第9話 そして、その日が来て・・・・・・
この『牢屋』に入れられて、一体どれだけの時間が経過したのか分からない。
食べ物はいつも同じだけど、お腹の空き加減から1日3食でない事は間違いないし、2食なのかすら怪しい。多分だけど1日1食だと思っている。
ただでさえ不足している食べ物と栄養に、まともに動き回る事も出来ず、腕が縛られているので着替えすら出来ていない。何のために着替えがあるのか分からない。当然運動なんかも出来ないから、日に日に体力が落ちているのが分かる。
ほとんど1日中ベッドの上にいるだけになって、その日、突然扉が開いた。
入ってきたのは兵士が4人と、他にメイドらしき人が何人かいるけど、正直意識が若干朦朧としていてよく分からない。
既に抵抗する気力もなくて、引き摺られるように部屋から出された。そして服を剥ぎ取られて冷水をいきなり浴びせられると、多分どこかの天井に鎖が繋がっているのか、立ったままブラシのようなもので身体を洗われている気がするけど、冷水のせいで余計に意識が朦朧として、まともに立つ事すら出来ない。
気が付くと一応身体は拭かれているみたいだけど、前まで着ていた貫頭衣と同じ物を着せられて、木製の担架か何かに載せられて移動している。口は何かで塞がれているので、多分また猿ぐつわだと思うし、両手足は手錠とかでしっかりと固定され、多分身体も固定されているのか、身動きすらまともに出来ない。
どのくらい移動したのか分からないけど、多分外に出た。どこかは分からないけど、この世界の月が見える。今日は満月みたいだ。今までと違って風が気持ちいいけど、こんな形では全く喜べない。それに床に置かれているのか、時々兵士とかメイドが僕らの顔とかを見ているけど、何だか嬉しそうな顔に見えるのは何故だろう?
どうやら僕と同じ格好をした人が他にもいるようで、呻き声とかも若干聞こえる。ただ兵士だと思うけど、殴るか何かして黙らせてもいるので、次第に静かになっていく。
足を固定していた何かが外されたのは分かったけど、すぐに担架の両側に若干足を広げる形で固定された。足首に感じるのは金属製の何か。元々体力が限界に近いので、抵抗なんて一切出来なかった。最後に鍵でもかけたのか、何かの金属音がして完全に固定されたらしい。
そして次に両腕を固定した手錠が外されたけど、そのまま両腕は押さえつけられて、若干両側に両腕を伸ばしたまま身体の横で担架のような物の端に金属製の固定具で固定されるのが分かる。他にも首や胴体など、何ヶ所か固定された。どれも金属みたいに感じるし、逃げ出すなんて体力があったとしても無理だ。
そうしているうちに、僕を固定している担架か何かが持ち上げられ、多分木で出来た格子状の中に横になったまま入れられたのが分かったけど、何も嬉しくないし、感情がどんどん欠落していく気がする。最後に金属音がしたけど、多分鍵か何かで外から閉めたんだと思う。
一応少しだけ頭が動かせるのと、目は普通に動かせるし、音も聞こえるので周囲の状況を見てみる。どうやら一つの箱か何かに、僕と同じように寝かされたまま固定されて人が入れられているようだ。先に入っていた人の目には、涙が見えたけど僕は何も出来ないし、今は僕も同じ立場。助けてあげる事は当然出来ないし、むしろ助けて欲しい。
上が一応板になっているのではっきりとは分からないけど、僕らは木で出来た担架のような物に載せられたまま、結構な数の人が箱の中に入れられているんだと思う。少しだけ視線をずらしたときに、僕の左斜め上の方に人が乗ったと思える木で出来た担架のような物が差し込まれていった。
一体僕を含めて、何人が同じ状況になっているんだろう?たぶん僕のステータスカードにあった、生贄にされた人達なんだと思う。そして相手は魔族だ。きっと待っているのは『死』のみ。
一体僕が何をしたのかと言いたいけど、相変わらず口は塞がれているのでまともな声は出せないし、下手に音を立てて暴行されるのは嫌なので、静かに考える。でもそんなに時間もかからず、魔族に連れられて殺されるんだろうな。今さら何を考えても無駄なんだと思う。
しばらく周囲が静かになったと思ったら、どこからか音がした。僕らは箱所のものに入れられているためか、よく分からないけど何かを話しているように思える。
静かに聞き耳を立てたけど、他の人の呻き声もまだ多少あるので、何を話しているのか分からない。そうしているうちに僕の頭の方に誰かが来たのが気配で分かった。
「ええ、この者です。ですので、しばらく猶予を頂ければと思いまして」
「なるほどな。しかし私にはその権限はない。一応伝えてはおこう。この者だけステータスカードがあるのだな?」
「はい。こちらです」
多分魔族とこの城の誰かが話しているんだとは思う。そして話の内容からするに、僕を一番生贄として注目して欲しいのが分かるけど、正直そんなのはゴメンだ。でもそれに対して僕は何も出来ない。
「確かに預かった。では今回も合計で24人、確かに確認した。後で死んでいる者がいれば、分かっているな?」
その時殺気のような物を感じて、思わず身体が震える。だけど身体があちこち固定されているので、まともに反応できたとは思えない。
「もちろんです。我々も同じ過ちを繰り返しませんよ」
「どうだかな。まあいい。おい、これを運ぶ。いつも通りの手筈だ」
殺気はすぐに止んだけど、今度は外で金属音がする。多分音からして鎖だと思う。
「空輸するときに外れないように、しっかりと固定を確認しておけ。確認が終わり次第出発する」
しばらく鎖の金属音が続いて、急に僕らの入った箱が動いたのが分かった。どうやら僕らを輸送するみたいだけど、さっきの話からすると空中を運ばれているんだろう。そんなに速度は出ていないのか、風とかはあまり感じない。
こうして僕は召喚された場所から運び出されて、魔族がいるという土地へ旅立った・・・・・・。