア侯爵家の寄子である。つまりバートン男爵家(うち)とも同派閥で、目の前にいる彼の娘さんはお茶会での顔見知りで、学園では1つ上の先輩でもある。今回の事件は割と大事な案件なので、アスティア侯爵家の周辺の関係者で固めた訳である。抜かりないな。


「こんばんは、クライフ男爵。こちらも夜遅くに申し訳ない。何かありましたか?」


 保護されている者達に何かあっても対処できる様、彼はほとんど泊まり込みでこの宮に詰めている。自主的に申し出たらしいが、流石アスティアの関係者、責任感が桁違いである。

 暫く家庭とは遠くなるが致し方ない、と少し前に溢していた。因みにこの男爵、愛妻家としてまぁまぁ有名で、子供は7人いたりする。今学園にいるのは長女。来年長男が入ってくる。一番下が3ヶ月の女の子なのだから、この時期に家を離れるのは彼にとってかなりの痛手だろうな。これまで6回経験しているとは言え、幼い我が子が可愛いのは当たり前だ。



 とまぁクライフ男爵の羨まけしからん家庭事情は置いておいて、案内された通りソファに座り、双子を膝に乗せていると、向かいに座った男爵はハンカチで汗を拭きながら、一束の書類をスライドさせて来た。


「取り敢えず、第一陣の出立の日程が決定いたしましたのでご報告を。相手国はマキ。獣人族が人口の殆どを占める民族国家です」


「なるほど、やはりマキが一番乗りですか」


 使用人により紅茶が用意される中、渡された書類をパラパラと捲ると、そこにはマキ国の情報と第一陣で送られる獣人達の名前が載っていた。


 マキ国は今回の被害に該当する国の中で最も獣人らしい国である。

 事件が発覚しておおよそ2ヶ月。一目散に返せと言って来ていたので、日程が纏まるのも早かったのだろう。

 そして、一番危険な相手でもある。


「もしもの時は私の名前を出しても良いので、騎士達には無事に帰ってくる様伝えておいてください」


「かしこまりました。お心遣い感謝申し上げます」


 要するに、一番喧嘩っ早いのだ。

 マキ国は同じ大陸にあるが道中は他国を渡る必要がある。書類によると、やはりこちらがマキ国の国境まで送る手筈らしいが、その国境付近で襲われかねないのだ。

 健闘を祈るよ、騎士諸君。






「おわった?」


「きょうはロキといっしょにねる」


 事件を拾い上げた私も当事者ではあるのだが、この一件は既に手を離れている。

 今回の呼び出しは本当に報告だけで、それも私が言わなければ必要のない報告なのだが、生粋の仕事人の男爵は律儀に書類まで纏めて渡してきた訳である。恐れ入るよ。まぁ、事後報告で、知らぬ間に仲良くなった少年少女達がいなくなっていた、なんて流石に寂しいのでありがたい事である。

 双子の察した通り、用件はこれで終わりである。



「そうだね、今日はリーナとルーナが寝るまで一緒にいるよ。・・・、それより、二人は本当に良いの?」


「うん」


「てがみおくった」


「パパもママも、わかってくれた」


「・・・そっか」


 言葉足らずな私の質問にも、迷いなく真っ直ぐと目を見て答える双子の姉妹。

 そう、この二人、保護するに当たって、帰国を拒否したのだ。


 羽耳族の数は他の種族に比べ圧倒的に少ない。

 そして天使と同じ『羽』の特徴を身にもつ種族は羽耳族だけであるため、彼ら彼女らは一部の宗教国家から神聖化されている。更にその上、神聖化された種族の双子の少女なんて、それはそれは貴重な存在である訳で。

 二人が拉致され監禁されていたのは1ヶ月程だったらしいが、お国の方は二人の姿が消えてかなりの騒動になっていたらしい。蓋を開けてみれば他国に不当に捕らえられていた、なんて、向こうからすると堪ったものじゃないだろうが、しかし、二人の意思は固い様で、帰りたくないと言う。



 理由はーー、私がいるから、らしい。


 自身を助けてくれた恩、諸共に救ってくれた恩、それらも勿論ある様だが。

 しかしこの二人、【察知】スキルレベル3もさる事ながら、そもそもの種族的な気質として、第六感に当てはまる程の高い感覚能力を持っていた。


 今まで出会った人の中で一番強い。

 今まで出会った人の中で一番眩しい人。

 出来る事ならずっと一緒にいたい。・・・とは二人の談。


 感情を乗せた文字の少ない手紙は、二人を生んだ両親にもちゃんと届いた様で、了解の手紙を見せてもらったのは確かである。同じ様に言葉数は少なかったが。そう言う種族なのか、はたまたこの家族だけなのか、二人以外に会った事はないのでそこまでは分からない。


 ただ、知らない土地に無理やり連れて来られて、暗い地下で罪人以下の扱いを受けて、ひどく助けを求める程精神的に追い詰められていたにも関わらず、両親の待つ家に帰らないと言うのは私にとって少し不思議なのだ。帰る家がない訳でもあるまいし。



 ここまでの覚悟でこの国に残ると、私の近くにいたいと言ってくれているのに、しかし現状、私が二人を連れて学園で暮らす訳にもいかず、少し申し訳なく思っている。


 故に、最近は二人と暮らせる家を買おうかと、本気で迷っているのだ。

 勿論金銭的に問題がある訳ではないが、しかし、家を買うと言う行為に気が引けると言うのと、結局は平日は学園にいるのだから、二人で寂しい思いをさせるよりこの人気(ひとけ)のある離宮の方が穏やかに暮らせるのではないか、と考えている。

 寂しさはペットとか、使用人を雇うとかで解決する様な気もするけど・・・。

 と、まぁこんな感じで現状維持のまま2ヶ月程が経ってしまった訳である。


 私も可愛い二人には十分絆されているので、出来る事なら二人の気の済むまで近くに置いてあげたい。

 二人の特徴的な羽の耳は、私が【偽装】スキルを付与した魔法具を渡せば隠すことはできるので日常生活で困ることはないだろう。なんなら嫁入り先にも連れて行くことができる。

 むしろ家を買えば3年半だが平穏な時も暮らせるのかな、と少し憧れていたりもする。


 ・・・、う〜ん・・・、改めて考えるとマジで憧れるな・・・。

 ・・・ペット・・・、ペットねぇ〜・・・。


 そんな事を考えながら、二人に与えられた寝室に向かうのだった。












***

***













「――は・・・?レベル(・・・)が、上がった(・・・・)・・・?」



 最近、休日にペットショップに顔を出すと言う日課の加わった、ある日の昼下がり。



 学園ダンジョン2階層のボス部屋にて、アタックの終了を告げるボスの断末魔が部屋に響くと同時に、私は自分の身に起きたあり得ない現象に、つい素で呟いてしまった。

 幸運にもボスの叫びと被り、皆の耳には届いていなかった。



 しかし、最後に矢を放った体勢のまま、神妙な面持ちでじっと虚空を見つめている私を見て、たまたま近くにいたクララが不思議そうに顔を覗き込んで来た。


「どうしました?ボス戦、終わりましたよ・・・?」


 その聞き慣れた声に我に返り、そっと弓を下ろす。

 残りの3名はと言うと、現れた宝箱にキャッキャと言い合いながら近寄り、何が出るか楽しそうに討論している。


 1年Sクラスに3つあるパーティーの内、うちのパーティーの進捗状況は3位と最下位なのだが、順位なんてお構いなしに、目の前の仲間達はこの時間を大いに楽しんでいる。

 例年の平均通り順調なのだから何も問題はないと、担任のハーバードには問題なく評価されている。私もそう思う。楽しんでなんぼだ。別に躓いている訳でもあるまいし。

 比べる1位のリーゼロッテ班がズンズン行き過ぎなのだ。今の時点で4階層ボス目前なんて、絶対途中でスランプに陥るぞ。今に見てろ、ハハハっ。



 しばしフリーズしていた私を、愛嬌のある顔で不思議そうに見つめているクララにそっと微笑む。


「行きましょうか」


「えぇ」


 上は侯爵令嬢、下は平民である商家の娘・村人の少年と、この学園で一番身分の格差のあるパーティーにも関わらず、その雰囲気は学園一良いと言えるだろう。

 そう胸を張って言えるぐらい、入学して三ヶ月以上が経った私達は仲良くなっていた。


 ・・・まぁ、私とエレナーレの関係が存外若干怪しいが。


 あの告白騒動から半月程が経っている訳だが、二人で話しているとエレナーレの受け答えがどうにもぎこちないのだ。

 あの日の夜、アスティア家では緊急家族会議が開かれたらしい。議題は私の言動と今後について。

 故にエレナーレ自身、私が告白した理由はきちんと理解しているが、しかし行動に移すのは難しい様子で。ロキとロクサーナで見た目は全く違うのに、社交界の花が取り繕えていない事にも、その本気度が窺えるな。親友のタイプが私だったなんて、驚きである。


 ロキがエレナーレを口説いたと言う噂は、あっという間に学園にも広がった。最初の週頃はひっきりなしに質問を受けていたが、しかし度々うっすらと頬を染めるエレナーレが目撃されたため、周囲はその恋の行方を暖かく見守るスタンスに変わりつつある。

 ロキファン第一号は相当拗らせてるな。とどめを刺したのは私だけど。

 かくして、牽制効果は存分に発揮されている訳である。





「これは、H P回復ポーションかしら?」


 宝箱の中にコロンと転がっていた瓶を、エレナーレは少し嬉しそうに、しかし不思議そうに首を傾げながら手に取った。

 ピンクの瓶に入ったダンジョン産ポーションは確かにH P回復ポーションだが、学園ダンジョンのこんな浅い階層で出るなんてとても珍しい。学園ダンジョンでは5階層からしか出ない言われているアイテムである。


「その様ですわね?」


 珍しい物に確信が持てず首を傾げているヴェラ。


「本物ですかね?」


「偽物なんてあるんですの?」


「さぁ?」


 何気なく発した様なエトの発言により偽物疑惑が浮上しているが、んな訳あるかとひとり心の中でツッコミを入れる。


「バートンはどう思う?」


「え、流石に本物だと思いますけど・・・」


 私に話を振られても、そう答えるしかないだろう。


 ダンジョンから出てくるアイテムは全て古代文明の遺物である。

 目の前でドロップしたとしても、珍しい場所で手に入れたんだ。そのポーションが偽物だと、そう考えてしまうのは分からなくもないが、偽物なんて普通にあり得ないから安心してくれていいぞ。まぁ言えないんだけど。


 それよりも・・・。



「私、少々お花を摘みに行ってもよろしいでしょうか。潜ってまだ2時間程ですし、この後も進みますよね?」


「えぇそうね。少し休憩にしましょうか」


 断言はしていないが私が本物だと言ったのを聞いて、エレナーレは直ぐに切り替えて休憩を決定をした。

 モンダールダンジョンであろうと学園ダンジョンであろうと、ボスのリポップは30分と決まっている。故に、ボス部屋での休憩は常識的な(・・・・)攻略の定石である。


「では、少し離れますね」


 眼鏡をしていない今、人前でステータスを確認する事は出来ない。

 今すぐこの場で真実を確認したい衝動に駆られ、そう皆に断りを入れた私は、少し早歩きにその場を離れた。



「・・・漏れそうなのか?」


 離れて行く私だが、そんなエトの呟きはちゃんと聞こえていた。

 デリカシーってもの知ってるかなぁ?君。


 案の定、クララに重いゲンコツを貰っていたので、まぁ今回は見逃してあげるとしよう。






 今の私は、か弱い男爵令嬢(笑)を演出するため、学園内では呪いの指輪を使いそのステータスを軒並み5%に抑えている。

 その状態で今回私は、学園ダンジョンの浅層でレベルアップ(・・・・・・)をした。


 これは、極めておかしな事態である。



 この世界、戦いにおいて取得するレベル経験値は、道理にかなった仕組みをしている。

 パーティーで戦闘を行った際、その後に獲得する経験値は与えたダメージ量に比例するのだ。ラストアタックボーナスなんて言う、ゲーム染みた理不尽なシステムは存在しない。

 前衛はレベルを上げやすいし、盾役や回復役はレベルを上げ難い。そんな世界。


 そして当たり前の様に、今回、私は戦闘中に少なからず弓を放ち、そのダメージがボスに入った故に戦闘後に経験値が入った。


 普通の人間なら、そうーー、普通にレベルが上がるだけの本当になんてない事だが、私のレベルを上げるには経験値が異常のほど必要となる筈なのだ。今までは、そう思っていた。

 指輪をはめて5%に減るのなら、指輪を外せば95%に増えるのは必定。今の状態でレベルが上がるなんて事は普通に考えてあり得ない。


 E級の学園ダンジョンのその浅層で、敵を倒して入ってくる経験値なんて、お化けステータスの私にとって誤差も誤差、微塵子以上に微々たるもの。

 前回レベルが上がったのが確か、前々回に塔のダンジョンへ入った時で、まだレベルアップに必要な経験値には余裕があったはずである。

 なのに、ついさっき、レベルが上がった。・・・上がってしまった。



 そして出た結論に、ついニンマリと怪しい笑みが漏れる。

 側から見たら、何もない壁に向かって口端を吊り上げる不審者に通報待ったなしだろうが、もちろん人がいないのは織り込み済みである。



 改めて周囲の気配を探りつつ、【精霊姫】を発動させ現在のステータスを覗くと、やはり、予想通りの数字が並んでいた。


 なるほど、と一人納得する。


 常人にとって、即死級のアーティファクトである『呪いの指輪』は、しかし、ステータスがバカ高い異常人にとっては『祝福の指輪』とも取れる、――ーとんだぶっ壊れアイテムであったらしい。





「――はぁ?一人でダンジョンに潜る許可・・・?出せる訳ないだろ。勝手に潜って来い」


 よし、担任に許可はもらった事だし、踏破するか、学園ダンジョン。








 という訳で、サロンには所用という事で1週間程のお休みをもらい、放課後は一人、学園ダンジョンに潜る事にした。


 指輪をしたまま、剣を使い、今できる限りの力を使い超特急で階層を下っていく。

 世界最高峰のダンジョンにいたのだから、ダンジョンでの戦い方のコツはよく分かっている。ステータスが低くとも、ならばそれ相応の戦い方をすれば良いだけである。




「――あはははははッ!」


 現在、学園ダンジョン第15階層のボス部屋。


 ボロのローブを被った私は、満面の笑みで最後の敵と奮闘していた。

 学園卒業者が倒し続けて来た敵であり、学園生の前に立ちはだかる共通の目標。

 それは大きなファイアウルフであるが、今の私には経験値の塊にしか見えなかった。




 今回の乱心の発端となった現象について。

 呪いの指輪の全ステータス値95%OFFと言うデバフ(・・・)は、その効果の通り、対象の存在そのものを劣らせる(・・・・)と言う物であった。


 ここまで潜って、今のレベルは19から24へと幾分か上がっている。

 純粋にこの数字だけ見れば上がり幅は妥当だろう。

 レベル1の生徒が卒業までに最低でも7までは上がる、と言う話はこの学園ダンジョンの基準として言われている。レベルアップに必要経験値はレベルに応じて増える事、そして撃ち漏らしが皆無で、かつソロである事を含めると、今回の成果は本当に妥当な増え幅である。



 しかし、しかしである。

 これをやっているのは、ステータスが呪われた状態の人間である。

 そしてその呪いを解くと、どうなるのかーー。


 今回の問題が起こる前、塔のダンジョンでレベルを上げていた時の最後のレベルは364。入学時が360であったのを見ても、モンダールとの効率の差は歴然であるが、それは今は置いておいて。


 心昂るボス戦も案外あっさりと終わってしまったので、周囲に人の気配がないことを確認して直ぐ、指輪を外して【精霊姫】を発動させる。


 目の前に見えるステータス、そこに表示されているレベルは『480』だった。


 ・・・、お分かり頂けただろうか。

 E級の、最低ランクのダンジョンのたったの1周で、Sランク冒険者のレベルが100以上も上がっているのである。

 こんなの並の冒険者からすると軽くホラーだろう。

 いや、私的にも十分恐ろしすぎる現象なのだが・・・。


 現実離れしすぎた効果(バグ)に、夢であれという微かな願望は、しかし、気付いて最初の1週間で無意味であると身を持って実証している。

 これは、紛れもない、現実だ。


 今回の検証の結果、分かった事。・・・、分かってしまった事。

 それは、『呪いの指輪』を付けている間のレベル上げのために必要な経験値は、呪われた(・・・・)ステータス相応の量となる、という事である。

 つまり、指輪をはめている間は、その劣ったステータス通りの経験値でレベルを上げることができ、指輪を外すと、必要であるはずの経験値なんてお構いなしに、ステータスはそのまま倍化されてしまう。


 ちなみに、【弓術】スキルを取得した際に、幾ばくかSTR値のステータスも上がっているはずである事が判明した訳だが、しかしそれには気付かなかった。

 お化けステータス爆進中の現在の私が、【精霊姫】にしろ端末にしろ、ステータス値をいちいち確認する訳がなく、確認したとしてもスキル欄だけであった。

 ステータス値が軒並み上昇する『レベルアップ』で判明したのだから、あの時の驚愕は、STR如き(・・)で判明していたもしも(・・・)に比べ、比ではないだろう。


 呪われた指輪により常人並みのステータスとなった私に、学園生の使う最低ランクのダンジョンはハマり過ぎた。

 確認せざるを得なかったとは言え常軌を逸している。


 そもそも、呪いの指輪をはめてダンジョンに潜れるほどのステータス持ちは、古代文明にもいなかったのかも知れない。

 いたらこんなバグは即修正して、過去の遺物としてこの時代に残っていない筈である。私ならそうする。

 説明欄にもステータスを目の前で表示させた上での拷問に使う道具であると書かれていたし、やはりこのバグに気付いた人はいないんだろうな。

 図らずも、古代文明人のステータスの強さが現代文明人と似たり寄ったりであったと立証された訳だが、指輪の存在を報告していないが故に、そして問題に気がつく程使っていると他人にバレる訳にはいかないが故に、言えるはずもなく。

 私を拷問出来たとすれば、この口からは多くの真実が語れられる事だろうな、ハハハ。



「また強くなってしまった・・・」


 強者の虚しさをひしひしと感じる実験結果であった。


 それに・・・、強行突破すぎて疲れた。

 ズルしている感じも否めないし・・・。

 これが俗に言う賢者タイム、いや、違うか・・・。

 まぁニュアンスはそれに近いのかな。フィーバーして後、一気に冷静になるんだから。

 ・・・、知らんけど。








「――と言う訳です。今すぐにこの指輪を封印したいのに、それが出来ないジレンマ。嫌になりますね」


 目の前にはお風呂上がりのハーバードがいる。

 ロキの格好でホテルの自室を突撃し、この何ともし難い感情を吐露したのだが、時間とタイミング、そして一方的に語った内容に、彼は盛大に顔を引き攣らせている。


 因みに、私はベットの上で胡座を足を組んで、お風呂から出てくるハーバードを待ち伏せしていた。

 ハーバードの現在の格好はバスローブ一枚で、その身体からはほくほくと湯気が上がっている。

 完全に油断していたらしい。まぁ、忍び込んだまま【隠密】で気配を消していたので、誰であれ察するのは不可能なのだが。スキルを切るのを忘れていた。てへっ。



「お前・・・、・・・、はぁぁーーー・・・」


 色々突っ込むのを諦めたらしい。

 大きくため息をついて、そしてーー。



 ――次の瞬間には、私はハーバードに押し倒されていた。











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(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))))



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