戦いましょう、タックルさんが「仮面ライダータックル」になるその日まで
しかし、一瞬遅かった。
怪人はその鋭利な爪で勇助を切り裂いた。
勇助は苦痛の叫びを上げながら、その場に倒れこむ。敵の攻撃のダメージが大きかったのか、勇助の変身が解けた。
そしてベルトに付いていた機械が乃々の足元に転がる。
「うぐぅう」
変身の解けた勇助の左腕から痛々しいほどの血が流れていた。
さきほど勇助は『全快ではない』と言っていた。
それはまだ左腕が完治していないことを指していたのだ。
その証拠に勇助はさきほどから右腕や脚ばかりで攻撃し、左腕を庇いながら戦っていた。
乃々はそのことに気付いた。
「どうしよう、私のせいだ」
彼女は激しく後悔をした。
自分がさっき勇助にいきなり話しかけなければ、彼は敵の攻撃を受けずに済んだのかもしれない、乃々はそう思った。
言うまでもなく、勇助が攻撃を受けたのは、決して乃々のせいではない。
勇助は焦っていたのだ。早く敵を倒して乃々に会いに行こう、と思っていた。
だから力が空回りし、敵を完全に仕留めていないことにも気付かなかった。
左腕の怪我も同じ理由である。早くレストランに向かうために焦って怪我をしてしまったのだ。
全ては勇助の自業自得なのである。
しかし乃々は自分のせいだと思った。
自分が勇助に声を掛けたせいで彼に隙が生まれたと悔い、自分が昨日ケーキを投げつけたせいで勇助の怪我の回復が遅れたと自分を恨んだ。
乃々は後悔の念から俯く。
彼女の目線の先には、勇助が変身に使ったアイテムが落ちていた。
彼女は考える。今、自分にできることは何だろうか。
勇助に謝罪をすること?
「違う」
彼に今まで奢ってもらった額を返すこと?
「違う」
怪人の気を引いて、勇助を逃がすこと?
「違う!!」
彼女が選んだ、今自分にできることは……。
「こっちを見なさい化け物!!」
乃々は奇妙なアイテムを拾い上げる。
「よせ乃々! それはお前には扱えない!!」
勇助の制止は彼女の耳には届いていなかった。
乃々はアイテムを腰元にかざす。
すると勇助の時と同じようにベルトが巻き付き、彼女の身体に装着される。
「変身!!」
掛け声と共に乃々は赤いボタンを押す。
――トメル! ハネル! ハラウ! レッツ、カキトリ!――
定例の音声と共にアーマーが出現に、彼女の顔と身体に装着される。勇助の時は青色だったが、今回は暖色の赤がベースの装甲だった。
「嘘だろ、なんで……」
「私の彼氏に何すんのよ!!」
変身した乃々は、さながらプロレスラーのような華麗なドロップキックを怪人に浴びせる。
怒りのこもった蹴りを喰らって、怪人は10メートルほど吹き飛ばされる。
「勇助大丈夫!?」
乃々は勇助に駆け寄る。彼は左腕を押さえているが、命に関わる怪我は負っていない。そこは乃々もホッとする。
「乃々。お前なんで……」
「待ってて! あの化け物を倒してすぐに病院に連れて行くから!!」
彼女は怪人に対峙する。怪人の方はドロップキックを喰らったが、それほどダメージを負っている様子ではなかった。
怪人が乃々に向かって飛び掛ってくる。乃々もそれに対して走り出す。
相手の爪を用いた切り裂き攻撃を、乃々は女性特有の柔軟な動きでかわす。敵の攻撃が空振り、隙ができた瞬間を狙って、乃々は怪人の腹部や顔に打撃を喰らわせる。
「凄い……! このスーツ、滅茶苦茶パワーが溢れてくる!」
女ヒーローはぐっと拳を構える。敵が攻撃してきたらそれを避けて、その隙に攻撃をする。乃々はこの戦法を取った。自分は傷害を受けずに、相手に少しずつダメージを与える。
しかし、どういうわけか敵は全く怯んでいなかった。それどころか全然ダメージを受けていないようにも見える。男の勇助と女の乃々では攻撃力に差があるのか、それとも怪人の防御力が高いのか、とにかく怪人にダメージはほとんどなかった。
「私のパンチやキックじゃダメージが無い。だったら……来て、キーメイス!!」
乃々はキーメイスを呼ぶ。さっき勇助の変身が解けた際に、武器も消失していた。それを、乃々は勇助がさきほどやったように、呼び出す。
女ヒーローの声に反応し、キーメイスは……現れなかった。
登場人物情報が更新されました
・佐倉乃々
19歳。女性
ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。
彼氏持ち。
自分の罪を償うため、謎のアイテムを使ってヒーローに変身した。
好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)
・江角勇助
19歳。男性
乃々の彼氏。
青いヒーローに変身する。
左腕を負傷中。
乃々が変身したことにとても驚いている。
好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。