必殺技を繰り出す時は技名を叫べ
「え、なんで……」
武器が出てこなかったことに動揺した乃々に、怪人は攻撃をする。彼女は慌てて態勢を立て直し、その攻撃をかわす。
「なんで。なんで出てこないの!?」
『ふむ、どうやら“カタカナ”は使えないようだな』
突如、腰に着けた謎の機械から、声がする。この声は勇助のものではない、もちろん怪人の声でもない。
「ベルトが喋った!? ベルトさん!? クリム・スタインベルト!?」
『落ち着きたまえ。そのベルトには通信機能が備え付けられている。私は離れた場所から音声を飛ばしているだけだよ』
「あ、あなたは一体誰なんですか!?」
乃々は怪人の攻撃を器用にかわしながら、正体の分からない声に話しかける。
『だから落ち着きたまえ。私はそこに転がっている江角勇助くんの知り合いだ。それこそ、泊進之介とクリムのような関係さ』
つまりは勇助の味方というわけだ。通信を通してはいるが、喋り方から察するに、どうやら乃々より年上の男のようだ。
『今は私のことはどうでもいい。それよりその化け物を倒す方法を教えよう』
男はとても冷静な言葉遣いで、乃々に助言を与える。
『いいかね? その怪物は不死身ではない。そいつの正体は言ってしまえば、水、だ。攻撃が当たる瞬間に身体を液状化させて、衝撃を受け流しているだけさ。だが今までの戦いを観察するかぎり、液状化するのは一瞬だ。フェイントをかけて攻撃を当てれば倒せる』
どうりでダメージが全然無いわけだ、と乃々は理解する。
さっきの勇助のキーメイスによる攻撃も、身体を水に変えて受け流していたのだ。
『そのベルトの青いボタンを押したまえ。そうすれば相手を倒すだけのエネルギーが溜まる』
「で、でも私には武器が……」
『安心したまえ。エネルギーは変身者の任意の部位に溜まる。右拳でも左脚でも好きな場所を選ぶといい』
乃々は、青いボタンを押すと武器にエネルギーが溜まる、と勘違いしていた。
だが実際は違う。
この男が話しているとおり、青いボタンを押すとエネルギーは使用者の脳が思い浮かべた身体の部位に集中する。勇助は腕を通して、キーメイスにエネルギーを溜めていただけなのだ。
『だが気をつけたまえ。攻撃が空振りした場合、エネルギーは暴発するからね』
「とにかく、青いボタンを押してフェイントをかければいいのね。分かったわ!!」
乃々はエネルギーが右脚に集中するのをイメージして、青いボタンを押した。
――テンサク、フィニッシュ!!――
彼女のイメージどおり、右脚にエネルギーが溜まる。乃々はそれを肌で感じる。
『あ、そうそう。必殺技時に技名を言うのを忘れないように』
「え、そんな急に言われても!!」
『ほらほら、早くしないと力が暴発するよ?』
「え、じゃ、じゃあ……フェイクキック!!」
乃々は即席の技名を叫び、怪人に向かって攻撃を……すると見せかけて、一瞬蹴りを止める。その時、怪人は自身の身体を液状化されるが、一瞬で元に戻った。
敵の身体が元に戻った瞬間を狙って、乃々は回し蹴りを喰らわせた。
怪人の身体は爆発し、今度こそ大破した。
『ナイスドライブ、見事だよ。ベルトを外したまえ、そうすれば変身も解ける。……そうそう、江角くんに伝えておいてくれ。石を回収するのを忘れるな、とね』
「ま、待ってください! あなたは一体……」
乃々は男の名前などを聞こうとしたが、通信はそれで途絶えてしまった。彼女は男が言ったとおりにベルトを外し、変身を解いた。
ふと乃々は自分の身体を見回す。
勢いで変身して怪人を倒したことを、乃々は夢のように思えた。
しかし、これは現実。乃々が変身をして、怪人を倒したのだ。
「そうだ! 勇助!!」
怪人を倒すことに専念しすぎて、乃々は負傷した恋人のことを忘れていた。
慌てて思い出した乃々は勇助に駆け寄る。
「ハァ、ハァ」
腕の傷が痛むのか、勇助は虫の息になっていた。
乃々は慌ててスマホのエマージェンシーコールを使用して、救急車を呼ぶ。
乃々は勇助と共に救急車に乗り、彼を病院まで送り届けた。
救急車に乗る前に勇助が大破した怪人の死体から何かを拾い上げるのを、乃々は目撃した。
彼女は勇助に何をしたのか聞いたが、彼は何も言わなかった。
変身アイテムは勇助が半ば無理矢理に乃々から奪い取った。
登場人物情報が更新されました
・佐倉乃々
19歳。女性
ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。
彼氏持ち。
ヒーローに変身して怪人を倒す。
好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)
・江角勇助
19歳。男性
乃々の彼氏。
青いヒーローに変身する。
左腕を負傷中。
怪人の死体から何かを回収。ベルトも乃々から回収した。
好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。