第1話 異世界召喚 1
空気が冷たい。それに身体も冷える。何よりからだが痛い。きっと最後のホームルームの時間前に受けた暴行のせいだろう。
ゆっくりと目を開けると、周囲は薄暗い場所で、少し遠くに松明のような物が見える。少なくとも教室じゃないみたいだ。一体ここはどこ?大体、松明なんてネット動画で一度見ただけだし、本物かどうかさえ分からない。
どうやら僕は、うつ伏せで床に伏せていたみたい。ゆっくりと起き上がりながら周囲を見渡すと、クラスメイトと教師……それに何人か知っている他のクラスの人もいる。どのくらいの広さか分からないけど、この場所にかなりの人数がいるみたいだ。ただ、全員がうつ伏せで寝ているようで、奇妙な光景に見える。
頭を軽く振って落ち着くように深呼吸する。やっぱり空気が冷たいし、もしかしたら地下室かな?感覚的にかなり広い場所みたいだけど。そんな事を思っていると、急に周囲が明るくなり出す。どうやら天井に照明があるみたいだ。それが一斉に点灯したんだろう。今まで暗かったので、とても眩しい。
同時に周囲が一気に騒がしくなる。まだ眩しくて分からないけど、他の人も起き始めたのだと思う。でも、一体ここはどこだろう?少なくとも教室ではない。真夜中でも教室が真っ暗になるなんて、それなりの人口がある学校ではあり得ない。声の感じからしてかなりの人数がいるはず。それを一斉に集めるなんて、それだって常識的に考えられない。何よりそんな広さがある場所なんて、それこそスタジアムのような場所が必要にも思う。天井の灯りの強さから、体育館とか講堂じゃ無いのははっきりしているし、そもそもどちらにも松明なんて存在しない。だけど慣れはじめた目で天井を見ると、高さからそんなに広いとはとても思えない。目測だけど、せいぜい4メートルだ。多分もう少し低い。
それでも目が慣れてくれば、かなり広い部屋である事が分かってきた。床が石材で出来ているようで、それが原因で冷たいのだと思う。この時点で学校の可能性は消えた。広い場所で地面一体が石材の場所だなんて無いのだから。それに大きな建物にあるような石床なら、表面がツルツルしていると思うけど、かなりザラザラしている。窓は無いみたいで、天井には見た事がない変な照明がいくつもあった。歪な形をしていて、同じ物が一つもないように感じる。どれも白っぽく光っているけど、一つ一つはそんなに眩しくはない。少なくとも見たことがない照明器具だ。窓が無い事などから、やっぱり地下室だと思う。人が多いので近くに階段などは見当たらない。どこかにあるはずだけど、騒がしくなってきたので階段は後回しだ。
だんだんと周囲の騒がしさが大きくなっていくけど、どうやら僕のいたクラスどころか、他のクラスの人までいる。人数がどれほどか全く分からない。どんなに少なくても、数クラス分はあるはず。もしかしたら一学年分はあるかもしれない。下手をすればそれ以上。
所々で「一体何だ」とか、そんな声が聞こえる。他にも色々な声が聞こえるけど、とにかく今の状況が分からないという点では同じ。もちろん僕にも分からない。ただ、今するべき事は騒ぐ事じゃなくて、冷静になる事だと思う。何でこんなに冷静なんだろう?自分でも不思議だ。
そんな事を思っていると、この部屋全体に突然音が響いた。まるで太鼓を叩いたようなかなり大きな音に、部屋全体が静かになる。音は部屋全体に響いているみたいで、どこから鳴ったのか分からない。反響が激しく、何度打ち鳴らしたのかも正確には分からない。
少ししてやっと音が消えると、騒がしさも無くなっていた。
「静粛に。第一王女クラリーサ=ハロン=テヘダ=パレンシア殿下よりのお言葉だ」
野太い男性の声って、こういう声を言うのかと思う。若干威圧気味に聞こえたのは、気のせいではないはず。むしろ個人的には、僕らを脅しているようにすら思える。周囲はそれに気が付いているのかな?声のする方向を向いたけど、人垣で見えない。
「第一王女のクラリーサ=ハロン=テヘダ=パレンシアよ。皆さん、突然の事で混乱しているかとは思うけど、一旦ここを離れ陛下の元へと案内するわ。騒ぐ事の無いようにし、私達に着いてきて。ドゥラノワ隊長、誘導を頼みましたよ」
僕らに有無を言わせず、第一王女と名乗った彼女を先頭に、途中途中を中世ヨーロッパ風の甲冑で身を固め、頭だけ兜をしていない正直厳つい男達が、僕らを誘導していった。