個人的に照井竜の「変身」が1番好き
建物の陰に隠れて機動隊の目を欺きながら、怪人が起こしているであろう破壊音を頼りに進む乃々。
そしてたどり着いた、怪人のいる広場に。
今まで怪人はテレビのニュースや勇助の撮った写真で見てきて、生で見るのは乃々には初めてだった。
禍々しい身体、恐ろしげな顔。
動画や写真では絶対に感じられないであろう、リアリティを醸し出していた。
また、あの怪人が破壊したであろう建物の残骸や瓦礫が、やつの物恐ろしさを引き立たせていた。
ふと我に返った乃々はブンブンと頭を振る。
彼女は怪人の観察をしに来たのではない。ここに勇助がいるかどうか確かめに来たのだ。
乃々は辺りを見回す。目を細めてジーっと周りを観察する。
「……!」
そして彼女は見つけた。自分の恋人を。正確には元恋人になる予定の男を。
江角勇助だ。
彼はゆっくりと物陰から現れ、怪人と対峙する。
勇助と怪人の距離はおよそ10メートル。
こんなに近づいていたら、とても危険で他人が見れば心配するところなのだが……。
「(勇助のやつ、こんな時まで写真なんて……!)」
懸念よりも憤怒の方が彼女の心を支配していた。そのせいで彼の腕の包帯が無くなっていることにもすぐには気付かなかった。
勇助は怪人を撮影するため、懐から愛用のディケイドカメラを取り出……さなかった。
彼が取り出したのはカメラには似ても似つかない、奇妙な機械だった。白をベースにしたカラーリングで、側面に赤と青のボタンが付いている。よく見ると書道用の筆に酷似した飾りがあった。
「まったく、こんな時まで……。これじゃあ、あいつに愛想付かされても仕方ないな」
そう呟きながら勇助は奇妙な機械をへその位置にかざす。すると、機械からベルトのようなものが出現し、彼の腰に巻きつく。
「変、身!!」
力強くそう言いながら、勇助は赤いボタンを親指で押した。
――トメル! ハネル! ハラウ! レッツ、カキトリ!!――
機械から軽快な音楽を音声が流れると同時に、どこからともなく現れた無数のメカが勇助の身体を覆う。
そしてメカ達は合体し、まるでヒーローが着るようなアーマースーツになった。
いや、まるで、ではない。
あの装甲に乃々は確かな見覚えがあった。
以前、テレビのニュースで見たことがあった。
青で着色された和風チックなデザインの装甲。
あれは正真正銘、この町を怪人の魔の手から守っていた、ヒーローの姿だ。
「え、なんで勇助がヒーローに……?」
今目の前で起こった現象に、乃々の脳は追いついていなかった。
なんとか冷静に判断して、彼女は1つの結論に至った。
「ヒーローの正体は、勇助
結論から言えば、そのとおりだ。
フォトグラファー江角勇助は世をしのぶ仮の姿、その正体は怪人から町を守るヒーローである。
「まだ全快じゃないが、この後好きなやつと約束があるのでね。速攻で決めさせてもらう!」
装甲を身に纏ったヒーロー勇助が怪人に向かって飛び掛る。
彼は右腕で殴り、脚で蹴りを喰らわせたり、敵にダメージを与えていく。
乃々はこの瞬間、理解した。
勇助は単に写真を撮るために自分との約束に遅れたのではない、町を守るために戦っていたのだ。
撮影というのも、乃々を納得させるためのフェイクだったのだ。
それに気付いた乃々は、膝を地面に着けた。
自分はなんて身勝手なのだろうと、絶望した。
「(勇助はわざと約束をすっぽかしていたんじゃない、平和を守るために戦っていたんだ。それなのに私は勇助を責めて、ヒステリックになって、罰として奢らせたり)」
乃々は勇助のことを理解していた。
いや、理解しているつもりだった。
だが結局のところ、彼氏のことを何も分かっていなかったのだ。
「来い、キーメイス!」
ヒーローがそう叫ぶと、どこからともなくメイス……頭部が4方向に尖っている棍棒のような鈍器が現れ、勇助はそれを右手で掴む。
キーメイスと呼ばれる武器を片手で振り回し、勇助は怪人に攻撃する。
棍棒の頭部が敵に衝突するたびに、ドゴっドゴっと鈍い音が鳴り響く。
重い打撃を喰らって、怪人の足取りがふらついている。
その隙を、ヒーローは見逃さなかった。
「トドメだ!」
勇助はベルトの青いボタンを押す。
――テンサク、フィニッシュ!!――
再びベルトから軽快な音声が発せられると、キーメイスにエネルギーが溜まる。それを表すかのように、鈍器の頭部にバチバチと火花が舞っている。
「必殺、キーボンバー!!」
キーメイスを勇助は身体全体を使って振り回し、敵に向かって振りかざす。
轟音と共に鈍器が怪人に命中する。
怪人の身体が爆発する。
怪人のいた場所からメラメラと炎が燃え上がる。
「ふぅ、添削完了っと。……あいつ、今頃怒っているだろうな」
「勇助!!」
今までずっと物陰から覗いていた乃々が、変身している勇助の目の前に姿を現す。
彼女の姿を見た勇助は驚きを隠せなかった。
「私、勇助のこと何も分かっていなかった……それなのに」
「そんなことよりなんでここにお前が――」
その時だった。燃え上がる炎の中からさっきの怪人が現れた。まだ完全に大破してなかったようだ。
「っ!! 勇助後ろ!!」
慌てて乃々はヒーローに危機を知らせる。
登場人物情報が更新されました
・佐倉乃々
19歳。女性
ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。
彼氏持ち。
勇助がヒーローだと知り、自分の身勝手さに絶望する。
好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)
・江角勇助
19歳。男性
乃々《のの》の彼氏。
左腕を負傷中。
写真家はフェイクで、その正体は町を守るヒーロー。
好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。