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マリオネット・フォーミュラ  作者: 冴宮シオ
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第06話_バトルロイヤル


 緊張と興奮をはらんだ奇妙な静寂が、会場を満たしきっていた。


 木々であふれる樹海、沼地や人工湖の周辺、市街地----そこかしかに人型の機械、マリオネットの姿が見える。


 マリオネットはただ直立している機体もあれば、片膝をついている機体、複数の足を折りたたんでうずくまっている機体、無限軌道機関をはいている機体、浮上推進機関を地面に接している機体----


 二対の腕に限らず、いくつもの腕を備えた機体、武装と一体化した腕をもつ機体、戦車の砲塔のような武器をとりつけただけの機体----


 無数の種類のマリオネットたちが、すべての機能を停止したまま待機している。


 D(ディ)POS(ポス)によって自ら思考することが可能となったマリオネットだが、与えられた人格は擬似的なもので、感情はもちあわせていない。稼動していないマリオネットは、人の形を模した機械の塊にすぎない。しかし、戦場に集まったマリオネットたちは、まるで狩りに飢えている獣のようにも見受けられた。


 会場のいたるところに設けられた巨大な実況中継スクリーン。そこに九という数字が映し出され、八、七と少なくなっていく。数が変わるたびに鈍いブザー音が、澄みきった空に吸いこまれていく。梅雨を目前に控えた昼下がり。これまでの伝統通り、大会初日は晴天となった。


 数字が零を示した瞬間、

『マリオネット・フォーミュラ、予選開始です』

 花火が次々と盛大にあげられていった。会場のいたるところで奇声じみた歓声が起こり、爆竹が鳴り響く。


 戦場では、マリオネットたちが起動していた。内燃機関が働き始め、鋼鉄の身体を震わせる。


 無限軌道機関が泥を、アスファルトを噛み、深い跡を刻みつけてゆく----


 浮上推進機関が地面から浮き上がり、草をおしつけ、水面に放射状の波を生み出しながら疾駆してゆく----


 二足・多足型は始めはゆっくりと、しかし、徐々に加速しながら移動を開始する----


 無限軌道機関に小ぶりの上半身、両腕に砲身をそなえた一体の黄色いマリオネットは、身動きひとつしなかった。起動に失敗したのだ。


 周囲にいた数体のマリオネットがその黄色を集中的に狙う。ブーメランや雷撃をまとった矢、マシンガンの銃弾や小型ロケット弾がたたきこまれる。数秒ももたずに黄色いマリオネットは爆発し、黒い煙があたり一帯を包みこんだ。


 のんびりとした音楽を大音量で流しながら戦場を駆け抜けていく円盤形マリオネット。浮上推進機関の上には箱のような身体が載っているだけだ。戦艦を思わせる砲身が四基、前後左右をにらんでいる。その円盤形マリオネットは銃弾と爆風をかわしながら、大会会場の中央を目指す。そこには樹海があるだけだ。目的地に到達したマリオネットは砲身を真上に向けた。轟音とともに打ち出された砲弾は灰色の尾をひき、上空で破裂した。観衆やテレビカメラが注目する中、派手な原色の煙が文字を描く。「頭痛にはルナーゼ----風邪だけでなく、偏頭痛にもよく効きます」、それは、製薬会社の宣伝広告だった。その役目を終えた円盤型マリオネットは、忍び寄ってきていた狼型マリオネットの体当たりを受け、横転した。


 狼型は立ち上がり、上半身を一八○度捻りながら、前肢の足首カバーをはね上げ、人型の拳を開く。不格好な人型----人狼型へと変形したマリオネットは円盤型の頭部センサーの付け根に手をつっこみ、引き裂いた。頭部を失った円盤型は一瞬だけ砲塔を動かし、活動を停止した。濁った機械油の滴り落ちる頭部センサーを手にぶら下げもつ人狼型の脇を、複数の小型ミサイルがかすめていく。ミサイルのきた方角へと向き直った人狼型の胸部でなにかが小さくはじけ、人狼型はよろめいた。


 人狼型の視線の先では、非対称に張り出した肩と女性的な細い線の目立つ、力強さを備えた紫色の機体----ブルー・ヘヴンがハンドガンを構えていた。人狼型が獣型へと変形し、ブルー・ヘヴンを目指して疾走する。


 ブルー・ヘヴンの肩の一部が開き、多連装小型ミサイルの発射口があらわれる----



 **********



 予選バトルロイヤルに参加しているチームは、トレーラーやテントの中で自分たちのマリオネットの戦いを観察していた。「ready」とて例外ではない。


「また外れた! 礼人(れいと)、ミサイルの照準プログラムが甘すぎるよ」


 空也(くうや)が怒鳴る。


「修正プログラムなら今作ってる。誰か、誤差の細かい数値データをまとめてくれ」


 礼人の依頼に、怜奈(れな)が短く返事した。椅子に座った礼人は二つのモニターを交互に見比べながら、誤差の数値を、プログラムの行羅列の中に打ちこんでいく。


「チーフ、足に噛みつかれた。動力と脚部センサーの伝達経路がいかれそうだ」


「伝達経路の番号を教えてくれ。甲の二四ラインなら、さっさと予備経路でカバーしておいて」


 礼人の背後で空也や他のスタッフたちのやりとりが絶えることはない。礼人は全体の様子を、耳に入ってくる情報だけで判断するしかなかった。


「予選開始から三○分経過……守りを重視するほうが良い頃ね。チーフたちはどう見る?」


 監督である久梨奈(くりな)が礼人と空也、怜奈に問いかける。礼人はトレーニング・プログラム部門での、空也はハード・メカニック部門、怜奈は統合エンジニア部門の責任者だ。


「二人に任せます」と、礼人。プログラム修正に手一杯で、相談まで気をまわす余裕はない。


 マリオネット・フォーミュラの予選はバトルロイヤルだ。総数が三二体に減るまで、戦闘は続く。今回の申し込み数は二○○体を越えている、と開会式の場で発表があった。予選が終了するのはまだ先だろう。「攻め」重視の指示を与えたままだと早くに弾薬切れとなり、他のマリオネットたちから集中的に狙われることが考えられる。


「ブルー・ヘヴンの電磁拳が人狼型の顔を捉えました。相手からの発信器信号消滅」


 スタッフの一人が安心しきったような声で告げる。活動停止、あるいは頭部に埋めこまれた発信器を破壊されれば、そのマリオネットは失格とみなされる。


「今のうちに、ブルー・ヘヴンへ作戦伝達。フェイズ○三から五五へ。指示転送はわたしがやる」、怜奈(れな)が言う。


 フェイズ五五。索敵や攻撃の思考ルーチンよりも回避行動や移動の思考ルーチンを前面に押しだしたものだ。


 その時、トレーラーの大きな扉を勢いよく開けて土筆(つくし)が入っきた。「たいへんっ」、肩で息をしていた彼女は、せきこむようにして言葉を絞り出した。


美蕾(みらい)ちゃんが、いなくなっちゃったの。(うらら)と探し回ってみたんだけど、見つからなくて……」

「だったら俺も行く。土筆ちゃん、あの子を探すのを続けてくれ」


 礼人は最後のデータ入力キーを強く叩き、席を立った。美蕾は大切な預かりものだ。万が一、があってはならない。


「予選中よ。仕事を放棄する気?」

 怜奈が、外へ出ようとした礼人(れいと)の前に立つ。


「修正データなら入力し終わった。転送は、空也、頼んだ」


 礼人が言葉を投げると、はいよぉ、と返事があった。「ちゃんと見つけてこいよ」と空也(くうや)がつけ加える。


 怜奈はため息をつき、腕組みをしている久梨奈を見やった。


「監督、どうしますか?」


「いいわ。止めたところで寝覚めが悪いもの。彼のぶんはみんなでフォローしましょう」


 あっさりと許可する久梨奈に、礼人は感謝の言葉を述べた。


「わたくしもお手伝いしますわ」、仄香(ほのか)も加わり、礼人たちはすぐに出発した。




(つづく)

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