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マリオネット・フォーミュラ  作者: 冴宮シオ
22/31

第21話_閑話休題


 都心の繁華街に飾られていた巨大なクリスマスツリーに雪が積もり、家族連れや恋人たちの笑顔が輝いてた頃----


「……ムードもなにもあったもんじゃないわね……」、半眼となった(うらら)が毒づいていた。


「なに文句つけてんのよ、せっかくの鍋パーティなのに。

 はい、きりたんぽ、煮えたよ。カニも食べるでしょ? 熱いから気をつけてね」


 土筆(つくし)が、湯気をたてる土鍋の中身をお椀によそい、笑顔で麗に渡した。


「ありがとー、ってそんなのでだまされないわよ。なんなのよ、この鍋は」


 麗は声を荒げつつも、しっかりとお椀を受け取る。千葉県のはずれ、土筆が住んでいるアパートでは、土筆と麗、空也(くうや)の三人がコタツの上の土鍋を囲んでいた。六畳の部屋にコタツとテレビ、洋服棚も兼ねた本棚が入っていると、動き回る余裕はない。


「そうか? うまいぞ、これ。ダシがきいてる」、ドテラ姿の空也が、お椀の中身をたいらげ、汁を飲み干した。ドテラの胸元には「のはらつくし」とつたない平仮名の刺繍がほどこされている。小学校に入学した時に祖母が作ってくれた手製のドテラに、土筆が自分で縫ったものだ。


「本当ですか? うちに代々伝わるダシなんですけど……」、土筆が口元を緩め、空也のおかわり要求に応える。


「なにぼけているのよ。あたしが言いたいのは、せっかくのクリスマスなのに、なにが悲しくて土鍋かこまなきゃならないの。それも、北の物産展づくし。ケーキにチキンはどこよ?」


 麗が言いながら、きりたんぽをほおばる。


「しょうがないでしょ。予約してなかったんだから。隣り駅までいけば、あまってるところが一軒ぐらいあるかもね。みてきたら?」

「こんなに寒いのに? (しきみ)くん、いってきなさい」

「まったく、わがままなんだからぁ……。あ、空也さん、そのお肉、まだ煮えてないですよ」

「腹にはいりゃ、同じだって」

「やだやだ。ガサツな男は」

「麗! 文句ばかり言うなら、きりたんぽあげないよ」


 土筆が、空になったお椀を麗から受け取りながらそう告げると、玄関のチャイムが鳴った。土筆はコタツを後にし、台所と洗濯機置き場のある短い廊下を抜けた。ユニットバスには洗濯物が干したままだ。


 玄関のドアを開けると、上着や頭に雪がかかった、二人の人間がいた。


美蕾(みらい)ちゃんに礼人(れいと)さん。来ても大丈夫なんですか?」、驚く土筆。


「普通に外出するぶんには平気だって。家に帰っても二人だけじゃさみしいから、寄ってみたんだけど……」


「これ、買ってきました」と美蕾がさしだしたのは、有名店のロゴが入った箱だ。礼人はチキンとシャンパンをもっている。


「うわー、高かったでしょ、このケーキ。ありがとー。さ、あがってあがって」


 土筆はケーキを奪い、六畳間に戻った。


「美蕾ちゃんと礼人さんが来たよ。はい、そこ、二人のために空ける」


 土筆は(うらら)を奥に詰めさせ、礼人、美蕾を座らせた。


「なにどんどん寄ってくるのよ。樒くんのほうも少し空いているでしょ」


 白滝をくわえたまま、麗が早口で告げる。礼人は小さく謝り、美蕾のほうに寄って座った。土筆は、そんな麗の表情が赤くなっているのを見逃さず、胡乱な目で合図を送ったが、麗は顔をそむけただけだった。


 土筆は空也と美蕾の間に座り、クリスマスケーキとチキンをコタツ台の上に並べた。


「せっかくだからローソク立てなきゃね。雰囲気雰囲気」


 もたつく美蕾を置き去りにして、土筆一人が小さなローソクをケーキに手早く立て、火をつけた。


「メリー、クリスマース」、土筆がかけ声とともに、部屋の電気を消す。


 ローソクの小さな明かりが揺れる中、ぐつぐつと鍋の煮える音が聞こえてきた。


「……土筆……鍋の火、消さない?」



 **********



 同じ頃----


 エレベーターが降りていく長い間、癸矢(きや)は一言も口をきかなかった。


 側近の社員と作業着姿の男の二人は、癸矢の後ろについていた。作業着姿の男は顔をふせたまま、横目で側近を見やったが、側近は視線すら返してこなかった。


 停止したエレベーターのドアが、静かに開く。その先にある闇の中に、癸矢は大きく進み出た。作業着姿の男があわてて追いかけ、闇の奥へと消えた。


 一瞬の間をおき、天井の照明が一斉に明りを放ち、闇を払った。


 野球ができそうなほどに広いその空間には、様々な機械やコンピュータが並び、大小無数のケーブルの類が床と壁をはっていた。


 その空間----開発室の中央に、マリオネットはいた。外装はすべてはずされているが腕の数は五つ、頭部には長い角が残っている。直立した姿勢で固定され、体中にケーブルが接続されている。


 癸矢は勝手に進み、そのマリオネット----阿修羅の前に立った。


「……なにかつかめたのか?」、癸矢が静かに口を開く。作業着姿の男は、「申し訳ありません!」と緊張した声で叫び、深く頭を下げたまま続けた。


「いくつかの可能性はあがりましたが……特定するまでには、データが不足しています。現在、他の技術者には、仮眠をとらせています。社長の許可をいただいたので、二時間後から、POSの中枢内部も調査することになっています」


「POS内のブラックボックスか…………パンドラ・ボックスとはよくいったものだ」、癸矢が吐き捨てると、「『災いの箱』、ということですか?」と側近の男が遠慮がち尋ねた。


「POSはそれが発表された時……私がまだ駆け出しの技術者だった頃からずっと、解明されてない構造がある。しかも、今回は釈迦堂(しゃかどう)の奴が作った亜種だからな……何もわからないままかもしれない」


 唇を噛む癸矢。さらに一歩進み、機械部分がむきだしの阿修羅の顔を見上げた。


「何故……何故、私を裏切るような真似をする。

 私は、おまえを最高のマリオネットにしてやろうと思っているのだぞ。わかるか!?」


 まるで聞き分けのない子供に対するような、優しい口調だった。


「わかるのだったら……何とか答えてみろ!」


 癸矢は語気を荒げ、阿修羅の胸を拳で一度、たたいた。


「社長。いくら新POSに自律思考機能があるとはいえ、言葉を話すところまでは……」


「黙れ! それぐらいわかっている。あと一戦……次の決勝バトルロイヤルでフォーミュラも終わる。必ず優賞をおさめて、私に応えろ。それがおまえの存在理由だ!」


 言い終わる前に、癸矢は阿修羅に背を向け、足早にエレベーターへ戻った。側近がそれに続き、作業着姿の男は電気をすべて消して、エレベーターへ駆けこんだ。


 ----闇と静寂の中に、二つの淡い光がともる。それは弱々しく、不規則に明滅していた。それは、阿修羅の双眸に宿る光だった。


 阿修羅の瞳に宿る光が、扉の奥に消えた癸矢(きや)の姿を追い求めるかのように、動こうとする。


 首の角度がほんのわずかだけ動いたか動かないかのうちに、阿修羅の目は光を失った。



 **********


 

 マリオネット・フォーミュラ、第四戦終了----

 チーム「ready」の成績、全三二チーム中、八位。

 最終バトルロイヤルへの出場権、獲得。




(つづく)

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