第2話 異世界召喚 2
第一王女こと、クラリーサ=ハロン=テヘダ=パレンシアという金髪で、見た目18歳前後の女性と、騎士や兵士の誘導を受けながら僕らは地上に出た。流石に王女と名乗るだけあり、赤いドレスは明らかに高級に見える。ただその赤色は、正直悪趣味にも思えた。
やっぱりさっきの場所は地下室だったみたいで、建物の外に出て振り返ると、見た感じではヨーロッパにあるような大聖堂みたいだと思う。もちろん本物の大聖堂なんか見た事ないけど、それでも雰囲気はそんな感じだ。建物のあちこちに尖塔もあったりして、キリスト教とは少し感じが違うけど、十字の形をしたシンボルがある。単純な2本線の十字ではなく、何かを象ったかのような独特の形をした、2本の長さの違うだけの同じようなデザインの物がクロスしている。初めて見る十字だ。
そのまま第一王女の案内で歩いて行くと、どうやらここは城のある城壁の内部の一角らしい。さっきから城壁だと思っていたのは、どうやら城の壁であり、少し離れたところに長い城壁が見えた。城壁の内側に様々な施設があるのかもしれない。
しばらくして城の入り口らしい大型トラックが余裕で2台は通れそうな巨大な門をくぐり、さらに奥に進むと広間のような場所に着いた。僕は比較的後ろ側にいたので聞こえなかったけど、第一王女と先頭付近にいた誰かが何かを話したのか、第一王女はそのまま部屋を後にして僕らを囲むように、壁際に兵士が等間隔で並んでいる。入ってきた入り口の扉はいつの間にか閉められていて、正直兵士の威圧感が凄い。何より時代錯誤だとは思うけど、剣としか思えない物で武装しており、例え偽物だとしても実質服と鞄しかない僕らには十分な凶器だ。刃が無くたって、十分鈍器として機能するはず。僕は鞄を偶然手にしていたけど、他の人は何も持っていない人も多い。
ただ僕以外にも同じ光景を目にしているはずなのに、正直あまり周囲の人達は慌てた様子が無い。僕は少し怖くて指先が震えているけど、普通こんな光景を目のあたりにして何も感じないのかな?
ざっと部屋の中を見てみると、どうやら学年1つが教室にいた教員を含め、丸々ここに連れてこられたみたいだ。確か1学年が400人くらいで、クラスは11。それぞれに教師が2人いたとして、全部で422人前後?その人数が一度に入ることが出来るのだかなり広い空間。しかも周囲はかなり豪華な装飾を施されているし、ここだけでどれだけのお金がかかっているんだろう?
「これよりバレンティン=ハロン=テヘダ=パレンシア陛下よりのお言葉がある。全員立位のままその場で待つように。尚、陛下への直接の発言は死罪となる。質問は後ほど受け付ける。一切喋らずに黙っているように」
玉座と思わしき椅子の側にいた、少し歳を重ねた感じの男が言った。全体に聞こえるとは思えないのに、何故か明瞭に全ての声が聞こえるのが不思議だ。少なくともマイクのような物は見当たらないし、同様にスピーカーのような物も見当たらない。そして流石に『死罪』と聞いたからか、少し騒がしかったのが一瞬で静かになった。流石に僕もかなり緊張する。
「これよりパレンシア王国、国王陛下であるパレンシア陛下がお見えになる。片膝を付き、頭を垂れよ」
先程の男がそう宣言したので、僕らは仕方なく従った。ここで下手な事をすると、後が怖そうだ。それこそ処刑されるかも。
重厚そうな扉が開く音がして、分厚い絨毯を踏む音が微かに聞こえる。しばらくして椅子に座る音が微かに聞こえた。
「面を上げよ」
とりあえず頭だけ正面に向け、玉座を見ると、王冠を被った年齢50歳前後の、文字通りザ・王様といった感じがする人がいる。着ている物も何だか無駄にお金がかかっているように見えるのは気のせいじゃないと思う。そしてその国王は、僕らの事を文字通り見下げ、僕らよりも立場が上である事が当然といった態度をしていた。
「召喚に応じ礼を言う。貴様らにはこれより必要な戦闘訓練の後、我々人類の脅威となっている魔族と戦ってもらう。例外はない。詳しくは後ほど伝えられようが、貴様らの活躍に期待しておる。武功を上げた者には、それなりの褒美も用意しよう。以上だ」
一瞬周囲がザワついたけど、周囲の兵士とかに睨まれて静かになった。その間に国王が退出していく。
それにしても『召喚に応じた』って、いきなりだったんだけど。そんなのに応じたつもりは全く無い。なのに誰も反論どころか身動きしないところを見ると、たぶん僕と同じで怖いんだと思う。
「ちょっと待て!」
って思っていたら、文字通り空気が読めないのがいたらしい。顔を動かすことも怖いので誰かは分からないけど、多分生徒の方だ。
「召喚ってなんだよ。そもそも戦うってどういうこ・・・・・・」
そこで言葉が途切れると同時に、悲鳴が上がる。思わず声の主の方を見ると、兵士3人が男子生徒の胸を剣で突き刺していた。全部の剣が胸の位置を違う方向から突き刺していて、心臓に近いはず。ほぼ即死だと思う。
「貴様らの意見は聞いていない。それを処理しておけ」
別の所にいた豪華な装飾をした鎧の兵士がそう言うと、男子生徒から剣を抜いてどこかに引き摺っていく。一瞬周囲が恐慌状態になりかけたけど、兵士達の睨みで静に・・・・・・というか、僕は足がすくんで声が出ない。他の人も同じだと思う。教師も何か言おうとしたみたいだけど、今のを見て何も言わずに黙った。
「少々不愉快な言葉があったようだが、今回に限り大目に見よう。では貴様らの活躍を期待しておるぞ」
そう言って王様が退出していく。
勝手に色々決められて戦争の道具にされるみたいだけど、この様子だと僕に出来る事なんて無い。とにかく目立たず大人しくするのが一番だ。




