四
小さいころから体が弱くて、ベッドに伏せっていることが多かった。生死に関わるような病状とかではなかったけど、学校に通えても、せっかくできた友達と遊べる時間は限られていて、すぐに疎遠になった。
季節の変わり目が特にひどかった。冬から春、春から夏。義務教育の間はまだしも、高校に上がったら出席日数の心配をしなければならない程度には、だめだった。
「後輩の春奈。美術部に入部したいって」
「初めまして、春奈です。絵を描くことはできませんが、美術部に入部したくてきました! よろしくお願いします!」
持ち前の礼儀正しさと神経の太さで頭を下げた春奈を、桃花は喜んで迎え入れてくれた。ただでさえ部員の少ない美術部は、今年の入部者数によっては廃部が決まってしまうから、それもあってのことだろう。
美術室を案内し始めた桃花に付いて説明を受ける春奈。
しかし、二人と離れた窓際にいた藤は、なぜか、浮かない表情をしていた。
「藤?」
「ねえ、小宮。あなたはどこにいるの?」
「え?」
冷却シートみたいにひやっとした声は、どうやら少し高揚していたらしい僕の気持ちをすっと静めた。そういう一個の種族として創られたように美しい藤の、凜とした切れ長の目が、確固たる意志をもって僕を貫く。
こういうとき、僕はとても悲しい気持ちになる。藤と出会えたのは奇跡みたいなことなのに、感謝すべきことなのに、僕と彼女の間にある遥かな隔たりが、そのすべてを不幸にするのだ。
「あなたは、誰なの?」
一年かけて作ってきた足場が、崩れていくような感覚。
「一つ忠告しておくけど――あの子に関わるのも、絵を見せるのも、やめておいたほうがいいわよ」
「……どうして? 春奈は、僕にも見えているのに」
訴えた瞬間、「きゃあ!」という悲鳴が聞こえた。驚いてそちらを見やれば、壁際に重ねて立て掛けてあったイーゼルがなだれを起こしている。
駆け寄ろうとした僕を、藤があっさり追い抜いた。
「今度の夏祭り。私と桃花と三人で、行きましょうね」
「え……」
耳元をかすめた言葉に足が止まる。
おろおろする春奈と、それをなだめる桃花、手早くイーゼルの位置を直した藤の姿をぼんやり眺めながら、僕は、夏なんてもっと先の話なのに、と思った。
窓から差し込む日の光は、春にしては強かった。