ひとひらの夢
腹が立つ。
無能な天才はいつだって俺の鼻につく。
「なんか、いじってたらできたぁ」
欠伸混じりに笑う少女に、顔を引きつらせる。
ふざけるな。
どれだけ才が必要か知っているからこそ、羨望混じりの嫉妬から心の中で思わず漏れる本音。どれだけの人がその結果を欲したか、この少女は知る由もない。
「これが、どれだけ凄いとか分かってんの?」
一応問えば、少女は不思議そうに首を傾げる。そうして俺は確信を得る。
あぁ、試したらできた。彼女にとってはその程度の結果なのだと。
俺が必死に求めた答えも、彼女にとっては花吹雪のなかたまたま掌に落ちたひとひらの花びら程度の価値なのだろう。
その価値がわかるからこそ、少女の無頓着さが疎ましい。
「優しいね」
ふにゃりと気の抜けた笑みを少女は作る。
「黙って、奪っても良いのに」
眠いのだろう。ハッキリと告げる言葉とは裏腹に、少女の瞼はゆるんでいる。
「私は、遊べればいいの。勝手にしてほしいの」
微睡む少女の瞼に、そっと手を重ねる。
そうすればいつだって彼女は、くすくす笑って穏やかに眠ることを知っているから。
「みんな、わかんないって。どうして、だろねぇ」
そういって、彼女はいつものようにくすくす笑う。
腹が立つ。
きっと彼女には思わず漏れた舌打ちは聞こえていないだろう。穏やかな顔で幸せそうに寝る彼女には。
「ただの、人なのにな」
天才。彼女と普通の人との差は発想と知識、感受性の差だろう。
その差異から人から疎まれ、嫉妬され……それは彼女の罪ではない。疎ましく嫉妬する醜い自分たちの罪だ。
「幸せか?」
声をかけても返事はない。穏やかな寝息に、かすかな安堵を得る。
彼女の平穏を守るためならば、俺は彼女にとってのなんにでもなろう。
盾にでも矛にでも、帳にも翼でも。
もしもそれが、この少女の計算だったのだとしても。
愛しくも憎らしい小さく可憐な花。
俺の最大の罪は彼女を信じることが出来ないことだろう。
頬に一つ口づけを落とす。
穏やかな寝息のなか、かすかな身じろぎを見逃すことはない。
例えばこれが計算だとしても。俺が少女を愛しく思う事実に変わりはない。それがどこか歪んだものだとしても。
さて。
少女を仮眠室へ運び、資料の整頓をして結果を学会向けにまとめる手伝いをせねばなるまい、いつだって仕事は山積みだ。
偶然自分の下に落ちた小さな花弁は、可憐で残酷な儚い夢。
夢が醒め花が枯れても、それでも俺はと願うだろう。
初投稿です。駄文による、お目汚し失礼いたしました。少しでも多くの方に見ていただければ幸いです。