第6話 確認
しばらくボーッとした状態が続いて、多分いつの間にか寝ていたんだと思う。ベッドの側にある高さが50センチも無い扉が開いていて、その中に何かがおかれていた。起き上がってみていると、どうやら食事らしい。ただしあるのは拳大のパンが2つと色の付いた何かの水がコップに1杯。
どちらも一つのトレーに載っているけど、パンはそのままトレーの上なのでお皿はないし、パンに付けるジャムとかそういった物も無い。いくら何でも、ジャムとかはあっておかしくないと思うのに。
パンを触ると完全に冷たくなっていて、しかも固い。一緒にトレーにあった飲み物は、何か薬の匂いもする。一応部屋の中に流れっぱなしの水があり、備え付けられたコップで飲む事は出来るのだけど、こっちもこっちで不味いし、正直何が入っているのか分からない。
とりあえず食べる物は食べないとどうしようも無いし、パンをちぎってみる。まるでパン全体がフランスパンの表面のようで、パン1個食べるだけでもかなり苦労した。それでも他に食べ物も無いし、この先食べる物が来るかすら分からない。
腕時計もないし今の時間が分からないけど、昼間にステータスカードを作ったとしたら、今は夕方くらいかなと思う。もしかしたら今のは夕食なのかも。ただ時間が分かるような物はこの部屋に無いし、やっと食事を終えても気分があまり良くない。
腕時計でもしていれば少しは違ったかもしれないけど、普段からイジメに遭っていた僕は腕時計をするのを止めていた。高校に入った直後こそしていたけど、入学3日目には、僕の目の前で金槌によって壊された。なので時計は当然だけど、スマホとかも一切持っていない。
ちなみにその時計は、家族から以前に誕生日プレゼントで貰った物。そんなに高い物じゃない事は分かっていたけど、珍しく僕にプレゼントをしてくれたので嬉しかった覚えがある。普段は誕生日だとしても何もくれないのに。
ちなみに弟がいるけど、弟は誕生日はもちろん、クリスマスプレゼントとか色々もらっていた。そういう意味では家族からも見放されていたんだと思う。
とりあえず持ち物を確認しようとして着ている物を見たら、唖然とした。
肌触りが悪いし、下着も奪われた事を思い出して服を確認したんだけど、まるで藁みたいな素材で作られた貫頭衣みたいな物を、腰の所で紐1本で結んでいるだけ。これじゃあ肌触りとか、それ以前の問題だ。
置いていった物を見ると、同じ物と思える貫頭衣が1つと、僕がもっていた鞄。しかも中身は何も入っていない。鞄は元々イジメられている時から傷だらけだったけど、今は持ち手の片方が千切れていた。ナイフみたいな鋭い物であちこちを切り裂いたような新しい傷もある。
元々イジメられている時から、鞄をナイフで切りつけられる事は普段からあった。それでも鞄を買い換えてもらえず、学校に相談しても何もしてもらえなく、結局そのまま使っていた物だ。今では一応物はなんとか入れられると思うけど、元の鞄の形を残しているだけといった感じ。あちこちに穴も開いているので、これに物を入れても落とすだけだと思う。
それと支給されたはずのナイフもない。ステータスカードは予備の服の上へ、無造作に置かれていた。服の事を考えていてトイレを見たら、そこには紙とか全く無い。一応中を見てみたらかなり深い穴なのか、嫌な臭いはさほどしなかった。それでもお尻を拭く物が無いのはあんまりだ。これがこの世界の普通のトイレ事情とは、いくら何でも正直思えない。もしかして、今の僕は奴隷扱いで、お尻を拭く物すらくれないという意味なのかな?そうすると何だか涙が出てくる。
仕方なしにステータスカードを取り、もう一度ステータスを確認する事にした。
タカミ=コガ(古河 貴海)、男、ヒューマン、17
職業:--
Lv1(封印)
状態:虚弱(薬物投与)、MP枯渇(薬物投与)、体力低下(薬物投与)、思考力低下(薬物投与)
HP:9(39) MP:0(22)
STR:12
DEX:14
VIT:59
AGI:91
INT:45
MND:12
LUK:5
魔法属性
--
固有魔法
--
スキル
--
固有スキル
--
称号
被虐者、運悪き者、生贄に選ばれし者
固有称号
召喚されし者、被虐体質、運無き者
何だかステータスが変わっている。
まずレベルが1なのはそのままだけど、封印という文字が付いている。それにHPやMPがいつの間にか減っているし、状態が虚弱とか悪い方向になっている。さらに状態が虚弱とかになっているのは、どうやら何かの薬のせいみたいだ。そして称号に『生贄に選ばれし者』という文字。
生贄って、何かの儀式とかで命を奪うための物だったと思う。つまりここはそういう人を閉じ込める場所?そして僕はその生贄?
だいたい勝手に召喚とかしておいて、ステータスのせいかもしれないけど、生贄に?あんまりだ。元の世界に戻りたい・・・・・・。