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『ロクサーナ 〜ヒロインは世界最強のSランク冒険者になっていました〜』 乙女ゲーム?いえ、知らない子ですね。  作者: ルル・ルー
学園入学

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16/41

15 ロキの休日Ⅱ 1



突然始まるシリアス展開――⁈


※流血表現あります、お気を付けを。









「――では真面目な話をしましょうか。アスティアの影以外に貴方たちを遠巻きに監視している気配が8つほどあります。殺意をビンビンに発しているのですが・・・、お二人の知り合いですか?」



 雨上がりの優雅な休日。

 目の前に並ぶ料理。

 そしてシィンと静まり返ったギルドの酒場。



「な・・・、何の事?殺意・・・?」


 王子の声は震えていた。


 失敬して、そのどちらとも取れる王子の反応に【精霊姫】を発動させるが、嘘は付いていない模様。

 ただただ不安に動揺しているだけだった。



 私の瞳の色が変わった事にビクッと体を震わせた王子を見て、【精霊姫】を終了させる。


「失礼しました、しかし嘘は付いていない様ですね。と言う事はやはり純粋に敵、ですか・・・。何か恨みを買う様な事しました?」


「いえ、思い当たる事はありませんが・・・」


 怒りも忘れて立ったままキョトンとしている公子。


「まぁこうなる事を見越してその魔法具を渡したんですけどね。これからどうするにせよ、あった方が良いでしょうし」


「あ、・・・、・・・ごめんなさい」


「いえ、私もちょっと悪戯が過ぎました。ただまぁ、警戒心を持っているに越した事はないですけどね。お二人の立場的に」


「うっ・・・」


 シュンとしていた公子が更にシュンとしてしまった。

 そんな公子に席に座ってもらう様促し、話を進める。



「さて、どうします?アスティアの方も気付いてなさそうですし、彼らに片付けて貰う、・・・のは少しリスクがありますかねぇ。・・・よりにもよってお兄さんですか」


 最後の言葉は独り言の様に小さく呟いただけなので、2人には聞こえていないらしく首を傾げている。

何言ったの?と顔に書いているが、気にしないでと手を振って誤魔化した。



 アスティアの影は名前の通りアスティア侯爵家が管理する諜報機関だが、それに伴いアスティア侯爵家に生まれた男児は、長子であろうとなかろうと、学園卒業後はアスティアの影に組み込まれる。

 エレナーレの家のお泊まり会で何度か挨拶を交わしている次男の方。見知った気配がその中にはあった。

 専門の人間を心配するのは失礼かもしれないが、心配なものは心配。もしもの事があったら親友に申し訳が立たない。まぁ彼女もあの家に生まれた女傑なので許してくれるとは思うが、それでも、ねぇ?


 アスティアの影が私の正体を知っているのか、侯爵に確認していないので定かではない。

 彼がロクサーナを知っていてもロキについては知らないかもしれないが、まぁ今日か明日には王城にいる双子に顔を見せるつもりだったし、手を出させてもらおうかな。


 ギルドの方、『ユミルの影』を使っても良いけど、護衛対象が『冒険者登録したての国の王子』だと少し弱い様な気がする。私の護衛なら喜んでしてくれるんだけど。いや、まぁ、必要ないんだけどね?

 暗殺・護衛何でもござれなアスティアの影に比べ、ユミルの影は諜報の色が濃いため、ユミルの影を使うなら変な心配せずにアスティアの影を使えって言う話である。



「・・・よし、方針が決まりました。馬車を待っていても結局同じ事ですし、私が王城までお二人をお運び(・・・)しましょう」


「はこぶ・・・?」


 王子がその言葉に首を傾げているが、気にせず視線を窓の外に向ける。



 窓の外、大通りを挟んだ向かい側の建物の2階の窓。

 多分王子を監視しやすい様に王家が買い取っている部屋なのだろうが、そこにいるアスティアの影にハンドサインを送る。



 ――敵あり。――少し待って、私が2人を送る。――手は出さないで。


 因みにアスティアの影が使っているハンドサインは、数年前にエレナーレに教えてもらった。

 お宅のお嬢さん、機密漏らしてますよ。



 いきなりの合図に向こうはギョッとしているが、流石は世界随一の諜報員、すぐに切り替え頷いてくれた。

 そして他の影たちに伝令を伝えるため、すぐに気配が動いた。

 割とすんなり従ってくれたな。



 周りで話を聞いていた冒険者たちはと言うと、完全に酔いも覚めた様でそそくさと帰る支度を始めている。

 巻き込まれない様にするためだろうが、昼間っから酒を飲む様な飲兵衛でも、流石は冒険者、危機管理がなっている。



「しかし、何と言うか・・・。敵の方には全く変化がありませんね。私がいても襲う気満々の様です。何か退っ引きならない事情でもあるのでしょうか。・・・あ、料理は最後まで食べてもらって構いませんよ。時間制限がある訳でもないですし、そもそも残してしまっては勿体無いですしね」


 只事ではない流れなのに終始のんびりとしている私に戸惑いながらも、頷いてぎこちない動きで食事を再開する2人。

 しかし、あまり美味しそうではないなぁ。


「う、う〜ん・・・」


「・・・味がしないです」


 やっぱり緊張しているらしい。

 王太子の様に命を狙われ慣れている訳ではなさそうだ。



「あははっ、お二人とも、リラックスリラックス。肩の力を抜いて下さい。その首に掛かっているのは何ですか?」


 あくまで飄々と、2人の首に掛かっている精霊石のペンダントを指差す。


「魔法具・・・、アーティファクト級の・・・」


「えぇ。それは、例え天から剣の雨が降って来ようと、傷の一筋も付けられない魔法具です。――そして今、お二人の目の前にいるのは誰ですか?」


 ペンダントに向けていた指を、今度は自分に向ける。


 落としていた視線を揃って私に向け、そして言いたい事が分かったのか、揺れいた瞳に光が差した。

 王妃様譲りの薄いグレーの瞳と、緑色の瞳がしっかりと私を写す。


「ご安心下さい。私こと特急ロキ号が、お二人を安心安全でスリリングな旅路へとご案内いたしますよ」


「・・・安心安全でスリルを感じたらダメじゃないですか」


 あははっ、私のいた世界ではそれが成立する乗り物が五万とあったのだよ。


「成立するので大丈夫ですよ。・・・美味しいですか?」


「・・・はい、美味しいです」


「それは良かったです」


 ホッとした様にゆるりと微笑んだ公子と、初めの頃の様に料理をバクバクと口に運ぶ王子。

 王子の方は言うまでもないだろうが、無事に緊張が解けたようだ。


 美味しいご飯には人を幸せにする力があるからな。




 そしてその後、2人が料理を食べ進める間に、念願の書類が届いた。


「ごめんなさい、急がせました?」


「いえ、ロキ様がお気になさる程の事ではございません」


 と言う事はやっぱり急がせたんだろうな・・・。


 敵云々は聞き耳を立てていた冒険者たちからギルド側に伝わっているはずで、少ししたら出発したいと言う私の意を汲んでこのタイミングなのだろう。

 実際、もう少し時間がかかる様なら後日顔を出すつもりだった訳だし。


 受付嬢から渡された書類をペラペラと捲り、一切の不備がない事を確認して書類にサインを書く。

 偽名であるにも関わらず、こう言ったお堅い書類に『ロキ』と書いても一切問題はない。

 それが秘匿制度の便利な所で、偽名が正式な本名になるのだ。何と言う高待遇。



 サインまで書いた書類を受付嬢に渡す上で、『収納』から取り出した紙袋も続けて渡す。


「え?・・・あの」


「職員たちに。色々と迷惑かけたみたいですし」


 写真技術含め、よく私のわがままに付き合ってくれたものだ。

 ほんと、迷惑かけたよ。


「いえ、いえっ、こう言った物は受け取れまーー」


「えいっ」


「――むっ?」


 断られる事を見越していた私は、話すために開いていた受付嬢の口に、素早い動きで小さめのクッキーを1枚放り込む。

 反射的に口を閉じ、もぐもぐと口を動かす受付嬢は、小動物みたいで少し可愛かった。


「美味しいでしょう?南区三番街の『エレン=フィーノ』のクッキーです。女性の間で有名らしいですね」


 因みに『エレン=フィーノ』は、クララの実家の傘下のお菓子屋さんである。

 中央区程ではないが、裕福に暮らせる程度のお金持ちのお屋敷が立ち並ぶ場所に店を構えている高級志向のお店なので、質良し見た目良しの、所謂ブランドクッキーである。

 クララから人気だと聞いてお試しに買ってみたのだが、しっとりとした食感と上品な味わいが想像以上に美味しくて、最早リピーターと化している。


 前世の貯金ではデパ地下でも厳しかったが、高級と言えど今の私の貯金からすると高が知れている。

 使い所がある訳でもなく貯まる一方なんだし、経済を回す事を含めても、こう言う美味しいものにお金を掛けても何も問題ないだろう。


「あの『エレン=フィーノ』・・・」


 やはり彼女も知っていたらしい。

 クララ、君のお家のブランディングは上手くやれてるよ。



 口に入れられた物の正体が分かり、途端に味を噛み締め出す受付嬢。


 王都支部のギルド受付嬢なんて、丸ビルのOLと同じだからなぁ。

 彼女も例に漏れず相当ミーハーらしい。


 少し目線を下げていた受付嬢の顔を、下から覗き込みながら笑顔を浮かべる。

 彼女の息が止まったのを見計らって、その手に紙袋を渡した。


「じゃぁ、はい、これ。みんなで分けてね」


「へぁっ、は、はいッ!」


 少し声が裏返りながらも頷いてすぐ走り去ってしまった。

 彼女にはキャパオーバーだったようだ。


 パタパタと走り去る受付嬢を見送り振り返ると、丁度食べ終わっていたらしい2人と目が合った。



「ロキ様、わざとですか?」


「わざとですが?」


「そうですか・・・」


 全く悪びれない私に公子は呆れた様にため息をついた。

 お〜、解れて来たね解れて来たね。


「では、行きましょうか」



 受付の方から黄色い歓声が聞こえた気がした。








***









――右へ交わして。

――左へ飛んで・・・。

――宙返りしながら靴で飛んで来たナイフを地面に叩き落とす。



 澄んだ青空を映していた水溜りが、飛び越えた私たちを下から移し、その風圧で移す景色を仄かに揺らした。



「あははははッ!」


「ヒィ〜〜ッ・・・」


 右の小脇に抱えているミニ王太子は楽しそうだが、しかし左側の公子はジェットコースターが苦手なタイプの様だ。



 現在、凱旋通りを爆走中。


 ロキのステータスでは、少年2人を抱えたまま飛んでくるナイフや魔法に対処する事は容易である。


 しかし最初8つあった気配は、王城に近付くに連れて、何故か一つ、また一つと徐々に増えて行っている。


 ナイフの数が尋常じゃないし即死魔法をバンバン放ってくるので私としては楽しいのだが、市街地でやる事じゃない。

 凱旋通りを、つまり道路を走っている訳だが、道の周りには一般人しかいないので、彼らに被弾しそうなものだけ対処しているのだが。


 少年2人を小脇に抱えているので、空いているのは足だけ。

 魔法は相殺に充てているので、出来なくはないが操作が面倒だ。

 自ずとアクロバティックな動きになっている。


 脇に抱えられた状態で、宙を舞ったり天地が一周したり。

 これを楽しめる王子は素直に凄いと思う。多分世界一怖いジェットコースターとか平気で乗れてしまうのだろう。安全バーが細い腕一本とか、安全面が不安なので私はお断りだが。



「公子〜、大丈夫ですか〜?」


「うぅ・・・、気持ち悪い」


「食後ですしねぇ・・・」


 恐怖は早速不快感に塗り替えられたらしい。

 食後に変な体勢で振り回されたのだ、()もありなん。



 苦笑いしながら次の馬車に追い付くと、馬車を操縦していた御者にギョッとした顔で見られてしまった。見事な二度見である。


「こんにちは、ちょっと馬車の屋根借りますね」


「え、あ、はい・・・?」


 微妙に語尾が上がっていた様な気がしなくもないが、取り敢えずは了承を得たのでその屋根にひょいと飛び乗る。



 王子と公子を天井の上に下ろし、勢いを増して飛んでくるナイフを影で対処する。

 少し物騒だが、改めて見ると、飛んでくる魔法がバチバチと相殺されて行く様は、花火の様にも見えてかなり綺麗である。


 王子は馬車の天井に乗ったことがない様で、高い場所から見る景色に目を爛々と輝かせているが、公子はすっかりダウンの様でその場でキュゥ〜と伸びてしまった。

 ・・・綺麗めな馬車を選んで正解だったな。汚れた場所に公子を寝かせるのは流石にどうかと思うし。


「ちょっと失礼?」


 そう言って公子の頭に手を載せる。

 そのまま【生体魔法】を使って脳の混乱を取り除いた。


「あ、れ・・・?」


「これで多分王城に着くまでなら大丈夫だと思うので。抱えますよ?」


「は、はい・・・」



 急に気分が落ち着いた事に首を傾げている公子への説明もそこそこに、再び2人を抱え馬車から飛び降りる。

 そして追い抜きざまに御者にペコリと頭を下げて、再び城へ向けスピードを上げた。




「――10、11、12、13・・・、14人、いますね」


「なんか増えてない?」


「えぇ増えてますねぇ。このまま王城まで引き付けます。2人が城壁内に入った後対処しますね」


「うん、分かった」


「ーー・・・」


「あれ、公子?まだ酔います?」


「えっ⁈あ、いや、もう酔いは大丈夫です、はい・・・」


 何か考え事をしていたらしく、公子は少し素っ頓狂な声を上げた。

 まぁ別の事を考える余裕が生まれたって事だろうし、別に問題はないのだが。





「――はい、とーちゃくです」


「あっという間だったね!グルって回るのが一番楽しかった!」


「まぁ、クリス殿下をこんな乱雑に扱う事はないでしょうしね」



 凱旋通りから続く王城の正門。

 そこには大きな広場がある。


 シュタッと目の前に停止した私に、門番の衛兵たちが身構えて直ぐギョッとしているが、王子と公子を小脇に抱えている姿を見て更にギョッとしている。



 私が2人を下ろすとほぼ同時に、隠れていた敵たちが一斉に姿を現した。

 どうやらこの場で決戦を決めたらしい。城に入ると攻撃は難しいしね。


 一触即発の空気に衛兵たちは一気に戦闘体制を整えるが、それにひらひらと手を振り任せる様に指示を出す。


 遅れる事数秒後、アスティアの影が到着した。


「――ロキ様」


「うん、手出しは無用です。良い運動になりそうですしね」


「ご武運を」


 短くそう言って、既に門を潜っている王子たちの元に向かい、騎士と共に防衛体制を整える。

 しかし当の王子と公子が門の奥に避難しようとしないので、ちょっと困惑している様だ。


 立ち止まったままの王子の瞳とパチリと目が合う。



「ロキは負けないんでしょ?」


 ならここにいても問題ないよね?と言外に付け、笑顔で首を傾げている。


 その堂々と言い切った姿を見て、やはり彼も王族なんだなと関心する。


「もちろん」


 過大な信頼に臆する事なく、私は満面の笑みでそう返してやった。







「――さて、あなたたちの目的は何でしょう」


 敵に向かい歩みを進めながら、腰に差している剣を鞘から抜き取る。


 剣身が空気に触れ、キィィンと澄んだ音を鳴らした。

 ダンジョンの外でコレを抜くなんてそうある事じゃない。新鮮な空気に触れてこの剣も喜んでいる様だ。


 白く輝くミスリルの剣。ダンジョンドロップ品の愛剣である。

 モンダールダンジョン第40階層の隠し部屋、そのファーストアタックの報酬として手に入れた世界で唯一無二の剣であり、私が一番長く使っている剣でもある。

 真っ白で綺麗だし、軽くて丈夫。そして素材がミスリルであるが故に魔力伝導率がよく、鍔に付いている魔石が媒体として働くため、杖の代わりとして使う事ができる。

 魔力を込めれば属性の付く『魔剣』とは少し違うが、こちらで全て調整するためそれ以上の効果が見込めるのだ。それこそ、ダンジョンの壁にヒビを入れられる程に。



 一歩、また一歩と、敵の包囲網へと近づく。


 敵の数は14。直剣や短剣を構えているが、全ての人間から魔力の流動を感じるので、魔法も剣もどちらもイケけるのだろう。

 すごい敵が出てきたものだ。


「王太子ではなく王子を狙うんですね。理由はおありですか?」


 問い掛けても返って来る声はない。

 1人で喋るのは少し虚しくなるな。



「しかし・・・、気まぐれとは言え私が敵に回った訳ですが、そこの所どうなんです?」


 立ち止まった私に、敵は息を潜めるばかり。


「万が一にも、私に勝てると、そう思っているのでしょうか」


 不思議でたまらない、と言った風に首を傾げる。


 実際、不思議でたまらないのだ。

 Sランク冒険者の、しかもオールラウンダーのロキである。

 弱点らしい弱点が見つからない人間に勝ち目なんてないし、普通戦おうと思わない。私なら戦わない。

 この世界で一番敵に回してはいけない人物、それが『一閃のロキ』である。

 それは裏の人間だろうと表の人間だろうと、人間種だろうと異種族だろうと、この時代に生きる全ての存在に言える、変えようのない事実である。




「ダンマリですか。戦う前にお話ししたかったんですけど、ちょっと残念です」


 剣を力なく下げたまま、(おもむろ)に私の体勢がすうっと前に傾く。


 纏う気配を全く変えない私に、一切の反応を見せない敵。――そして次の瞬間には、私の姿は正面の敵の背後にあり、音もなく剣を振り上げていた。


「――地獄は、どの様な場所なのでしょうね」


 そんな事を呟きながら、私は敵の首を刈り取った。






 未だ直立不動のままの首のない体から、赤い鮮血が滝の様に噴出している。

 その様子を、私はじっと観察していた。


初めて人を殺した(・・・・・・・・)訳ですけど、案外綺麗なものですね。こう思う私も、貴方方と同じ、地獄行きなのでしょうか」


 人と真正面から殺し合った事なんてなかったからだろうか。

 どうにも口が回る。



 ようやっと倒れた死体を見ていると、1人の敵が残像を残しながら目の前に現れた。


 物凄いスピードだが私には見えている。

 眼球に突き立てようとする短剣をゆっくりと流れる景色の中少し眺めて、首を傾けるだけで避けた。

 すれ違い様に目が合ったが、その瞳には未だ殺気が乗っていた。


 初手で首を刈り取り圧倒的な力量差を見せ付けても、彼らに引く気はないらしい。



「・・・しかし、この白くて美しい剣に人間の血が付くと言うのは、少し不愉快ですね」


 付いている血を切り払い鞘に収める。

 そして『収納』からミスリルの剣に出会う前に使っていた、剣身の赤い剣を取り出した。太陽の光を浴びた剣が怪しく光る。


「ひとつ前の剣ですが、・・・人殺しには持ってこいでしょう?」


 ねぇ?と暗い笑みで笑い掛けながら、言葉に少し殺気を乗せる。


 格上の対象に微量の殺気を浴びせられた人間は、本能的に襲い掛かってしまう。

 ――そう、今の様に。


 乱戦の予感に、自然と頬が緩んだのが分かった。





 その後は、即死攻撃不可、魔法攻撃不可、そう縛りを付けて戦闘に挑んだ。

 一気に片付けるのなら最初の様に他の敵も首を刈ればいい話だし、そもそも【深淵魔法】を決め込めば良い。その他にも【雷魔法】、【氷魔法】、【火炎魔法】と、秒で終わらせる手段は色々ある。

 まだ面倒臭くはなっていないし、相手もそれなりの手練れなので、ちょっと遊ぶ事にしたのだ。






 一切ダメージを受けていない私と、そんな私を囲む満身創痍の敵たち。

 細かい傷が服を裂き、そしてその中の肉も裂いている。

 死んでいるのは最初の首無し死体だけで、大量の血を流してはいるが誰1人として膝をついていなかった。流石は裏の人間、根性あるわ。



 心臓、眼球、頸、関節、そして四肢。

 即死、もしくは戦闘不能に陥らせたい敵たちの攻撃は分かりやすい。

 ひっきりなしに向かってくる刃の雨に、ミリ単位の紙一重、最小限の動きで避けて行く。


 息吐く間も無くひたすら懐に入り込んでくる敵たちを剣でいなしながら、宙で回転してみたり足で蹴り払ってみたり。


 今世の体はよく動く。オリンピックの全種目で金メダルを総なめできそうな勢いだ。

 こんなあり得ない動きを繰り返している自分に、あぁ別の世界に来たんだなぁと妙に納得してしまう。

 ドーピングとか、そんなレベルではないだろう。ありえるとするならば人造人間とか、そう言った類の話だろうな。やはり創作物の中の話である。



 高い金属音の響く刃の応酬は楽しいし、払い切って吹っ飛ばした時の感覚は癖になる。

 魔力の対流を肌で感じるのは心地いいし、肉を裂く感覚だって一味違って爽快である。


 好んで争うつもりはないが、自ら進んでダンジョンに潜っている私は、間違いなく戦闘狂なのだろう。

 しかも、こうやって人間と殺し合いをしていてもそれを愉快に感じてしまうのだから、異常者と言われても甘んじて受け入れるしかない。

 ダンジョンの魔物であろうと自分と同じ人間であろうと、ピリピリと凍てつく様な殺気を向けられるこの感覚は、どうしても()まらないものがある。

 現代日本でこれなら完全に事案である。



――普通に生きていたかった。

――こんな感情、知りたくなかった。


 ・・・私はそうは思わない。

 前の人生で、平凡で平穏な何でもない環境にいたのだから、スパイスの効いたこの第二の人生も悪くないだろう。

 冒険者になると決めた時、普通の人生とは決別し、自分で進んでこの道に入ったのだ。


 人としての倫理観はこの世界の基準に合わせれば良い。

 人殺しはダメ、でも悪い人を殺すのは良い。

 悪者に人権なんて、あるはずもない。

 ここは、そういう世界なのだから。


 偽善と言われようが、正義は確かに成立するこの世界。

 強者に優しく、弱者に厳しいのは人の世の定めだが、この世界ではそれが顕著に現れる。

 弱きは淘汰され、生き残った強者が世を闊歩する。そして弱者は何を成す事も出来ないまま、圧倒的強者にひれ伏すのだ。そう、今の様にーー。




 血を流し過ぎた敵たちは1人また1人と膝をついて行った。

 今立っているのは敵の中で一番の強者である。


 私と彼、どちらが強いのか。

 そんなの、お互いの姿を見れば誰だって分かるだろう。

 片や一切息の乱れていない無傷な私、片や息も絶え絶えで己の血が至る所から滴る彼。



 彼は未だ闘士のみなぎる鋭い瞳で、私に向けて血に濡れていない剣を正眼に構えた。


 何も語らない彼ら、一体目的は何なのだろう。

 年明けにあった王太子襲撃とは関係あるのだろうか。



 裏の人間である彼が、最期に正々堂々を求めた事は少し驚いたが、皮肉が効いていて良いんじゃないのかな。


 図らずも一騎討ちの様な戦況になった事に瞬きを一つし、目の前の敵と同じ様に構える。


 では私も同じ土俵に降りて戦おうではないか。



 鋒越しに見える敵の姿を見据え、神経を研ぎ澄ます。


 ――風の音、うめき声、魔力の対流、周囲の気配。

 血の匂いを少し不快に感じる辺り、私にもまだ人の血が通っている証なのかもしれない。



 相手が動いたら動こうかと、そう決めた最中―――。


 ――不意に左足を掴まれた。




 ――誰に?


 そう、誰に、である。


 背後には、人の気配も魔法の気配も、一切なかった。

 しかしこの感覚は、明らかに人間の手(・・・・)である。



 この戦闘が始まって初めての混乱に集中が切れる。

 思わず足元を見下げると、私の左足首に掴まる人間の腕、そしてその先に、――首のない死体があった。



「〜〜ッ⁈」



 イいいいいイイイやぁぁぁぁぁぁぁーーーッ⁈⁈


 君死んでるよね⁈

 首ないよね⁈

 気配ないよね⁈


 しかしその手はしっかりと私の足首を掴んでいる。


 無理無理無理無理ィィィッ‼︎



 大混乱の中、気が付くと正面にいた敵の気配が目の前にあり、顔色の悪い私に容赦なく一太刀を浴びせてきた。



 誰だ、正々堂々って言ったの‼︎


 ・・・、私だな‼︎



 容赦のない攻撃を、余裕のない私が容赦なく振り払った。


 飛んで行く敵。

 そして足を掴んで離さない死体。

 振り払おうにも、生きていた時より強いんじゃないかと思える強さで掴まれていて、離れる気配はない。


 いきなりホラー展開とか!

 心の準備がいるんだから、先に言っておいてよ!


 若干涙目で右足で踏んだり蹴ったりしているのだが、しかし一向に離れてくれない。


 え、なに、呪われてるの?そんな感じ?



 ならばと【光魔法】を発動させようとしていたら、周囲に敵の気配を多数察知した。


 顔を上げると、今の今まで膝を付いていた敵が一斉に飛び掛かって来る所だった。

 どうやら回復アイテムを使われたらしい。今までは使う隙を与えなかった訳だが、この死体の腕により、一気に隙が出来たという訳だ。


 ふむふむ、これを狙っていたな?チミたち。

 はいはい騙されたよ、まさかこんな奥の手があるなんてな。

 しかし、コレ、どう言った仕組みなんだろう・・。



 そう呑気に考えながら、剣を胸の前に立て、顔の前に真っ直ぐ天に向けて構える。


 別に、足が使えなくても問題ないんだよ。



――【剣術】レベル7『竜尾一螺旋』



 スキルを発動すると、私を中心にした螺旋状の斬撃が一瞬にして繰り出された。


 最初に到達した斬撃を避けた者には、次の斬撃が当たる仕組みになっている。間合いにいた者には絶対に当たるという、命中必殺スキルである。まぁ今回は加減したが。


 首無し死体の次は真っ二つの死体と言うのは、少しスプラッタ過ぎる。言っても今更ではあるけど。



 多少の血は噴きながらも四方八方に吹き飛ばされた敵を見て、下にいる死体を見る。


 ・・・、離れねェな?

 誰かがそう言った魔法を使ってると思ったんだが。

 死霊術師的な?まだこの世界で見た事ないけど、あり得なくはないだろう。


 【光魔法】を使って、とりあえず死者に効きそうな属性魔力をドバドバ放ってみる。

 するとゆっくりだが掴む力が抜けていった。


 ・・・あぁ、良かったぁ・・・。

 離れなかったら、一生首無し死体を引き摺って生きる事になる所だった。



 しかし何だコイツ。死んでるよな?


 剣先でつんつんと突きながら【精霊姫】を発動しても、やはりステータスの文字は薄く、前面には『死亡』の表示がある。

 ただ・・・―――。


「――文字化け⁇」


 そう、状態の欄に書かれている何か(・・)が文字化けしていた。

 初めての現象だが、コレは確かに文字化けである。

 今までは何でも鑑定出来たのにな・・・。


 死体が動いた訳には何か理由があるらしいが、しかし文字化けを変換する能力なんて持っていないので、どうしようもなかった。


 こりゃお手上げだな。



 【精霊姫】で文字化け。その理由は何だろう。

 しかし【精霊姫】の説明には、『世界を見通す瞳はその存在を秘匿する』という謎の説明しか書かれていなかったので推測さえ難しい。


 そもそもスキルって何なんだって話だし。

 人類最大の謎が解けない限り難しそうだ。




「――ロキ様。その死体は・・・」


 戦闘が終わったと判断したアスティアの影が、首無しの死体をじっと観察している私に話し掛けてくる。


「私にも分かりません。確かに動いた訳ですけど・・・。・・・、そうですね、回収する前に1人だけ貸してもらえます?少し実験したいので」


 アスティアの影と会話をしながら、視線を向けた先にいた他の転がっている敵たち。何となしに【精霊姫】でステータスを覗いてみると、彼らにも総じて文字化けの状態表示があった。

 どうせだし、ちょっと探りを入れてみようと考え、アスティアの影にそう言うと、すぐに頷いてくれた。


「かしこまりました」


 言う通り連れて来られた1人の敵を地面に寝かせ、他の皆んなには離れる様に言う。



 何をするのかとアスティアの影たちから視線を集める中、気にせずそのまま、私と寝かせている敵を囲む程度の小さな【深淵魔法】の『支配者ノ領域』を発動させる。


 いきなり発動した未知の魔法に、アスティアの影たちは警戒して飛び退いて行った。




「――起きて下さい」


 発動が完了したのを確認し、言葉を掛けながら眠っている敵に視線を向ける。


 その言葉を発した途端、敵は弾かれた様に目を開け覚醒した。


 咄嗟に起き上がり、狂犬の様な目で私を睨み付けてくる。

 状況はきちんと理解しているらしい。


 そんな敵の様子を眺めながら、再び【精霊姫】を発動させ、ステータスを覗きながら質問を開始する。



「今の貴方の『状態』は何ですか?」


「・・・」


 ここは私の領域、私の思う通りになる。

 そういう魔法なのだが・・・。


「ふぅむ。言いませんか」


 敵は固く口を閉ざしたままだった。


 魔法の不発か?

 いや、しかし敵は一言目で覚醒したし・・・。


「貴方の雇い主は?」


「・・・」


「なぜ王子を狙っていたのですか?」


「・・・」


「・・・、好きな料理は何ですか?」


「鳥の丸焼き」


「そう、・・・ですか」


 敵の発した最初の言葉が「鳥の丸焼き」とは・・・。

 まぁ私が言わせたんだが、少し滑稽である。


「ふむ、関係ない事であれば発動するんですね・・・。状態に表示(・・・・・)があるのを見るに、使われているのは【深淵魔法】っぽいですけど、この魔法より上位の魔法が掛けられているのかな?・・・しかし、ギルドで把握していない内にこのスキルを獲得した人なんているのかなぁ・・・?う〜ん・・・」


 分からない事だらけである。


 ブツブツと呟きながら敵に近付き、何かしらのヒントを得ようと、睨み付けたままじっと動かない彼の額に手をかざす。


 奴隷商館の外にいた黒尽くめたちの様に、脳を弄ろうとしたのだが・・・。



「あれ・・・、発動しないな・・・?」


 魔力が入って行かない。

 脳に直接ブロックが掛かっている様な感じだった。



 不思議な現象に首を傾げるが、その抵抗を無理やり魔力でこじ開け様とすると、――ビリッと盛大な静電気の様な衝撃があり、不意に、パタリと敵は倒れ込んでしまった。


 気配が消えた事を不審に思い、痺れた腕を摩りながら男のステータスを改めて見ると・・・。



「――ぇ・・・、死んでる・・・」


 ーー死。

 そう、死である。

 目の前の敵は、確かに今、死んだのだ。



 私が願わない以上絶対に死なない領域で、対象が、死んだ。



 この以上ない非常事態に、久方ぶりに脳裏に警鐘が鳴り響く。

 嫌な汗が頬を伝いたらりと垂れた。



 これはもしや、私より格上の存在がいる・・・、と言う事だろうか。


 そうだよ、いつから私が最強だと誤解していた?

 強者の全てがモンダールダンジョンを攻略する訳ではないのだ。ギルドに把握できていない存在(・・)がいる可能性だってある。



 ・・・あれ?

 途端に不安になって来たんだが?

 私、この世界で生き残れる?






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― 新着の感想 ―
魔物は行けるのに、ああゆうタイプ無理なんだwwそれと公子はロキに生活魔法を使ってもらったあと特急ロキ号での回転とかは怖くなかったのかな?
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